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境界未確定の土地は売却できる?確定測量をせずに売る条件と越境時の対処法

庭を探しても境界の杭が見つからない。測量図も出てこない。隣の人と境界を確認した記憶もない。それでも、法務局が一つの番号(地番)で管理している土地を、まとめて売る契約はできます。土地を売るなら必ず確定測量をしなければならない、という決まりはありません。

問題は別のところにあります。測量を省くことと、境界の状態を伝えないことは、まったく違います。境界を示す杭・鋲・プレート(境界標)が見つからない、隣地所有者の確認を得ていない、塀や建物が隣地に出ている。こうした事実をあいまいにしたまま売り出すと、買主が集まらず、値下げを求められ、引渡し後のトラブルにもつながります。

ですから、最初に決めるのは「売れるか、売れないか」ではありません。どこまで調べ、何を買主に伝え、まだ分からない部分を誰が引き受けるかです。

先に結論

  • 過去の図面と現地が合い、隣人との争いや重大な越境がなく、買主も納得しているなら、確定測量をせずに売れる場合があります。
  • 境界の位置について隣人と意見が違う、土地の一部だけを売る、建物本体や土を支える壁(擁壁)の越境が疑われる。このいずれかに当たるなら、売り出す前に境界を整理するほうが安全です。
  • 見通しが立たない段階で「引渡しまでに確定測量を終える」と約束してはいけません。約束どおりに終わらなければ、売主の契約違反になるおそれがあります。

この記事でいう「確定測量」は、隣地所有者や、道路・水路などの管理者と境界を確認し、測量図と境界確認書を作るところまでの実務を指します。図面の呼び名だけでは、どこまで確認済みなのか分かりません。依頼するときは「どの境界を確認し、どの書類を受け取れるか」まで確かめてください。

境界が未確定でも取引できるという点は、行政の案内でも同じです。埼玉県の宅地建物取引業に関するFAQは、境界が未確定という理由だけで取引できないとはしていません。そのうえで宅建業者には、境界標の有無、境界確定の状況、越境、将来の紛争リスクを調べ、未確定のまま取引するなら買主に生じる不利益を説明するよう求めています(埼玉県「宅地建物取引業に関するよくある質問」2ページ)。測量は省けても、調査と説明は省けないということです。

扱うのは、個人が日本国内の宅地または宅地付き戸建てを売る場面です。農地、山林、借地、共有者どうしで争っている土地、法人間の取引になると、必要な手続や確認事項が変わります。

目次

まずは3段階で判断する|境界未確定の土地売却フロー

杭が一つ見つからないだけの土地と、隣の人が別の線を主張している土地では、やるべきことがまるで違います。前者は図面から元の位置を復元できる可能性がありますが、後者は測量しても決着しません。次の順に確認すると、最初の相談先と売り方が絞れます。

  1. 争い・重大な越境・分筆の予定があるか
    あるなら、売却活動より先に土地家屋調査士へ相談します。所有権や撤去をめぐって対立しているなら、弁護士にも相談してください。
  2. 信頼できる図面と境界標が残っているか
    残っているなら、いきなり全面的な確定測量を頼む必要はありません。資料と現地が合っているかを、土地家屋調査士に見てもらいます。
  3. 買主が未確定部分を理解し、利用・融資の条件にも合うか
    合うなら、境界を現地で示さない「境界非明示」や、登記面積を基準にする「公簿売買」で進められます。未確認事項と買主が引き受ける範囲は、必ず書面に残してください。
現在の状態最初にすること売却方針の候補
境界標だけが一部見つからない
信頼できる図面・確認書はある
資料と現地が合うか確認する境界標を元の位置に戻す作業や一部測量で足りるか検討
図面・確認書がない
隣人との争いは見当たらない
資料調査と現況測量の見積もりを取る確定測量後と現況のままの売却を比較
隣人が立ち会わない
または連絡先が分からない
土地家屋調査士に資料と代替手続を調べてもらう法務局が登記上の境界を調べる筆界特定なども含め、期限から逆算
境界位置の主張が食い違う自分で杭を打ったり、塀を動かしたりしない土地家屋調査士・弁護士へ先に相談
建物・塀・配管などの越境がある何が、どちらから、どこまで越えているか記録する解消、覚書、買主への引継ぎを検討
境界の状態別に見た、最初の対応と売却方針

