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家賃滞納中の物件は売却できる?強制退去の流れと立ち退かない・連絡がつかない入居者への対応

この記事でわかること
  • 滞納中の物件を売れる条件
  • 売却で買主へ移るもの
  • 3つの売却方法の選び方
  • 連絡不通時に避ける対応
  • 売買契約で決める8項目

家賃を滞納している入居者がいても、物件は売却できます。入居者が住んだまま、賃貸借契約を引き継ぐ買主へ売るオーナーチェンジも可能です。

ただし、物件の所有権、貸主の地位、売却前に発生した滞納家賃、明渡しの手続きは、それぞれ扱いが異なります。売却しただけで、滞納家賃や進行中の裁判まで自動的に買主へ移るわけではありません。

まず、滞納額、賃貸借契約、保証会社の支払い、連絡・督促の履歴をそろえ、「入居者がいる現状のまま売る場合」と「問題を解決してから売る場合」の両方で査定を取ります。連絡が取れなくても、貸主の判断だけで鍵交換や荷物の処分をしてはいけません。

この記事は、2026年10月時点の法令・公的資料を基に、日本国内の居住用賃貸物件を通常の売買で売るケースを解説しています。店舗・事務所、サブリース、競売・任意売却、相続争い、訴訟中の案件では取扱いが変わるため、個別に弁護士へ確認してください。

この記事では、売却で買主へ移るもの・移らないもの、3つの売却方法と手取り額の比べ方、明渡しまでの流れ、買主へ渡す資料と売買契約で決める項目を順に説明します。

\ まずは、いまの状態でいくらになるか知る /

目次

家賃滞納中でも物件は売却できる?買主へ移るもの・残るもの

家賃が滞納されていても、所有者が物件を売ること自体は止められません。通常のオーナーチェンジでは、売買を成立させるために入居者の同意を得る必要もありません。

ただし、物件を売ること、貸主の立場を引き継ぐこと、すでに発生した滞納家賃を引き継ぐこと、入居者に明け渡してもらうことは、法律上も実務上も分けて扱われます。

  • 物件・貸主の地位
    対抗要件を備えた賃貸借では、原則として買主へ移る
  • 売却前に発生した滞納家賃
    原則として売主に残り、買主へ移すには債権譲渡が必要
  • 入居者が住み続ける権利
    物件を売却しただけでは消えない

オーナーチェンジで買主へ移る貸主の地位と敷金

入居者が建物の引渡しを受けて占有していれば、その賃貸借は、所有権を取得した買主にも原則として効力を持ちます。物件が売却されると、貸主としての権利と義務は買主へ移ります(民法605条の2、借地借家法31条)。

ただし、買主が入居者に対して新しい貸主であることを主張するには、所有権移転登記が必要です。売却後も賃貸借契約は従前の条件で続き、買主は今後の家賃を受け取る一方、修繕義務や退去時の敷金返還義務を引き継ぎます。

引き継がれる敷金は、預かった金額と必ずしも同額ではありません。判例上、所有権が移る時点までに旧貸主に対する未払賃料があれば、その分が敷金へ充当され、残額について敷金返還に関する権利義務が買主へ承継されるとされています。

保証会社が家賃を立て替えている場合は、旧貸主が持つ滞納家賃債権と、保証会社が入居者へ請求する求償権を混同しないようにします。滞納額、敷金から差し引く額、買主が引き継ぐ敷金残高、売買代金での精算方法を分けて整理し、契約前に弁護士へ確認してください。

売却前の滞納家賃は原則として売主に残る

売主が貸主だった期間に発生した滞納家賃は、物件や貸主の地位と一緒に自動で買主へ移るわけではありません。買主に引き継いでもらうには、滞納家賃を請求する権利を譲渡する「債権譲渡」が必要です。

まず、対象となる月、元本、遅延損害金、一部入金、保証会社の立替額を特定します。次に、売主と買主で債権譲渡に合意し、売主から入居者へ通知するか、入居者の承諾を得ます。

入居者に債権譲渡を主張するには、譲渡人である売主からの通知または入居者の承諾が必要です。さらに、差押債権者などの第三者との優先関係まで確保するには、内容証明郵便など、確定日付のある証書による通知または承諾が必要です(民法467条)。

