相続土地国庫帰属制度で却下される理由は、大きく2つに分かれます。ひとつは、建物、担保などの権利、他人の利用、土壌汚染、境界の問題といった、土地そのものに原因がある場合。もうひとつは、申請できる立場かどうか、書類がそろっているか、法務局の調査に協力したかという、手続きに原因がある場合です。
同じ「国に引き取ってもらえない」でも、審査の結果として管理や処分の負担が重すぎると判断される「不承認」は、却下とは理由も対処法も違います。
却下でも不承認でも、土地の所有権は国へ移りません。次に何をすべきかは、決定書に書かれた理由によって3つに分かれます。
通知後の判断ルート
1.前提に疑問がある
決定書の事実や法令の当てはめを確かめ、審査請求や取消訴訟を検討します。
2.直せば解消できる
直すための費用と、ほかの処分方法にかかる費用を比べ、再申請を検討します。
3.現実には直しにくい
売却、隣地への譲渡、地域の制度、寄付などへ切り替えます。
相続土地国庫帰属制度の「却下」と「不承認」は、審査の段階が違う
「国は引き取らない」という結果は同じでも、却下と不承認は別の処分です。大まかに言えば、却下は申請の入口で止まった状態、不承認は中身まで審査したうえで断られた状態です。ここを混ぜてしまうと、取り除くべき問題も、相談する相手もずれてしまいます。
| 結果 | 問題になる段階 | 主な理由 | 決定後の考え方 |
|---|---|---|---|
| 却下 | 申請の入口、または手続中 | 申請できない土地の明確な要件、申請権限、必要書類、調査への不協力 | 審査中なら補正、決定後なら再申請または審査請求を検討する |
| 不承認 | 土地の実質的な審査 | 国が通常の管理・処分をするのに過分な費用や労力がかかる | 管理上の障害を除けるか、費用に見合わなければ別の処分方法へ移る |
| 承認 | 却下・不承認要件のいずれにも該当しないと判断された後 | 法定要件を満たした | 負担金の通知が届いた日の翌日から30日以内に納付すると、所有権が国へ移る |
相続土地国庫帰属法2条3項・4条は、申請できない土地と、申請を却下する場合を定めています。同法5条が定めるのは、実質的な審査で不承認となる土地です。法務省も、却下要件を「申請の段階で直ちに却下となる土地」、不承認要件を「審査の段階で該当すると判断された場合に不承認となる土地」と分けて案内しています。
却下でも不承認でも、納めた審査手数料は戻りません。土地の所有権も、そのまま自分に残ります。承認の通知が届いたあとも、負担金を納めるまで所有権は国へ移りません。その間の草刈りや危険な場所への対応は、引き続き所有者が行います。法務省のQ&Aでは、標準処理期間は8か月とされていますが、事案によってはこれを超える場合があります。
最新統計の却下83件だけでは、申請の通りやすさを判断できない
法務省が2026年7月16日に公表した速報値では、制度開始から2026年6月30日までの申請は5,698件、実際に国庫へ帰属した土地は2,885件です。却下は83件、不承認は93件でした。
この数字だけなら、却下・不承認はごく少数に見えます。ただ、同じ期間の取下げは1,063件あり、そのうち375件は「却下・不承認であることが判明した」ことを理由としています。審査中の案件も含まれるため、申請件数を分母、帰属件数を分子にした単純な承認率は計算できません。
| 却下理由 | 件数 |
|---|---|
| 法定の添付書類が提出されなかった | 37件 |
| 現に通路として使われている土地だった | 22件 |
| 境界が明らかでなかった | 21件 |
| 申請権限を持たない人による申請だった | 10件 |
| 建物がある土地だった | 4件 |
| 水道用地、用悪水路またはため池として使われていた | 1件 |