表のどこにも当てはまらないと思っても、次の2つがあれば売り出しを止めてください。

  • 法務局の図面、過去の測量図、現地の境界標が互いに合わない。境界の位置そのものが分かっていない状態です。
  • 買主が「決済までに確定測量図をもらえること」を購入条件にしている。売主が守れない約束になりかねません。

境界未確定でも売却できるが、契約条件は細かく決める

売買する面積を登記簿の数字にするか、実際に測った数字にするかは、売主と買主で決められます。ただ、面積の決め方を選んでも、現地で境界を示すかどうか、越境をどう処理するかは決まりません。契約書でよく使われる次の4つの言葉は、どれも守備範囲が狭いのです。

用語簡単にいうとその言葉だけでは決まらないこと
公簿売買登記簿に記録された面積を基準に売買し、実測との差額を精算しない現地で境界を示すか、越境をどう扱うか
実測売買実際に測った面積を基準に代金を精算するどの測量図を使うか、すべての境界が確認済みか
境界非明示売主が現地で境界点を示さない境界や越境の説明責任がすべてなくなるか
現況有姿現在の状態を前提に引き渡す売主が知っている問題の告知や責任が当然になくなるか
公簿売買・実測売買・境界非明示・現況有姿の違い

右の列が空白のまま残るので、契約書に「公簿売買」「境界非明示」「現況有姿」と書き込むだけでは足りません。未確認の境界点、境界標の有無、渡す図面、越境の状況、引渡しまでに行う作業、その作業が終わらなかった場合の扱いまで、一つずつ決めていきます。

確定測量図を渡すと約束した後では、省略できない

売買契約で確定測量図の交付や境界明示を約束すると、その時点で「できれば行う作業」ではなく、売主が守るべき契約条件になります。

不動産適正取引推進機構が紹介した裁判例(RETIO No.136)では、売主が確定測量図を渡す条件で契約したものの、隣地所有者の協力を得られず、図面を交付できませんでした。裁判所は図面の交付を契約の重要な要素とみなし、買主による契約解除と違約金などの請求を認めています。

やっかいなのは、隣の人が立ち会うかどうかを売主が決められない点です。確定測量を契約条件にするなら、契約前に土地家屋調査士へ相談し、必要な立会い、道路・水路など公有地の管理者との協議、完了の見込み、そして終わらなかった場合の解除や代替条件まで確かめてください。

未確定だと伝えても、説明不足なら責任問題になり得る

引き渡した土地が契約内容に合っていない場合、買主は状況に応じて、契約どおりにするよう求めること(追完)、代金減額、損害賠償、契約解除などを求められます。これが「契約不適合責任」です(民法562条〜564条)。

「境界は未確定です」と伝えれば、それで責任がなくなるわけではありません。売主が知っている越境、過去の境界協議、隣人から受けた異議、境界標を動かした経緯は、買主へ書面で伝えます。売主の責任を限定する特約を付けていても、知りながら告げなかった事実については責任を免れないことがあります(民法572条)。

「境界未確定」と「筆界未定地」は同じではない

この2つは、言葉が似ているだけで中身が違います。境界標が見つからない土地と、登記上の境界を公式に確認できない土地は別ものです。ここを混同すると、必要のない大がかりな手続を選んだり、反対に必要な調査を飛ばしたりします。

筆界と所有権界の違い

  • 筆界:土地が登記されたときに決められた、登記上の区画を示す線
  • 所有権界:実際に所有権が及ぶ範囲を示す線

多くの場合は一致します。ただし、土地の一部を売買した場合や、長年占有したことで所有権を得る「時効取得」が成立した場合などは、ずれることがあります。筆界は、隣り合う所有者が合意しても自由に動かせません。反対に、筆界の位置が分かったからといって、越境物を誰が所有し、誰が撤去するのかまで自動的に決まるわけではありません(法務省「筆界特定制度」)。

