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民泊を売却して撤退する方法|物件・事業・許認可と買取の判断基準

民泊に使っている物件は、売却できます。ただし、物件が売れることと、買主が民泊を続けられることは別です。

売買の対象を「許可付きの民泊」とひとまとめに考えると、引渡し後に買主が営業できない、予約を引き継げない、見込んでいた事業の価値が価格に反映されない、といったズレが起こります。土地・建物だけでなく、事業、家具・備品、将来の予約、届出や許可を、それぞれ分けて扱ってください。

早く手を引きたいときほど、先に廃業届を出したり家具を処分したりしたくなります。ただ、それをすると「稼働したまま売る」という選択肢が消えます。逆に、引渡し日を決めないまま予約を受け続ければ、返金やキャンセルの負担が後から効いてきます。

最初に決めるのは、廃業日ではありません。何を、どの状態で、誰に売るかです。

この記事では、日本国内に民泊物件を持ち、売却や撤退を考えている方に向けて、売り方の選び方から行政手続、価格、買取、必要書類、税金までを順に説明します。借りた物件で民泊を運営している場合の選択肢も取り上げます。

目次

まず確認|自分に合う民泊の売却・撤退方法

売り方は、物件を持っているかどうかと、民泊を続けてほしいかどうかで大きく4つに分かれます。どれを選ぶかで、確認する相手も、そろえる書類も変わります。

物件を所有し、民泊も続けてほしい

稼働したまま物件と事業をまとめて売る形が候補です。営業の制度、月別の収支、予約、契約を整理し、買主がどんな手続をすれば営業できるのかを行政へ確認します。

物件を所有し、民泊はやめたい

通常の不動産として仲介で売る方法と、直接買い取ってもらう方法を比べます。原状回復やリフォームを発注する前に、今のまま引き渡す条件でも査定を取ってください。

借りた物件で民泊を運営している

土地・建物は売れません。売れる可能性があるのは、事業、家具・備品、引き継げる契約です。賃借権などを引き継ぐには、原則として貸主の承諾が要ります。

法人で複数施設を運営している

株式譲渡や事業譲渡も候補になります。資産や契約だけでなく、債務、税務、過去の行政対応まで調べたうえで、どこまでを取引に含めるかを決めます。

どのルートを選ぶ場合でも、最初に集める書類はほぼ同じです。

  1. 届出書・許可証・認定書
  2. 登記事項証明書、または賃貸借契約書
  3. 直近24〜36か月分の月別収支。難しければ、少なくとも季節が一巡する期間の収支
  4. 引渡し予定日より後を含む予約一覧
  5. 管理規約、消防・建物図面、苦情や行政対応の記録

買主に約束する前に、必ず止まって確認すること
行政窓口へ確認するまでは、「届出番号は名義変更できる」「許可付きのまま営業できる」と買主へ伝えないでください。制度によっては、買主による新規届出や、売却前の承認が必要です。

民泊の売却では4つの対象を分けて考える

「民泊を1件売る」と言っても、中身は4つに分かれます。そして問題になるのは、それが手元にあるかどうかではなく、買主へ法律上・契約上きちんと移せるかです。

1.不動産

土地、建物、区分マンションの所有権、土地を借りて建物を持つ権利などです。所有者、ローンの担保になっている権利、境界、建物の状態、引渡し条件を確認します。

2.事業・資産

屋号、Webサイト、運営手順、家具、家電、備品、取引先との契約などです。自分の所有物とリース品を分け、契約相手の承諾が要るかを確認します。

3.行政上の手続

住宅宿泊事業の届出、旅館業の許可、特区民泊の認定、消防・建築関係の手続です。買主による新規届出、事前承認、変更・廃止の扱いを確認します。

4.予約・データ

将来の予約、前受金、宿泊者名簿、レビュー、宿泊予約サイトのアカウントなどです。宿泊サービスを誰が提供するか、返金、個人情報、各サービスの規約を確認します。

土地・建物の所有権が移っても、営業者の地位や予約契約まで自動でついてくるわけではありません。逆に、運営会社の株式を売って会社がそのまま残っても、個人名義の不動産は会社と一緒には移りません。

なお「買取」は、この4つと並ぶ対象ではなく、売り方の一種です。物件だけを不動産会社へ売る買取もあれば、事業や運営会社ごと取得する買主もいます。査定額を比べる前に、その金額に何が含まれているのかをそろえてください。

