床が傾いた家でも売れます。修繕を終えてからでなければ売買できない、という決まりはありません。
買主が判断に迷うのは、傾きそのものより、「どこまで直す必要があり、その費用を誰が負担するのか」が見えないときです。原因も広がりもわからないままでは、買主も不動産会社も将来の負担を見積もれず、価格を出せません。
だからといって、修繕や解体を先に決める必要はありません。順番は、安全を確かめる、症状を記録する、原因を調べる、そのうえで4つの売り方を同じ資料で比べる、です。4つとは、修繕してから仲介で売る、修繕せず今の状態で買主を探す「現況のままの仲介」、不動産会社自身が買主になる「直接買取」、建物より土地を重視して売る、の4通りです。
原因が最後まで特定できないこともあります。それでも、わかった事実と、まだ調べていない範囲を契約前に買主へ伝えれば、現況のままの仲介や買取で売却できます。追加調査は、安全の判断、売り方、価格、契約条件を左右しそうな範囲に絞れば十分です。すべてを調べ切る必要はありません。
なお、「6/1000以上なら売れない」「6/1000未満なら説明しなくてよい」という線引きもありません。3/1000や6/1000は、決められた条件で傾きを評価するときに使う数値です。
主に、個人が所有する中古戸建ての売却を想定しています。区分マンション、共有名義、相続人が決まっていない家、裁判や調停が続いている家では、これ以外の確認も必要です。地震や豪雨のあとに急に傾いた家など、立ち入りの安全が確かめられない建物では、売却準備より安全確認を先にしてください。
床が傾いた家は売れる|売却方法は4つある
床が傾いた家でも、状態を買主へ伝え、価格と契約条件に反映すれば売却できます。ただし、傾き方によっては、売却の準備より先にやることがあります。
急な傾きや地面の異常があるときは、売却準備より安全確認
建物へ無理に立ち入らないでください。
- 地震、豪雨、近隣で地面を掘る工事(掘削工事)などをきっかけに、急に傾いた
- 数日から数カ月のうちにも、傾きや基礎・外壁の亀裂が広がっている
- 地面に亀裂、陥没、空洞、砂や水が噴き出した跡(噴砂)がある
- 敷地の土を支える壁(擁壁)が、膨らむ、ずれる、傾く
- 窓やドアが急に閉まらなくなり、建物も変形している
- ガス、水道、排水設備に異常がある
大きな地震のあとは、自治体が実施する「被災建築物応急危険度判定」などの案内を確認します。余震による倒壊といった二次災害を防ぐため、被災した建物の危険度を応急的に判定する制度です。敷地や擁壁の異常が疑われるときは、自治体の建築・宅地担当窓口、建築士、地盤や擁壁を扱う専門家へ相談します。
売り方は4つ|修繕・現況のまま・買取・土地
安全上の問題がなければ、現実的な売り方は次の4つです。
| 売り方 | 向いている状況 | 主な利点 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 修繕してから仲介で売る | 原因と工事範囲がはっきりし、工事費を売却価格の上乗せで回収できそう | 一般の買主が検討しやすくなる可能性がある | 追加工事、工期の延び、想定より安い成約のリスクを売主が負う |
| 現況のまま仲介で売る | 買主を探す時間があり、状態と修繕負担を具体的に説明できる | 修繕資金を先に出さずに済む | 買主が限られ、調査・価格・契約条件の交渉が増えやすい |
| 不動産会社に直接買い取ってもらう | 売却期限が近い、修繕資金を出しにくい、一般の買主には検討しにくい状態 | 条件が合えば、販売期間を短くしやすい | 買取価格、再調査後の減額条件、売主の責任を会社ごとに比べる必要がある |
| 建物より土地を重視して売る | 建物の利用価値が低く、土地利用を前提とする買主が見込める | 建物を使わない需要も検討対象になる | 「古家付き土地」と呼んでも傾きや地盤の問題は消えない。解体を先行すると費用を回収できないことがある |