公表された却下理由で最も多いのは、添付書類の未提出です。建物や危険な崖ではありません。土地の状態を整えるだけでは足りず、「誰が、どの書類で申請するか」までそろえないと実質的な審査へ進めない、ということがわかります。
一方、取下げのうち562件は「有効活用の見込みが生じた」ことが理由でした。国庫帰属が難しい土地でも、民間や地域で使い道が見つからないとは限りません。却下の決定は、その土地に価値がないという証明ではありません。
申請の入口で却下される土地は5種類
土地に次のどれかの事情があると、そもそも申請できません。申請後に判明すれば却下されます。基準は見た目の良し悪しではなく、国が引き取ったあとの管理や処分に、はっきりした障害があるかどうかです。
- 建物がある
- 担保権や、使用・収益を目的とする権利が設定されている
- 通路など、他人が利用することが予定されている
- 基準を超える特定有害物質で土壌が汚染されている
- 境界が明らかでない、または所有権に争いがある
1.建物がある土地
登記があるかどうかは関係ありません。現に建物が建っていれば却下の対象です。土地の一部に建っている場合や、広い山林の片隅にある場合も同じです。
法務省のQ&Aは、原則として建物を取り壊してから申請し、登記された建物であれば滅失登記も所有者が行うとしています。ただし、小さな物置などは法律上の「建物」に当たらず、工作物として実質的な審査の対象になる場合があります。自分で判断して解体する前に、現況写真を見せて法務局へ扱いを確認してください。
解体して申請できる状態になっても、国庫帰属が承認されるとは限りません。建物付きのまま売る、解体して売る、解体して国庫帰属を申請する。この3つを並べて比べる必要があります。
2.担保権や使用・収益を目的とする権利が設定されている土地
抵当権などの担保権、地上権、地役権、賃借権が設定された土地は申請できません。国が自由に管理・処分できず、担保権が実行されれば所有権を失うおそれもあるためです。
住宅ローンなどの債務を完済していても、抵当権の登記が残っていればそのままでは申請できません。法務省は、抵当権の抹消登記を済ませてから申請するよう案内しています。
登記事項証明書だけではわからない利用関係もあります。第三者に貸している、電線や配管のための地役権がある、地域の共同利用に使われている。こうした事情は、契約書と現地の使われ方を突き合わせて確認します。
3.通路など、他人による利用が予定されている土地
政令で定められた次の土地が一筆(登記上のひとまとまりの土地)の中に含まれていると、申請できません。
- 現に通路として使われている土地
- 墓地内の土地
- 境内地
- 現に水道用地、用悪水路(用水路・排水路)またはため池として使われている土地
登記の地目が「宅地」や「山林」でも、現況が通路なら問題になります。近隣の人が事実上通っている私道、農作業用の通路、水路として使われている部分などは、図面と現地の両方を見なければ判断できません。
一筆の一部だけが通路なら、分筆して申請する部分を切り分ける方法があります。ただし、測量と分筆に費用をかけても、残った土地にほかの却下・不承認の要件があれば承認されません。分筆後の形が売却価格を下げることもあります。法務局、土地家屋調査士、不動産会社へ同じ現況資料を示して比べてください。
4.基準を超える特定有害物質で土壌が汚染されている土地
土壌汚染対策法上の特定有害物質が、法務省令で定める基準を超えている土地は申請できません。汚染の疑いがあるだけで直ちに却下されるわけではありませんが、指定区域に関する資料、過去に工場として使われていた記録、調査報告書などがあれば申請資料として提出します。
土壌の調査や浄化には大きな費用がかかる場合があります。申請のためだけに調査を先行させず、手元の資料を持って法務局、自治体の環境担当、必要なら土壌汚染の専門家へ相談してください。
5.境界が明らかでない、または所有権に争いがある土地