民泊物件を売っても、届出・許可は自動では移らない

買主が民泊を続けられるかどうかは、どの制度で営業しているかで変わります。営業者としての地位を買主が引き継ぐことを、ここでは承継と呼びます。

営業の制度売却時の基本売主・買主が確認すること
住宅宿泊事業法営業者の変更は、単純な名義変更ではできない売主は廃業等届出、買主は新規届出。物件を民泊に使う権利、管理規約、消防、自治体条例も再確認する
旅館業法事業を譲る前に承認を受ければ、営業者の地位を承継できる場合がある売却前に保健所へ相談し、承認の対象、施設が同一といえるか、ほかの許可や届出を確認する
特区民泊認定自治体の運用による。不動産売買だけで当然には移らない事業者変更の扱い、現在の受付状況、貸主や管理組合の承諾を認定自治体へ確認する
民泊の営業制度ごとに異なる売却時の基本手続

住宅宿泊事業は、売主の廃業届と買主の新規届出が必要

住宅宿泊事業の届出番号は、売主から買主へ名義だけを書き換えることができません。観光庁の住宅宿泊事業法FAQでは、営業者が変わる場合、今の事業者が廃業届を出し、新しい事業者が新規届出を行う必要があるとされています。

廃業届の期限は事業廃止後30日以内です。ただしこれは、その30日間なら買主が営業してよい、という意味ではありません。買主は、自分の新規届出が終わるまで宿泊客を受け入れられません。

年間180日の上限も、営業者が変わったからといってゼロには戻りません。観光庁の民泊制度ポータルサイトのFAQによると、宿泊日数は4月1日正午から翌年4月1日正午までを、届出住宅ごとに数えます。年度の途中で売る場合は、売主がそれまでの宿泊日数を買主へ伝え、残りの日数を確認します。

区分マンションでは、買主が新規届出をする時点の管理規約が基準になります。売主が届出をした後に規約が変わっていれば、以前は営業できた住戸でも続けられないことがあります。賃貸・転貸物件では、一般的な「転貸可」だけでは足りず、住宅宿泊事業への使用を認める書面が必要です。必要書類は、観光庁が案内する届出時の添付書類で確認できます。

旅館業の事業譲渡は、売る前の承認が決め手になる

旅館業には、事業を譲る前に承認を受けることで、営業者の地位を買主が引き継げる仕組みがあります。2023年12月13日以降、売主と買主が事前に都道府県知事などの承認を受ければ、買主が新規許可を取り直さずに承継できる場合があります。厚生労働省の旅館業法改正の案内も、譲渡前に相談するよう促しています。

ポイントは「事前」という部分です。建物だけを売る取引は旅館業の事業譲渡にあたりませんし、事業を譲った後から承認を取ることもできません。許可対象の一部だけを譲る場合や、施設が別物と判断されるほど増改築している場合は、新規許可が必要になることもあります。承継後6か月以内には行政の調査も行われるため、許可申請時の図面と現在の建物が合っているかを、売却前に照合しておきましょう。

特区民泊は、所在地の最新ルールを契約前に確認

特区民泊の手続は、認定した自治体ごとに違います。「認定施設だから買主も営業できる」とは言い切れません。

たとえば大阪市では、特区民泊の新規認定申請と居室追加などの受付が2026年5月29日に終了しました。既存施設で事業者変更や承継が認められるかは、取引ごとの確認が必要です。不動産売買、事業譲渡、株式譲渡のどれを予定しているのかを大阪市の窓口へ示したうえで、買主が営業できる日、必要な手続、回答した部署、確認日を記録してください。

株式譲渡でも「何の手続もいらない」とは限らない

運営会社の株式を売る場合、会社そのものは残ります。そのため、営業者が変わらないケースはあります。ただし、代表者・役員・会社名・所在地などの変更届、会社の支配権が変わるときに取引先の承諾を求める契約条項、金融機関の承諾、過去の違反や債務は、別に確認が必要です。

個人が所有する建物を自分の会社へ貸している場合は、株式を売っても建物の所有権は個人に残ります。売却後も会社へ貸し続けるのか、不動産も同時に売るのかを分けて契約しましょう。