過去の滞納家賃を買主へ譲渡した場合でも、それだけで必ず賃貸借契約を解除できるとは限りません。買主が貸主の地位を入居者へ対抗できるか、債権譲渡の通知が済んでいるか、催告が必要か、信頼関係が壊れたと評価できるかを確認します。

売却後も入居者は住み続けられる

所有者が変わっても、入居者の占有や賃貸借契約は自動では消えません。入居者が立ち退かない状態で売る場合、買主は賃貸借と滞納状況を把握したうえで、その状態を引き受けることになります。

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項目基本的な扱い売買契約で決めること
物件の所有権買主へ移る移転日、代金、登記、抵当権の処理
貸主の地位対抗要件を備えた賃貸借では、原則として買主へ移る基準日、契約書原本、入居者への通知
敷金返還義務原則として買主が引き継ぐ預かり額、充当額、引継額、売買代金での精算
売却後の家賃新しい貸主の収入になる日割り・月割り、振込先を切り替える日
売却前の滞納家賃原則として売主に残る売主が回収するか、買主へ債権譲渡するか
明渡し・訴訟売却だけでは終わらない売却後に誰が続けるか、費用・和解金・回収金の扱い
管理・家賃保証の契約自動で引き継がれるとは限らない引継ぎ、終了、再契約、相手方の承諾

\ 滞納があっても、査定の依頼はできます /

家賃滞納物件の売却方法は3つ

家賃滞納がある賃貸物件の売却方法は、入居者がいる状態で売る「現況売却」、支払いや退去について合意してから売る「合意後売却」、明渡しを終えて空室にしてから売る「明渡し後売却」の3つです。

どの方法が向いているかは、売却期限、毎月の持ち出し、入居者との連絡状況、明渡しにかかる費用と期間によって変わります。退去させてから売る方法だけが正解ではありません。

まず現在の状況を整理し、3つの売却方法について、売却価格だけでなく費用・期間・手取り額まで比べて判断しましょう。

4つの質問で選ぶ売却方法

3つの方法から、いま一つに決める必要はありません。1から順に答え、「いいえ」なら次の質問へ進むと、先に比較すべき方法が見えてきます。

判断する質問「はい」の場合
1.異臭・漏水・異常音など、安否や建物への危険が疑われるか売却より安否確認を優先し、警察・消防・管理会社へ連絡する
2.売却期限が迫っている、または毎月の持ち出しが重いか現況売却の仲介査定と直接買取を先に比べる
3.入居者と連絡が取れ、実行できそうな支払案・退去案があるか合意後売却と現況売却を比べる
4.明渡し費用と待機期間を差し引いても、空室にして売るほうが多く残りそうか弁護士に明渡しの見通しを聞き、明渡し後売却を検討する

4つとも「いいえ」の場合は、現況売却を軸に条件を詰めます。

連絡不通だった入居者から具体的な退去案が出れば、現況売却と合意後売却をあらためて比較します。反対に、合意が守られなければ、現況売却や法的な明渡しへ切り替える判断が必要です。

現況売却は仲介と直接買取を比べる

滞納がある物件でも、事情を理解する投資家を不動産会社に探してもらう「仲介」と、不動産会社自身が買主になる「直接買取」を検討できます。

仲介では複数の買主候補へ販売できますが、購入判断や融資に時間がかかり、途中で価格や条件が変わることがあります。直接買取は、条件が合えば売却までの期間を短くできる一方、不動産会社が負担する再販売、明渡し、法律問題のリスクが買取価格に反映されます。

提示額だけでなく、次の条件も並べて確認してください。

  • 実際に買うのは投資家か、その不動産会社自身か
  • 仲介手数料がかかるか、決済予定日はいつか
  • 契約内容と実際の状態が違った場合、売主がどこまで責任を負うか
  • 売主が事実として保証する範囲はどこまでか
  • 明渡しや残置物の処理を、どちらが負担するか

\ 仲介と買取、両方の金額を並べて比べる /

分割払い・任意退去の合意書に書く内容

入居者に支払う意思があるなら、分割払いや任意退去を話し合う余地があります。ただし、「来月から払います」「数か月後に出ます」という口約束だけでは、買主が実行可能性を判断できません。