どれが正解かは、傾きの数値だけでは決まりません。原因、修繕後の見込価格、売却期限、先に出せる資金、売却後に負う責任を合わせて判断します。
3/1000・6/1000は「売れる・売れない」の基準ではない
傾いた家について調べると、「3/1000」「6/1000」という数値が必ず出てきます。6/1000は、水平距離1mあたり6mm、3mなら18mmの高低差がある傾きです。
この数値が出てくる場所は、大きく2つあります。1つは、国土交通省の「住宅紛争処理の参考となるべき技術的基準」です。凹凸の少ない床を、おおむね3m以上離れた2点間で測り、柱・梁・基礎など建物を支える部分に欠陥がある可能性を、次の3段階で整理しています。
| 床の傾斜 | 3mでの高低差の目安 | 技術的基準での位置づけ |
|---|---|---|
| 3/1000未満 | 9mm未満 | 建物を支える部分に欠陥がある可能性が低い |
| 3/1000以上6/1000未満 | 9mm以上18mm未満 | 建物を支える部分に欠陥がある可能性が一定程度ある |
| 6/1000以上 | 18mm以上 | 建物を支える部分に欠陥がある可能性が高い |
ただし、この基準が想定しているのは、新築時に建設住宅性能評価書が交付され、完成後10年以内に一定の紛争となった住宅などです。中古住宅全般の「問題なし・あり」を決める基準ではありません。表の「欠陥がある可能性」も、住宅の紛争を処理するときに参考にする技術上の区分です。売買契約で約束した状態と違う「契約不適合」に当たるか、売主が責任を負うかを、この数値だけで決めるものではありません。
もう1つは、中古住宅の建物状況調査に用いる現行基準です。こちらでは、床の傾斜が6/1000以上の場合を「劣化事象」、つまり劣化のサインの一つとして扱います(国土交通省「既存住宅状況調査方法基準の解説」)。決められた条件で劣化のサインを見つけるための基準であり、これも売却の可否を決めるものではありません。
つまり、どちらの数値も、次のことを単独では決めません。
- 売却できるか
- 建物が安全か
- 地盤沈下が起きているか
- 修繕が必要か、どの工法が必要か
- 売主が買主へ伝える必要があるか
- 住宅ローンを利用できるか
実際の判断は、数値の上下と逆に動くこともあります。6/1000未満でも、傾きが急に進んでいたり、複数の部屋が同じ方向へ傾いていたりすれば、詳しい確認が必要です。反対に6/1000以上でも、数値だけで地盤沈下とは断定できません。測った距離や向き、使った機器、建物内のどこで測ったかによって、同じ数値の意味が変わります。
床にビー玉を置く、スマートフォンの水平器を使うといった方法は、違和感に気づくきっかけになります。ただ、床材の凹凸や機器の精度に左右されるため、売却価格や工事内容を決める材料にはなりません。査定や契約に使うなら、専門家にレーザーレベルなどで測ってもらい、測定位置と数値を図面に残します。
床の傾きと地盤沈下は同じではない
床が傾く原因は、地盤沈下だけではありません。仕上げ材だけの問題から、地盤そのものの動きまで幅があります。見えている症状で決めつけず、どの範囲が同じ方向へ動いているかを見ます。
| 原因が疑われる範囲 | 例 | 確認の手がかり | 主な確認先 |
|---|---|---|---|
| 仕上げ材・一部の床 | 床材や下地の施工差、局所的な沈み、重量物の影響 | 一室の一部だけが傾く。壁や柱に同じ向きの傾きはない | 建築士、床工事を扱う事業者 |
| 床を支える部分・建物内部 | 梁や、床板を支える横木(根太)の変形、木が腐ること(腐朽)、シロアリ被害、過去の漏水 | 床のたわみや軟らかさ、床下の湿気、木部の劣化がある | 建築士、必要に応じて構造・木部劣化の専門家 |
| 基礎・建物全体 | 基礎が均等でなく沈むこと(不同沈下)、建物の変形 | 複数の部屋の床、壁、柱が似た方向へ傾く。基礎や外壁にも変化がある | 建築士、構造の専門家 |