民泊から撤退する4つのルートを比較

撤退の方法は、見込み価格が高い順に選ぶものではありません。最後まで進められるかどうかで絞り込みます。

撤退ルート向いている状況判断のポイント
稼働中の物件と事業を一体で売る適法に営業を続けられ、収支や運営記録が整っている不動産、設備、確かめられる収益力を評価してもらえる可能性がある。ただし買主層は狭い
廃業後、通常の不動産として売る事業収支が弱い、別用途の需要が強い、営業の承継が難しい住宅、賃貸物件、土地など別用途の価値で売れる。撤退費用がかかり、運営価値は残りにくい
法人株式または事業を譲る法人で運営し、複数の契約、従業員、運営方法をまとめて引き継ぐ価値がある会社や事業の収益を評価できる一方、債務、税務、行政対応も調査対象になる
賃借権などを引き継ぐ、または原状回復して撤退する借りた物件で民泊を運営している不動産自体は売れない。貸主の承諾が得られなければ、契約に従って解約・原状回復する
民泊から撤退する4つのルート

稼働中売却では、売上より「続けられる利益」が問われる

買主が見たいのは、繁忙月だけの売上ではありません。少なくとも季節が一巡する月別の実績を用意し、そこから宿泊予約サイト(OTA)の手数料、清掃、リネン、水道光熱費、通信費、消耗品、保険、修繕、宿泊税などを差し引きます。

見落としやすいのが、オーナー自身が無償でこなしている仕事です。清掃や宿泊者対応を自分でしているなら、それを外部へ頼んだ場合の費用も加えてください。補助金、一時的な休業、大きな返金は、通常の収支と分けます。ここまでそろえて、ようやく「買主が同じように運営したときに残る利益」が見えます。

ただし、買主が営業を続けられるかどうかが未確認のままでは、その利益を価格の土台にできません。行政と契約上の条件を先に固め、収益の評価はその後です。

廃業後の不動産売却では、事業の赤字と物件価値を分ける

民泊事業が赤字でも、土地・建物の価値まで低いとは限りません。法令と建物の条件が合えば、住宅、長期賃貸、店舗、事務所など、別の用途で買いたい人が見つかることもあります。

一方で、民泊向けの改装が一般の住宅需要と合わないこともあります。だからこそ、売却前に原状回復やリフォームを発注せず、まず次の2条件で査定を取りましょう。

  • 家具・設備を残し、稼働中または居抜きで引き渡す
  • 営業を終了し、今の状態のまま不動産として引き渡す

工事によって上がると見込まれる査定額が、工事費と売却までの維持費を上回るとき。売主側で工事をするのは、その場合だけです。

法人・事業譲渡では、引き継ぐ責任まで確認する

株式譲渡では運営会社が残るため、会社名義の資産や契約もそのまま残ります。ただし、残るのは良いものだけではありません。債務、税務上の問題、過去の行政対応も、同じ会社に残ります。事業譲渡なら、売る資産、契約、債務を一つずつ決めていきます。

「まとめて引き継げる」と説明される取引ほど、何が移り、何が残るのかを一覧にして確認してください。

賃貸物件では、売れるのは事業や備品

借りている人は、土地・建物を売却できません。候補になるのは、貸主の承諾を得たうえでの「物件を借りる権利」の引継ぎ、民泊事業の譲渡、家具・備品の売却です。

賃貸借契約に「民泊可」「転貸可」と書かれていても、契約者を別の事業者へ変えられるとは限りません。転貸とは、借りた物件をさらに別の人へ貸すことです。民法612条により、物件を借りる権利の譲渡や転貸には、原則として貸主の承諾が必要です。あわせて、名義変更料、敷金、原状回復、取り付けた設備、違約金、解約予告期間も確認します。承諾が得られない場合は、買主へ無断で鍵や運営を渡さず、契約どおりに撤退してください。

民泊の売却価格は3つの価値から考える

民泊物件に、全国一律の相場はありません。「年間利益の何倍」「通常価格の何割」といった数字だけで決めると、所在地、営業制度、建物の状態、契約、買主が使える融資といった条件が抜け落ちます。

価格を考える材料は3つあります。ただし、単純に足し算するものではありません。同じ利益や設備を二重に数えていないか、どの評価に何が含まれているかを確認します。

  1. 不動産としての価値
    土地・建物を、通常の住宅や収益物件として売る場合の価格です。国土交通省の不動産情報ライブラリで近隣の取引価格を調べ、物件の種類、面積、築年、駅までの距離、用途地域、接道、建物状態をそろえて査定します。
  2. 営業を続けた場合の収益力
    月別の宿泊売上から、運営に必要な費用と将来の修繕費を差し引きます。営業できる日数、自治体の条例、管理規約、許認可の見通しも反映します。
  3. 実際に買主へ移せる事業・資産の価値
    所有している家具・備品、譲渡できるWebサイトやドメイン、運営手順、契約などです。譲渡できないアカウントや、買主が使えない届出番号は価格に加えません。

