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オーナーチェンジ物件の売却ガイド|価格・流れ・税金・注意点を解説

入居者が住んでいる部屋は、住んでもらったまま売れます。売買のために入居者の同意を得る必要も、通常はありません。所有者が変われば、家賃を受け取る権利も、修繕対応や敷金を返す義務も、まとめて買主へ移るからです。

気になるのは、入居者がいることで価格がどう動くかでしょう。入居中の物件は「中古の住まい」ではなく「家賃を生む投資用の不動産」として見られます。値段を左右するのは、家賃収入から管理費や修繕費を引いた純収益と、賃貸借契約・滞納・修繕といった不確実性の大きさです。その不確実性を資料でどこまで小さくできるかも、価格に響きます。入居中だから安い、空室にすれば高い、と一律には決まりません。

先に結論です。入居者がいるまま売る「仲介売却」、退去を待って売る「空室売却」、不動産会社へ直接売る「買取」。この3案は、売却価格ではなく最後に手元へ残る金額で比べてください。待っている間の家賃収入、原状回復費、敷金の清算、仲介手数料が案ごとに違うため、売却価格の差はそのまま手取りの差にはなりません。

どの案から検討するかは、いまの状況でおおむね決まります。

現在の状況最初に比較する売却方法判断の軸
賃料が相場並みで、入金・契約・修繕の記録がそろっている入居中のまま仲介で売るいまの安定収益を、そのまま価格に評価してもらえるか
ファミリー向け区分で賃料が低く、入居者から退去の予定を聞いている今売る場合と、入居者が自分の都合で退去した後に売る場合待つ間の収入と費用に対し、買主層が広がる分が見合うか
返済・相続・資金繰りで期限が決まっている仲介と、不動産会社による直接買取価格ではなく、期限内にいくら残るか
滞納、入居者トラブル、大規模修繕、サブリース(一括借上げ)がある投資用不動産に強い会社へ、事実を開示して査定を依頼問題を隠さず、価格と契約条件へ織り込めるか
現在の状況別に、最初に比較したい売却方法

図解|優先したい条件から売り方を絞る

家賃収入と資料が安定している
入居中のまま仲介し、いまの収益を投資家へ示す

具体的な退去予定がある
入居中と自然退去後の手取りを比べ、空室の需要を確かめる

売却期限を優先したい
仲介と直接買取を同時に取り、期限内の手取りで比べる

ただし、査定より先に相談したほうがよいケースもあります。売却代金でローンと売却費用を賄えそうにないなら、まず金融機関へ。滞納・紛争・無断増改築があるなら不動産会社と弁護士へ。消費税の判定が必要なら税理士へ。サブリースの解約を考えているなら、契約条項の確認が出発点になります。

準備は、退去交渉や値下げではなく資料集めから始まります。賃貸借契約書、直近の入金履歴、年間経費、修繕履歴、ローン残高。この5点をそろえ、同じ資料を複数社へ渡します。並べて見るのは査定額だけではありません。価格の計算根拠と、税金を納める前に手元へ残る見込み額まで比べて、はじめて売り方を選べます。

本記事は、日本国内の賃貸住宅を、競売ではなく売主と買主の合意で売る一般的なケースを想定しています。法人所有、非居住者、店舗・事務所、借地権、信託受益権、競売、入居者との紛争があるケースは、税理士・弁護士・司法書士・宅地建物取引士などへ個別にご確認ください。

目次

オーナーチェンジ物件は入居者がいても売却できる

オーナーチェンジとは、入居者との賃貸借契約をそのまま残したまま、賃貸中の不動産を売買することです。買主が引き継ぐのは建物と土地だけではありません。家賃を受け取る権利と、修繕対応や敷金返還といった貸主の義務も、セットで引き継ぎます。法律では、この権利と義務をまとめて「賃貸人の地位」と呼びます。

建物の引渡しを受けている入居者は、賃借権を登記していなくても、新しい所有者に対して「賃貸借契約は続いている」と主張できます(借地借家法31条)。法律上は、これを「賃貸借を対抗できる」といいます。この条件を満たす物件が売られると、家賃を受け取る権利も修繕義務も含めて、貸主の立場は原則として買主へ移ります(民法605条の2)。ただし、新しい所有者がその立場を入居者に主張するには、所有権移転登記が必要です。

裏を返せば、所有者が変わっただけで普通借家契約が終わったり、賃料や更新条件が自動的に変わったりすることはありません。貸主が更新を拒んだり解約を申し入れたりするには、建物を使う必要性、これまでの経緯、立退料の申出などから認められる「正当事由」が要ります。売却予定があるという理由だけで、入居者へ一方的に退去を求めることはできません(借地借家法27条・28条)。

