店舗付き住宅は、店舗にテナントが入ったままでも売却できます。賃貸借契約をそのまま新しい所有者へ引き継ぐ「オーナーチェンジ物件」として売る方法が一般的です。
ただし、いくらで売れるか、どう売るかは、店舗を誰が使っているかで変わります。売主自身が営業しているのか、テナントに貸しているのか、それとも空室か。同じ「テナント入居中」でも、家賃収入がほしい投資家には魅力になり、自分の店を開きたい買主には制約になります。
空室にしてから売れば高く売れる、とは限りません。空室を待つ間は家賃が止まり、原状回復にも費用がかかるためです。
まず店舗を誰が使っているかを確かめ、①入居中に売る ②退去が決まってから売る ③今の状態のまま買い取ってもらう、の3案を比べます。比べる物差しは売却価格ではなく、税引前の手取りです。
ここでいう税引前の手取りとは、売却価格から、売れるまでにかかる費用とローン残高を差し引いて、最後に手元へ残る金額を指します。譲渡所得税などを納める前の金額です。
| 店舗部分の状態 | 最初に検討する売り方 | 売却前に決めておくこと |
|---|---|---|
| 売主や家族が営業している | 店舗兼住宅として売る 事業の引き継ぎも検討する | 厨房や什器、在庫、屋号、許認可を売買に含めるか |
| 第三者のテナントが営業している | 賃貸借を引き継ぐオーナーチェンジで売る | 賃貸借、賃料、敷金・保証金、設備、修繕の引き継ぎ方 |
| 空室になっている | 自用、賃貸、改装、土地活用の可能性を比べる | 用途、建物の状態、改装費、買主が使える融資 |
この記事では、店舗の使い方別の売り方、価格の決め方、テナントとの契約の引き継ぎ、売却方法3案の比べ方、売る前に確認する書類と税金を順に説明します。
- テナント入居中のまま売る方法
- 店舗の使い方別の買主と売り方
- 売却方法3案の手取りの比べ方
- 用途地域・検査済証の確認点
- 住居部分と店舗部分の税金
\6年連続不動産査定サイトNO.1/
※2025年9月19日-23日 「サイト評価に関する調査」より
店舗付き住宅の売却は「店舗を誰が使っているか」で進め方が変わる
店舗付き住宅とは、ひとつの建物に住まいと店舗が同居している物件をまとめて指す呼び方です。広告で使われる呼び名と、登記簿や建築基準法上の用途は、必ずしも一致しません。この食い違いが、あとで価格や買主のローンに響きます。
売主自身が店舗を営業している店舗兼住宅の売り方
売主自身が飲食店、美容室、事務所などを営業しているなら、不動産だけを売るのか、事業も引き継いでもらうのかを分けて考えます。
不動産の売買で引き渡すのは、あくまで土地と建物です。在庫、厨房機器、レジ、看板、屋号、顧客情報、取引先との契約は、黙っていても付いてきません。何を売買に含めるのか、それは誰の持ち物か、いくらで譲るのかを一つずつ決めます。営業許可にいたっては、買主へそのまま引き継げないことがあります。
事業の引き継ぎまで望むなら、不動産会社に加えて、事業譲渡や株式譲渡を扱える専門家にも相談します。建物だけを売るなら、廃業の時期、設備の撤去、原状回復、引渡し条件を先に整理しておくと、交渉が途中でこじれにくくなります。
第三者のテナントが営業している場合はオーナーチェンジで売る
テナントが営業を続けているなら、家賃が入る物件として投資家へ売る方法が第一の候補です。建物の持ち主が変わっても、テナントとの契約は原則としてそのまま続きます。
一方で、店舗を自分の店として使いたい買主から見ると、同じ物件が「いつ空くのか読めない物件」に変わります。テナントがいることは、有利にも不利にもなります。どちらになるかは、買う人がその店舗をどう使いたいか次第です。
住居部分に売主が住み、店舗だけを貸している物件も事情は同じです。「家賃が入る自宅」を探している人と、賃貸事業として見る人の両方が買主候補になります。ただし、購入代金の全額を住宅ローンでまかなえるとは限りません。
店舗が空室の場合は買主が広がるが価格が上がるとは限らない
空室なら、自分の店を開きたい人、改装して貸したい人、住まいに作り替えたい人まで、買主の候補が広がります。ただ、空いているというだけで値段が上がるわけではありません。
古い厨房やダクトの撤去、用途の変更、消防設備、給排水、電気容量、雨漏り。買主はこうした工事にいくらかかるかを見積もり、その分を価格から引いて考えます。だからこそ、どんな買主に売るかが決まらないうちに解体や改装を進めると、誰も評価しない工事にお金を使うことになりかねません。