このうち収益力を測るときに使うのが、純収益(NOI)です。売上から、民泊の運営に必要な費用を差し引いた金額を指します。

安定稼働時の純収益(NOI)
= 法令・条例の範囲で見込める宿泊売上
− 宿泊予約サイト・決済の手数料
− 清掃・リネン・水道光熱・消耗品
− 通常必要な運営管理費・人件費
− 固定資産税・保険・修繕・設備更新費

収益から見た価格の目安
= 安定稼働時の純収益 ÷ 投資家が求める利回り

たとえば純収益が年300万円だとします。投資家が求める利回りを5%とすれば6,000万円、6%なら5,000万円、7%なら約4,286万円です。収益はまったく同じでも、利回りの置き方だけで1,700万円以上動きます。

これは計算の仕組みを示す仮の例であり、民泊物件の相場ではありません。実際の利回りは、地域、用途、リスクが近い資料をもとに、査定した会社へ根拠を示してもらいましょう。

もう一つの注意点が、二重計上です。民泊の収益をすでに収益価格へ織り込んでいるのに、同じ利益を「営業権」としてもう一度足せば、価格は実態より膨らみます。査定書では、どの価値をどこへ反映したのかまで確認してください。

査定額ではなく、税引前の概算手取りで比べる

査定額が一番高い会社が、手元に一番多く残してくれるとは限りません。比べるのは、費用を引いたあとの手取りです。

その際、ローン返済額の扱いに注意します。ローンの完済は手元に残る資金を減らしますが、譲渡所得を計算するときの譲渡費用ではありません。売却費用とは分けて計算します。

税引前の概算手取り
= 売却価格 + 別に売る事業・資産の代金
− 売却費用 − 決済までの維持費 − 撤退・引継ぎ費用

税金・精算前の決済後資金
= 税引前の概算手取り − ローン完済額

次の表は、計算方法を示すための仮の例です。実在する査定や相場ではなく、譲渡所得税、消費税、固定資産税や予約売上の精算も含めていません。

入力項目稼働中で仲介売却廃業後に不動産売却直接買取
不動産などの売却価格7,500万円7,200万円6,800万円
別に売る事業・資産100万円0円50万円
売却費用300万円280万円80万円
決済までの維持費90万円30万円10万円
撤退・引継ぎ費用60万円130万円60万円
税引前の概算手取り7,150万円6,760万円6,700万円
決済時のローン残高4,600万円4,600万円4,600万円
税金・精算前の決済後資金2,550万円2,160万円2,100万円
売り方別の税引前概算手取りを比べる仮想例

維持費は、稼働中の仲介売却を「月30万円×3か月」、廃業後の売却を「月15万円×2か月」、直接買取を「月10万円×1か月」と仮置きしました。売却費用には仲介、契約、登記など、撤退・引継ぎ費用には予約対応、家具の撤去、原状回復などを含めています。

この例では、稼働中売却の決済後資金が2,550万円で、直接買取より450万円多くなります。ただし、買主が営業を続けるための手続が未確認なら、7,500万円という数字はまだ比較材料になりません。金額の横に「行政確認済み」「買主の資金確認済み」「最終提示」「条件付き」と書き添え、実現しやすさまで含めて比べましょう。

民泊物件の買取は、価格と条件を同じ表で比べる

直接買取には、売却期限を決めやすい、内覧や広告を減らせる、といった利点があります。室内に残す家具や荷物を買主が引き取る条件なら、撤退の作業も軽くなります。

ただし、すべての買取会社が民泊事業まで評価するわけではありません。一般的な不動産買取では、買い取った後の販売費用やリスクを見込んだ価格になり、レビューや運営手順は評価されないことがあります。民泊事業を扱う会社でも、その会社自身が買主になるのか、買主を紹介するだけなのかで契約は変わります。