筆界未定地は、単に測量図がない土地ではない

「筆界未定」とは、地籍調査で必要な手続を進めても、所有者の確認を得られないなどの理由で、隣り合う土地の筆界を確認できなかった状態を指します(国土交通省「地籍調査における筆界未定」参考資料)。

つまり、境界標がない、確定測量図を持っていないというだけでは、正式な意味の筆界未定地に当たりません。まず法務局の資料を取得し、土地家屋調査士に現在の状態を見てもらってください。

境界資料は「あるか」ではなく「何を確認できるか」で見る

押し入れから測量図が一枚出てくると、これで足りると思いがちです。ところが、図面の名前だけでは、誰がどの境界点を確認したのかは分かりません。隣の人が一度も見ていない図面もあります。

資料主に確認できることその資料だけでは分からないこと
土地の登記事項証明書所在地、地番(土地の番号)、地目(登記上の用途)、登記面積、所有者、権利現地の境界点がどこにあるか
法務局の地図(14条地図)土地の位置や区画を、現地に再現できる精度で示す情報現在の塀・建物・越境の状況
地図に準ずる図面(一般に公図)土地の並び方や地番の概略現地に境界を再現できるほどの精度があるか
地積測量図作成時点の土地形状、辺の長さ、面積、座標など現在の隣地所有者全員が境界を確認済みか
現況測量図塀、建物、既存杭など、現在の利用状況と寸法隣地所有者との合意や筆界の確定
確定測量図・境界確認書関係者が確認した境界点、測量結果、合意の記録対象外の境界がないか、作成後に現地が変わっていないか
境界に関する主な資料と、資料だけでは判断できないこと

注意したいのは公図です。土地の並び方を調べるには役立ちますが、現地で境界を正確に復元できるとは限りません。法務省も、精度の高い地図が整備されるまでの代わりとして備え付けられている公図には、現地を再現できるほどの精度がないものがあると説明しています(法務省「法務局地図作成事業の推進」)。

見つかった図面は、次の6点で確かめます。

  1. 誰が、いつ作った図面か
  2. 座標や基準点から境界標を再現できるか
  3. 隣地所有者と、道路・水路などの管理者が確認しているか
  4. 現地の境界標、塀、建物と図面が合っているか
  5. 作成後に分筆、合筆、面積の訂正、建替え、塀の作り直しがないか
  6. 越境についての覚書や別紙がないか

全宅連の重要事項説明書の様式では、すべての隣地所有者の立会いを得て、道路・水路などの公有地に接する場合はその管理者とも境界を確認した図面を「確定測量図」と呼んでいます。手元の図面がこの名前でも、署名した人、対象となる土地と境界点、公有地との確認範囲まで見てください(全宅連「重要事項説明書・土地建物の売買・交換用」2ページ)。

確定測量をせずに売るかは、7つの条件で決める

「測量費を節約したい」という理由だけで決めると、買主が限られ、値下げや契約後の負担が測量費を上回ることがあります。実際の判断材料は、手元の資料、隣人との関係、買主の使い道、そして契約でどこまで約束するかです。

確定測量をせずに売る余地がある

  • 信頼できる測量図・境界確認書と、現地の境界標が合っている
  • 資料、現地、売主への聞き取りを照らしても、境界への異議や越境の兆候がない
  • 一つの地番で登記された土地全体をそのまま売る
  • 登記面積を基準にし、実測との差額を精算しない
  • 越境がない、または位置と処理方法が書面で整理済み
  • 買主の建築・融資計画が確定測量図を前提にしていない
  • 売主が確定測量図の交付や境界標の新設を約束しない