合意書には、少なくとも次の内容を記載します。

  • 滞納額と、その金額を確定した日
  • 支払日、分割額、振込先
  • 入金を、過去の滞納分と今後の家賃のどちらへ充てるか
  • 退去日、鍵の返却、残置物の扱い
  • 敷金、原状回復費、未払費用の精算
  • 約束が守られなかった場合の対応

すでに争いが生じている案件について、報酬を得る目的で貸主の代理人として支払条件や退去条件を交渉する行為は、内容によって弁護士法72条に抵触する可能性があります。管理会社や不動産会社へ任せきりにせず、弁護士へ相談してください。

明渡し後売却は手取り額で比べる

空室にすると、自宅用や建替え目的の買主にも売りやすくなる物件があります。ただし、売却価格が上がっても、明渡しや保有にかかる費用を差し引いた後の手取りまで増えるとは限りません。

税・ローン精算前の比較額

想定売却代金 − 売却費用 − 滞納対応・明渡し費用 − 売却までの保有費 − 退去後の残置物処理・修繕費

最終的な手取り額は、この比較額から住宅ローンなどの完済額と、売却益にかかる税金などを差し引いて計算します。ローンの元金返済は物件ごとに共通することが多いため売却方法の比較とは分け、売却までに増える利息や遅延損害金は保有費または精算額へ反映してください。

回収できる根拠を示せない滞納家賃は収入に入れず、「回収額0円」の場合も試算しておくと安全です。

家賃滞納が売却価格に与える影響

同じ滞納額でも、価格への影響は物件によって異なります。買主が確認するのは契約書に記載された家賃だけでなく、実際に見込める収入と、問題の解決にかかる費用・期間・不確かさだからです。「滞納ありなら一律に何%引き」という共通の目安はありません。

賃貸物件の価格を検討する方法の一つに、将来得られる純収益を基に価格を求める収益還元法があります。実際の入金が少なく、保証の継続や明渡し時期も読めない場合、買主は将来の収入を低く、費用やリスクを高く見積もる可能性があります。

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買主が見る点確認できない場合の影響売主が示す資料
実際の入金契約家賃をそのまま収入として見込めない通帳、管理会社の送金明細、月別入金台帳
保証の範囲保証会社の支払いが続くか、誰が請求権を持つか分からない保証契約、事故報告、支払明細
明渡しまでの負担費用と期間を多めに見積もられる督促・連絡履歴、弁護士の見通し、裁判書類
室内と残置物修繕費や処分費を計算できない入居前の写真、修繕履歴、確認済みの現在の状況

資料をそろえれば必ず高く売れるわけではありません。それでも、買主が不明点をまとめてリスクとして価格へ反映する余地は減らせます。

一棟物件で1室だけ滞納している場合と、区分マンション1室の家賃が丸ごと入らない場合では、収入全体への影響が異なります。満室想定の家賃だけを渡さず、入居者からの実入金と保証会社からの受取額を分けて査定へ反映してもらいましょう。

【試算例】現況売却と明渡し後売却の手取り額

次の数字は、比べ方を示すための仮定です。相場や標準的な費用、特定の物件の査定額を示すものではありません。滞納家賃の回収額、ローンの完済額、売却益にかかる税金は含めていません。

比較項目滞納を開示して現況売却明渡し・修繕後に売却
想定売却代金1,580万円1,850万円
売却費用▲65万円▲75万円
法律相談・契約・明渡し関係費▲15万円▲130万円
売却までの保有費▲10万円▲60万円
退去後の残置物処理・修繕費0円▲80万円
税・ローン精算前の比較額1,490万円1,505万円
金額はすべて仮の数字です

売却価格は270万円違いますが、費用を差し引いた比較額の差は15万円です。明渡しが3か月延び、保有費が月5万円ずつ増えれば、この差はなくなります。

任意退去が早く成立する、空室での売却価格がさらに高い、修繕費が少ないといった条件がそろえば、明渡し後売却が有利になります。先に結論を決めず、同じ査定日・同じ売却期限で、次の2条件を不動産会社へ伝えてください。

  1. 現在の滞納、賃貸借、連絡状況をすべて開示して売る場合
  2. 指定日までに適法な明渡しが終わり、室内を確認・修繕できた場合

価格だけでなく、想定する買主、売却までの期間、売却費用、法律相談・修繕費、価格が変わる条件まで書面でもらいます。ローン完済額と税金を加えれば、最終的な手取り額と売却時期を具体的に比較できます。

