サブリース会社に解約を断られても、物件まで売れなくなるわけではありません。今の契約を買主に引き継いでもらう形なら、解約できないままでも売却できる可能性があります。
ただし、「高く売りたいから」と解約を先に決めるのは早計です。査定額が上がっても、解約金や売却を待つ間の支出で、手元に残るお金はかえって減ることがあります。
先に決めるべきは、解約できるかどうかではなく売り方です。「契約付き」と「解約できた場合」の2条件で査定を取り、最後に手元へ残る金額(最終手取り)を比べます。解約の交渉は、そのあとでも間に合います。
- サブリースを解約できなくても、契約を引き継ぐ条件で売却できる可能性がある
- 比べるのは査定額ではなく、解約金や待機中の支出を引いたあとの最終手取り
- 売却、マスターリースの解約、入居者との契約の終了は、それぞれ別の手続
サブリースには、契約が2つ重なっています。オーナーとサブリース会社の契約がマスターリース契約、サブリース会社と入居者の契約が転貸借契約です。売却でまず問題になるのは前者ですが、2つは別々に終わります。ここを混同すると、話がこじれます。
サブリース物件を売却する前の早見表
まずは、今の状況に近い行を見てください。
| 現在の状況 | 売り方の第一候補 | 先に確認すること |
|---|---|---|
| 解約を拒否されている、または解約条件が分からない | 契約を買主へ引き継いで売る | 所有者が変わるときの手続、買主に求められる条件、今の保証賃料 |
| 合意解約の条件が書面で出ている | 契約付きと解約後の2条件を比べる | 解約金、解約日、入居者との契約・敷金・書類の引き継ぎ |
| 有効な定期建物賃貸借で満了が近く、売却を急がない | 満了後に売る案も並べて比べる | 定期契約の成立要件、満了日、終了通知、満了後の管理体制 |
査定を頼む前に、まず自分が判断するための材料として、次の5種類を集めます。
- マスターリース契約書と、その特約・覚書
- 契約前・契約時に受け取った説明書類
- 保証賃料の直近の入金履歴
- 入居状況と、入居者が実際に払っている家賃が分かる資料
- ローン残高と完済条件が分かる資料
見るべきは、解約の条件、入居者が実際に払っている家賃、ローンを完済できる見通しの3点です。どれか一つでも埋まらないうちは、解約後の高い査定だけを頼りに売買契約へ進んではいけません。
この記事の対象:個人が所有する居住用の投資用区分マンションと、一棟アパート・マンションを想定しています。店舗・事務所、管理だけを任せる契約、家賃保証保険は、契約の仕組みが異なります。
売り方は2通り。今は売らずに待つ選択肢もある
サブリース物件の売り方は、契約を付けたまま売るか、解約してから売るかの2通りです。どちらでも手取りが足りないなら、条件が整うまで待つ案も並べて比べます。
図解|3つの選択肢を比べる
契約を引き継いで売る
解約が難しい、または売却期限がある場合の候補。解約を待たずに販売できますが、契約内容と収支をきちんと開示する必要があります。
解約してから売る
価格の上昇分が、解約金と待つ間の支出を上回る場合の候補。買主層は広がりますが、解約が成立しない事態にも備えます。
条件が整うまで待つ
定期契約の満了が近い、または今売ると手取りが足りない場合の候補。市況、金利、修繕費の変化も見込んで判断します。
サブリースが付いているだけで値が下がる、という話でもありません。毎月決まった額が入り、管理の手間が少ない点を評価する買主もいます。逆に、契約期間が長い、解約条件があいまいといった事情は、自分の判断で運用したい買主には弱点に映ります。
決め手は、サブリースの有無ではありません。その契約で毎月いくら残るのか。将来、どこまで条件を変えられるのか。価格を動かすのは、この2点です。
査定額ではなく、最終手取りで比べる
不動産会社には、同じ査定日・同じ売却期限で、次の2条件を出してもらいます。
- 今のマスターリース契約を、買主がそのまま引き継ぐ前提
- 指定した日までに合意解約し、入居者との契約と管理を引き継げる前提
査定書には、価格だけでなく次の項目も書いてもらいます。