| 地盤・宅地 | やわらかく沈みやすい地盤、土を盛って造成した土地、地下水、近隣工事、液状化、擁壁の異常 | 建物外周や地面にも変化がある。周辺の土地や擁壁と連動している | 地盤・宅地・擁壁の専門家、自治体 |
住宅リフォーム・紛争処理支援センターの技術情報も、床・壁・柱が同じ方向へ傾く場合は、建物全体や基礎を原因の候補に挙げています。壁や柱に傾きがなければ、床だけの問題という見方もできます。ただし、これは原因を絞る手がかりです。確定するには現地調査が必要です。
区分マンションは、この記事の主な対象ではありませんが、注意点が一つあります。室内の床だけの問題に見えても、建物の骨組み(躯体)など共用部分が関係することがあります。自分だけで床を直す前に、管理会社・管理組合へ連絡し、どこまで調べるのか、工事の承認が必要かを確かめてください。
売却前の調査は、記録・測定・原因調査の順に進める
売却前の調査でそろえたいのは、報告書の束ではありません。買主が負担する可能性のある工事と、まだわからないリスクを見積もれる状態です。
1.いつ、どこで、どう変わったかを記録する
最初にやることは、家の履歴集めです。専門家が原因を考えるときも、複数の不動産会社に同じ条件で査定してもらうときも、ここが出発点になります。
- 傾きに初めて気づいた時期と、気づいたきっかけ
- 傾きが進んでいるか、止まっているか
- 傾く部屋、方向、範囲を示した間取り図
- 床、壁、柱、建具、基礎、外壁、地面、擁壁の写真
- 地震、豪雨、浸水、近隣工事との時間的な関係
- 新築時・増改築時の図面、確認済証、検査済証
- 地盤調査報告書、地盤改良・基礎工事の記録、保証書
- 過去の調査報告書、修繕見積書、工事明細、施工前後の写真
- 漏水、シロアリ、配管不良など、把握している別の不具合
「わからない」ことも記録します。「異常なし」ではなく、「床下点検口がなく確認できていない」「2025年以降は測っていない」と書けば、確認できた範囲と、まだ調べていない範囲を分けられます。
コピーして使える「傾き記録メモ」
以下は書き方を示す仮想例です。自己測定の数値を、専門家の測定値と混ぜないようにしてください。
| 項目 | 記入例 |
|---|---|
| 気づいた時期 | 2026年5月。リビングの引き戸が自然に動くことに気づいた |
| 場所と向き | 1階リビングの北側から南側へ下がるように感じる |
| 変化 | 2026年5月と7月の写真あり。傾きが進んでいるかは、まだ測っていない |
| 関連する症状 | 南側の引き戸が閉まりにくい。基礎外周に亀裂1か所 |
| 最近の出来事 | 2025年に隣地で地下掘削工事。関係があるかは、まだ確認できていない |
| 自己確認 | スマートフォンで確認。数値は参考扱い |
| 専門家の測定 | まだ実施していない |
| 見えない場所 | 床下の南半分は点検口から確認できず |
| 手元の資料 | 新築図面、2018年の外壁工事明細。地盤調査報告書は見当たらない |
因果関係が確認できていない出来事は、「原因」と書かず「最近の出来事」として分けます。事実と推測を混ぜないことが、そのまま買主への正確な説明になります。
2.建物状況調査で、見える劣化と傾きを整理する
建物状況調査は、所定の講習を修了した建築士が、中古住宅の状態を調べる制度です。基礎や柱など建物を支える部分と、屋根や外壁など雨水の侵入を防ぐ部分を、目で見て、機器で測ります。すべての売却で必ず受ける調査ではありません。
床や柱の傾き、基礎の亀裂、床下の見える範囲の劣化を共通の基準で整理できるため、売却前の判断材料になります。一方、原則として壁や床を壊さずに調べるので、隠れた場所まで確認できるわけではありません。地盤沈下の原因や直し方を決める調査でもなく、「不具合はない」と保証する調査でもありません。
費用は、国土交通省の「建物状況調査に関するQ&A」(Q1-8)が、標準的な検査内容で6万円程度からと例示しています。ただし基準料金はなく、建物の規模、場所、調査者、オプションで変わります。傾きの原因調査や地盤調査は別業務になり得るため、料金だけで選ばず、次の点を先に確認します。