\ 手取りの比較には、複数の査定額が必要 /

立ち退かない入居者の強制退去の条件と流れ

入居者が立ち退かないときは、「売却したいので退去してほしい」のか、「家賃滞納という契約違反を理由に契約を解除したい」のかを分けて考えます。必要な条件と手続きが異なるからです。

売却予定だけでは正当事由として不十分

普通借家契約について貸主が更新を拒絶したり、期間の定めのない契約を解約したりするには、正当事由が必要です。

貸主と借主が建物を必要とする事情、賃貸借の従前の経過、建物の利用状況・現況、立退料の申出などを総合して判断します。売却予定があるという事情だけで、当然に退去を求められるわけではありません(借地借家法27条・28条)。

期間の定めのない普通借家では、正当事由がある場合でも、貸主の解約申入れから原則6か月を経過して契約が終了します。期間満了時の更新拒絶には、通知の時期も関係します。

家賃滞納による契約解除と「3か月」の目安

家賃滞納を理由とする解除は、正当事由とは別の問題です。滞納期間だけでなく、滞納額、滞納に至った事情、過去の支払状況、催告後の対応などから、貸主と借主の信頼関係が壊れたといえるかを判断します。

3か月は実務で語られることのある目安ですが、3か月で必ず解除できる法律はありません。反対に、契約内容や事情によっては、3か月未満でも解除が争点になる場合があります。

原則として、相当な期間を定めて支払いを催告し、期限までに支払われなかったことを確認したうえで解除の意思を伝えます。無催告解除条項がある場合や重大な事情がある場合も、一方的に判断せず弁護士へ確認してください。

滞納月数だけを見て「契約は終わった」「決済後すぐに追い出せる」と買主へ説明してはいけません。

家賃滞納から強制執行までの6ステップ

入居者が任意に明け渡さない場合は、次の順で進むのが一般的です。事情によって請求内容や通知方法が変わるため、解除通知を送る前に弁護士へ相談してください。

STEP
滞納額を確定する

契約家賃、共益費、入金日、一部入金、保証会社の支払いを月ごとに照合します。

STEP
保証会社・連帯保証人へ連絡する

保証会社には事故報告の期限や必要書類があります。契約に沿って早めに連絡します。緊急連絡先と連帯保証人は区別してください。

STEP
期限を定めて支払いを求める

請求額、対象月、支払期限、振込先を書き、通知内容と配達状況を記録に残します。この請求を法律上は「催告」といいます。

STEP
契約解除の意思を伝える

滞納状況、催告結果、契約条項を踏まえ、解除通知の内容と送付方法を弁護士に確認します。

STEP
建物明渡し・未払家賃を求める訴訟を起こす

解除後も退去しない場合は、裁判所へ建物の明渡しや未払家賃の支払いを求めます。2026年5月21日から、訴状などの書面は裁判所のシステムを使ってオンラインでも提出できます。

STEP
判決などを得て、強制執行を申し立てる

判決などの債務名義を取得し、執行官へ不動産明渡しの強制執行を申し立てます。執行官が明渡しを催告すると、原則として催告の日から1か月を経過する日が引渡しの期限になります。期限までに任意に明け渡されなければ、裁判所の手続きで断行へ進みます。

鍵交換・残置物の撤去は自力救済にあたる

契約を解除したつもりでも、裁判所の手続きを通さず、貸主の力だけで明渡しを実現してはいけません。自分の力で権利を実現する「自力救済」は原則として認められず、違法と判断される可能性があります。

自分の判断で行わないこと
  • 鍵を交換して入居者を締め出す
  • 電気・ガス・水道を止める
  • 室内の荷物を運び出したり処分したりする
  • 勤務先や近隣住民へ滞納の事実を不用意に伝える

空室で引き渡す条件で売買契約を結んだのに明渡しが間に合わなければ、売主は契約どおりの状態で物件を渡せません。空室を条件にするなら、期限延長、代金調整、契約解除、手付金、追加費用の負担まで特約で決めておきます。

\ 空室を条件にする前に、現況査定と比べる /

家賃滞納者と連絡がつかないときの対応

電話に出ない、郵便物がたまっている、電気やガスを使っている様子がない。こうした事情が重なっても、それだけで「夜逃げした」「部屋を放棄した」とは断定できません。

最高裁は2022年12月12日、家賃保証会社が一定の条件で賃貸借契約を無催告解除できるとする条項と、物件が明渡し済みであるとみなせるとする条項について、消費者契約法10条に規定する条項に当たると判断しました。