\ 解体・改装の前に、まず査定 /
店舗付き住宅の売却相場は?3つの価格シナリオで査定する
店舗付き住宅は、地域名と築年数だけでは相場をつかみにくい物件です。
近所の戸建て価格をそのまま当てはめれば、店舗が生む家賃も、改装にかかる費用も抜け落ちます。逆に店舗の家賃だけで値付けすると、住居部分と土地の価値を見落とします。
そこで査定は、買主の使い方ごとに出してもらいます。
| 価格シナリオ | 主に想定する買主 | 確認する内容 |
|---|---|---|
| 店舗兼住宅として自分で使う | 店舗兼住宅を探す個人・事業者 | 近い用途・規模の成約事例、建物状態、住宅としての使いやすさ、融資 |
| テナントとの賃貸借を引き継ぐ | 投資家、家賃収入を得たい居住者 | 実際の賃料、運営費、契約期間、滞納、修繕、将来の空室リスク |
| 退去確定後に自用・改装・建替えを検討する | 自用希望者、開発事業者、買取業者 | 土地価格、解体・改装費、用途規制、接道、再建築や用途変更ができるか |
退去日が書面で確定していないなら、空室になることを前提に売出価格を決めないでください。まず入居中の条件で査定し、建替えや土地利用の価格は参考として別に出してもらいます。
成約事例は店舗と住居の面積割合が近い物件で探す
国土交通省の「不動産情報ライブラリ」では、実際の取引価格を地域、時期、面積、建物用途などで調べられます。自宅と近い事例を探すときは、沿線・商圏、土地と延床面積、前面道路・間口・駐車場、築年数・構造・改装状態をそろえます。
店舗付き住宅で特にそろえたいのは、店舗と住居の床面積割合と、テナントの有無・賃料条件です。床面積割合は買主が使える融資に、テナントの条件は投資家が見る収益に関わるため、ここが違う事例は価格の参考になりにくくなります。
混同しやすいのが、売出中の価格です。これは売主が「この額で売りたい」と出している希望額であって、実際に売れた金額ではありません。また、似た取引が少ない地域では、たまたま見つかった1件を自宅に当てはめず、土地の価格や収益性とも突き合わせ
ます。
テナント入居中の店舗付き住宅は家賃からも価格を検証する
投資家が見ているのは、家賃の総額ではありません。そこから経費を引いて、所有者の手元に残る金額です。
年間の純収益 = 1年間に受け取る賃料 − 1年間に所有者が負担する費用
差し引く費用には、固定資産税、保険料、管理費、修繕費に加えて、将来の空室や新しいテナント募集への備えも含めます。この純収益と利回りから価格を逆算する方法を「収益還元」といいます。
利回りとは、価格に対して1年でどれだけ収益が出るかの割合です。立地、建物の状態、契約の安定性、将来の売りやすさによって動きます。
ここで避けたいのが、店舗の収益価値と、住居・土地の価格を単純に足すことです。同じ土地と建物を二重に数えてしまいます。不動産鑑定でも、取引事例、収益、建て直すのにかかる費用といった複数の見方を、物件に応じて調整したうえで結論を出します。
買主が住宅ローンを使えるかで店舗付き住宅の価格は動く
同じ建物でも、買主がローンを組めるかどうかで売れる価格は動きます。条件を満たせば店舗付き住宅でも住宅ローンは使えますが、一般の戸建てより、金融機関や商品によって扱いが分かれやすい物件です。
たとえば2026年10月時点のフラット35の基準では、店舗などを併設する住宅について、住宅部分の床面積が、店舗・事務所などの非住宅部分と同じかそれ以上であることを条件としています。さらに、資金の使い道は本人や親族が住む住宅の取得とされ、非住宅部分の購入価額は借入の対象に含まれません。
民間の金融機関では、基準が各社で分かれます。買主が住居に住むのか、店舗を自分で使うのか、テナントをそのまま引き継ぐのかによっても、資金の組み方は変わります。
査定を頼むときは金額で終わらせず、「この価格で買えるのはどんな人で、どの融資を使えるのか」まで説明してもらいましょう。
\ 誰がどの融資で買えるかまで聞く /
テナント入居中の店舗付き住宅はオーナーチェンジで売却できる
建物を売ること自体に、テナントの同意は原則として要りません。持ち主は売主だからです。
ただし、それで何もかも自由になるわけではありません。賃貸借契約の中身、店内の内覧、契約情報をどこまで見せるか、売却後の引き継ぎは、それぞれ別に整理します。
店舗付き住宅を売却しても賃貸借は原則として買主へ引き継がれる