先に測量・境界整理を検討する

  • 図面がない、作成経緯が分からない、図面と境界標が合わない
  • 隣地所有者が別の境界位置を主張している
  • 土地の一部を売るための分筆や、登記面積の訂正を予定している
  • 実測面積と単価で売買代金を精算する
  • 越境の有無・範囲が分からない、建物本体や擁壁の越境が疑われる
  • 買主や金融機関が、建築・分筆・融資のために確定測量図を求めている
  • 引渡しまでの確定測量図の交付や境界明示を、契約条件にする

これは点数表ではありません。右側に重大な事情が一つでもあれば、ほかの条件がそろっていても調査を先にします。とくに境界位置の対立、分筆、建物本体の越境がある場合は、現況のまま売り出さず、先に専門家へ相談してください。

なお、土地の一部を売るには、通常は分筆登記が必要です。分筆とは、一つの土地を登記上いくつかに分ける手続です。法務省も、分筆や登記面積を正す「地積更正」では、筆界を明らかにして土地を測り、地積測量図などを作る必要があると案内しています(法務省「隣の土地の所有者が分からなくてお困りの方へ」)。

境界未確定の土地を売却する4つの方法

売り方は「測量する・しない」の二択ではありません。手元の資料が使えるか、争いがあるか、どんな買主を想定するかによって、選べる道が4つに分かれます。

売却方法向いている状態主な利点注意点
確定測量後に仲介で売る資料が不足し、買主が建築・融資・分筆を予定している買主が土地の利用範囲を判断しやすい費用と期間がかかり、隣人の協力を得られるとは限らない
既存資料を検証し、必要な範囲だけ測る信頼できる図面と境界標があり、争いがない全面的な確定測量をやり直さずに済む可能性がある土地家屋調査士による資料と現地の照合が必要
境界非明示・現況で売る買主が未確定部分と将来の負担を理解し、土地全体を登記面積で買う測量完了を待たずに進められる買主が限られ、価格や契約条件にリスクが反映されやすい
境界問題を解決してから売る境界位置の対立、筆界未定、重大な越境がある売却後に紛争を持ち越しにくい筆界特定、話し合い、訴訟などに時間と費用がかかる場合がある
境界未確定の土地を売る4つの方法

1.確定測量を終えてから仲介で売る

個人の買主も広く対象にして、土地を使える範囲をはっきりさせたい場合に向きます。買主が住宅を建てる土地、分けて使う予定の土地、面積差が価格へ大きく響く土地では、確定測量図が買主の判断材料になります。

測量の結果、登記面積との差が見つかっても、必ず登記を直すわけではありません。差の内容と売買条件をもとに、地積更正が必要かどうかを土地家屋調査士と不動産会社に判断してもらいます。

2.既存資料を確認し、必要な範囲だけ測る

過去の確定測量図、境界確認書、現地の境界標がそろっているなら、土地家屋調査士が資料と現地を照合し、足りない部分だけを測る方法があります。境界標が一部なくても、図面の座標から元の位置を再現できることがあります。

「古い図面だから使えない」「境界標が一つないから全面測量が必要」と決まっているわけではありません。逆に、新しく見える図面でも、隣人の確認を得ていない現況測量図かもしれません。図面の名前ではなく、「誰が、どの境界点を確認したか」で判断します。

3.境界を現地で示さず、現在の状態で売る

買主が未確定の範囲を理解し、使い道や資金調達にも支障がなければ、境界非明示のまま売れる場合があります。仲介で買主を探す方法と、不動産会社などに直接売る買取が候補です。

ただし買取なら測量が不要になる、とは限りません。次の2種類の価格は、混同しないでください。

  • 売主が確定測量や越境解消を終えた後の買取価格
  • 境界を示さない現在の状態で、残る調査・解決費用を買主が負担する買取価格

比べるのは価格だけではありません。調査後の減額・撤回条件、測量費、越境対応、置いたままの家具やごみ(残置物)、契約不適合責任、決済日をそろえて並べます。「そのまま買取」という広告文からは、売主の負担が読み取れないからです。