明渡し済みとみなす条項は、2か月以上の家賃不払い、合理的な手段を尽くしても連絡が取れないこと、ライフラインや郵便物の状況、再び使用しない意思が客観的に認められることなどを条件としていました。それでも、保証会社の判断だけで明渡し済みと扱うことは認められませんでした。

連絡がつかず、生活の気配が薄いというだけで、鍵交換や残置物の処分へ進んではいけません。

安否確認と滞納家賃の回収は分けて動く

生命・身体や建物への危険が疑われるかどうかで、優先する対応を分けます。

危険が疑われる場合

異臭、長期間たまった新聞や郵便物、室内からの異常音、漏水などがある状態です。

優先する対応
督促より安否確認を優先し、警察・消防、管理会社、緊急連絡先へ状況を伝えます。緊急性が確認できないまま、貸主だけの判断で入室しないでください。

緊急性が見当たらない場合

連絡はつかないものの、生命・身体や建物への差し迫った危険は確認できない状態です。

優先する対応
契約上の連絡先へ順に連絡し、書面の配達・返送状況と、外から確認できた事実を記録します。

ここで残した記録は、明渡し手続きと買主への開示資料の両方で使えます。緊急性が見当たらない場合は、次を記録してください。

  • 契約書に記載された電話、メール、住所へ連絡する
  • 緊急連絡先、連帯保証人、保証会社へ必要な範囲で連絡する
  • 請求額と期限を書いた書面を送り、配達・返送状況を保存する
  • 現地を確認した日時、確認者、外から分かる状況を記録する
  • 管理会社が対応した場合は、電話・訪問・郵便の記録を受け取る

勤務先や近隣住民へ滞納の事実を伝えたり、短時間に何度も連絡したりするのは避けます。家賃回収に必要な範囲を超えて、入居者の個人情報を利用しないでください。

緊急連絡先は、本人への伝言や安否確認を依頼するための連絡先です。同じ人と別途、保証契約を結んでいない限り、滞納家賃を請求できる相手ではありません。

所在不明の入居者と公示送達

必要な調査をしても入居者の所在が分からない場合は、公示の手続きを検討します。訴状などを送る民事訴訟法上の「公示送達」と、解除通知などの意思表示を到達させる民法98条の「公示による意思表示」は、別の手続きです。

民事訴訟法上の公示送達は、裁判所の掲示場などへの掲示に加え、インターネットで閲覧できる状態に置く方法で行われ、開始から2週間で効力が生じます(民事訴訟法111条・112条)。

相手の所在が判明していて、本人が郵便物を受け取らないだけの場合、意思表示の公示送達は利用できません。また、近く訴訟を起こす場合は、訴状の中で解除の意思表示をするなど、別の公示手続きが不要になる場合もあります。

返送された封筒、調査した住所、連絡履歴は、公示送達や訴訟の資料になります。捨てずに一式を弁護士へ渡してください。

\ 連絡がつかなくても、査定は受けられます /

買主へ開示する引継ぎ資料6種類

買主が警戒するのは、滞納額だけでなく、周辺の状況が分からないことです。いくら未払いなのか、これまで何をしたのか、現在誰がどの請求権を持っているのかを資料で示します。

資料を次の6つに分けると、不足している情報と確認先が見えてきます。

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ファイル入れる資料確認すること
1.賃貸借賃貸借契約書、特約、更新書類、入居時資料契約当事者、普通借家か定期借家か、家賃、支払日、解除条項
2.入金・滞納通帳、管理会社の送金明細、月別台帳、請求書契約額、実入金、対象月、一部入金、遅延損害金
3.対応履歴電話・メール・訪問記録、督促状、配達記録、返送封筒いつ、誰が、何を伝え、相手がどう応じたか
4.保証・敷金保証契約、事故報告、代位弁済明細、連帯保証、敷金台帳誰が請求権を持つか、保証範囲、引継ぎ、敷金残高
5.法的手続解除通知、訴状、判決、和解書、強制執行の書類現在の段階、売却後の承継、期限、追加費用、和解権限
6.建物・管理入居前の写真、修繕履歴、苦情、鍵、管理契約室内の確認範囲、残置物、修繕、管理契約の扱い