- 床、壁、柱をどの位置と間隔で測るか
- 床下、屋根裏、家具の裏など、調査できない場所はどこか
- 基礎と建物外周をどこまで見るか
- 原因の特定は調査範囲に含まれるか
- 調査結果は、図面上の測定位置と数値を含むか
- 追加調査が必要な場合、誰に何を依頼するか
調査者は、国土交通省が案内する既存住宅状況調査技術者検索サイトで探せます。
3.異常が見つかったら、原因に合う詳しい調査へ進む
傾きや劣化のサインが見つかっても、それだけで直し方は決まりません。建物の骨組み、床下の木材、基礎、地盤、擁壁のうち、どこが疑われるかによって、次に頼む相手が変わります。
依頼するときに次の3点を聞くと、会社ごとの違いが見えます。
- 今回の調査で、どの原因まで判定できるか
- 判定できない場合、報告書にはどう記載されるか
- 修繕案は原因への対策か、床を水平に戻すだけの工事か
3つ目が特に重要です。地盤や基礎が動き続けているのに室内の床だけを水平にすると、また傾くおそれがあります。まず原因と、今も傾きが進んでいるかを確認する。必要なら地盤や基礎を安定させる。そのうえで建物や床を調整し、建具・配管・内装などの二次的な不具合を直して測り直す。これが基本の順番です。
工事会社に調査も頼む場合は、調査結果と工事提案を分けて書面でもらいます。原因の根拠、対象範囲、追加工事が生じる条件、工事後の測定、保証の対象まで比べてから契約します。
公開地図でわかること、わからないこと
周辺の地形や過去の調査情報は、原因の仮説を立てる助けになります。無料で確認できる代表的な資料は次のとおりです。
- 国土交通省などの地盤情報を検索できるKuniJiban
- 国土地理院の土地条件図
- 国土交通省の大規模盛土造成地マップ
- 国土交通省の液状化の発生傾向図
- 環境省の全国の地盤沈下地域の概況
ただし、いずれも敷地単位の診断には使えません。近隣で地面を掘って調べた地盤データ(ボーリングデータ)は、売却する敷地そのものの地盤を証明しません。大規模盛土造成地マップはおおよその位置を示すもので、掲載された土地が直ちに危険という意味でもありません。液状化の発生傾向図も、250m四方ごとの相対的な傾向です。
公開地図だけを根拠に「地盤は安全」とも「地盤沈下が原因」とも書けません。必要なら、敷地内の調査へ進みます。
傾いた家の売却価格は、一律の値下がり率では決まらない
傾いた家について、「通常価格の何割下がる」「買取なら何割になる」という全国共通の率はありません。床だけの補修で済む家と、地盤・基礎まで対策が必要な家では、買主が見込む負担が違うからです。
修繕せずに売る場合の価格は、次のように分けて考えると、差が生まれる理由がわかります。不動産会社が実際に使う査定式ではありません。
修繕せずに売る場合の成約予想価格 ≒ 同じ立地・規模で傾きがない場合の見込み価格 - 買主が見込む調査・修繕費と売れるまでの維持費 - まだわからない部分への備え
調査で減らせるのは、3つ目の「まだわからない部分への備え」です。原因も範囲も不明なままでは、買主は最悪の想定で見積もるほかありません。
価格に影響するのは、次の要素です。
- 傾きの範囲、方向、今も進んでいるか
- 床、建物、基礎、地盤のどこまで関係するか
- 原因が特定されているか
- 修繕方法と費用が書面で示されているか
- 工事後の再測定、保証、修繕履歴があるか
- 土地の価値と、建物を使わない需要があるか
- 買主の融資、改修、再販売に必要な期間と費用
- まだ調べていない範囲と、追加の不具合が見つかる可能性
また、同じ「価格」でも意味が違います。次の4つは分けて確認します。
- 査定額:不動産会社が売却可能性を見積もった金額
- 売出価格:市場へ出すときの募集価格
- 成約予想価格:値下げや交渉を見込み、実際に売れると予想する金額
- 買取価格:不動産会社自身が買主として提示する金額
高い査定額は、高い手取りを約束しません。「その価格で売れる根拠」「想定期間」「価格を見直す条件」まで書面でもらいます。