4.境界問題を整理してから売る

隣地所有者と合意できないときは、何を争っているかで手続を選びます。

  • 登記上の筆界を公的に明らかにしたい:法務局の筆界特定制度
  • 所有権の範囲や越境を含めて話し合いたい:土地家屋調査士会の境界問題相談センターなどによる裁判外の話し合い
  • 最終的な法的判断が必要:境界確定訴訟、所有権確認訴訟など

筆界特定制度は、資料調査や測量をもとに、土地が登記されたときの筆界を法務局が明らかにする手続です。新しい境界を作る制度ではなく、所有権の範囲を確定する制度でもありません。売却期限があるなら、管轄法務局の標準処理期間を確認し、間に合わないなら売却先や契約条件を見直します。

越境したまま売却するなら、方向と処理方法を明確にする

越境があっても、現状と処理方法を売主・買主・隣地所有者の間で明確にできれば売却できます。ただし、基準になる境界線が分からなければ、そもそも越えているのかどうかを判断できません。順番として、まず資料と現地を照らし合わせます。

状態主なリスク売却前の対応
自分の建物・屋根・塀・配管が隣地へ出ている隣人から撤去や修正を求められ、買主が費用を引き継ぐ可能性がある撤去できるか、費用、建物への影響を調べて協議する
隣地の建物・塀・配管が自分の土地へ入っている買主が使える範囲が狭まり、建替え時に問題が表面化する勝手に撤去せず、将来いつ直すかを書面にする
塀・擁壁が境界上にあり、所有者が分からない修繕・撤去・事故時の負担を決めにくい所有者を示す資料と設置経緯を調べ、工事できる人と費用負担を整理する
樹木の枝が越えている落葉、日照、建物への接触などの問題が起きやすい原則として所有者へ切除を求め、民法の条件を確認する
樹木の根が越えている舗装、配管、構造物や樹木を傷める可能性がある切る前に境界と影響を確認し、所有者・専門家へ相談する
越境かどうか自体が分からない誤った説明や撤去で紛争を広げる境界資料と現況測量を照合する
越境の方向・種類ごとのリスクと対応

処理方法は「解消・覚書・買主への引継ぎ」の3つ

  1. 引渡しまでに解消する
    雨樋、フェンス、物置などを移設・撤去します。建物本体や擁壁は安全性や建築法規にも関わるので、施工会社、建築士、土地家屋調査士へ相談してから工事してください。
  2. 越境の事実と将来の処理を覚書に残す
    すぐ撤去すると建物への影響が大きい場合は、建替えや大規模修繕のときに解消する方法があります。
  3. 買主が現在の状態を引き継ぐ条件で売る
    買主が越境と将来の負担を理解し、価格と契約条件に反映して引き継ぎます。既存の覚書があっても、買主が内容を引き継げるかを確認し、必要なら隣地所有者と合意し直します。

覚書には、少なくとも次の内容を入れます。

  • 越境物の所有者、種類、越境している方向・位置・範囲
  • 判断の根拠にした図面、測量、写真
  • 使用、修繕、点検、敷地へ立ち入る場合の扱い
  • 撤去・是正する時期と費用負担
  • 建替え、売却、相続が起きたときの扱い
  • 買主へ引き継ぐ権利・義務と、その方法

覚書を作っても、境界そのものが確定するわけではありません。また、現在の所有者どうしの合意が、将来の所有者へ同じ内容で引き継がれる保証もありません。法的な効力に不安が残るなら、弁護士にも確認してください。

売却準備のために、隣人の塀や建物を自分で切ったり撤去したりしてはいけません。樹木も、枝と根で民法上の扱いが違います。根については民法233条4項に切り取れる旨の規定がありますが、境界の思い違いや樹木・構造物への損傷を避けるため、先に所有者や専門家へ相談するのが安全です(民法233条)。