次のどれかに当たる土地は申請できません。
- 申請者が認識している境界を現地で示せない
- 隣地所有者の認識と食い違い、境界に争いがある
- 申請者以外にも所有権を主張する人がいる
- 所有権の有無、帰属または範囲について争いがある
ここでいう「境界が明らか」は、確定測量が済んでいるという意味ではありません。法務省の案内では、既にある境界標、地物、地形、工作物、または申請者が置いた目印で認識する境界を示せて、隣地所有者との認識に相違・争いがないことが要点とされています。境界確定図や隣地との合意書は、必須の添付書類ではありません。
反対に、公図に線が引かれているだけで現地の範囲を示せない場合や、隣地所有者が異議を述べている場合は問題になります。境界の認識が食い違っているなら土地家屋調査士へ現地と資料の確認を依頼し、所有権の争いに発展しているなら弁護士へ相談します。
土地に問題がなくても、申請者や手続の不備で却下される
相続土地国庫帰属法4条は、申請権限がない場合、土地または申請が法定の要件に反する場合、正当な理由なく調査に応じない場合に却下すると定めています。土地の5要件を除くと、つまずきやすいのは次の3つです。
1.申請権限を持たない人が申請した
申請できるのは、相続、または相続人が遺言によって受ける遺贈で、その土地の所有権や共有持分を取得した人です。制度が始まる前に相続した土地も対象になります。一方、売買だけで取得した人や、相続によって土地を取得できない法人は、原則として申請できません。
共有地は、共有者全員でそろって申請します。共有者のうち1人でも相続などで持分を取得していれば、ほかの共有者が売買などで持分を取得していても、全員の共同申請によって制度を利用できます。
家族が書類作成を手伝うのは問題ありません。ただし、申請するのは所有者本人です。法定代理人による場合を除き、専門家を含む第三者へ申請そのものを任せられる制度ではありません。法務省の専門家活用の案内では、業務として申請書類を作成できるのは弁護士・司法書士・行政書士とされています。
審査の途中で買主が見つかったときは、売る前に申請を取り下げます。取り下げないまま所有権を移すと申請権限を失い、却下の対象になります。
2.申請書、添付書類または審査手数料に不備がある
申請書には、申請者、土地の所在・地番・地目・地積などの法定事項を記載し、必要書類を添えて、一筆あたり14,000円の審査手数料を収入印紙で納めます。
法務省のQ&Aが挙げる、全案件に共通する主な添付書類は次の4点です。これに加えて、相続や遺贈で取得したことを示す戸籍、遺産分割協議書、遺言書など、事案に応じた書類が必要になります。
- 申請する土地の位置と範囲を明らかにする図面
- 申請地と隣接地との境界点を明らかにする写真
- 申請地の形状を明らかにする写真
- 申請者の印鑑証明書
2026年6月末までの公式統計では、添付書類の未提出が37件の却下理由になっています。土地の現況に問題がなくても、写真が境界点を写していない、相続で取得したことを証明できない、共同申請者がそろっていない、といった状態では先へ進めません。
受付後に法務局から補正を求められたら、指定された期間内に不足を補います。不備があればすぐ却下されるわけではありませんが、補正しないままでは却下に至ります。
3.正当な理由なく、法務局の調査に応じない
法務局は審査に必要なとき実地調査を行い、申請者に現地への同行を求めることがあります。正当な理由なく応じなければ却下されます。
本人が行けない場合は、土地の状況に詳しい家族・親族や専門家など、申請者が指定した人に代わりに同行してもらえます。遠方に住んでいる、高齢で現地へ行くのが難しいといった事情があるときは、連絡を放置せず、申請先の法務局へ同行者や日程を相談してください。
「国庫帰属の対象外」と誤解しやすい土地もある