- 前提にした保証賃料と、入居者が実際に払っている家賃
- オーナーが負担する費用と、想定した稼働率
- 価格計算に使った利回りと、比較した取引事例
- 想定する販売期間と、狙う買主層
片方は実績どおりの数字、もう片方は根拠のない満室想定では、並べても比べたことになりません。
最終手取り(税引前)=売却代金-売却費用-解約費用-売却までの累計持ち出し-決済時のローン残高
税額の見込みは売り方によって変わります。税引後で比べるときは、ここからさらに各案の税額を差し引きます。
見落としやすい「売却までの累計持ち出し」
累計持ち出しとは、売却を待つ間に出ていく現金を積み上げた金額です。まず1か月分を出し、待つ月数を掛けます。
毎月の持ち出し額=ローン返済額(元金+利息)+管理・修繕費+固定資産税・保険料の月割額+その他の現金支出-サブリース会社から受け取る保証賃料
ローン返済は、利息だけでなく元金を含めた実際の引き落とし額を使います。毎月の持ち出しが25万円になる例で、2つの売り方を比べます。以下は計算のしかたを示すための仮の数字で、相場や標準額ではありません。
| 毎月の収入・支出 | 月額 |
|---|---|
| サブリース会社から受け取る保証賃料 | 25万円 |
| ローン返済額(元金+利息) | 40万円 |
| 管理・修繕費、税・保険料など | 10万円 |
| 毎月の持ち出し額 | 25万円 |
契約付きなら今すぐ、解約後なら6か月後に売れると仮定します。
| 入力項目 | 契約付きで今売る | 解約後、6か月後に売る |
|---|---|---|
| 売却代金 | 8,000万円 | 8,600万円 |
| 売却費用 | 250万円 | 270万円 |
| 解約費用 | 0円 | 300万円 |
| 売却までの累計持ち出し | 0円 | 150万円 |
| 決済時のローン残高 | 6,000万円 | 5,940万円 |
| 最終手取り(税引前) | 1,750万円 | 1,940万円 |
査定額の差は600万円あるのに、税引前の手取り差は190万円まで縮みます。ここからさらに、売り方ごとの税額差を調整します。
なお、6か月で減った元金60万円は、ローン残高が6,000万円から5,940万円へ下がる形ですでに反映されています。持ち出しの側でもう一度引くと、二重に数えることになります。
待つ間の収入も、確定した数字で置きます。解約の話し合いに入ったからといって、保証賃料が自動で止まるわけではありません。契約どおりの金額か、書面で確定した改定額を使い、そのうえで予定どおり解約できない場合と、待つ間に市況が変わる場合も見込んでおきます。
注意:解約金が口頭でしか示されていないなら、0円ではなく「未確定」として扱います。金額が固まる前に解約後の価格だけを見ると、判断が解約ルートへ偏ります。
買主の融資は「保証賃料だけ」では決まらない
サブリース契約が続くことと、買主のローンが通ることは、別の話です。
金融庁が2019年に公表した調査(主に一棟建て向け融資が対象)には、こんな審査例が並んでいます。
- 家賃収入を返済のもとになる収入と捉え、家賃の下落や空室の増加を織り込んで収支を確かめる
- 立地や周辺の家賃と照らし、売買価格が妥当かを見る
- サブリース賃料が減額される可能性や、契約が終了する可能性も見ておく
もっとも、この調査は主に2018年3月期に一棟建て向け融資を実行した金融機関の実務をまとめたものです。現在の全金融機関や、区分マンションを含むすべての融資に共通する審査基準ではありません。審査の結果は、買主の資力、物件、契約内容、金融機関によって変わります。
それでも方向は読めます。買主と金融機関が見るのは、保証賃料の額そのものではありません。入居者が実際に払っている家賃、空室と滞納、賃料改定の履歴、修繕費を誰が持つか。ここが読めない物件は、審査でも価格でも不利になります。審査や価格の調整に時間がかかったり、希望どおりの融資が下りなかったりするからです。
買主がローンを使うなら、金融機関への事前確認を早めに進めてもらいましょう。聞いておくのは、審査で使う家賃、契約を引き継ぐことをどう評価するか、必要な資料、承認の期限の4点です。