確定測量の費用・期間は、土地ごとに確認する

確定測量に、全国一律の相場や日数はありません。作業量を左右するのは面積だけではなく、隣接地の数、所有者の状況、道路・水路との境界、既存資料の精度、境界標、越境、分筆や地積更正の有無です。

日本土地家屋調査士会連合会が示す一般的な流れは、資料調査、現地測量、資料と測量結果の検討、仮の境界点の再現、関係者の立会い、境界標の設置、境界確認書の取り交わしです。必要に応じて登記も申請します(日本土地家屋調査士会連合会「相談Q&A」)。

見積書で確認する範囲

  • 隣接する個人・法人の土地だけでなく、道路・水路など公有地との境界確認も含むか
  • すべての隣接地と所有者を調べる費用を含むか
  • 境界標の探索、元の位置への復元、新設をどこまで含むか
  • 建物、塀、配管などの越境測定を含むか
  • 境界確認書と確定測量図を作成・交付するか
  • 地積更正、分筆、筆界特定は別料金か
  • 隣人が立ち会わない、または異議を述べて作業を中止した場合、どこまで費用が発生するか
  • 受け取る成果物を、売買契約や将来の登記に使えるか

相見積もりを取るときは、すべての土地家屋調査士へ同じ資料を渡し、作業範囲をそろえてください。総額が安くても、公有地との境界確認、越境測定、境界確認書、登記が含まれていなければ、そのままでは比べられません。追加費用が生じる条件と、完了の見込みも一覧にします。

期間は、隣接者や公有地の管理者との日程調整で変わります。筆界特定まで進む場合は、別枠で期間を見込んでください。管轄法務局が公表する筆界特定の標準処理期間は地域で異なり、2026年7月時点では6か月とする法務局と9か月とする法務局があります。これは通常の測量期間ではなく、個別案件の完了日を保証するものでもありません(秋田地方法務局、福岡法務局)。

費用面では、国税庁が、土地・建物を売るために直接かかった測量費を、譲渡所得の計算で差し引ける「譲渡費用」の例に挙げています。ただし、売却と直接関係しない調査費や紛争費用まで同じ扱いになるとは限りません。請求書と契約書を保管し、申告時に税務署または税理士へ確認してください(国税庁「No.3208 長期譲渡所得の税額の計算」)。

隣人が立ち会わないときは、理由に合う方法を選ぶ

立会いが進まない理由が日程なのか、境界の位置なのかで、次の手はまるで違います。日程なら調整の問題ですが、位置の対立なら測量を続けても終わりません。

状況最初の相談先検討する対応
所有者や相続人の連絡先が分からない土地家屋調査士登記・戸籍などの調査、法務局の地図・地積測量図で判断できるかの確認
連絡は取れるが日程が合わない土地家屋調査士再日程や書面確認など、適切な確認方法を調整
筆界の位置について意見が違う土地家屋調査士、法務局筆界特定制度を検討
所有権の範囲や越境の処理でもめている境界問題相談センター、弁護士話し合い、調停、合意書、必要に応じて訴訟を検討
売却期限までに解決しそうにない不動産会社、土地家屋調査士、弁護士境界を示さない条件で買う相手、価格、解除条件を見直す
隣人の立会いが進まない理由別の相談先

相談先は、それぞれ役割が分かれています。

  • 土地家屋調査士:筆界資料、現地測量、境界標、分筆、地積更正など
  • 宅建業者・宅地建物取引士:売り方、買主への説明、重要事項説明書、売買契約の条件
  • 弁護士:所有権の範囲、越境紛争、契約解除、売主責任を限定する条項、覚書の引継ぎなどの法的判断
  • 税理士・税務署:測量費や紛争費用を譲渡費用にできるか、売却に伴う税額

自分で隣人に何度も署名を迫ったり、根拠が固まる前に境界の位置を断定したりすると、その後の話し合いが難しくなります。まず土地家屋調査士に資料を渡し、分かっている点と未確認の点を整理してもらってください。