比較項目仲介売却直接買取
買主市場で投資家、事業者、一般購入者などを探す原則として買取会社が買主になる
価格売出価格と成約価格は異なり、買主との交渉で決まる調査後の最終価格と、減額される条件を確認する
売却時期買主探し、融資、行政手続などで変わる条件がそろえば決めやすいが、必ず短期間で売れるとは限らない
民泊事業の評価民泊を続けたい買主に届けば、価格へ反映される可能性がある買取会社の事業内容によって異なる
売主の費用・作業仲介手数料、測量、修繕、室内に残す物などを個別に調整する仲介手数料がない直接取引でも、ほかの費用や売主作業は残ることがある
売却後の責任物件が契約内容に合わない場合の責任などを契約で決める「現状のまま買取」「売主は責任を負わない」とされる範囲を契約条文で確認する
仲介売却と直接買取の違い

買取を検討するときは、次の7点を書面で確認します。

  1. 実際に売買契約の買主となる法人はどこか
  2. 提示額は、現地確認前の概算、条件付きの金額、最終買取価格のどれか
  3. 行政手続や建物調査の結果によって、いつ、どの条件なら減額・解除できるか
  4. 家具、家電、リネン、室内に残す物をどこまで引き取るか
  5. 将来予約、前受金、キャンセル料を誰が負担するか
  6. 測量、修繕、原状回復、登記、明渡しの費用を誰が負担するか
  7. 物件が契約内容に合わない場合の売主責任、売主が説明した事実の保証、損害賠償について、期間と上限をどう定めるか

「最短○日で現金化」という広告は、あなたの物件がその日数で決済できると保証するものではありません。ローン残高、抵当権、共有者、許認可、買主の調査、契約条件がそろって、はじめて決済日が確定します。

民泊を売却する8つの手順

全体の流れは、買主が営業を引き継げるか確かめる → 同じ条件で価格を比べる → 引継ぎを契約で決めるの3段階です。この順番を崩して、行政へ確認する前に廃業や工事を進めると、稼働したまま売る選択肢を自分で消してしまいます。

1.所有者・営業者・制度を1枚に書き出す

登記事項証明書、賃貸借契約書、届出書・許可証・認定書を並べ、次の関係を図にします。

  • 土地・建物の所有者
  • 民泊の営業者
  • 賃借人・転借人
  • 住宅宿泊管理業者や運営代行会社
  • 宿泊予約サイト、清掃、リネン、通信、保険などの契約名義人
  • ローンを返す人と、物件を担保にしている金融機関

同じ名前に見えても、個人と、その人が代表を務める会社は別人格です。名義が違えば、売る対象も、必要な承諾も変わります。

2.最後に宿泊してもらう日と、新規予約の方針を決める

予約をすべて止める前に、稼働したまま売れるかどうかを調べます。そのうえで、引渡し候補日より後の予約を受けるのか、予約を受け付ける期間を短くするのかを決めます。

すでに入っている予約の処理は3通りです。売主が引渡し前に宿泊サービスを提供する、宿泊者の同意とサービスの規約に沿って変更する、キャンセル・返金する。いずれにしても、不動産を売っただけで予約契約が買主へ移ることはありません。

3.取引の形を行政・貸主・管理組合へ相談する

「物件を売る予定です」とだけ伝えても、窓口は必要な手続を判断できません。売主、買主候補、不動産の所有者、民泊の営業者がそれぞれどう変わるのかを、予定日とあわせて示します。

相談先は制度ごとに違います。住宅宿泊事業は届出先、旅館業は保健所、特区民泊は認定自治体です。区分マンションなら管理会社と管理組合、賃貸物件なら貸主、間に別の貸主がいる場合はその人にも確認します。

窓口名、担当部署、確認日、質問、回答、必要書類、手続にかかる標準的な期間を記録してください。買主がまだ決まっていない場合は、想定する売り方ごとに確認します。

4.買主が確かめられる資料をそろえる

売上の集計だけでは足りません。月別収支、予約、行政手続、建物、契約、苦情、修繕を同じ期間でそろえます。説明と合わない資料が出てきても、隠さず理由を添えるほうが結果的に早く進みます。

買主候補へ渡す前には秘密保持契約を結び、個人情報やアカウントのパスワードは必要最小限にします。検討の初期段階では宿泊者名を伏せ、宿泊日、人数、金額、返金条件など、判断に必要な項目だけを共有します。