入居者へオーナー変更を通知しなくても、貸主の権利と義務は原則として買主へ移ります。とはいえ、家賃の二重払いや、振込先変更を装う詐欺は防ぎたいところです。所有権移転登記と決済が済んだ時点で、新旧所有者の連名により次の内容を知らせるのが実務的です。

  • 所有者が変わる日
  • 新所有者と管理会社の名称・連絡先
  • 新しい家賃振込先と、変更が始まる月
  • 賃貸借契約がこれまでと同じ条件で続くこと
  • 敷金が新所有者へ引き継がれること
  • 修繕や緊急時の連絡先
  • 通知が本物か確認できる、旧管理会社などの窓口

売却活動で室内を見せたい場合も、所有者だから自由に立ち入れるわけではありません。室内撮影や内覧は、賃貸借契約を確かめたうえで、日時と範囲について入居者の同意を得て行うのが原則です。同意が得られなければ、外観・共用部・過去の写真・図面・修繕記録で状態を説明します。国土交通省の賃貸住宅標準契約書も、貸主の立入りには借主の事前承諾を求めています。

売却価格は「純収益」と「見えないリスク」で決まる

オーナーチェンジ物件に、全国共通の「空室価格から何割引き」という相場はありません。投資家が見るのは家賃の額そのものではなく、空室・滞納の起きやすさ、運営費、将来の修繕、契約条件、そして売りやすさです。

家賃収入から物件価格を考える代表的な方法が「収益還元法」です。国土交通省の不動産鑑定評価基準では、その一つである直接還元法を次の関係で示しています。

簡易収益価格 = 年間の純収益 ÷ 還元利回り

ここでいう純収益は、満室時の年間賃料そのものではありません。実際に見込める賃料などの収入から、管理費、修繕費、固定資産税などの税金、保険料、空室や家賃を回収できないリスクを差し引いた金額です。ローン返済額や売主個人の所得税は、物件そのものの収益力とは切り離して考えます。もう一方の還元利回りは、立地、築年数、売りやすさ、賃貸条件などのリスクを踏まえて買主が求める利回りです。

図解|家賃収入が売却価格の目安になるまで

① 年間収入を確認
契約上の賃料ではなく、実際の入金と空室を確かめる

② 年間経費を差し引く
管理費・修繕費・税金・保険料などを引いて純収益を出す

③ 還元利回りで割る
立地・築年・契約条件を反映した利回りで、価格の幅を見る

簡易計算で査定額の幅を確かめる

以下は計算方法を示すための仮の数字です。実在物件の相場や、特定地域の標準利回りを示すものではありません。

項目年額
賃料(月10万円×12か月)120万円
管理組合への管理費14.4万円
修繕積立金12万円
賃貸管理料6.6万円
固定資産税等8万円
保険料1万円
空室・修繕等の見込額6万円
年間運営費の合計48万円
純収益72万円
月額賃料10万円の物件における年間純収益の計算例

純収益が同じ72万円でも、買主が求める還元利回りしだいで収益価格は変わります。

仮定した還元利回り簡易収益価格
4.0%1,800万円
4.5%1,600万円
5.0%1,440万円
純収益72万円を前提にした簡易収益価格

4.0%なら1,800万円、4.5%なら1,600万円。わずか0.5ポイントの違いが、200万円の価格差になります。だからこそ「利回りは何%ですか」と聞くだけでは、査定の中身は分かりません。不動産会社には、採用した純収益、運営費、還元利回り、実際に売れた事例(成約事例)、将来の修繕をどこへ反映したかまで尋ねます。還元利回りは地域、用途、築年、売りやすさ、契約条件で動くもので、一律の数字はありません。

資料をそろえ、買主の値下げ材料を減らす

買主が確認できない事項は、最悪のケースを想定して価格から差し引かれがちです。資料をそろえれば必ず価格が上がる、とまでは言えません。それでも、買主が未確認のリスクを多めに見積もる余地は減らせます。

買主が警戒する点売主が示す資料・事実
本当にその家賃が入っているか賃貸借契約書と直近12〜24か月の入金履歴
退去後に賃料が下がらないか現行賃料と周辺募集賃料の差、契約開始日、更新履歴
滞納やクレームがないか滞納履歴、督促状況、対応記録、保証会社の契約
室内に大きな不具合がないか入居前写真、修繕履歴、設備交換記録、入居者からの修繕依頼
将来の支出が膨らまないか長期修繕計画、総会議事録、修繕積立金、見積書、法定点検記録
サブリースを外せるかオーナーとサブリース会社の契約(マスターリース契約)、賃料改定・解除・修繕負担の条項
買主が確認するリスクと、売主が用意したい資料

部屋ごとの賃料・契約期間・敷金などをまとめた一覧表を、レントロールといいます。見た目だけを整えても、賃貸借契約書や入金履歴と数字が合わなければ、かえって信用を落とします。契約賃料、実際の入金、預り敷金、滞納、一定期間の家賃を無料にするフリーレント、更新料を、同じ基準日でそろえてください。