融資が下りなかったときの扱いは、売買契約のローン特約で決めます。申込先の金融機関、借入予定額、承認期限、承認が得られなかった場合の処理まで、具体的に書き込んでください。売主も仲介会社も、融資の承認を保証することはできません。
解約できないままでも売却できる理由
物件を売っても、マスターリース契約や入居者との契約は自動では終わりません。これが、解約できないまま売却できる理由であり、同時に、解約後につまずく原因でもあります。
図解|サブリースの契約関係
① オーナー
建物の所有者
② サブリース会社
オーナーから借り、入居者へ貸す
③ 入居者
サブリース会社から部屋を借りる
①と②の契約がマスターリース契約(法令上は特定賃貸借契約)、②と③の契約が転貸借契約です。
物件の売却、マスターリースの終了、入居者との契約の終了は、それぞれ別の手続です。一つが片づいても、残りはそのまま残ります。
売却後は、買主が新しいオーナーとして契約を引き継ぐ
サブリース会社がすでに建物の引渡しを受けているなど、賃貸借を第三者にも主張できる状態なら、売却後は買主が新しいオーナーとなり、マスターリース契約を引き継ぐのが原則です。契約を残したまま、所有者だけを替えられるということです。
民法605条の2により、貸主の立場は原則として買主へ移ります。ただし買主が「自分が貸主になった」とサブリース会社へ法的に主張するには、登記簿上の名義を買主へ移す所有権移転登記も必要です。例外があるかどうか、敷金の返還義務など何を引き継ぐのかは、契約ごとに確かめます。
国土交通省の「賃貸住宅管理業法の解釈・運用の考え方」も、契約期間の途中で物件が売却され、同じ契約を新しいオーナーが引き継ぐ場面を想定しています。
もっとも、売れることと、契約で決められた手続を守ることは別です。事前通知、承諾、指定書式、買主の審査、覚書の締結などが定められていれば、売買契約を結ぶ前に確認します。
国土交通省の「特定賃貸借標準契約書」でも、物件の売却は、オーナーからサブリース会社へ知らせる事項の例に挙がっています。これは一棟全体の居住用賃貸住宅を主に想定した普通建物賃貸借のひな型なので、手元の契約を上書きするものではありません。
サブリース会社には、次の点をメールなど記録に残る方法で尋ねます。
- 所有者変更に必要な通知期限と書類
- 「承諾」が必要なのか、「通知」で足りるのか
- 買主に求める条件や審査
- 契約をそのまま引き継ぐのか、新契約・覚書を結ぶのか
- 保証賃料の振込先を切り替える日
- 敷金、未払金、前受金の精算方法
- 売却を理由に賃料改定や契約変更を求める条項の有無
「当社の承諾がなければ売れない」とだけ回答された場合は、根拠となる契約条項と必要な手続を文書で示してもらいます。売却そのものが有効か、契約違反になるか、貸主の立場が買主へ移るか。この3つは分けて判断します。見解が食い違うなら、買主と契約する前に弁護士へ相談してください。
普通借家は、予告期間だけで解約できるとは限らない
売れることと、自由に解約できることは同じではありません。契約書に「普通建物賃貸借」と「定期建物賃貸借」のどちらが書かれているかで、終わり方が変わります。
| 契約の種類 | 終了時の基本的な考え方 | 売却前の確認 |
|---|---|---|
| 普通建物賃貸借 | オーナー側が更新を断る、または解約を申し入れるときは、解約を認めるだけの事情(正当事由)が問われる | 予告期間だけで終わると決めつけない |
| 定期建物賃貸借 | 有効に成立していれば、契約期間の満了で終わることが予定されている | 成立要件、満了日、終了通知、満了後の引き継ぎ |
マスターリース契約が普通建物賃貸借なら、「6か月前までに通知すれば解約できる」と契約書にあっても、通知しただけで契約が終わるとは限りません。オーナー側から更新を断ったり解約を申し入れたりするときは、借地借家法28条の「正当事由」が認められるかどうかが問われるためです。
正当事由は、双方が建物を必要とする事情、これまでの経緯、建物の使われ方や状態、金銭補償の提案などから総合的に判断されます。「少しでも高く売りたい」「管理会社を変えたい」という希望だけで、当然に認められるものではありません。