相手ごとに渡す資料を分ける

同じ一式を全員へ配るのではなく、相手の役割に必要な範囲へ絞ります。確認漏れと、個人情報の過剰な開示を防ぐためです。

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相手確認することやり取りする資料
管理会社実入金、送金漏れ、連絡履歴、苦情、修繕送金明細、対応記録、修繕履歴、管理契約書を受け取る
保証会社事故報告期限、保証対象、支払済み・審査中・対象外の月、売却後の契約保証契約、月別入金台帳、請求書、報告記録を渡す
不動産会社現況売却と明渡し後売却の価格・期間・費用、想定買主、契約条件初期段階では個人を直接特定する情報を抑えた資料を渡し、必要性に応じて追加開示する
弁護士解除、明渡し、債権譲渡、訴訟・強制執行の承継契約書、入金台帳、連絡・郵便記録、保証・敷金資料、裁判書類を渡す

時系列台帳と滞納家賃の時効

通帳、管理会社の報告、メールが別々に保存されていると、買主や弁護士が経過をつかめません。確認できた事実を、推測や評価と分けて日付順に並べます。

家賃9万円の物件で、2月分が入金されなかった場合の記入例です。日付や金額は仮定です。

  1. 1月31日|支払期日
    2月分9万円の入金なし。通帳と契約書を確認し、管理会社の送金漏れがないか調べる。
  2. 2月2日|管理会社へ確認
    入金も送金もないとの回答。メールを保存し、本人へ電話・メールで連絡する。
  3. 2月3日|本人へ連絡
    電話は留守番電話、メールの返信なし。発信・送信履歴を保存し、保証会社へ報告する。
  4. 2月5日|保証会社が報告を受領
    保証されるかは審査中。受付メールを保存し、本人へ書面を送る。
  5. 2月10日|請求書を発送
    2月20日を期限として9万円を請求。書面の控えと配達記録を保存する。
  6. 2月21日|期限後も入金・連絡なし
    通帳と連絡履歴を確認し、契約書を含む資料一式を弁護士へ渡す。

「悪質」「夜逃げ」「払う気がない」といった評価は、確認できた事実と分けます。台帳に必要なのは、日付、金額、証拠、相手の回答、次の対応です。

滞納家賃は月ごとに消滅時効の対象になります。2020年4月1日以降に結んだ賃貸借契約の家賃債権は、原則として、権利を行使できることを知った時から5年、または権利を行使できる時から10年で時効が完成します。家賃では貸主が支払期日を把握していることが通常であるため、実務上は5年を基準に管理します(民法166条)。

期間が過ぎただけで債権が自動的に消えるわけではなく、入居者が時効を援用する必要があります。また、督促状を送っただけで時効期間が最初からやり直しになるわけではありません。催告による完成猶予は原則6か月で、その間に再度催告しても期間は延びません(民法145条・150条)。

2020年4月1日より前に結んだ賃貸借契約の家賃は、支払期日が2020年4月1日以降でも、原則として改正前の民法が適用されます(民法改正法附則10条)。改正前の民法でも、月ごとに支払う家賃の時効期間は5年です。契約の更新、一部弁済、債務承認、訴訟などによって結論が変わるため、古い滞納は月別台帳ごと弁護士へ見せてください。

\ 資料がそろったら、同じ内容で複数社へ /

売買契約で決める8項目

「現況のまま引き渡す」と書くだけでは、滞納家賃債権、敷金、保証会社の支払い、進行中の裁判の扱いは決まりません。売買契約書や特約、開示資料に具体的な条件を反映します。

宅地建物取引業者が媒介する場合は、法定説明事項や取引判断に重要な内容を重要事項説明書などへ反映し、売主・買主間の権利義務は売買契約書や特約で明確にします。どの書面へ記載するかは、宅地建物取引士と弁護士に確認してください。

  1. 売買契約前
    滞納額、敷金、保証会社の支払い、進行中の手続きを確定し、買主へ開示します。
  2. 契約から決済まで
    追加の滞納、入金、退去、保証会社の支払いなどの変化を記録し、報告方法と価格調整を決めます。
  3. 決済・引渡し後
    契約書、鍵、連絡履歴を買主へ渡し、入居者へ新しい貸主と振込先を知らせます。