入居中に売るか、退去を待つか、買取を使うか

「退去後のほうが高く売れそうだから待つ」。この判断には、売却価格以外の数字が抜けています。待つ間に得られる純収益、退去時の敷金返還と退去後の修繕(原状回復)、空室後の販売費、ローン残高の変化、税金。そして、退去時期が読めないというリスクです。

まず、3つの方法で何が違うのかをそろえます。

比較項目入居中のまま仲介自然退去後に仲介不動産会社が直接買取
主な買主層投資家自分で住む買主と投資家買取会社
想定期間販売状況による退去時期+販売期間条件が合えば比較的短い
価格が固まる時点買主との条件合意時退去後の室内確認・条件合意時買取査定と条件合意時
成立の前提収益と契約リスクを資料で説明できる入居者が自分の都合で退去し、空室後の需要も見込める価格より期限・確実性を優先できる
向きにくい条件自分で住む買主の需要が強く、現行賃料が低い退去時期が未定で、待つ余力がない手取り額を最優先したい
入居中売却・自然退去後売却・直接買取の比較

そのうえで、最後に残る金額を同じ式で比べます。

各方法の税引前概算手取り = 売却代金 + 待機中の純収益 - 売却費用 - 空室化・改修費 - 買主への敷金相当額の清算または入居者への敷金返還 - 決済時のローン返済額

名前のとおり、譲渡所得に対する税金を引く前の金額です。税金まで含めた最終的な手取りは、後述の「費用と税金」で計算します。

自分の数字を入れる3案比較シート

分からない項目を0円にすると、手取りを多く見積もってしまいます。未確認の項目は「未確認」と書いてください。売却価格や修繕費に幅があるなら、手取りが少なくなる場合・標準的な場合・多くなる場合の3通りで計算します。

入力・計算項目入居中のまま仲介自然退去後に仲介不動産会社が直接買取
想定売却価格__万円__万円__万円
売却までの待機月数__か月__か月__か月
月間純収益(ローン返済は引かない)__万円__万円__万円
待機中の純収益(待機月数×月間純収益)__万円__万円__万円
仲介手数料・印紙税・その他売却費用__万円__万円__万円
原状回復・販売準備費__万円__万円__万円
買主への敷金相当額の清算__万円0円__万円
入居者への敷金返還見込額0円__万円0円
売却時点のローン残高__万円__万円__万円
税引前概算手取り__万円__万円__万円
自分の数字を記入する3案比較シート

最後の行は「想定売却価格+待機中の純収益-売却費用-販売準備費-敷金の清算・返還-売却時点のローン残高」で計算します。売却時期がずれればローン残高も変わるため、3案すべてに同じ残高を入れないよう注意してください。

3つの売却方法を同じ条件で比べる例

次の数字は比べ方を示すための仮定であり、市場平均ではありません。上の記入シートと違い、案ごとの差が見えやすいよう、ローン残高と税金は除いて比べます。

  • オーナーチェンジで今売る場合の想定成約価格:1,600万円
  • 自然退去を1年間待った後の空室想定成約価格:1,900万円
  • 待機中1年間の純収益:72万円
  • 退去後の原状回復・販売準備費:80万円
  • 不動産会社の直接買取価格:1,450万円
  • 預り敷金:10万円
  • その他の決済関連費:各5万円と仮定
  • ローン残高、譲渡所得に対する税金、賃料・固定資産税等の清算は比較から除外
  • 売却代金は、仲介手数料の計算上、建物にかかる消費税相当額を含まない価格と仮定
比較項目入居中のまま仲介自然退去後に仲介不動産会社が直接買取
売却代金1,600万円1,900万円1,450万円
待機中の純収益0円+72万円0円
仲介手数料の上限例▲59.4万円▲69.3万円0円※
紙の売買契約書の印紙税▲1万円▲1万円▲1万円
その他の決済関連費(仮定)▲5万円▲5万円▲5万円
原状回復・販売準備費0円▲80万円0円
買主への敷金相当額の清算▲10万円0円▲10万円
入居者への敷金返還0円▲10万円※0円
譲渡所得税等・ローン返済前の比較額1,524.6万円1,806.7万円1,434万円
3つの売却方法を同じ条件で比べた計算例(▲は差し引く金額)

※直接買取は、買主との直接契約で仲介が入らない前提です。仲介会社や別の事業者が関与する場合は、手数料・業務委託料等の有無と上限を確認してください。退去後仲介では、滞納賃料や入居者負担の原状回復費との相殺がなく、敷金10万円を全額返還する前提としています。