国土交通省関東地方整備局のFAQ(Q5)も、契約に解約条項があっても借地借家法上の正当事由が問題になり、具体的に認められるかは最終的に裁判所が判断すると案内しています。
一方、有効な定期建物賃貸借は、期間の満了で終わることを前提とした契約です。もっとも、契約書の表題に「定期」とあるだけでは足りません。借地借家法38条が定める、書面または電子データによる契約、契約前の説明といった成立要件を満たしているか確認します。
契約期間が1年以上なら、原則として、満了の1年前から6か月前までに終了通知も必要です。成立要件と通知の時期は、国土交通省の「定期借家権に関するQ&A」に整理されています。
サブリース会社が賃料を払わないなど、重大な契約違反(債務不履行)がある場合は、契約解除を検討できることがあります。ただし、中途解約、更新拒絶、契約違反による解除、双方が納得して終わらせる合意解約では、必要な条件も手続も違います。契約条項と証拠は、弁護士に確認してもらうのが安全です。
マスターリースの終了と、入居者の退去も別問題
解約できても、空室で引き渡せるとは限りません。
サブリース会社が契約上認められた範囲で入居者へ貸している場合、オーナーとサブリース会社が合意してマスターリースを終えても、その終了を既存の入居者へ主張できないことがあります。民法613条3項が、そのルールを定めています。
国土交通省の特定賃貸借標準契約書21条も、契約終了時に、オーナーがサブリース会社の「入居者へ貸す側の立場」を引き継ぐ形を採っています。
さらに、マスターリースが期間満了や解約の申入れで終わる場面では、借地借家法34条により、入居者への終了通知と、原則6か月の経過が必要になります。
だからこそ、合意解約書には契約終了日だけでなく、次の項目まで書き込みます。
- 入居者との賃貸借契約を誰が引き継ぐか
- 敷金・前受金を誰がいくら預かっているか
- 契約書、入居一覧、更新・滞納・修繕の記録をいつ渡すか
- 入居者への通知を、誰が、いつ行うか
- 解約後の管理会社、家賃の振込先、緊急連絡先
- 入居者の個人情報を引き渡す根拠と、安全な受渡し方法
引き継ぎの要点:終了日を決めただけでは、その翌日から誰も動けません。「翌日から、誰が何をするか」まで書いて、初めて引き継ぎに使えます。
区分マンションと一棟物件では、解約後の引き継ぎ量が違う
引き継ぐ相手が入居者1世帯か、全住戸かで、作業量はまるで違います。手取りを2条件で比べる考え方は共通ですが、そろえる資料と引き継ぐ範囲は分けて考えます。
| 確認項目 | 区分マンション | 一棟アパート・マンション |
|---|---|---|
| サブリースの範囲 | 対象住戸だけか、複数戸をまとめた契約か | 全戸一括か、一部住戸だけか |
| 賃料・入居 | 対象住戸の保証賃料、入居者の実際の家賃、入居状況 | 部屋ごとの家賃、空室、滞納、更新日 |
| 建物管理・修繕 | 管理費、修繕積立金、管理規約、大規模修繕の予定 | 共用部管理、設備点検、建物修繕、費用の分担 |
| 解約後の引き継ぎ | 対象住戸の賃貸借契約、敷金、家賃の送金、緊急連絡先 | 全住戸の契約・敷金・鍵・滞納・修繕記録に加え、共用部と外注先 |
| 査定資料 | 対象住戸の契約・収支と、建物全体の管理資料 | 一棟全体の収支、空室、修繕、契約一覧 |
区分マンションは、管理組合の資料も確認する
区分マンションでは、対象住戸のサブリース契約だけでは足りません。管理規約、管理組合の決議、大規模修繕の予定、管理費・修繕積立金の滞納も売買に影響します。区分所有法で、規約や集会の決議が買主など新しい所有者にも効力を持つこと、一定の未払金を新しい所有者へ請求できることが定められているためです。
一棟物件は、全室と共用部を同時に引き継ぐ
一棟物件でサブリースを終了し、買主や新しい管理会社が入居者対応を担う場合は、全住戸の情報を1戸ずつ照合します。部屋ごとの賃貸状況一覧(レントロール)を作り、契約の種類・期間、家賃、敷金、家賃保証、滞納、更新・退去予定を整理します。鍵、修繕履歴、苦情、対応中の案件も一覧にしておきます。