テナントがすでに建物の引渡しを受けて営業している。こうした通常のケースでは、売却後も賃貸借はそのまま続きます。
まず借地借家法31条により、テナントは新しい所有者に対しても「借り続けられる」と主張できる状態になります。その状態であれば、民法605条の2により、家賃を受け取り、必要な修繕などを行う貸主の立場が、原則として買主へ移ります。ただし買主の側がテナントに対してその立場を主張するには、所有権移転登記が必要です。
引き継がれるのは、都合のよい話ばかりではありません。敷金を返す義務や、テナントが立て替えた必要な修繕費などを精算する義務も、まとめて買主のものになります。ここで売主が預かった敷金を手元に残せば、お金は売主、返す義務は買主、という状態になってしまいます。そのため、売買代金とは別に敷金相当額を清算するのが一般的です。
注意したいのが「保証金」です。名前は似ていても、中身が敷金と同じとは限りません。返す部分、契約に従って差し引く部分、貸付金に近い部分が混ざっていることもあります。元の契約書と入金記録に戻って仕分けします。
普通借家のテナントは、売却を理由に退去させられない
一般的な普通借家契約では、「売りたいから」という理由だけで、貸主からテナントを退去させることはできません。
貸主から契約を終わらせたり、更新を断ったりするには「正当事由」が必要です。これは、どれか一つの条件を満たせば認められるものではありません。貸主と借主それぞれが建物をどれだけ必要としているか、これまでの契約の経緯、実際の使われ方、建物の状態、立退料をいくら提示したか。こうした事情をまとめて見て判断される仕組みです。
ですから、テナントが退去に同意していないのに、「半年後に空きます」「買主が自由に使えます」と広告や売買契約で約束してはいけません。明渡しを条件に売りたいなら、交渉を始める前に、不動産賃貸借に詳しい弁護士へ相談してください。
一方、「定期建物賃貸借(定期借家)」は扱いが違い、契約期間が満了すると更新されずに終了します。ただし、適法に成立していることが前提です。契約期間が1年以上なら、貸主は原則として満了の1年前から6か月前までに終了を通知する必要があります。契約書や電磁的記録に「定期」と書かれているだけで判断せず、契約前の説明と通知履歴まで確認しましょう。
売却の同意と、店内の内覧・情報開示の同意は分けて考える
売る権利があることと、店に入る権利があることは別です。営業時間中の店内へ自由に立ち入ったり、写真を無断で広告へ載せたりはできません。賃貸借契約の立入条項を確認したうえで、日時、人数、撮影する範囲をテナントと決めます。
撮影では、顧客、商品、レジ、帳簿、スタッフが写り込まないよう配慮します。買主候補へ見せる情報も段階を分けましょう。検討の初期に見せるのは、テナント名や個人の連絡先を伏せた賃料条件の一覧までです。詳しい資料は、秘密を守ることと、取引が成立しなかった場合に削除することを約束してもらってから、必要な範囲だけ渡します。
買収前の調査で個人データを提供する場合は、利用目的、取扱方法、交渉が不成立になったときの削除などを契約で定める必要があります(個人情報保護委員会のQ&A参照)。
テナント入居中の売買契約と決済で引き継ぐ8項目
テナントが入ったまま売るなら、賃貸借契約書を渡して終わりにはなりません。買主が「引き受ける負担はいくらか」を判断できるように、次の内容を売買契約の別紙や引継書へ書き出します。
| 確認項目 | 売主が整理する内容 |
|---|---|
| 賃貸借 | 元の契約、更新・変更の覚書、普通借家・定期借家の別、口頭の合意 |
| 賃料 | 賃料・共益費・消費税、入金履歴、滞納、前受金、減額の合意 |
| 敷金・保証金 | 受領額、返還済み額、差し引く条件、返還義務、売主・買主間の清算額 |
| 修繕 | 漏水、空調、給排水、ダクトなどの依頼履歴と未完了工事 |
| 設備・造作 | 貸主の設備、借主が付けた設備、リース品、残置物、修理・撤去・原状回復の負担 |
| 保証・保険 | 連帯保証、保証会社、火災保険、所有者変更時の通知・承認条件 |
| 決済前の変化 | 退去、滞納、事故、設備故障が起きた場合の代金や引渡し条件 |
| 決済後の通知 | 新しい貸主、賃料振込先、管理窓口、変更日 |
所有権移転登記が終わったら、新しい貸主と賃料の振込先を、売主と買主の連名でテナントへ通知します。連名にしておくと、テナントの不安や誤送金を抑えやすくなります。契約書の原本、鍵、設備台帳、点検記録も一覧にして引き渡しましょう。
\ テナント入居中でも査定は取れます /