表だけを見れば、自然退去後の売却が282.1万円多く残ります。ただし、売却価格の差は300万円ありました。待機中の収益と原状回復費が入ることで、差は約18万円縮んでいます。

しかも、この282.1万円は確定した金額ではありません。1年で退去することと、1,900万円で売れることが前提だからです。退去が延びる、相場が下がる、室内の傷みが想定を超える。どれか一つでも起きれば、差はさらに縮みます。

反対に、投資用ワンルームのように買主がもともと投資家中心の物件では、入居中で家賃の実績があること自体がプラスに働く場合もあります。ファミリー向け区分マンションで、現行賃料が低く、空室なら自分で住む買主に売れる物件とは、判断を分けて考えてください。

なお、更新のある普通借家契約の入居者へ退去を迫り、空室になる前提で計算するのは避けます。入居者から具体的な退去通知がなければ、退去時期は「未定」です。契約期間の満了で終了する定期借家契約でも、契約書面、事前説明、終了通知などの要件を個別に確認してください。

売却前にそろえる資料は5つのファイルに分ける

査定額の高さを比べる前に、買主が収益とリスクを自分で計算し直せる資料をそろえます。次の5つに分け、同じ基準日で更新すると整理しやすくなります。

ファイルそろえる資料確認するポイント
1. 権利・ローン登記事項証明書、登記識別情報(従来の権利証に代わる書類)、取得時の売買契約書、ローン残高・一括返済見込額所有者の住所氏名、共有、ローンの担保として登記された抵当権、決済で完済できるか
2. 賃貸借・入金賃貸借契約書、覚書、更新書類、レントロール(部屋別の賃料・契約一覧)、12〜24か月の入金履歴、敷金台帳、保証契約契約額と入金額の一致、滞納、フリーレント、普通借家・定期借家の別
3. 管理・支出管理受託契約、サブリース契約、管理費・修繕積立金、固定資産税、保険、光熱費、点検費解約・承継条件、賃料改定、実際の年間運営費
4. 建物・修繕図面、確認済証・検査済証、修繕履歴、入居前写真、設備表、長期修繕計画、総会議事録未修繕の不具合、近い将来の工事、一時金や値上げ予定
5. 税・決済取得費資料、減価償却台帳、購入時諸費用、譲渡費用の見積り、印鑑証明等の決済書類税務上の取得費、所有期間、概算手取り、紛失書類
オーナーチェンジ物件の売却前にそろえる資料

一棟物件なら、各戸の契約・入金・敷金を1行ずつ対応させます。区分マンションなら、管理組合への滞納、修繕積立金の改定予定、専有部と共用部の修繕区分を加えます。

入居者情報は、必要な範囲だけを段階的に開示する

入居者の氏名、連絡先、勤務先を、問い合わせ段階の相手へ無制限に渡してはいけません。初期の販売資料は部屋番号、賃料、契約期間、入金状況などにとどめ、個人を特定する情報は必要に応じて段階的に開示します。

個人情報保護委員会は、一定の条件を満たせば、購入希望者の調査に必要な賃借人の個人データを本人の同意なしに提供できるとしています(Q2-11)。ただし、利用目的や取扱方法、漏えい時の対応、交渉が不成立になったときの削除・返却などを、契約で定めることが前提です。

実務では、媒介会社と次の点を決めておきます。

  • 秘密保持の確認前後で、それぞれ開示する項目
  • 閲覧だけにする資料と、写しを渡す資料
  • 交渉終了時の返却・削除
  • 買主側で閲覧できる担当者
  • メール添付ではなく、アクセス制限付きで共有する方法

オーナーチェンジ売却は7段階で進む

一般的な売却手順に、賃貸借と収益の引継ぎが加わります。契約時に固めた数字は、決済直前にもう一度更新します。賃料も滞納も修繕状況も、その間に動くからです。

図解|オーナーチェンジ売却の7段階

① 目標を決める
最低手取り額と希望期限を決める

② 査定を比べる
同じ資料を複数社へ渡す

③ 売り方を選ぶ
仲介と直接買取を比較する

④ 買主へ開示
収益・契約・修繕の情報を伝える

⑤ 売買契約
引継ぎと、変動が起きたときの処理を決める

⑥ 決済・登記
代金・ローン・敷金・資料を清算する

⑦ 売却後
入居者へ通知し、確定申告を準備する

1. 最低手取り額と期限を決める

売却代金から、仲介手数料、ローン返済、抵当権抹消等、敷金清算、税金を差し引きます。査定額がローン残高と売却費用の合計を下回りそうなら、売り出す前に金融機関へ一括返済額と抵当権抹消の条件を確認してください。自己資金で不足を補えない場合、通常の売却では決済できない可能性があります。