清掃、消防設備、エレベーター、インターネットなどの外注契約も見落とせません。これらが自動で買主へ移ることはないので、現在の契約者と切り替え日を押さえます。
決済前には、前払いされた家賃、未収家賃、敷金、未払費用、進行中の工事、鍵、契約書の原本を、引継書兼受領書で照合します。入居者へは、新しい貸主・管理会社、切り替え日、家賃の送金先、緊急連絡先を案内します。
一方、契約を付けたまま売る場合は、サブリース会社が引き続き入居者へ貸す側になります。建物の維持管理は別の会社ということもあるので、管理を委託している相手は別に確認します。
「区分だから解約しやすい」「一棟だから高く売れる」とは、一律にいえません。難易度を決めるのは、契約の種類、対象範囲、入居状況、解約条件です。ただ、一棟でサブリースを終了するときは住戸数と関係者が多いため、引き継ぎ表がないと必ず漏れが出ます。
売却前にそろえる資料と、開示するときの注意
買主が知りたいのは、保証賃料の額ではありません。その収入がいつまで、どんな条件で続き、費用を誰が持つかです。次の資料は、買主へ見せる前提でそろえます。
| 資料 | 確認する箇所 | 結果によって変わること |
|---|---|---|
| マスターリース契約書・特約・覚書 | 契約期間、普通・定期、更新、解約、売却、違約金 | 売却ルート、買主の条件、解約の見通し |
| 契約前・契約時の説明書類 | 賃料改定、解除、費用分担、終了後の権利と義務 | 説明と現状の食い違い、専門家へ相談する必要性 |
| 保証賃料の入金履歴 | 支払遅延、支払われない期間、減額、控除項目 | 今の収入の確かさ、会社の信用 |
| 賃料改定通知・協議記録 | 改定時期、根拠、未解決の話し合い | 将来収支、買主へ開示すべき紛争 |
| 部屋ごとの賃貸状況一覧 | 入居・空室、実際の家賃、契約期間、滞納 | 保証賃料との差、空室リスク、解約後の収支 |
| 入居者との賃貸借契約書 | 普通・定期、更新、敷金、特約 | 解約後の貸主・管理の引き継ぎ |
| 敷金・前受金・未収金の明細 | 誰がいくら預かっているか | 決済時の精算額、買主の負担 |
| 修繕履歴・長期修繕計画・費用分担表 | オーナー負担、会社負担、予定工事 | 運営費を引いた収益、買主の追加支出 |
| 登記事項証明書・ローン残高資料 | 所有者、抵当権、完済見込額、繰上返済条件 | 売却に必要な最低手取り、金融機関との調整 |
| 建物・土地の基礎資料 | 図面、確認済証、検査済証、管理規約、保険 | 通常の物件調査、融資審査 |
賃貸住宅管理業法32条は、サブリース事業者(法令上の特定転貸事業者)に、業務・財産の状況を記した書類を営業所や事務所へ備えるよう義務づけています。特定賃貸借契約の相手方や、これから相手方になろうとする人から求められたら、閲覧させなければなりません。
もっとも、国土交通省の賃貸住宅管理業法ポータルが示す閲覧対象は、業務状況調書、貸借対照表、損益計算書など、会社の業務や財務に関する書類です。入居者ごとの契約書や部屋ごとの賃貸状況一覧は、この制度だけで当然に手に入るものではありません。これらは、手元の契約にある報告・書類提示の条項も根拠にして求めます。
入居者の氏名や連絡先は、査定の初期段階でむやみに共有しません。まずは氏名などを伏せ、部屋番号、家賃、契約の種類、期間など、価格判断に必要な情報だけを示します。具体的な買主候補へ個人データを開示するときは、開示範囲、利用目的、管理方法、交渉が不成立になったときの処理をあらかじめ書面で定めます。個人情報保護委員会のFAQも確認しておきましょう。
入居者が実際に払っている家賃が分からないと、売却価格も将来の収支も判断できません。サブリース会社からオーナーへの保証賃料が、入居者から受け取る家賃を上回っていれば、賃料改定や契約終了をきっかけに収支が崩れます。