店舗付き住宅の売却方法3案を税引前手取りで比べる
入居中に売るか、退去を待つか、不動産会社などに直接買い取ってもらうか。この3案は、査定額の大小だけでは選べません。空室にしたあとの査定額が高くても、待つ間の保有費や原状回復費がかさめば、入居中に売ったほうが手元に多く残ることがあるからです。
| 売却方法 | 向いている状況 | メリット | 注意点 |
|---|---|---|---|
| A:テナント入居中に仲介で売る | 賃料の入金、契約、設備、法令資料が整っている | 家賃を受け取りながら、投資家などへ販売できる | 自用希望者は買いにくい 店内の内覧と買主の融資確認が必要 |
| B:合意退去・定期借家の満了後に仲介で売る | 退去日が有効な書面で確定している | 空室で内覧や改装ができ、自用希望者にも案内しやすい | 待機中の保有費 失う家賃 返還金 原状回復費がかかる |
| C:不動産会社などへ直接売る(直接買取) | 売却期限が短い 建物やテナント資料に難点がある | 条件を引き受ける買主なら、売却までの工程を短くしやすい | 再販売費やリスクが価格に反映される 契約後の減額条件も確認する |
Cの直接買取についても、必ず即金・無条件とは限りません。提示額と合わせて、価格が確定する日、再調査後の減額、未登記部分の対応、敷金・保証金の清算、物件が契約内容と違った場合の売主責任、買主の融資が通らない場合の解除条件を比べます。
入居中・退去後・直接買取の税引前手取りを架空例で試算する
同じ物件を3つの方法で売った場合の手取りを、架空の数字で並べます。地域の相場や一般的な値引き率を示すものではありません。単位は万円で、譲渡所得税など売却後の税金は含めていません。
| 項目 | A:テナント入居中 | B:12か月後に空室 | C:直接買取 |
|---|---|---|---|
| 想定売却価格 | 4,000 | 4,600 | 3,500 |
| 売却までの家賃収支 | 30 | 120 | 10 |
| 仲介手数料など売却費用 | ▲140 | ▲160 | 0 |
| 調査・登記などその他費用 | ▲20 | ▲30 | ▲20 |
| 敷金・保証金の清算 | ▲60 | ▲60 | ▲60 |
| 退去・原状回復・修繕費 | 0 | ▲300 | 0 |
| 売却時のローン残高 | ▲1,500 | ▲1,400 | ▲1,500 |
| 税引前の想定手取り | 2,310 | 2,770 | 1,930 |
「売却までの家賃収支」は、受取賃料から、保有中の税金、保険、管理、修繕、支払利息などを差し引いた金額です。ローンの元本返済分は、売却時のローン残高に反映します。
目を引くのは、AとBの差です。Bは600万円高く売れているのに、手取りの差は460万円にとどまります。空室にするまでの1年で、原状回復や修繕に300万円かかっているからです。
ここから逆算すると、Bの手取りがAと並ぶのは、空室時に4,140万円で売れたときだとわかります。
4,140 + 120 − 160 − 30 − 60 − 300 − 1,400 = 2,310(万円)
空室にしても4,140万円を下回る価格でしか売れないなら、この条件では入居中に売ったほうが多く残ります。
さらにテナントへ500万円の明渡し合意金を払うなら、同じ手取りを確保するのに必要な価格は4,640万円まで上がります。
Bを選べるのは、適法な定期借家の満了や双方の合意によって、退去日が書面で確定している場合だけです。退去が未確定なら、Bの金額を販売計画の前提にはできません。
実際に比べるときは、各社へ同じ資料を渡し、次の3案を出してもらいます。
- A:テナントを引き継ぐ場合の査定額と想定期間
- B:有効な退去予定がある場合の空室査定額と追加費用
- C:直接買取(現在の状態のまま不動産会社などへ売る方法)の提示額と、その金額が変わる条件
並べるのは金額だけにしないでください。税引前の想定手取り、その金額を実現するために必要な条件、条件が崩れた場合の価格まで書き出して、初めて選べる材料になります。
\ 3案の手取りは、査定がそろってから /
店舗付き住宅の解体・改装前に用途地域と検査済証を確認する
店舗付き住宅では、今の建物と書類の食い違いが、価格と買主のローンに直結します。費用をかけて見た目を整えるより、まず「今の状態を説明できる資料」をそろえるほうが先です。