測量後と現況の売却は「手取り額と完了の見込み」で比べる

測量費がかかるから省く。測量すれば高く売れそうだから行う。どちらも、その理由だけでは決められません。比べるのは売出価格ではなく、同じ条件で計算した税引前の手取り額と、希望の時期までに取引を終えられる見込みです。次の2つを並べてください。

測量後に売る場合の税引前概算手取り
= 測量後の成約予想価格または買取価格
- 測量・境界解決・登記などの費用
- 追加期間中の維持・保有費用
- 仲介手数料などの売却費用
- ローン残債(ある場合)

現況で売る場合の税引前概算手取り
= 境界非明示の成約予想価格または買取価格
- 現況売却でも売主が負う費用
- 仲介手数料などの売却費用
- ローン残債(ある場合)

この概算に、譲渡所得税・住民税は含めていません。売る時期によって税負担が変わるなら、同じ前提で別に試算します。

計算のもとになる金額にも注意が必要です。査定額、成約予想価格、買取価格は別の数字です。同じ不動産会社に次の2条件を示して、金額の種類と前提をそろえてもらいます。

  1. 売主が、指定範囲の境界確認と必要な越境対応を終えた場合
  2. 境界を現地で示さない現在の状態で、残る調査・対応を買主が引き受ける場合

それぞれについて、想定買主、融資の条件、売却期間、売主負担、価格変更や契約解除の条件を聞きます。ここに土地家屋調査士の見積もりを重ねると、測量費を払う価値があるかだけでなく、期限内に引渡しまで終えられるかまで見えてきます。

境界未確定の売買契約で確認する10項目

契約書に「境界非明示」と一文を加えるだけでは、決めるべきことが残ります。重要事項説明書、売買契約書、売主が物件の状態を伝える物件状況報告書、測量図、写真の内容をそろえ、次の10項目を確認してください。

  1. 売買する土地:所在地、地番、地目、登記面積、対象となるすべての土地
  2. 面積の基準:公簿売買か実測売買か、面積差を精算するか
  3. 境界の明示:どの境界点を、何を根拠に、いつまでに示すか。示さない場合はその範囲
  4. 買主へ渡す資料:測量図、境界確認書、覚書、写真の名称、作成日、作成者
  5. 未確認の事項:境界点、隣接地、公有地、立会い、境界標のうち未確認のものと、その理由
  6. 越境:越境物の所有者、越境の方向・範囲、解消または引継ぎの方法
  7. 引渡し前の作業:測量、境界標の設置、撤去、覚書、登記を誰が行い、費用を誰が負担するか
  8. 作業が終わらない場合:期限延長、代わりに渡す資料、代金変更、解除、手付金・違約金の扱い
  9. 契約不適合責任:売主が責任を負う範囲、除外する範囲、買主からの通知期限、既知事項との関係
  10. 買主の利用条件:融資、建築、分筆、将来の売却に必要な条件を満たすか

不動産適正取引推進機構「不動産売買の手引」(令和8年度版)も、売主と買主は契約書に定めた義務を負うこと、重要な約束は書面にすることを案内しています。実際の特約は、仲介する宅建業者と物件の状況に合わせて作ります。境界紛争や大きな越境があるなら、弁護士にも確認してください。

境界未確定の土地を売却する6つの手順

買主を探す前に、すべての境界を確定させる必要はありません。先に必要なのは、どこまで測り、何を契約条件にするかを判断できる材料です。

1.法務局の資料と過去の合意書を集める

法務局で、登記事項証明書、地図証明書、地積測量図を取得します。手元では、過去の確定測量図、境界確認書、越境の覚書、売買契約書、物件状況報告書、建築時の配置図、境界標の写真を探します。法務局の証明書はオンラインでも交付請求できます(法務局「土地・建物の地図・図面など」)。

2.必要な測量の範囲を土地家屋調査士に聞く

いきなり確定測量一式を依頼せず、資料と現地を見てもらいます。既存資料の確認、境界標の探索・復元、現況測量、一部の境界確認、全面的な確定測量、分筆・地積更正・筆界特定のうち、どこまで必要かを整理します。