4つの売り方は、査定額ではなく手取りで比べる
売り方を比べるときは、査定額だけでなく、売却までに出ていくお金と時間を同じ表へ入れます。
税引前概算手取り = 成約予想価格または買取価格 - 調査・修繕・解体費 - 売却関連費用 - 売却までの維持費 - 住宅ローン残債の返済額
住宅ローンの残りを引くのは、売却後に手元へ残る現金を知るためです。売却益にかかる税金を計算するときの経費になるわけではありません。税金、引っ越し費用、新居費用も別に確認します。
売却代金で住宅ローンの残りと売却費用を払いきれないと、家に付いている抵当権を外せず、予定どおり決済できないことがあります。不足分を自己資金で補えるかを先に確認し、難しければ売買契約を結ぶ前に金融機関へ相談します。返済自体が難しいときは、金融機関の同意を得て売る「任意売却」も含めて早めに検討します。金融庁も、住宅ローンの返済に不安を感じたら金融機関へ相談するよう案内しています。
引き渡した家が契約で約束した状態と違っていたときに、売主が負う可能性のある責任です。責任の対象と期間は、口頭ではなく契約書で確認します。
コピーして使える4ルート比較表
同じ調査資料を各社へ渡し、確認できない数字は0円ではなく「不明」と書きます。金額に幅があるときは、都合のよい数字だけでなく、費用が高く成約価格が低い場合でも計算します。
| 比較項目 | 修繕後に仲介 | 現況のまま仲介 | 直接買取 | 建物より土地を重視して売却 |
|---|---|---|---|---|
| 成約予想価格・買取価格 | [ ]万円 | [ ]万円 | [ ]万円 | [ ]万円 |
| 価格の根拠と前提 | [ ] | [ ] | [ ] | [ ] |
| 原因調査費 | [ ]万円 | [ ]万円 | [ ]万円 | [ ]万円 |
| 修繕・解体・整地費 | [ ]万円 | [ ]万円 | [ ]万円 | [ ]万円 |
| 追加費用の予備額 | [ ]万円 | [ ]万円 | [ ]万円 | [ ]万円 |
| 売却関連費用 | [ ]万円 | [ ]万円 | [ ]万円 | [ ]万円 |
| 月々の維持費×月数 | [ ]万円 | [ ]万円 | [ ]万円 | [ ]万円 |
| 住宅ローン残債の返済額 | [ ]万円 | [ ]万円 | [ ]万円 | [ ]万円 |
| 税引前概算手取り | [ ]万円 | [ ]万円 | [ ]万円 | [ ]万円 |
| 比較項目 | 修繕後に仲介 | 現況のまま仲介 | 直接買取 | 建物より土地を重視して売却 |
|---|---|---|---|---|
| 査定から決済までの想定期間 | [ ] | [ ] | [ ] | [ ] |
| 価格が確定する時点 | [ ] | [ ] | [ ] | [ ] |
| 契約後に価格が変わる条件 | [ ] | [ ] | [ ] | [ ] |
| 売主の契約不適合責任 | 対象[ ]・期間[ ] | 対象[ ]・期間[ ] | 対象[ ]・期間[ ] | 対象[ ]・期間[ ] |
| まだ調べていないこと | [ ] | [ ] | [ ] | [ ] |
4つ目の「土地を重視する売り方」は、さらに3通りに分かれます。古家付きのまま引き渡す、買主が購入後に解体する、売主が解体して更地で引き渡す、です。解体費だけでなく、家に残した家具や荷物の処分、アスベストの事前調査、地中の廃材や古い配管、建物を取り壊したことを記録する登記、測量、造成の費用を誰が負担するかも、契約前に確かめます。
解体は元に戻せません。家を建て直せる土地か、敷地が道路にどう接しているか、境界に問題がないか、古家付きでも需要があるかを先に確認します。解体する時期によって固定資産税などの扱いがどう変わるかも確認が必要です。3通りの査定と手取りを書面で比べ終えるまでは、解体工事を契約しないほうが安全です。
4ルートの計算例
以下は比べ方を示すための仮想例で、傾いた家の相場や標準費用ではありません。4つ目は、売主が解体して更地で引き渡す場合としています。金額は1万円単位、税金は含めません。