買主と売り方が決まる前に、解体・改装・テナントとの退去交渉を進めないでください。買主にとって価値のある設備や賃貸条件を、自分から手放してしまうことがあります。
用途地域で店舗兼用住宅として認められる範囲を確認する
用途地域とは、その地域にどんな建物をどれくらいの規模で建ててよいかを定めたルールです。住宅専用の第一種低層住居専用地域でも、一定の兼用住宅なら認められます。ただし、店舗部分の床面積、全体に占める割合、業種などに条件が付きます。
土地に重なるルールは、用途地域のほかにもあります。地区計画、特別用途地区、建築協定、自治体の条例も確認します。そして、今の店が営業できているからといって、買主が別の業種で営業できるとは限りません。最終的な判断は、自治体の建築担当部署へ問い合わせて確かめます。
検査済証・建築確認と用途変更・増改築の記録を照合する
確認済証、検査済証、建築計画概要書、設計図をそろえて、今の建物と見比べます。
ここで見落としやすいのが、検査済証が証明する範囲です。新築時の検査済証があっても、その後の増築、間仕切り変更、店舗への用途変更、厨房やダクトの設置まで法令に合っていることを、自動的に証明するものではありません。
逆に、検査済証が見つからないことと、その建物が違法であることも別です。見つからないだけで売却できなくなるわけでもありません。既存建築物を調査して、今の建物が法令に合っているかを確認する手順もあります(国土交通省の資料参照)。どこまで調べる必要があるかは、建築士へ相談してください。
飲食店や物販店のように、不特定多数の人が利用する建物を「特殊建築物」といいます。この用途へ変える部分が200平方メートルを超える場合は、用途変更の建築確認が必要になることがあります。200平方メートル以下なら確認申請は不要ですが、建築基準法や消防法を守らなくてよいという意味ではありません。
また、2025年4月の建築基準法改正で、木造でも階数2以上または延べ面積200平方メートル超の建物は、大規模な修繕・模様替えをするときに建築確認が必要になりました。買主が大がかりな改装を考えている場合、工事の費用や期間の見込みに影響します。
登記面積と現在の店舗・住居の床面積を突き合わせる
登記事項証明書、建築確認資料、固定資産税の課税明細、現在の平面図。この4つに書かれた床面積と用途を照らし合わせます。未登記の増築が見つかったら、建物の種類・構造・床面積などの登記を扱う土地家屋調査士へ相談します。
ここで混同しやすいのが、登記と建築基準法への適合です。この2つは別の問題です。登記を直せば増築が適法になるわけではありませんし、登記されているから建築上も適法だと決まるわけでもありません。建築上の確認は建築士、建物の表示に関する登記は土地家屋調査士と、役割を分けて相談します。
飲食店テナントがいる建物の消防・厨房・給排水設備
店舗が飲食店なら、住居と店舗を合わせた建物全体が、複数の用途を持つ防火対象物として扱われることがあります。必要な消防設備は、店舗の面積だけでなく、建物全体の用途、階数、構造、避難経路によって変わります。売却前に所轄の消防署へ確認しましょう。
あわせて、次の設備や届出について、誰が所有し、誰が管理しているかを一覧にします。修理・交換・撤去・原状回復を誰が負担するかも、設備ごとに書き出しておきます。
| 分類 | 一覧にする設備・書類 |
|---|---|
| 厨房・排気 | 厨房、フード、排気ダクト、グリストラップ |
| ガス・電気・水道 | ガス管・メーター、電気容量、給排水 |
| 消防設備 | 消火器、自動火災報知設備、誘導灯、非常照明、防火戸、避難経路、点検記録 |
| 許認可・届出 | 飲食店営業許可、消防への届出、行政からの指摘 |
同じ厨房設備でも、貸主の所有か、テナントが取り付けたものか、リース会社の所有かで、売買に含められる範囲が変わります。設備の名前だけで決めず、契約書、請求書、固定資産台帳などで確認してください。
土地・接道・境界は建替えを検討する買主が見る条件
土地の登記、公図、地積測量図、境界確認書、前面道路の種類と幅も確認します。建替えや建替え後の用途を考える買主にとっては、敷地が法令上の道路にどう接しているか、境界が確定しているかが重要な判断材料になるためです。
境界標が見つからない、登記面積と実際の面積に差がある、私道の通行・掘削条件がわからない。こうした事情は、売出し後まで待たず、査定の段階で伝えます。測量が必要かどうか、費用を誰が負担するかは、売却期限や買主候補に応じて決めます。