土地家屋調査士は、土地・建物の位置や形状を調べて測り、表示に関する登記を扱う専門家です(法務省「土地家屋調査士の業務」)。

3.現地で境界標と越境の候補を記録する

土地家屋調査士や不動産会社と現地を確認し、杭・鋲・プレート、塀、擁壁、建物、屋根、雨樋、樹木、給排水管、通路の位置を記録します。境界標らしい物を見つけても、自分で動かしたり、新しく打ったりしないでください。

写真には撮影位置と向きを残し、図面の境界点番号と対応させます。「越境なし」と推測で書かず、確認できた範囲と未確認部分を分けて記録します。

4.測量後と現況の2条件で価格を出してもらう

不動産会社へ同じ資料を渡し、測量後と現況のそれぞれについて、成約予想価格または買取価格、想定買主、売却期間、売主負担を出してもらいます。査定の前提が違う会社どうしの金額を、そのまま比べてはいけません。

5.売却方法を決めてから広告・買付けへ進む

測量、越境解消、境界非明示のどの条件で売るかを決め、広告の記載と買主への説明をそろえます。購入希望者から買付証明書(購入申込書)を受け取る段階で、確定測量の有無、引渡し条件、価格の前提が売主側の想定と合っているかを確かめます。

6.期限までに終わらない場合の処理を契約前に決める

土地家屋調査士に完了の見込みを聞き、重要事項説明書、売買契約書、物件状況報告書、添付図面の記載をそろえます。確定測量が終わっていないなら、終わった前提で契約しないでください。

境界未確定の土地売却でよくある質問

確定測量の費用を買主負担にできますか?

売主と買主が合意すれば、費用負担を調整できます。ただし、買主負担と決めるだけでは、誰が土地家屋調査士へ依頼するか、誰が成果物を受け取るか、測量できなかったときにどうするかは決まりません。依頼者、支払者、期限、成果物、未完了時の処理を契約書に書いてください。

境界非明示なら、売却後のトラブルはすべて買主負担ですか?

すべて買主負担にはなりません。判断の基準は、何を説明し、買主が何を引き受け、契約書でどこまで合意したかです。売主が知っていた越境や隣人の異議を伝えていなければ、売主の責任を限定する特約があっても、責任を免れないことがあります。

越境したまま売る場合、覚書があれば十分ですか?

覚書があるだけでは足りません。越境物、方向、範囲、撤去時期、費用、立入り、売却・相続時の引継ぎがあいまいでは、買主が将来の負担を判断できないからです。覚書と測量図・写真が合っているか、買主が権利と義務を引き継げる内容かを確かめてください。

境界未確定だと、買主は住宅ローンを使えませんか?

使えないと決まっているわけではありません。金融機関や保証会社、買主の建築計画、未確定の範囲によって審査条件が変わります。買主は申込前に、法務局の地図、地積測量図、現況測量図、境界確認書などと未確認事項を伝え、追加資料や確定測量が必要かを個別に確認します。

まとめ

杭が見つからない、図面が出てこない。その状態でも、一つの地番で登記された土地全体を売る契約はできます。省けるのは確定測量であって、境界や越境の調査と説明ではありません。

まず、登記事項証明書、法務局の地図、公図、地積測量図、過去の測量図・境界確認書・越境の覚書を集めます。そのうえで、手元の資料で足りるのか、追加測量が必要ならどこまでかを土地家屋調査士に見てもらいます。そして、測量後と現況の2条件で、手取り額と売却を終えられる見込みを比べてください。

隣人と境界位置の意見が違う、重大な越境がある、確定測量の完了時期が読めない。このいずれかに当たるなら、終えられるか分からない測量や越境解消を引渡し条件にしないことが何より大事です。現在の状態で契約するなら、未確認事項、買主が引き受ける範囲、問題を解決できなかった場合の処理を、契約書に具体的に書き込みます。

出典・参考資料

以下の資料は2026年7月24日に確認しています。

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