不動産適正取引推進機構が紹介した東京高裁の事例では、この点が争われました。実際の入居状況や転貸賃料を伝えず、入居者の家賃より保証賃料のほうが高い状態も説明しないまま、適正価格を上回る価格で購入させたとして、損害賠償請求の一部が認められています。個別の事例であり、すべての物件に当てはまる話ではありません。ただ、「満室」「家賃保証」という言葉だけで価格を決める危うさは分かります。
資料がそろわない項目は推測で埋めず、「未確認」と明記して買主へ説明します。
サブリース会社から回答や資料が来ないときの進め方
連絡が返らない。入居資料が出ない。敷金の残高が合わない。こうしたときは相手の意図を推測せず、確認できた事実と、足りない資料を切り分けます。
1.所有者変更と解約の質問を分ける
「売りたいので必要なことを教えてください」では、相手もどこまで答えるべきか分かりません。所有者が変わるときの手続と、合意解約に応じる場合の条件は、別々に尋ねます。
資料を求めるときは、資料名、対象期間、使う目的、希望する形式、回答期限を書きます。「存在しない」「別の会社が持っている」「開示できない」と返ってきたら、その理由と根拠になる契約条項も文書で示してもらいましょう。
2.やり取りを日付順に残す
質問書や資料請求書は、契約書に記載された通知先へ、記録が残る方法で送ります。送信日、相手、質問、回答、電話の内容を一つの表にまとめ、反応がなければ同じ論点を番号付きで再通知します。
内容証明郵便は、いつ、どんな内容の文書を出したかを証明する制度です。書かれた内容が真実だと証明するものではありません。届いたことまで記録したいなら、配達証明を組み合わせます。契約解除など法的な効果を狙う通知は、送る前に弁護士へ確認してください。
3.手元の資料で裏付け、分からないことは「未確認」とする
銀行の入金記録、過去の送金明細、賃料改定通知、修繕請求、月次報告から、確認できる範囲を固めます。保証賃料から、入居者が実際に払っている家賃を逆算してはいけません。
まずは氏名などを伏せた賃貸状況一覧を求め、具体的な買主が現れた段階で、個人情報を安全に扱う取り決めのもと、必要な範囲だけを開示する方法もあります。それでも価格判断に欠かせない資料が出なければ、未確認事項を示して売るのか、資料がそろうまで売り出しを止めるのかを決めます。
4.買取提案は、解約条件と売却価格を分けて比べる
サブリース会社や提携会社から買取提案を受けても、その場で解約と売却をひとまとめにして決めないでください。少なくとも次の点を、別の仲介査定や買取提示と並べて比べます。
- 買主は、サブリース会社、提携会社、第三者のどれか
- 価格は確定額か、調査後に減額される可能性があるか
- 解約金や未精算金を、誰がいくら負担するか
- 仲介か直接買取か。仲介手数料はかかるか
- 引き渡した物件が契約内容に合わない場合の売主責任(契約不適合責任)をどこまで負うか
- 決済日までに解約できなかった場合、誰がリスクを負うか
早く売れることと、手取りが多いことは同じではありません。価格、期間、売主の責任、解約費用を同じ条件で横並びにしましょう。
5.相談先を問題ごとに分ける
| 困っていること | 主な相談先 | 相談時に持参するもの |
|---|---|---|
| 解約の可否、契約条項、損害賠償 | 不動産賃貸に詳しい弁護士 | 契約一式、通知、入出金、日付順の経過表 |
| 売却価格、買主、融資、販売方法 | 収益物件とサブリース承継の経験がある不動産会社 | 契約、賃貸状況一覧、修繕、ローン資料 |
| 登記、ローンの担保(抵当権)の抹消 | 司法書士、借入先の金融機関 | 登記、ローン残高、完済条件 |
| 売却益にかかる税金(譲渡所得)、消費税、解約金の税務 | 税理士 | 取得・売却・減価償却・解約費用の資料 |
| 誇大な説明、重要事実を隠された疑い | 国土交通省の申出制度、管轄の地方整備局など | 説明資料、録音・メール、契約、経過表 |
国土交通省の申出制度は、法令違反の疑いを行政へ知らせ、調査や監督処分につなげる制度です。個別の解約を成立させたり、返金や損害賠償を命じたりする手続ではありません。個別トラブルの相談窓口は、同制度の案内ページにも掲載されています。
サブリース物件を売却する7つの手順
売却、解約、引き継ぎを同時に進めると、確認漏れが起きます。次の順で進めれば、どの段階で何を確定させるかがはっきりします。