5.同じ前提で3つの査定を取る

  1. 通常の不動産として仲介で売る場合
  2. 民泊を続ける前提で、物件・事業を売る場合
  3. 不動産会社などへ直接買い取ってもらう場合

そろえるのは、査定日、引渡し日、家具・予約・事業を含む範囲、売主が負担する費用です。仲介の査定額は、その金額で売れると約束されたものではありません。買取も、現地、権利、行政手続を調べる前の提示なら、最終価格とは限りません。

6.手取り・確実性・時間を一つの表で比べる

査定額が高いほど有利とは限りません。手取りに加えて、行政手続の見通し、買主の資金、価格が確定する日、解除・減額の条件、引渡しまでの維持費を並べます。

期限を過ぎると資金繰りに支障が出るなら、仲介で価格が上がる可能性だけでなく、期限内に売れなかった場合の損失も同じ表に入れて判断します。

7.契約に「決済の前提条件」と引継ぎ表を付ける

民泊の売却では、不動産売買契約だけでは足りない場合があります。事業譲渡契約、資産一覧、予約一覧、契約一覧、行政手続の予定表を組み合わせます。

そのうえで、買主の届出・承認、貸主の承諾、消防・建築の確認、融資の承認、既存予約の処理など、完了しなければ決済しない事項を契約に入れます。これを「停止条件」といいます。条件を満たせなかったときに契約を解除するのか、費用や手付金をどう扱うのかまで決めておきます。

8.引渡し後の届出・保存・アクセス権を整理する

引渡し時には、鍵、スマートロック、メール、予約・施設管理システム(PMS)、Webサイト、クラウド、電話番号などを一覧で照合します。売主のアクセスを削除し、買主側でパスワードと二段階認証を変更します。

ただし、引渡しで終わりではありません。廃業・変更の届出、税務申告、宿泊税、委託契約の精算、保険の解約が残ります。住宅宿泊事業の宿泊者名簿は、廃業後も作成日から3年間、売主が保存します。不動産を売ったからといって、旅券の写しを含む過去の名簿を買主へまとめて渡さないでください。

民泊物件の売却前にそろえる資料

大事なのは資料の量ではなく、数字と名義が一致していることです。買主が「営業を続けられるか」「同じ収益を出せるか」「引渡し後に何を負担するか」を自分で確かめられる形にします。

資料の種類用意する主な資料確認すること
不動産・権利登記事項証明書、購入時の売買契約書、重要事項説明書、ローン残高、測量・境界資料、管理規約所有者、ローンの担保、用途、共有者、境界を越えた建物や塀の有無、民泊の可否
行政・建物届出書・許可証・認定書、図面、変更届、消防関係書類、検査記録、行政指導・改善記録名義、対象範囲、図面と現状が合うか、未完了の対応
収支・税務月別売上、宿泊予約サイトの明細、銀行入金、費用明細、固定資産税、宿泊税、消費税申告、修繕計画売上が実在するか、費用漏れ、季節変動、未納、返金
予約・運営予約一覧、キャンセル条件、前受金、稼働日数、運営手順、苦情・事故・修繕履歴引渡し後の責任、180日の管理、未解決の問題
契約・資産賃貸借、管理代行、清掃、リネン、廃棄物、保険、通信、家具・備品台帳引継ぎ・解約の可否、違約金、所有物かリース品か、故障
デジタル・権利宿泊予約サイト、予約管理システム、スマートロック、サイト、ドメイン、写真、商標、電話番号譲渡できるか、利用規約、著作権、アクセス権
民泊物件の売却前にそろえる資料チェックリスト

家具・家電は、品名、数量、購入時期、所有者、リースの有無、故障、引渡し対象を写真付きで一覧にします。「室内の物は一式含む」とだけ書くと、私物やレンタル品まで売買対象に入ってしまうおそれがあります。

宿泊予約サイト上の売上と銀行入金は突き合わせ、キャンセル返金、サイト手数料、清掃費、税額まで確認します。数字が合わない月には、未入金、返金、締め日の違いなど、理由を書き添えます。

民泊売却の契約で曖昧にしてはいけない5項目

契約書で曖昧なまま残りやすいのは、次の5つです。いずれも、決済後に「聞いていない」が起きやすい部分です。

1.届出・許可・認定

「許可付き」「営業権付き」という言葉だけでは、買主がいつから営業できるのか分かりません。制度名、現在の営業者、必要な手続、申請する人、期限、承認されなかった場合の扱いを契約書に書きます。