単位:万円
| 比較項目 | 修繕後に仲介 | 現況のまま仲介 | 直接買取 | 解体して土地売却 |
|---|---|---|---|---|
| 成約予想価格・買取価格 | 3,000 | 2,600 | 2,350 | 2,650 |
| 原因調査費 | 20 | 20 | 20 | 20 |
| 修繕・解体等の費用 | 400 | 0 | 0 | 250 |
| 売却関連費用 | 110 | 95 | 10 | 95 |
| 売却までの維持費 | 24 | 12 | 3 | 24 |
| 住宅ローン残債の返済額 | 800 | 800 | 800 | 800 |
| 税引前概算手取り | 1,646 | 1,673 | 1,517 | 1,461 |
この例では、修繕後の成約予想価格が現況のままより400万円高いのに、手取りは27万円少なくなります。工事費が373万円まで下がれば手取りは並び、それを超えるほど手元に残るお金は減ります。金額だけを見る限り、修繕を先に行う理由はありません。
ただし、手取りの多さが常に最善とは限りません。売却期限を最優先するなら、手取りが少なくても直接買取が合うことがあります。反対に、土地として売る価格が高く見えても、売主負担の解体や造成を含めると手取りが減ることがあります。
次の条件が変われば、手取りの順位も入れ替わります。比較表の「追加費用の予備額」は、この振れ幅を先に置いておくための欄です。
- 修繕中に追加工事が生じる
- 工期や販売期間が延び、固定資産税、保険、管理、ローン利息などが増える
- 想定した成約価格まで届かない
- 買取の現地確認後に価格が下がる
- 解体後に地中の廃材や古い配管、土地をならす追加費用が見つかる
一つの予想価格だけで決めず、費用が増えた場合と、成約価格が届かなかった場合も計算しておきます。
修繕してから売るかは、工事費を回収できるかで決める
「傾いているなら、直したほうが高く売れる」とは限りません。判断の基準は、工事費が予定より増えても、修繕後の手取りが現況のまま売る場合の手取りを上回るかどうかです。
修繕を先に進めやすいのは、次の条件がそろう場合です。
- 原因と、今も傾きが進んでいるかが調査で整理されている
- 原因に対処する工事内容が示されている
- 工事費、追加費用が生じる条件、工期が書面になっている
- 工事後の再測定と、施工前後の記録が残る
- 修繕後の成約予想価格に、近隣の成約事例などの根拠がある
- 費用と期間が想定より増えても、現況のまま売る場合より手取りが残る
反対に、原因がわからない、地盤や基礎の動きが止まったか不明、見積もりが「床を水平にする工事」だけ、というときは、工事契約を急がないほうが安全です。見た目が整っても原因が残れば、再発の心配と説明不足を抱えたまま売ることになります。
修繕しても、過去に傾いていた事実は消えません。調査報告書、工事明細、施工前後の写真、測り直した結果、保証書、その後の変化を一式にして買主へ示します。記録がなければ、買主は「何を直し、何がまだ確認できていないのか」を判断できません。
地盤沈下した家の買取は、価格だけでなく条件を比べる
地盤沈下が疑われる、または確認された家でも、不動産会社に買い取ってもらえる可能性があります。ただし、すべての会社が対応するわけではなく、買取価格に一律の目安もありません。
買取価格には、買主となる不動産会社が見込む調査費、地盤・基礎・建物の工事費、保有と再販売の費用、そしてリスクが織り込まれます。一般の買主を探す仲介の成約予想価格より低くなりやすい一方、修繕資金を先に用意せずに済み、販売期間を短くできることがあります。
比べるときは、同じ調査資料を複数社へ渡し、口頭の概算ではなく書面で次を確認します。
- 契約書に書かれる買主はどの会社か。仲介会社は入るか
- 提示額はおおよその金額か、現地調査後の最終価格か
- 契約前・契約後のどの時点まで価格が変わるか