マスターリース契約書、管理委託契約書、家賃保証の案内を並べ、誰が借主で、誰が管理者かを確認します。サブリース会社と管理会社が別の法人であることもあります。
所有者が変わるときの手続と、合意解約に応じる場合の条件を分けて質問します。解約金、解約日、入居者との契約、敷金、書類の引渡しまで、書面で回答を求めます。
収益物件の売買と、マスターリースを引き継ぐ売買の経験がある不動産会社へ、同じ資料を渡します。査定額、運営費を引いた収益、買主層、融資の論点、想定期間を比べます。
査定依頼の伝え方:
「現行のサブリース契約を引き継ぐ条件と、指定日までに合意解約できた条件の2通りで、価格、販売期間、買主層、査定根拠を出してください。解約費用と待ち期間を含む概算手取りも比較したいです」
借入先へ、ローン残高、繰上返済手数料、抵当権を消すための書類を受け取れる時期を確認します。売却代金と自己資金で完済できない見込みなら、買主と契約する前に相談してください。必要な書類や手続は、法務局の案内も参考になります。
査定差、解約金、待ち期間の持ち出し、ローン残高、税額の見込み、売却期限を一つの表へ入れます。解約できるか不確実なら、契約付きで売るか、解約の成立を売買の条件にして決済と連動させます。
条件が整ったときだけ契約の効力が生じる条項(停止条件)や、違約時の扱いは、宅建士と弁護士に見てもらいます。
買主には、マスターリース契約一式、実際の入居状況と家賃、賃料改定、修繕・費用分担、敷金、紛争・滞納、所有者変更の手続を説明します。書面で確定していないのに、「購入後は簡単に解約できる」と約束してはいけません。
所有権移転、抵当権抹消、売買代金の決済、サブリース会社への通知、賃料振込先の変更、敷金などの精算、保険・修繕の連絡、書類の引渡しを一つの工程表へまとめます。
一棟物件でサブリースを終了するなら、全住戸の情報、鍵、金銭、管理会社、外注先、入居者への通知まで、引き継ぎ表に担当者と実施日を入れておきます。
サブリース物件の売却で避けたい5つの失敗
- 解約後の高い査定だけを見て、解約を決める
-
価格差が解約金と待ち期間の支出を下回れば、手取りは減ります。解約合意書へ署名する前に、契約付きと解約後の両方の査定をそろえます。
- 「解約通知を出せば終わる」と買主へ説明する
-
普通建物賃貸借では、解約を認めるだけの事情があるかが問われます。通知期限を守ることと、契約が終わることは別です。合意も法的な見通しもない段階で、解約後の状態を約束しないでください。
- 保証賃料だけを開示する
-
買主は、入居者が実際に払っている家賃、空室、契約期間、修繕負担も確認します。融資を使う場合は、金融機関の審査材料にもなります。資料を出せないこと自体が、価格や融資条件に響きます。
- 解約すれば空室で引き渡せると思う
-
マスターリースが終わっても、入居者との契約は続くことがあります。空室での引渡しを前提に売るなら、入居者ごとの契約が、いつ、どの条件で終わるかまで確認が必要です。
- 1社の買取価格だけで決める
-
直接買取、契約付き仲介、解約後仲介では、価格、期間、解約条件、仲介手数料、売主の責任が違います。決済後の概算手取りを、同じ条件で比べます。
売却を任せる不動産会社の選び方
会社の規模より、今回の契約を読み解き、買主と金融機関へ説明できるかを見ます。相談のときは、次の質問をしてみてください。
- サブリース契約を引き継ぐ売買を扱った経験があるか
- 契約付きと解約後の2条件で、査定根拠を出せるか
- 保証賃料と、入居者が実際に払っている家賃を、どう確認するか
- 買主候補と金融機関は、どの契約条項を重視するか
- 売主・買主・サブリース会社の三者で結ぶ覚書や解約条件を、誰が確認するか
- 仲介と自社買取の両方を提案する場合、価格差と会社側の利益をどう説明するか
- 売買契約後に解約が成立しなかった場合、契約条項をどう設計するか
「必ず解約できる」「必ず相場以上で売れる」と断定する会社より、未確定の事項と、価格が下がる条件を先に示す会社のほうが、判断に必要な情報を得やすいでしょう。