旅館業の事業譲渡では、行政の承認より先に事業譲渡が成立しないよう、契約と日程を組みます。住宅宿泊事業では、無届営業を防ぐため、売主の最終宿泊日、廃業届、買主の新規届出、引渡しを一つの予定表で管理します。

2.将来予約

予約一覧には、宿泊日、人数、受領額、未収額、キャンセル条件、予約サイト、担当者を記載します。引渡し後の予約については、次を1件ずつ決めます。

  • 誰が宿泊サービスを提供するか
  • 宿泊者の同意や予約変更が必要か
  • 前受金と予約サイトからの入金を誰が受け取るか
  • キャンセル、返金、カード会社を通じた支払取消し、代替宿の費用を誰が負担するか
  • 宿泊税、苦情、事故対応を誰が担うか

買主が必要な届出・許可を得ていないのに、売主名義の予約だけを渡すことは避けてください。

3.宿泊予約サイトのアカウントとレビュー

宿泊予約サイトのアカウント、掲載ページ、レビューの扱いは、各サービスの規約に従います。たとえばAirbnbは、公式ヘルプでアカウントの所有権を別のホストへ移転できないと案内しています。

補助ホストの設定や運営権限の変更ができても、アカウントそのものを譲ることとは違います。ログイン情報を買主へ渡し、本人確認や振込先だけを書き換える方法は避けてください。買主が新しく掲載する場合、過去のレビューがそのまま引き継がれるとは限りません。

4.宿泊者の個人情報

事業譲渡に伴う個人データの移転は、一定の条件のもとで本人の同意を必要としない場合があります。個人情報保護委員会の個人情報保護法ガイドラインでは、移転後も、事業を引き継ぐ前の利用目的の範囲内で扱うことが示されています。

とはいえ、最初から生のデータを渡す必要はありません。買主が事業を調べる段階では、個人を特定できる情報を外した集計を見せます。詳細が必要になった時点で、閲覧できる人、利用目的、保存場所、複製の可否、取引が成立しなかった場合の削除・返却を秘密保持契約などで定めます。

5.売却価格の内訳

総額だけを決めると、売主と買主で税務上の扱いがずれることがあります。土地、建物、家具・設備、事業上の資産などに分け、根拠のある配分を契約書や別紙へ記載します。

この配分は、税負担を抑えるために都合よく決めてよいものではありません。自治体が固定資産税の計算に使う評価額、帳簿に記録された金額、査定、資産台帳などをもとに、税理士へ確認してください。

民泊物件の売却でかかる税金

税金は、土地・建物を売った利益にかかるものと、建物や備品に関係する消費税に分けて確認します。法人の株式を売る場合、事業を売る場合、不動産を売る場合で、課税される人や会社も、所得の種類も変わります。

土地・建物の譲渡所得

個人が所有する土地・建物を売って利益が出た場合、その利益は一般に、ほかの所得と分けて計算します。国税庁が示す譲渡所得の計算方法は、次のとおりです。

収入金額 −(取得費+譲渡費用)− 特別控除額
= 課税譲渡所得金額

取得費とは、売った土地・建物を手に入れるためにかかった費用です。ただし建物は、購入代金をそのまま使えません。所有していた間の価値の減少分にあたる減価償却費相当額を差し引きます。民泊として事業に使っていた建物は、帳簿や過去の申告と照合し、購入時の契約書、建築費、改良費、減価償却の明細をそろえましょう。

税率は、所有期間で2つに分かれます。売却した年の1月1日時点で所有期間が5年を超えていれば長期譲渡所得、5年以下なら短期譲渡所得です。現在の基本税率は、長期が所得税15%・住民税5%、短期が所得税30%・住民税9%で、これとは別に復興特別所得税がかかります。税率や特例は、決済する年の国税庁の案内で確認してください。

自宅の一部や、以前住んでいた家を民泊に使っていた場合は、居住用財産の3,000万円特別控除を検討できることがあります。ただし、実際に住んでいた状況、売却時期、事業に使った部分、親族間売買などに条件があります。「元自宅だから使える」と自分で判断せず、国税庁が示すマイホームを売ったときの特例と、実際の利用状況を税理士へ示してください。

建物・備品に関係する消費税

消費税は、これとは別に確認が必要です。消費税の納税義務がある事業者が、事業用の建物や備品を事業として売る場合、建物や備品などは課税対象になり得ます。一方、土地や、土地を借りる権利(借地権)の譲渡は非課税です。つまり同じ1件の売却でも、価格の内訳によって消費税の扱いが変わります。