2. 同じ資料で複数社へ査定を依頼する

各社へ違う数字を渡すと、返ってきた査定額を比べられません。基準日をそろえたレントロール、入金履歴、運営費、修繕資料を渡し、次の内訳を出してもらいます。

  • 年間総収入と純収益
  • 採用した還元利回り
  • 比較した投資用物件の成約事例
  • 想定する買主層と販売方法
  • 売出価格、成約予想価格、価格を見直す時期
  • 売主の税引前概算手取り

根拠のない高値の査定より、賃料が下がった場合や修繕費が増えた場合の価格の幅まで示す査定のほうが、売却判断には役立ちます。

3. 仲介か買取かを選び、仲介を依頼する契約を結ぶ

価格を優先し、販売期間の幅を受け入れられるなら仲介が第一候補です。期限と成立の確実性を優先するなら、不動産会社へ直接売る買取も比較に入ります。買取では、価格だけでなく、物件や権利が契約内容と違っていたときに売主が負う「契約不適合責任」の範囲、室内に残された家具・ごみ(残置物)や修繕の扱い、手数料、決済日、減額条件まで確認します。

仲介を選ぶなら、不動産会社へ正式に依頼する「媒介契約」の種類や名称だけで決めないでください。投資用不動産の買主へ情報を届ける販売網があるか、レントロールを読み解けるか、購入検討者への資料開示を安全に管理できるか。判断材料はそちらにあります。

4. 販売と買主の調査に対応する

外観・共用部を案内し、資料や融資に必要な書類を提供して、買主からの質問に答えます。室内を確認できない部分は「問題なし」と断定せず、確認できた範囲、過去の記録、未確認の事項を分けて伝えます。

売却理由を聞かれたら、資産の組み替え、相続、返済、管理負担といった事実を簡潔に答えます。滞納、修繕、近隣トラブルが理由なら、その事実と現在の対応状況を開示します。説明を整えることと、問題を隠すことは別です。

5. 売買契約で、引継ぎと変動時の処理を決める

売買価格と引渡日だけでは足りません。少なくとも次の事項について、契約書・付属資料・表明保証(契約の前提となる事実を当事者が確認し、保証する条項)のどこに定めるかを確認します。

  • 賃貸借契約、更新・解約通知、滞納の一覧
  • 敷金・保証金の金額と清算方法
  • 決済日前後の賃料、共益費、固定資産税等
  • 決済前に退去・新規入居・滞納・設備故障が起きた場合の扱い
  • 未収賃料を売主が回収するか、回収権を買主へ移す「債権譲渡」をするか
  • 管理受託、家賃保証、サブリースの承継・解約
  • 修繕依頼、クレーム、事故、保険請求の処理
  • 買主へ渡す原本、鍵、データと、その引渡期限
  • 契約不適合責任や表明保証の範囲

レントロールは契約日の状態で確定させ、決済直前に差分を再確認します。契約から決済までに状況が変わったとき、売買代金を調整するのか、契約を解除できるのか、現状のまま引き継ぐのか。先に決めておくほど、後で揉めません。

6. 決済・登記・ローン完済・資料引渡しを同じ日に行う

決済日には、残代金の受領、ローン完済、抵当権抹消に必要な書類の交付、所有権移転登記、鍵と管理資料の引渡し、賃料・敷金等の清算を行います。抵当権抹消書類の交付には金融機関との事前調整が必要なので、決済日が決まる前から手続と必要日数を確認しておきます。

7. 入居者・管理関係者へ通知し、確定申告を準備する

登記と決済が済んだら、新旧所有者の連名で入居者へ通知します。管理会社、家賃保証会社、サブリース会社、管理組合、保険会社にも、契約に応じて変更手続を行います。

売却した翌年の確定申告に備え、売買契約書、取得費・減価償却の資料、仲介手数料、印紙税、譲渡費用の領収書、清算書は一つにまとめて保存しておきます。

何が自動で引き継がれ、何を契約で決めるか

引継ぎで混乱しやすいのは、法律上そのまま買主へ移るものと、売買契約でお金の清算や引継ぎ方を決めるものが、同じテーブルに並んでいるからです。

図解|引継ぎは決済・登記を境に考える

売買契約まで
賃料・敷金・滞納・修繕・管理契約の現状を確定する

決済・登記の日
売買代金、賃料、敷金、ローンを清算し、所有権を移す

決済・登記の後
入居者と管理関係者へ、新所有者・振込先・連絡先を知らせる

項目原則的な扱い売買時に決めること
貸主としての立場(賃貸人の地位)入居者が新所有者にも契約の継続を主張できる賃貸借では、原則として買主へ移る効力発生日、登記、通知
賃貸借契約これまでと同じ条件で継続原本・覚書・更新書類の引渡し
敷金を入居者へ返す義務(敷金返還債務)買主が引き継ぐ敷金相当額を売主から買主へどう清算するか
貸主の立場が移った後に発生する賃料新しい貸主が受け取る引継ぎ日、日割り・月割りの基準、振込切替日
貸主の立場が移る前に発生した未収賃料売主側に残るのが原則売主が回収するか、債権譲渡するか
修繕依頼・クレーム発生時期だけでは負担者が決まらない費用負担、対応主体、価格調整
管理受託・家賃保証自動で引き継がれるとは限らない別契約契約上の立場の引継ぎ、管理会社等の承諾、中途解約、違約金、再契約
サブリースオーナーとサブリース会社の契約(マスターリース)の条件が収益を左右する賃料改定、解除、修繕負担、書類交付
法律上引き継がれるものと、売買契約で決めるもの