見た目に問題がありそうでも、条件を満たせば申請・承認の可能性がある土地があります。反対に、形式を整えただけでは足りない土地もあります。
- 「相続登記が終わっていない土地は申請できない」
相続で取得したことを証明する書類があれば、申請できる場合があります。ただし、取下げ・却下・不承認になれば、所有者として相続登記を進める必要があります。 - 「確定測量をしていなければ必ず却下される」
確定測量や境界確認書は必須ではありません。現地で認識する境界を示せて、隣地と争いがないことが必要です。 - 「木や柵が1つでもあれば不承認になる」
土地の性質に照らし、通常の管理・処分を妨げるかどうかで判断されます。森林の通常の樹木や、安全な土留め・柵が直ちに不承認とは限りません。 - 「勾配30度・高さ5メートル以上の崖があれば必ず不承認になる」
数値基準に当たる崖があり、さらに通常の管理に過分な費用・労力がかかる場合が不承認の要件です。 - 「農地や森林は制度の対象外」
農地・森林も申請できます。もっとも、利用状況、管理状態、土地改良区の賦課金、森林整備の必要性などは審査されます。 - 「売れない土地なら国が引き取る」
売れにくさ自体は承認の要件ではありません。国が通常の管理・処分をできる状態かどうかが基準です。
特に境界は、「測量していないから無理」と決めつける必要はありません。とはいえ、境界標があるだけで隣地との争いが消えるわけでもありません。確かめるべきなのは書類の有無ではなく、現地で土地の範囲を示せるか、隣地所有者と認識が一致しているかです。
相続土地国庫帰属制度で不承認になる土地は、管理負担で判断される
申請の入口を通っても、実地調査などの結果、国が通常の管理・処分をするのに過分な、つまり不釣り合いに大きい費用や労力がかかると判断されれば不承認になります。法務省が示す不承認の要件は、大きく5種類です。
| 不承認要件 | 主な具体例 | 改善を検討するなら |
|---|---|---|
| 一定の崖があり、管理負担が過大 | 勾配30度以上・高さ5メートル以上の崖があり、擁壁工事などが必要 | 崖の位置、危険性、必要工事を確かめる。高額工事を先に発注しない |
| 管理・処分を妨げる地上物がある | 危険な枯れ木・竹、補修が必要な工作物、放置車両など | 何をどこまで除去すれば要件が解消するかを尋ねる |
| 除去が必要な地下埋設物がある | 産業廃棄物、建築ガラ、基礎、浄化槽、井戸、大きな石など | 既存資料と調査範囲を確かめ、撤去後の証明方法を決める |
| 争訟によらなければ管理・処分できない | 袋地の通行が妨げられている、不法占拠、排水の流入、使用収益の妨害 | 当事者間の調整で終わるか、法的手続が必要かを弁護士へ相談する |
| その他、過分な費用・労力がかかる | 災害防止措置、危険な鳥獣・病害虫への対応、追加整備が必要な森林、土地改良区等の金銭債務 | 行政・専門家の資料で必要措置と継続負担を特定する |
ここでも、見た目だけで決まるわけではありません。たとえば、広い土地の片隅にある小規模な配管が管理・処分を妨げない場合や、森林に通常の樹木が生えている場合は、不承認の要件に当たらない可能性があります。
最新統計で公表された不承認の理由別件数は、次のとおりです。1つの事件に複数の理由が含まれるため、合計は不承認93件と一致しません。
- 管理・処分を妨げる地上物がある土地 45件
- 追加整備が必要な森林 36件
- 災害防止措置が必要な土地 11件
- 通常の管理費以外の金銭債務が生じる土地 10件
- 一定の崖がある土地 7件
- 使用・収益が妨害されている土地 5件
- 通行が妨害されている土地 4件
- 除去が必要な地下埋設物がある土地 3件
却下・不承認の通知を受けたら、3つの分岐で次を決める
却下や不承認は、処分の手が尽きたという意味ではありません。決定書に書かれた条文と、認定された事実を次の順で整理すると、再申請に費用をかけるべきか、別の出口へ移るべきかが見えてきます。