国税庁が示す個人の事業用建物などを売った場合の消費税の扱いをもとに、売却価格の内訳と納税義務を確認します。

売却契約を結ぶ前に、税理士へ次の資料を渡しましょう。

  • 予定する取引の関係図と契約案
  • 土地・建物・備品・事業の価格内訳
  • 取得時の契約書と減価償却の明細
  • 直近の所得税・法人税・消費税・宿泊税の申告書
  • 決済予定日、廃業日、最後の宿泊日

税額が確定していない段階では、「税引前の概算手取り」と表示し、税引後の金額と混同しないようにします。

民泊の売却で止まりやすい4つの場面

取引が途中で止まる原因は、価格交渉よりも、次の4つに集中します。

止まりやすい場面問題になる理由先にすること
行政確認前に廃業届を出す旅館業の承継や、稼働中のまま売る方法を検討しにくくなることがある買主の方針と制度別の手続を確認してから、最終営業日を決める
苦情、行政指導、図面との違いを伏せる買主が営業できるか、いくらで買えるかの前提が崩れる対応済み、対応中、未対応に分け、時系列で開示する
「許可・予約・アカウントも移る」と約束する行政制度や宿泊予約サイトの規約上、実行できない場合がある移せる対象と、新しい手続が必要な対象を契約の別紙にする
査定額と最終価格を同じものとして扱う減額条件や決済までの維持費を見落とす成約見込価格、最終買取価格、税引前の概算手取りを分けて比べる
民泊売却で起こりやすい失敗と対策

民泊売却に関するよくある質問

赤字や休業中の民泊物件でも売却できますか?

不動産を所有していれば、民泊事業が赤字・休業中でも土地・建物は売却できます。ただし、営業実績を事業価値として価格に上乗せするのは難しくなります。稼働中売却、通常の住宅・収益物件としての売却、直接買取を同じ条件で査定してもらい、比べましょう。

民泊の許可や届出だけを売ることはできますか?

不動産や事業から切り離して、許可証や届出番号だけを自由に売れるとは考えないでください。住宅宿泊事業では、売主の廃業届と買主の新規届出が必要です。旅館業では、事業を譲る前の承認によって営業者の地位を引き継げる場合があります。特区民泊は、認定した自治体への確認が必要です。

買主に代われば、住宅宿泊事業の180日を数え直せますか?

数え直せません。年間180日の上限は届出住宅ごとに適用されるため、年度の途中で営業者が変わっても、それまでの宿泊日数を引き継ぎます。売主の宿泊実績を買主へ渡し、残りの日数を確認してください。

Airbnbなどのレビューや予約は買主へ引き継げますか?

不動産売買によって自動で引き継がれることはありません。Airbnbはアカウント所有権の移転を認めていません。予約は、売主が宿泊サービスを提供する、規約と宿泊者の同意に沿って変更する、キャンセル・返金する、のいずれかを決めます。ほかの宿泊予約サイトも、最新の規約を個別に確認してください。

賃貸で運営している民泊を売却できますか?

土地・建物は所有者のものなので、運営者は売却できません。事業、備品、譲渡できる契約を引き継げる可能性はありますが、賃借権などの譲渡や転貸には、原則として貸主の承諾が必要です。承諾を得られない場合は、賃貸借契約に従って解約・原状回復します。

民泊売却の第一歩は、売り方別の手取りを出すこと

民泊の売却で最初に決めるのは、廃業日ではありません。何を、どの状態で、誰に売るかです。物件が売れることと、買主が民泊を続けられることは、それぞれ別に確認します。

そのうえで、稼働中の物件・事業として売る場合と、民泊を終了して通常の不動産として売る場合を査定します。期限を優先するなら、直接買取も同じ引渡し条件で加えましょう。判断の基準は、最高査定額ではありません。条件をそろえた税引前の概算手取り、成立までの時間、価格の確実性です。

次のどれかに当てはまる間は、契約や廃業を急がないでください。
・行政手続の見通しが立っていない
・貸主や共有者の承諾がない
・買主が営業できる前の日程に予約が残っている

資料をそろえ、保健所などの行政窓口と、取引に応じて宅地建物取引業者、行政書士、弁護士、税理士へ確認しましょう。

出典・参考資料

以下の資料は、2026年7月24日に確認しました。

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