店舗付き住宅の売却で必要な資料は6分類でそろえる
大切なのは資料の枚数ではありません。買主が価格、融資、引き継ぐ負担を判断できる状態になっているかどうかです。次の6分類で、手元にあるものと足りないものを洗い出します。
| 分類 | 最初にそろえる資料 | 食い違いがあるときの主な確認先 |
|---|---|---|
| 土地・権利 | 登記事項証明書、公図、測量図、境界確認書、私道関係書類、課税明細 | 土地家屋調査士、不動産会社 |
| 建物・法令 | 確認済証、検査済証、建築計画概要書、設計図、現況図、増改築・用途変更の記録 | 建築士、土地家屋調査士 |
| 修繕・事故 | 屋根・外壁・漏水・設備の修繕履歴、事故・保険請求、未完了工事 | 建築士、施工会社、保険会社 |
| テナント | 元の契約と覚書、賃料、敷金・保証金、契約種類、保証、設備・原状回復の負担 | 不動産会社、弁護士 |
| 収支・ローン | 賃料の入金履歴、固定資産税、保険、管理・修繕費、ローン残高 | 不動産会社、金融機関、税理士 |
| 店舗設備・許認可 | 設備の所有者、購入・リース・修理記録、消防点検、営業許可、鍵・警備・メーター | 建築士、消防署、保健所 |
すべてそろうまで査定を待つ必要はありません。見つからない資料は「未確認」と伝えたうえで、契約内容、床面積、用途、敷金・保証金、設備の所有者に食い違いがないかを先に調べます。
不利に見える修繕歴や事故歴も、隠すより出したほうが結果的に有利です。あとから発覚すれば値引きの材料になりますが、いつ何が起きて、どう対応したかを説明できれば、余計な疑いを持たれずに済みます。
古い設備は「まだ使える」と断定せず、動作を確認した日と故障歴を記録しておきましょう。
\ 資料がそろわなくても査定は始められます /
店舗付き住宅の売却でかかる税金は住居部分と店舗部分に分けて考える
店舗付き住宅の税金は、売主が個人か法人か、どの部分を自宅・事業・賃貸に使っていたかで変わります。「店舗があるから全額が事業用」「住んでいるから全額が自宅用」と、ひとまとめには決まりません。
店舗付き住宅の譲渡所得は売却価格ではなく利益にかかる
個人が土地・建物を売ったときの譲渡所得は、基本的に次の式で計算します。
譲渡所得 = 売却代金 − 取得費 − 譲渡費用 − 適用できる特別控除
ここで混同しやすいのがローン残高です。手取りを計算するときは差し引きますが、譲渡所得の計算では取得費にも譲渡費用にもなりません。手取りの計算と税金の計算は、別々に作ります。
取得費に含めるのは、購入代金と購入時の一定の費用です。ただし建物については、使用や年月の経過で減った価値の分である「減価償却費相当額」を差し引いて計算します。しかも、店舗・賃貸に使った部分と自宅部分では計算方法も異なります。
購入時の契約書や領収書が見つからないときは、売却代金の5%を取得費とみなす方法(概算取得費)があります。ただし、これが実際の取得費より低ければ、その分だけ利益が大きく計算され、税負担は重くなります。あきらめる前に、売買契約書、建築請負契約書、仲介手数料の領収書、増改築費の資料を探しましょう。
個人の売却では、売却した年の1月1日時点で所有期間が5年を超えるかどうかで、長期・短期が分かれます。
| 区分 | 所有期間の判定 | 所得税・復興特別所得税・住民税の合計税率 |
|---|---|---|
| 長期譲渡所得 | 売却年の1月1日時点で5年超 | 20.315% |
| 短期譲渡所得 | 売却年の1月1日時点で5年以下 | 39.63% |
2027年分からは、所得税額にかかる付加税が復興特別所得税1.1%と防衛特別所得税1%に分かれます。合計の税率は20.315%・39.63%のまま変わりません。
実際の税額は、物件の使い方や特例の要件で変わります。金額を確定する前に税理士へ確認してください。
3,000万円特別控除は店舗兼住宅の自宅部分が対象
マイホームを売ったときの3,000万円特別控除は、要件を満たせば店舗付き住宅にも使える場合があります。ただし、対象になるのは原則として自分が住んでいた部分です。住居部分と店舗部分に対応する土地を分けて計算します。
ただし、居住部分がおおむね90%以上であれば、土地・建物の全部を居住用として扱えます。面積の分け方にも決まりがあるため、個別の計算は税理士へ確認してください。
住居部分とその敷地を、売った年の1月1日時点で10年を超えて所有していれば、3,000万円特別控除と重ねて「軽減税率の特例」も使えます。課税長期譲渡所得のうち6,000万円以下の部分は、所得税10%・住民税4%(復興特別所得税を含めて14.21%)です。