- 地盤、基礎、建物の追加調査で減額・解除となる条件
- 測量、家に残した家具や荷物、解体、土地をならす工事、登記などを誰が負担するか
- 売主が負う契約不適合責任の対象と期間
- 手付金を放棄・返還して解除できる条件と、契約違反による解除の条件
- 決済日と、引き渡しまでに新たな変化が生じた場合の扱い
不動産会社が直接の買主で、仲介会社が入らない取引なら、通常は仲介手数料がかかりません。買取でも別の会社が仲介するなら、仲介手数料が必要になることがあります。誰が買主で、誰が仲介するのかを契約前に確かめます。
「契約不適合責任は一切なし」「あとから減額しない」という説明も、口頭だけでは足りません。どの傾きや地盤の状態を契約に含めるのか、まだ調べていないことは何か、売主がどこまで責任を負わないのかを、契約書と別紙で確認します。相手が専門の不動産会社でも、売主の責任が自動的にゼロになるわけではありません。
宅地建物取引業法40条は、不動産会社が売主となり、一般の買主へ売る取引で、売主の契約不適合責任を不当に短くする約束を制限しています。個人が売主、不動産会社が買主となる買取は、この規定の対象ではありません。買取では、契約書に書かれた責任の範囲を一件ごとに読みます。
傾きを隠さず、告知書と売買契約書の内容をそろえる
傾いた家の売却でもめやすいのは、「傾きがあったか」ではありません。買主がどの事実を知り、どの状態を前提に、価格と責任範囲を合意したかです。
売主は、把握している次の情報を仲介する不動産会社へ渡し、買主が契約前に確認できる形にします。
- 傾きの場所、向き、測定値、測定日、測定者
- 気づいた時期と、その後に進行したか
- 基礎、外壁、建具、地面、擁壁などの関連症状
- 調査で指摘された原因と、まだ確定していない点
- 過去の修繕、地盤改良、基礎工事と、その後の状態
- 地震、浸水、近隣工事など、把握している出来事
- 調査できなかった場所と、資料が残っていない事項
告知書や物件状況報告書は、すべての個人間売買で必ず使う書式ではありません。それでも、わかった事実と、まだ調べていないことを、売主・仲介会社・買主の三者で共有する大切な資料になります。国土交通省の「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」(「不動産の売主等による告知書の提出について」)も、宅地建物取引業者が売主から告知書の提出を受け、買主へ渡すことが紛争防止の観点から望ましいとしています。
ただし、告知書を渡せば売主の責任範囲が決まる、というものでもありません。告知書、調査報告書、重要事項説明書、売買契約書、契約書に追加する約束(特約)で、傾きの説明と、まだ調べていないことをそろえます。
「現状有姿」だけでは、契約不適合責任はなくならない
引き渡した家が契約で約束した状態と違う場合、買主は条件に応じて、修理など契約どおりの状態に直すこと(追完)、代金の減額、損害賠償、契約解除を求められます。根拠は民法562条から564条です。傾きがあれば、すべての請求が必ず認められるという意味ではありません。
「現状有姿」とは、売主が修繕せず、現在の状態で引き渡すという意味です。この一言で、契約不適合責任が自動的になくなるわけではありません。不動産適正取引推進機構の「契約不適合責任に関する実務上の諸問題」でも、現状有姿での引き渡しと、売主が責任を負わないことは分けて考える必要があると整理されています。
個人間の中古住宅売買では、売主が責任を負う対象や期間を契約で決めることがあります。ただし、売主が知りながら買主へ伝えなかった事実は、「責任を負わない」という特約を設けても免れません。民法572条に定められています。
また、家の品質が契約で約束した状態と違う場合、買主は原則として、その事実を知ってから1年以内に売主へ通知する必要があります(民法566条)。「引き渡しから一律1年で売主の責任がなくなる」という意味ではありません。売主が引き渡し時に知っていた場合などには例外があり、契約の内容や、権利を行使できる期間も別に確認が必要です。