敷金を返す義務は、民法605条の2第4項により新所有者へ移ります。ここで注意したいのは、売主と買主の間で敷金相当額を清算し忘れても、買主が入居者に対して負う返還債務は消えないことです(民法622条の2)。預り敷金の残高を部屋ごとに確定し、売買代金とは別に清算欄を設けてください。

一方、貸主の立場が移る前に発生した滞納賃料は、所有権と一緒に当然に買主へ移るわけではありません。買主へ回収権を移すなら、売買契約で対象債権を特定し、民法467条に基づく債権譲渡の通知・承諾などを整えます。

管理受託契約や家賃保証契約も、貸主が変わったからといって自動では引き継がれません。所有者変更、契約上の立場の引継ぎ、中途解約、管理会社等の承諾、違約金の条項を読み、新所有者が引き継ぐのか、新たに契約し直すのかを決めます。

サブリース物件では、入居者に対する直接の貸主は通常サブリース会社です。新所有者はマスターリース契約の貸主側を引き継ぐため、サブリース賃料、改定条項、中途解約、違約金、修繕負担が査定価格へ反映されます。「所有者が変われば自由に解約できる」とは限りません。国土交通省も、賃料減額や契約解除などのリスクを示しています。

費用と税金は「決済日に残る金額」と「最終手取り」を分ける

決済日に口座へ入った金額が、そのまま手元に残るわけではありません。譲渡所得に対する税金は後から納めるため、その分を別に取り分けておく必要があります。

図解|売却代金から最終手取りまで

① 売却代金
買主から受け取る物件の代金

② 決済日に残る金額
売却代金からローン返済・仲介手数料・敷金清算などを引く

③ 最終手取り
決済日に残る金額から、売却後に納める税金を引く

決済日に残る金額 = 売却代金 - ローン返済 - 仲介手数料などの決済時支出
最終手取り = 決済日に残る金額 - 売却後に納める税金

3案比較で使った「税引前概算手取り」は、この決済日に残る金額に、待機中の家賃収入や原状回復費を加減したものです。売り方を選ぶ段階では税引前で比べ、最終的な資金計画は税引後で立てる。この使い分けをしておくと、数字が混ざりません。

売却時に見込む主な費用

費用計算・確認方法
仲介手数料売買価格が400万円を超える一般的な取引では、消費税相当額を除く売買代金×3%+6万円に消費税を加える速算式で上限額を概算できる
印紙税紙の売買契約書に必要。2027年3月31日までの軽減税率では、1,000万円超5,000万円以下は1万円
抵当権抹消・住所変更等登録免許税と司法書士報酬。必要な登記と不動産の個数で変わる
ローン関係一括返済額、繰上返済手数料、金融機関の手続費用
調査・修繕等測量、境界、点検、買主と合意した修繕など、物件ごとに異なる
オーナーチェンジ物件の売却で見込む主な費用

仲介手数料の速算式で出るのは上限額であり、必ずその額を支払うという意味ではありません。売買代金800万円以下の宅地・建物には、使用状態を問わず税込33万円までとなる特例もあるため、媒介契約を結ぶ前に報酬額を確認してください。印紙税の軽減期間と税額も、契約日と契約金額で確認します。

登記についても、2026年4月1日から不動産所有者の氏名・住所の変更登記が義務化されました。同日以後の変更は変更日から2年以内、同日より前の未登記の変更は2028年3月31日までに申請が必要です。登記簿の住所・氏名が現在の情報と違う場合は、所有権移転登記に先立つ変更登記について司法書士へ確認してください。

個人が売却した場合の譲渡所得

個人が土地・建物を売却した場合の基本式は次のとおりです。

税金の対象となる売却益(課税譲渡所得)= 売却代金など(譲渡価額)-(取得費 + 売るために直接かかった費用)- 適用できる特別控除

2026年に売却する一般的な個人の税率は、売却年の1月1日時点の所有期間で分かれます。

区分所有期間所得税・復興特別所得税・住民税の概算合計税率
長期譲渡所得5年を超える20.315%
短期譲渡所得5年以下39.63%
2026年に個人が売却する場合の長期・短期譲渡所得の税率