住居と店舗の境目が図面と現在の使い方で違う、家族と法人で使用関係が分かれる、賃貸部分がある。こうした場合は、売買契約で価格を確定する前に税理士へ相談します。
店舗部分の建物でも消費税が必ずかかるとは限らない
土地の譲渡は、消費税の非課税取引です。一方、事業者が事業として店舗や賃貸用建物を売る場合、建物部分は課税対象になることがあります。
実際に納税するかどうかは、売主が消費税を納める課税事業者か、納税を免除される免税事業者かによっても変わります。自宅と事業用店舗が一体なら、利用状況に応じて分けることも必要です。
「店舗部分は一律に課税」「個人の売却は一律に非課税」と決めつけられる話ではありません。契約前に税理士へ確認してください。
店舗付き住宅の売却で見込む費用と仲介手数料の上限
売却で出ていくお金は、不動産会社へ払う手数料だけではありません。テナントとの精算や、店舗特有の工事費も見込んでおきます。
| 費用 | 内容と目安 |
|---|---|
| 仲介手数料 | 不動産会社へ支払う。売買価格(税抜)が400万円を超える場合の上限は「売買価格×3%+6万円」に消費税を加えた額。800万円以下の物件は、特例で30万円+消費税まで受け取れる |
| 印紙税 | 紙の売買契約書に課税。2027年3月31日までに作成する契約書は軽減され、売買代金1,000万円超5,000万円以下なら1万円 |
| 登録免許税・司法書士報酬 | 抵当権の抹消登記は不動産1個につき1,000円(土地1筆・建物1棟なら2,000円)。登記上の住所・氏名が今と違えば変更登記も必要で、同じく1個につき1,000円 |
| 測量・調査の報酬 | 境界確定の測量、建築士の調査、土地家屋調査士の登記手続。物件と依頼内容で金額が変わる |
| テナント関係の清算 | 敷金・保証金の清算、テナントとの合意に基づく費用 |
| 撤去・修繕費 | 残置物の撤去、修繕、契約で売主負担とした工事 |
| 譲渡所得の税金 | 譲渡益が出た場合の所得税・復興特別所得税・住民税 |
仲介手数料の上限は法律で決まっていますが、上限額がそのまま請求額になるわけではありません。実際の金額は、不動産会社へ売却を依頼する契約である「媒介契約」で確認します。
売買代金に消費税等相当額が含まれる場合、報酬の上限は、その相当額を除いた本体価格をもとに計算します。店舗部分の建物に消費税が生じるなら、土地・建物・消費税の内訳と計算根拠を書面で確認してください。
売主の登記上の住所や氏名が今と違う場合は、所有権を移す登記の前に変更登記が必要です。2026年4月1日からは、住所や氏名が変わった日から2年以内に変更登記を申請することが義務になりました(2026年3月31日以前の変更は2028年3月31日まで)。住み替えなどで住所が変わった売主は、登記事項証明書で登記上の住所を確かめておきましょう。
なお、宅地建物取引業法34条の2第2項により、不動産会社が査定額を示すときは、価格の根拠を説明する必要があります。査定書は金額だけでなく、計算の前提まで見ましょう。
固定資産税・都市計画税は、引渡日で日割りして清算することがあります。これは売主と買主の契約上の取り決めであり、その年の納税義務者が引渡日に自動で変わる制度ではありません。個人の売主が受け取る清算金は、譲渡所得の計算で売却代金(収入金額)に含めます。
店舗付き住宅を売却する7つの手順
資料集めから決済後の通知まで、次の順に進めると手戻りが減ります。
期限、必要な手取り、住居から退去する時期、店舗の使用者、テナントの契約種類を整理します。売主が営業中なら、設備や事業も売るのかを決めます。
登記、建築、消防、賃貸借の書類を集め、今の建物との食い違いを一覧にします。資料が足りなくても査定は始められます。
増築・用途は建築士、建物の表示登記・境界は土地家屋調査士、賃貸借の争いは弁護士、税区分は税理士へ相談します。
「テナント入居中」「退去が確定した後」「直接買取」を同じ資料で査定してもらい、想定する買主、融資、費用、税引前手取りを比べます。
初めは名前を伏せた収支と建物資料を示します。テナントや保証人の個人情報は、購入意思と秘密保持を確認してから、必要な範囲だけ開示します。
店内へ入る日時や撮影範囲を事前に決めます。価格だけでなく、敷金・保証金、設備、修繕、売却後の管理も交渉の対象です。