売買契約では、少なくとも次の8項目を決めます。

  1. 滞納額と基準日
    月別家賃、共益費、遅延損害金、一部入金、充当先を別紙で特定します。
  2. 滞納家賃債権の行き先
    売主に残すか、買主へ譲渡するかを決めます。譲渡する場合は、対象債権と通知・承諾の方法も定めます。
  3. 保証会社による支払い
    支払済み、審査中、保証対象外の月を分け、売主・保証会社・買主のうち誰が請求権を持つか確認します。
  4. 敷金の精算
    預かり額、充当額、買主が引き継ぐ残額、売買代金での精算方法を入居者ごとに決めます。
  5. 進行中の督促・裁判・強制執行
    誰が手続きを続け、費用を負担し、和解金・回収金を受け取るかを決めます。訴訟承継や執行文などの手続きは弁護士へ確認します。
  6. 契約から決済までに状況が変わった場合
    追加の滞納、入金、退去、死亡、破産、保証会社の支払いが起きた場合の報告と価格調整を定めます。
  7. 入居者情報の扱い
    誰に、何の目的で、どこまで開示するかを決め、売買が成立しなかった場合の返却・削除も定めます。
  8. 決済後の通知と書類の引渡し
    契約書原本、鍵、連絡履歴、新しい振込先、入居者への通知方法を決めます。

オーナーチェンジでは、賃貸借の内容と実際の入金状況を買主へ正確に説明する必要があります。滞納家賃、敷金、保証会社の支払いを別々に表示し、売主と買主の合意を契約書へ残してください。

入居者の個人情報を開示する範囲

購入を検討している人全員へ、入居者の氏名、電話番号、勤務先、保証人情報まで渡す必要はありません。初期段階では、部屋番号、契約の種類、家賃、支払状況、滞納月数など、購入判断に必要な情報を中心にします。

不動産の売買に伴う調査のために、入居者本人の同意を得ず個人データを購入希望者へ提供できる場合もあります。ただし、必要な範囲へ限定し、売主と購入希望者との間で、利用目的、取扱方法、安全管理措置、漏えい時の対応、交渉不成立時の返却・削除などを定める必要があります。

資料は、秘密保持を確認してから見せるもの、閲覧だけにする原本、決済時に買主へ引き渡すものに分けて管理します。

家賃滞納物件を任せる不動産会社の選び方

滞納物件では、査定額の高さだけで会社を選べません。「入居者は退去する」「滞納家賃は全額回収できる」「室内に修繕は不要」といった未確定の条件を前提にしていないか確認する必要があります。

候補となる会社には同じ6種類の資料を渡し、次の質問への回答を比べてください。

不動産会社への質問8項目

  1. 現況のまま仲介する場合、どのような買主へ販売しますか。
  2. 直接買取の場合、実際に買主となる会社はどこですか。
  3. 査定で見込んだ実入金、保証会社からの入金、運営費はいくらですか。
  4. 現況売却と明渡し後売却で、価格・期間・費用・条件はどう変わりますか。
  5. 滞納家賃、敷金、保証契約、進行中の手続きを、どの書面に記載しますか。
  6. 決済前に入金・退去・裁判の状況が変わった場合、誰へいつ報告しますか。
  7. 入居者の個人情報を、どの段階で誰に開示しますか。
  8. 法律判断が必要になった場合、弁護士とどう役割を分けますか。

「買取だから全部お任せ」「現況だから説明は不要」「3か月滞納ならすぐ退去できる」という説明だけで終わる会社は避けましょう。

信頼できる提案には、査定価格の前提、価格が変わる条件、明渡しや回収を誰が担うか、売主に残る責任の説明があります。

\ 8つの質問は、査定を依頼してから聞けます /

家賃滞納中の物件売却でよくある質問

入居者の同意、保証会社の立替、売却前の通知、敷金、緊急連絡先について、相談の場でよく出る質問をまとめます。

入居者が売却に反対していても売れますか?

通常のオーナーチェンジでは、入居者の同意は売買の成立条件ではありません。

ただし、売却によって賃貸借が終了するわけではなく、買主は原則として貸主の地位を引き継ぎます。室内の撮影や内覧をする場合も、所有者だから自由に立ち入れるとは考えず、契約内容と入居者が承諾した範囲を確認してください。

保証会社から家賃が入っていれば「滞納なし」と説明できますか?