2026年中の売却なら、原則として2020年12月31日以前に取得した土地・建物は長期、2021年1月1日以後に取得したものは短期です。相続・贈与で取得した場合は、原則として前所有者の取得時期を引き継ぎます。

賃貸物件で見落としやすいのが取得費です。建物の取得費からは、所有期間中に経費として計上してきた減価償却費を差し引きます。そのため、購入価格より安く売っても、税務上の取得費が下がっていて売却益が出ることがあります。取得費が分からないときは、売却代金などの5%を概算取得費にできる場合がありますが、税額は大きくなりがちです。まずは購入時の契約書や通帳、ローン資料を探してください。

譲渡費用にできるのは、仲介手数料や売主負担の印紙税など、売るために直接かかった費用です。修繕費や固定資産税といった維持管理費は、原則として譲渡費用になりません。

税引後手取りの計算例

以下は、個人が2026年に物件を売却し、長期譲渡所得に該当するものとして、特例を使わずに計算した仮の例です。売却代金5,000万円は、仲介手数料の計算上、建物にかかる消費税相当額を含まない価格と仮定します。

項目金額
売却代金5,000万円
決済時のローン返済▲1,800万円
仲介手数料の上限例▲171.6万円
印紙税▲1万円
抵当権抹消の登録免許税(土地・建物の2個と仮定)▲0.2万円
司法書士報酬(仮定)▲3.3万円
繰上返済手数料(仮定)▲5.5万円
敷金清算▲60万円
売却代金5,000万円の税引後手取り計算例(▲は差し引く金額)

税務上の調整後取得費を3,400万円、明確な譲渡費用を仲介手数料と印紙税の計172.6万円とすると、課税長期譲渡所得は次のようになります。

5,000万円 - 3,400万円 - 172.6万円 = 1,427.4万円

概算税額は、1,427.4万円×20.315%=約290万円。したがって、税引後の概算手取りはこうなります。

5,000万円 - 1,800万円 - 171.6万円 - 1万円 - 0.2万円 - 3.3万円 - 5.5万円 - 60万円 - 約290万円 = 約2,668.4万円

ここで一つ、混同しやすい点があります。ローン返済、抵当権抹消費、繰上返済手数料、敷金清算は手取りを減らしますが、この例では譲渡費用に含めていません。税務上の扱いと、口座に残る金額の計算は別ものだと考えてください。

なお、純粋な投資物件に、マイホームの3,000万円特別控除は通常使えません。ただし、以前の自宅を賃貸に出したケースなら、住まなくなった日や売却期限などの要件を満たす可能性があります。「オーナーチェンジだから対象外」と決めつけず、国税庁の適用要件を確認してください。

建物の消費税は「個人だから不要」とは限らない

土地の譲渡は消費税の非課税取引です。一方、住宅賃貸用・店舗賃貸用など事業に使っていた建物の売却は、個人であっても消費税の課税対象取引になり得ます。実際に納税義務があるかどうかは、過去の課税対象となる売上高、適格請求書発行事業者(インボイス)の登録、消費税を納める課税事業者を選択しているかなどで変わります。

住宅家賃が消費税非課税だからといって、建物の売却まで自動的に非課税になるわけではありません。土地と建物を一括で売る場合は、契約上の価格配分も含めて、契約前に税理士へ確認してください。

固定資産税・都市計画税の清算金にも注意が必要です。売主が買主から受け取る、売却日以後の期間分にあたる清算金は、所得税の計算では売却代金などの一部として扱われます。

売れないときは、値下げの前に原因を切り分ける

反響がないからといって、すぐ値下げするのは早すぎます。そもそも物件が見られていないのか。問い合わせ後の資料確認で止まるのか。融資で止まるのか。どこで止まっているかによって、打つ手は変わります。

止まっている段階主な原因最初の対処
閲覧・問い合わせが少ない利回りに対して価格が高い、投資家へ届いていない競合する投資用不動産との利回り・価格を再比較し、販売先を点検
問い合わせ後に検討が進まないレントロール、修繕、滞納、室内状態が不明原契約と入金履歴をそろえ、未確認の事項を明示
購入申込価格(買付価格)だけが低い買主が修繕・空室・サブリースのリスクを大きく見積もっている値引きの内訳を聞き、事実で消せるリスクと消せないリスクを分ける
融資で否決される物件評価、違法状態、収支、買主の年収・資産・借入状況など否決理由を可能な範囲で確認し、現金で買える層や別の融資先を使える買主へ切替
期限までに成約しない価格と期限の条件が両立していない仲介の価格見直しと、直接買取の税引前手取りを同時に比較
オーナーチェンジ物件が売れないときの原因と対処