契約日から決済日までに滞納、退去、故障が起きた場合の扱いも決めます。決済日には残代金の受領、ローンの返済、所有権移転、敷金等の清算、鍵と資料の引渡しを進めます。
登記後は、新しい貸主と振込先をテナントへ通知します。
店舗付き住宅の売却を任せる不動産会社の選び方
店舗付き住宅では、一般的な戸建ての取引件数だけで会社を選ぶと判断を誤ります。次の質問に、資料と数字で答えられるかを確かめてください。
- この査定額は、誰がどの融資を使って買う前提ですか
- 成約事例と収益計算を、査定額へどう反映しましたか
- 敷金・保証金、修繕、設備を、買主へどう引き継ぎますか
- 用途、増築、消防、設備の不明点を誰と調べますか
- 費用とローンを引いた税引前の想定手取りはいくらですか
高い査定額を出した会社が、最も高く売ってくれるとは限りません。査定の根拠に加えて、誰にどう販売するのか、法令や契約をどう調べるのか、どんな場合に値下げが必要になるのかまで比べましょう。
媒介契約を結ぶ前には、広告へ出す情報、テナントへの連絡担当、内覧方法、専門家の調査費用、売れない場合に販売条件を見直す時期を確認してください。
\ 1社の査定額では、比べようがありません /
店舗付き住宅の売却でよくある質問
テナントへの伝え方、検査済証、退去を待つかどうかについて、5つの質問に答えます。
店舗付き住宅は退去や改装より先に3つの売却方法を比べる
店舗付き住宅は、テナントが入ったままでも売却できます。退去が書面で確定していないなら、まず入居中の査定を基準に置いてください。そのうえで、退去確定後と直接買取の税引前手取りを並べて比べます。
最初に集めるのは、賃貸借契約書、直近の入金履歴、敷金・保証金の明細、登記事項証明書、建築確認関係書類、固定資産税の課税明細です。同じ資料を複数社へ示し、テナント入居中に仲介で売る場合、退去日が書面で確定した後に売る場合、現在の状態のまま直接買い取ってもらう場合の3条件で査定を依頼します。テナントが入居中のままでも、リビンマッチから査定を依頼できます。
賃貸借をめぐる争い、増築・用途・床面積の食い違い、売却代金でローンを完済できない見込み、住居と店舗の税区分が不明。このいずれかに当てはまるなら、売り出す前に専門家へ確認してください。
確認できていない事項は査定の段階で共有し、誰がいつ調べるかを決めます。
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※2025年9月19日-23日 「サイト評価に関する調査」より
出典・参考資料
- e-Gov法令検索「民法」
- e-Gov法令検索「借地借家法」
- e-Gov法令検索「宅地建物取引業法」
- 法務省「賃貸借契約に関するルールの見直し」
- 国土交通省「定期建物賃貸借Q&A」
- 個人情報保護委員会「個人情報保護法に関するQ&A」
- 国土交通省「不動産情報ライブラリ」
- 国土交通省「不動産鑑定評価基準」
- 国土交通省「用途規制」
- 国土交通省「建築物の改修における建築基準法のポイント説明会」
- 国土交通省「既存建築物の活用の促進について」
- 国土交通省「既存住宅流通について(建物状況調査(インスペクション)活用に向けて)」
- 消防庁「防火対象物の用途区分表」
- 住宅金融支援機構「中古住宅の技術基準の概要」
- 住宅金融支援機構「【フラット35】ご利用条件」
- 国税庁「店舗併用住宅を売ったときの特例」
- 国税庁「マイホームを売ったときの軽減税率の特例」
- 国税庁「取得費となるもの」
- 国税庁「建物の取得費の計算」
- 国税庁「取得費が分からないとき」
- 国税庁「長期譲渡所得の税額の計算」
- 国税庁「短期譲渡所得の税額の計算」
- 財務省「令和8年度の税制改正(防衛力強化に係る財源確保のための税制措置)」
- 国税庁「土地建物を売ったときの収入金額に含める金額」
- 国税庁「個人が事業用建物等を譲渡した場合の消費税」
- 国税庁「消費税等と譲渡所得」
- 国税庁「不動産の譲渡、建設工事の請負に関する契約書に係る印紙税の軽減措置」
- e-Gov法令検索「登録免許税法」
- 法務省「住所等変更登記の義務化について」
- 国土交通省「<消費者の皆様向け>不動産取引に関するお知らせ」
法令・制度・税率は2026年10月時点の内容です。個別の賃貸借、建物の法令適合、融資、税務は、物件と当事者の状況によって結論が変わります。必要に応じて、弁護士、建築士、土地家屋調査士、税理士、金融機関へ確認してください。