サブリース物件の売却費用と税金
手取りの式で差し引く項目のうち、金額が見えにくいのが売却費用と税金です。
仲介手数料には国の告示による上限があり、実際の金額はその範囲内で、媒介契約を結ぶときに不動産会社と合意します。ほかに、売買契約書の印紙税、抵当権を外すための登記費用、繰上返済手数料、専門家への費用がかかります。上限額と印紙税は、末尾の出典に挙げた国土交通省・国税庁の資料で確認できます。
ローン元金の返済は、手元の現金を減らします。ただし、売却益にかかる税金を計算するときの控除項目にはなりません。手取りと税額は、分けて計算します。
個人が不動産を売って得た利益(譲渡所得)は、原則として「売却代金-購入代金などの取得費-売却のために直接かかった費用-適用できる特別控除」で計算します。気をつけたいのは取得費です。賃貸用の建物では、購入額から、建物の価値の減少分として計算する減価償却費に相当する額を差し引きます。また、売った年の1月1日時点の所有期間によって、長期・短期の区分が変わります。
解約金や弁護士費用を税務上どの費目として扱うかは、支払いの目的と契約内容で変わることがあります。消費税を納める事業者が賃貸用建物を売る場合、建物部分が消費税の課税対象になることもあります(土地は扱いが異なります)。税引後の手取りは、関係資料を税理士へ渡して計算してもらいましょう。
サブリース物件の売却に関するよくある質問
まとめ
サブリース会社に解約を断られても、それだけで売却の道が閉じることはありません。今の契約を買主へ引き継ぐ売り方があります。
ただし、解約だけを先に決めると、査定額が上がっても手取りは減ることがあります。まず契約書と収支資料をそろえ、「契約付き」と「解約できた場合」の2条件で査定を取りましょう。価格差から、解約金、待ち期間の持ち出し、追加費用、税負担を差し引いて比べます。
一棟物件で解約するなら、全住戸の契約、敷金、家賃の送金、鍵、修繕、緊急連絡先まで引き継ぎ表にまとめます。資料や回答が得られないところは、推測で穴を埋めず、そのまま「未確認」と書いて買主へ渡します。
- 所有者変更の手続と、買主が引き継ぐ条件は確認できたか
- マスターリースを終える条件と費用は、書面で確定しているか
- 入居者との契約、敷金、家賃の送金、管理を、誰がいつ引き継ぐか決まっているか
所有者の変更、マスターリースの終了、入居者との契約の引き継ぎ。この3つを最後まで分けて確認することが、サブリース物件の売却で判断を誤らないための基本です。
出典・参考資料
- e-Gov法令検索「民法」
- e-Gov法令検索「借地借家法」
- e-Gov法令検索「建物の区分所有等に関する法律」
- e-Gov法令検索「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律」
- 国土交通省「賃貸住宅管理業法ポータルサイト|適正化のための措置」
- 国土交通省「賃貸住宅管理業法の解釈・運用の考え方」
- 国土交通省「特定賃貸借標準契約書」
- 国土交通省関東地方整備局「サブリース住宅原賃貸借標準契約書に関するFAQ」
- 国土交通省「定期借家権に関するQ&A」
- 金融庁「投資用不動産向け融資に関するアンケート調査結果」
- 不動産適正取引推進機構「不動産売買のローン特約等に関するQ&A」
- 不動産適正取引推進機構「不動産取引紛争事例等調査研究委員会(第341回)検討報告」
- 個人情報保護委員会「不動産の売買に伴う個人データの提供に関するFAQ」
- 日本郵便「内容証明」
- 日本郵便「配達証明に関するQ&A」
- 国土交通省「賃貸住宅管理業法に基づく申出制度」
- 法務局「抵当権の抹消登記に必要な書類と申請方法」
- 国土交通省「宅地建物取引業者が受けることのできる報酬額」
- 国税庁「不動産売買契約書の印紙税」
- 国税庁「譲渡所得(土地や建物を譲渡したとき)」
- 国税庁「建物の取得費の計算」
- 国税庁「事業用建物等を譲渡した場合の消費税」
※法令、行政資料、税務情報は2026年7月24日に確認しました。個別の契約解釈、解約に必要な事情、税額は、契約書と事実関係によって結論が変わります。