どこまで書くかを売主だけで線引きせず、事実と資料を不動産会社へ渡します。契約の文言に不安があれば、不動産取引に詳しい弁護士などに確認してもらいます。
傾いた家を売却する7つの手順
地震や豪雨のあとに急に傾いた、地面や擁壁も動いている、ライフラインに異常がある場合は、内覧や測定を止めます。自治体や専門家に連絡し、安全を確認します。
傾く場所と方向を間取り図へ書き、日付のわかる写真、建具や基礎の症状、地震・豪雨・近隣工事、過去の調査と工事を時系列にします。わからないこと、まだ調べていないことも明記します。
建物状況調査などで、床・壁・柱・基礎の状態を整理します。地盤や基礎まで疑われるなら、その原因を扱える専門家へつなぎます。標準的な建物状況調査だけで原因までわかるとは限りません。
「水平に戻す費用」だけでなく、「なぜ傾いたのかに対処する費用」を確認します。追加工事の条件、工期、再測定、保証も書面でもらいます。
修繕後の仲介、現況のままの仲介、直接買取、土地を重視した売却について、成約予想価格・期間・費用・責任を出してもらいます。会社ごとに渡す資料が違うと、査定額を公平に比べられません。
4ルート比較表へ数字を入れ、費用増と価格下落の両方を試算します。売却期限、先に出せる資金、売却後の不安も判断材料です。
告知書へ書いた傾き、修繕履歴、まだ調べていないことが、契約書や特約でも同じ意味になっているか確認します。買主へ渡した資料の一覧を残し、契約後に新しい変化があれば、引き渡し前に共有します。
傾いた家の売却に関するよくある質問
まとめ|先に「原因と負担の範囲」を見えるようにする
床が傾いた家でも売却できます。地盤沈下が疑われる家も、状態によっては現況のままの仲介や直接買取を検討できます。
急な変化があるときは、安全確認が先です。それ以外は、原因と、まだ調べていない範囲を整理し、同じ資料で4つの売り方を比べます。手取り、期間、価格が変わる条件、売却後の責任まで並べれば、修繕費や査定額の大きさだけに引っ張られません。
3/1000や6/1000は調査を進める手がかりで、売れるかどうかの境目ではありません。買主が迷うのは傾きの数値ではなく、負担の見えなさです。判明した事実と、まだ調べていないことを告知書と契約書へそろえ、買主が負担を判断できる状態にすることが、売却後の行き違いを減らします。
参考資料
以下は、2026年7月24日に内容を確認した資料です。
傾き・建物状況調査
- 国土交通省「住宅紛争処理の参考となるべき技術的基準」(床の傾斜はPDF2頁)
- 国土交通省「既存住宅状況調査方法基準の解説」(構造別の床の傾斜は第五条・第七条・第九条)
- 国土交通省「建物状況調査に関するQ&A」(制度の範囲はQ1-1、費用はQ1-8)
- 国土交通省「既存住宅流通について」
- 一般社団法人住宅瑕疵担保責任保険協会「既存住宅状況調査技術者検索サイト」
- 住宅リフォーム・紛争処理支援センター「床の傾斜に関する技術情報」
- 住宅リフォーム・紛争処理支援センター「基礎の沈下に関する技術情報」
地盤・防災
- 国土交通省・土木研究所ほか「KuniJiban」
- 国土地理院「土地条件図」
- 国土交通省「大規模盛土造成地マップ」
- 国土交通省「液状化ハザードマップの検討に必要な液状化の発生傾向図」
- 環境省「全国の地盤沈下地域の概況」
- 国土交通省「被災建築物応急危険度判定について」
売買契約・告知・住宅ローン
- e-Gov法令検索「民法562条から564条」「民法566条」「民法572条」
- e-Gov法令検索「宅地建物取引業法40条」
- 国土交通省「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」
- 不動産適正取引推進機構「契約不適合責任に関する実務上の諸問題」
- 国民生活センター「中古住宅を売るとき(その1)」
- 国民生活センター「不動産売買契約書(その2)」
- 金融庁「住宅ローンの返済に不安を感じたら、金融機関に相談しましょう」