分岐1.前提事実や法令の適用に疑問があるなら、審査請求を検討する
次のような疑問があるなら、是正工事や再申請へ進む前に、決定の内容と提出資料が合っているかを調べます。
- 申請権限がないとされたが、相続で取得したことを示す資料は提出している
- 通路として使われているとされた範囲や利用実態が、現地と異なる
- 境界に争いがあるとされたが、隣地所有者の回答内容を確認できていない
- 工作物や樹木が管理を妨げるとされた具体的な理由がわからない
- 提出済みの書類が、未提出として扱われている
法務省のQ&Aでは、却下・不承認の判断に対して審査請求ができるとされ、請求先は法務省民事局、期限は処分があったことを知った日の翌日から3か月以内と案内されています。申請先の法務局へ審査請求書を提出した場合は、法務省民事局へ転送されます。
期限はこれだけではありません。行政不服審査法18条には処分の日の翌日から1年という外側の期限があり、行政事件訴訟法14条に基づく取消訴訟には別の期限があります。個別の起算日や例外、どの手段を選ぶかは、早めに弁護士へ確認してください。
分岐2.理由を解消できるなら、再申請と処分費用を比較する
法務省のQ&Aによると、一度却下・不承認になった土地でも、具体的な理由を解消すれば再申請できます。申請後、審査が終わる前に問題が判明した場合も、相当の期間内であれば、却下・不承認の要件を取り除く対応ができます。
ただし、再申請できることと、再申請したほうが得なことは別です。少なくとも次の費用を合計して、ほかの処分方法と比べます。
審査手数料は一筆あたり14,000円で、却下、不承認、取下げのいずれでも戻りません。もう一度承認申請をするなら、新しい申請として手数料を見込みます。負担金は20万円が基本ですが、一部の市街地の宅地、一定の農用地、森林などは面積に応じて計算されます。法務省の負担金のページには、自動計算シートと、隣接する同じ種類の土地をまとめて計算する特例が案内されています。
分岐3.理由を直しにくいなら、土地の処分ルートを切り替える
崖の大規模工事、広い森林の整備、地下の廃棄物の撤去、長引く境界・通行の紛争。こうした問題を国庫帰属のためだけに解消すると、費用倒れになることがあります。直したあとの売却価格まで見積もり、国庫帰属にこだわらずに判断しましょう。
決定書で指摘された事情は、不動産会社にも共有し、買主の判断に関わる範囲を資料で説明します。却下の理由が行政制度上の基準に合わないだけなら、隣地所有者や特定の用途を探している買主には利用価値があるかもしれません。反対に、境界の紛争や地下埋設物のように売買の判断へ影響する事情は、契約前に具体的に伝える必要があります。
費用をかける前に、対策を中止する目安を決める
費用をかければ改善できそうな場合でも、工事や手続を発注する前に、別の処分方法へ切り替える目安を決めておきます。自分の決定書に近い項目を開いてください。
建物が理由の場合
改善候補:解体、建物滅失登記
改善前の確認先:法務局、土地家屋調査士、解体会社、不動産会社
切り替える目安:解体後も境界・崖・埋設物など別の要件が残る、または建物付きで売るほうが有利
抵当権・地役権・賃借権が理由の場合
改善候補:弁済、合意、抹消・終了手続
改善前の確認先:金融機関、権利者、司法書士、必要に応じ弁護士
切り替える目安:権利者の合意が得られない、または抹消費用に対して処分の効果が小さい
通路・水路などが理由の場合
改善候補:利用実態の確認、必要なら分筆
改善前の確認先:法務局、土地家屋調査士、道路・水路の管理者
切り替える目安:分筆後も土地の利用・売却・国庫帰属が難しい
境界・所有権の争いが理由の場合
改善候補:資料調査、境界表示、協議、筆界特定、訴訟など
改善前の確認先:土地家屋調査士、弁護士、法務局
切り替える目安:相手方との争いが続く、または手続期間と費用が許容範囲を超える