空室を埋めれば必ず売れる、というものでもありません。相場より高い賃料、長いフリーレント、過大な広告料で売却直前に入居を付けると、買主は「その家賃が今後も続くのか」「募集費がまたかかるのではないか」と慎重になります。短期的な満室表示より、相場とかけ離れていない賃料が安定して入金されている履歴のほうが、説明しやすい場面もあります。

修繕も同じです。安全性や漏水など放置できない不具合には対応が必要ですが、売却前の大規模な改装費を、そのまま価格へ上乗せできるとは限りません。工事を発注する前に、現状のまま売る、修繕してから売る、買主負担として価格を調整する。この3案で査定してもらってください。

不動産会社は査定額の高さだけで選ばない

オーナーチェンジ売却で効いてくるのは、居住用物件の取扱件数よりも、家賃収入や経費の資料を読み解く力と、投資家へ情報を届ける販売網です。候補の会社には同じ質問をし、回答を並べて比べます。

  1. 査定に使った純収益と還元利回りはいくらですか。
  2. その利回りは、どの地域・築年・物件種別の成約事例を根拠にしていますか。
  3. 売出価格と成約予想価格を分けると、いくらですか。
  4. 区分、一棟、サブリース付きなど、同じ条件での成約経験はありますか。
  5. 想定する買主は、個人投資家、法人、買取業者のどこですか。
  6. 買主へ最初に渡す資料と、秘密保持の確認後に渡す資料をどう分けますか。
  7. 契約から決済までに退去・滞納・故障が起きた場合、契約書でどう扱いますか。
  8. 敷金、未収賃料、管理契約、サブリースは、どう清算・引継ぎしますか。
  9. 価格を見直す判断日と、そのとき使う指標は何ですか。
  10. 仲介と買取の税引前概算手取り、減額条件、決済可能日を並べて示せますか。

高い査定額を出した会社が、高く成約させる会社とは限りません。売出価格、成約予想価格、買取価格を分けて聞き、成約までの条件と手取りで比べてください。

オーナーチェンジ物件の売却でよくある質問

敷金台帳と通帳の残高が合わない場合はどうしますか?

部屋ごとに、契約書、入金、過去の充当・返還を照合します。差額を0円扱いにしたり、「不明」のまま買主へ引き継いだりしてはいけません。それでも解消できない差は、金額と確認できなかった理由を開示し、売主・買主間の清算方法を契約で決めます。

今の管理会社との契約も買主へ自動で移りますか?

自動では移りません。管理受託契約上の立場を引き継げるか、管理会社の承諾が必要か、中途解約や違約金の条件はどうなっているかを確認します。そのうえで、引継ぎ・終了・新規契約のどれにするかを、管理会社と買主を交えて決めます。

決済直前に滞納が発生したらどうしますか?

決済直前の基準日で入金を再確認し、売主が回収するのか、買主へ債権譲渡するのかを決めます。債権譲渡にするなら、対象債権を特定し、入居者への通知・承諾などの手続も整えます。買主の収支の前提が変わるため、必要に応じて価格や決済条件も再協議します。

取得時の売買契約書が見つからない場合はどうしますか?

取得費が分からない場合、売却代金などの5%を「概算取得費」として使えることがあります。ただし、税額が増えやすい方法です。購入時の仲介会社、金融機関、通帳、登記関係書類などから実額を裏付ける資料を探し、どれが取得費の証拠に使えるかを税理士や税務署へ確認してください。

売却活動中に入居者が退去したらどうなりますか?

買主にとっての前提が変わるため、価格や契約条件の再確認が必要です。売買契約前なら、販売方法を空室向けへ切り替えるかを判断します。契約後なら、退去・新規募集・原状回復・価格調整・解除の扱いを契約条項に従って処理します。契約書に定めがなければ、仲介会社と弁護士へ早めに相談してください。

まとめ

オーナーチェンジ物件は、入居者がいるまま売却できます。最初にすべきことは、値下げでも退去交渉でもありません。賃貸借契約書、入金履歴、年間経費、修繕履歴、ローン残高をそろえ、入居中の仲介、自然退去後の売却、直接買取の税引前概算手取りを、同じ条件で並べることです。価格を決める中心にあるのは、いまの家賃から残る純収益と、契約・滞納・修繕をめぐる不確実性でした。資料でその不確実性を小さくすることが、そのまま価格の交渉材料になります。

ただし、査定額がローン残高と売却費用を下回る、滞納・紛争がある、サブリースを外す前提でなければ売れない、消費税や譲渡所得の判断が難しい。このいずれかに当てはまるなら、売り出す前に一度立ち止まってください。金融機関や、該当分野の税理士・弁護士・司法書士に確認してから進めるほうが安全です。

参考資料

※法令・税制・公的資料は2026年7月24日に確認しています。個別の契約・税務判断は、最新資料と事実関係に基づいて専門家へご確認ください。

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