契約上の家賃、入居者からの実入金、保証会社からの入金は分けて説明します。保証会社が立て替えている月は、貸主の入金不足が補われていても、入居者の支払問題まで解消したわけではありません。

保証会社が入居者へ立替分を請求する権利を持つ場合があります。保証が今後も続くか、所有者変更後に保証契約を引き継げるかも確認してください。

入居者へ売却前に知らせる必要はありますか?

事前通知は、通常、売買の成立条件ではありません。

ただし、買主が貸主の地位の移転を入居者に主張するには所有権移転登記が必要です。決済と登記の後、新旧所有者の連名などで、所有者が変わった日、新しい振込先、賃貸借が従前の条件で続くこと、敷金・修繕・緊急時の窓口を知らせる方法が実務的です。

滞納家賃を敷金から引けば、滞納なしになりますか?

売却資料では、滞納家賃の総額、保証会社の支払い、預かり敷金を別々に表示してください。

入居者は、明渡し前に敷金を滞納家賃へ充てるよう貸主へ請求できません。一方、貸主は契約や民法の範囲で敷金を債務へ充当できます。売却時の引継額は、契約内容、未払金、保証会社の支払いを確認して計算します。

判例上、所有権移転時までの未払賃料が敷金へ充当され、残額に関する権利義務が買主へ移るのが原則です。滞納額、充当額、引継残高を示し、保証会社の支払いと二重計上していないか確認してください。

緊急連絡先へ滞納家賃を請求できますか?

緊急連絡先として名前が記載されているだけでは、通常、家賃を支払う義務はありません。保証契約は書面または電磁的記録で結ぶ必要があります(民法446条)。

同じ人が連帯保証人でもある場合は、保証契約が成立しているか、保証の対象と上限を確認します。

2020年4月1日以降に締結するなど、改正民法が適用される個人根保証契約では、保証人が負う上限である極度額を定めなければ効力が生じません(民法465条の2)。それ以前の契約や更新の取扱いは、契約書を弁護士へ見せて確認してください。

【まとめ】家賃滞納物件を売却する手順

家賃滞納中で、入居者が立ち退かない、連絡がつかない状態でも、物件は売却できます。ただし、売却前の滞納家賃、貸主の地位、敷金、保証会社の支払い、明渡し手続きは、まとめて自動的に買主へ移るわけではありません。

賃貸借、入金・滞納、対応履歴、保証・敷金、法的手続、建物・管理の6種類に資料を分け、同じ資料を使って現況売却と明渡し後売却を査定してもらいます。価格だけでなく、費用、期間、ローン・税金を反映した最終手取り、契約条件を比べてください。

連絡が取れなくても、鍵交換や荷物の処分を貸主の判断だけで行ってはいけません。

契約解除、明渡し、債権譲渡、訴訟・強制執行の承継に判断が必要なら、不動産会社へ査定を依頼するのと並行して、賃貸借を扱う弁護士へ資料一式を渡しましょう。

迷ったときの順番

  1. 異臭・漏水などがあれば、売却や督促より安否確認を優先する
  2. 保証会社への報告期限を確認する
  3. 6種類の資料をそろえる
  4. 同じ条件で現況売却と明渡し後売却の査定を取る
  5. 解除・訴訟・債権譲渡が関わる部分を弁護士へ確認する

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出典

e-Gov法令検索「民法」
e-Gov法令検索「借地借家法」
e-Gov法令検索「民事訴訟法」
e-Gov法令検索「弁護士法」
最高裁判所「令和3年(受)第987号 消費者契約法12条に基づく差止等請求事件」
国土交通省「民間賃貸住宅に関する相談対応事例集(再改訂版)」
国土交通省「法令・不動産鑑定評価基準等」
裁判所「不動産引渡(明渡)執行」
裁判所「改正民訴法等で変わる民事訴訟手続の概要」
東京簡易裁判所「意思表示の公示送達」
個人情報保護委員会「不動産売買時の賃借人に係る個人データの提供」
不動産適正取引推進機構「最高裁判例一覧 敷金・保証金・権利金」
不動産適正取引推進機構「不動産のQ&A 家賃の滞納、変更」(公開日:2024年11月24日)
全日本不動産協会「旧賃貸人に対する賃料不払いと解除の可否」

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