地上物・地下埋設物が理由の場合
改善候補:撤去、処分、完了資料の保存
改善前の確認先:法務局、撤去・調査業者、自治体、必要に応じ専門家
切り替える目安:撤去範囲が確定しない、または追加工事の上限を決められない
森林・災害・鳥獣が理由の場合
改善候補:森林整備、安全工事、駆除など
改善前の確認先:市町村の林務・防災担当、森林組合、専門事業者
切り替える目安:一度の工事で終わらず、継続的な管理が必要
申請書類の不足が理由の場合
改善候補:不足資料の取得、図面・写真の作り直し
改善前の確認先:申請先の法務局、必要に応じ弁護士・司法書士・行政書士
切り替える目安:相続人・所有者を確定できない、または境界を現地で示せない
見積書には「国庫帰属の要件を満たすための作業」とだけ書かせず、作業の範囲、完了の条件、追加費用が生じる条件、成果物を明記してもらいます。その成果物を法務局と買主の両方へ示せるかどうかも業者に尋ねておくと、費用が無駄になりにくくなります。
承認されない土地の処分・管理方法は、国庫帰属以外にもある
別の方法は、無料か有料かだけでは選べません。誰が土地を使うのか、所有権が確実に移るのか、税金、登記、その後の管理まで含めて比べます。
| 選択肢 | 向く可能性がある土地 | 確認すること |
|---|---|---|
| 現況のまま仲介・買取で売る | 一般の需要、事業用途、農林業用途を探せる土地 | 売出価格・成約予想価格・買取価格の区別、売主が直す範囲、諸費用を差し引いた概算額(税金は別途) |
| 隣地所有者へ売却・譲渡する | 狭小地、接道が弱い土地、単独では利用しにくい土地 | 境界、越境、一体利用の価値、測量費、売買と贈与の税・費用 |
| 空き家・空き地バンクなどへ登録する | 地域の移住、住宅、事業利用と合う土地 | 自治体の買取制度ではないこと、土地だけの登録可否、契約への関与 |
| 自治体・法人・個人へ寄付する | 受け手に公共・事業・隣地利用など具体的な目的がある土地 | 受諾の有無、用途制限、登記費用、贈与・寄付に伴う税務 |
| 農地・森林の地域制度へ相談する | 農地バンクや森林経営管理制度の対象に合う土地 | 貸借や管理委託にとどまる場合があるため、所有権が移るか、管理責任が誰に残るか |
| 民間の有料引取サービスを使う | 通常の売却と公的制度が難しく、契約の安全性を確認できる土地 | 引取料の全額、契約相手、登記と支払の順序、返金条件、引取後の管理方針 |
| 当面保有して管理する | 急いで処分すると費用や契約リスクが大きい土地 | 年間の税・管理費、安全点検、再検討の時期、緊急連絡先 |
売却は「更地にしてから」ではなく、現況と是正後の2条件で比べる
国庫帰属で問題になった事情は、売却でも価格や契約条件に影響します。ただし、買主が自分で解体・伐採・造成をする前提なら、所有者が先に直さなくても売れる場合があります。
不動産会社には、決定書、登記事項証明書、公図、現況写真、境界資料を同じ条件で渡し、次の2通りを聞きます。
現況のまま売る場合
成約予想価格または買取価格を聞きます。
問題を直してから売る場合
価格と、諸費用を差し引いた概算額を聞きます。税金は別途確認します。
隣地所有者は、単独では使いにくい土地を評価することがある
細長い土地、道路に接していない土地、狭小地、法面(のりめん)などは、一般の市場では買い手が限られます。一方、隣地と合わせれば、通路、庭、駐車、建築計画、管理範囲の整理に使えることがあります。
直接連絡するなら、所在地と地番、面積、境界資料、現況、希望条件を簡潔に伝えます。無償で譲るほうが簡単とも限りません。受け取る側には登記費用、不動産取得税、その後の固定資産税や管理の負担が生じ、個人間の贈与では贈与税も検討が必要です。
自治体への寄付は、国庫帰属の代わりに必ず使える制度ではない
法務省のQ&Aは、国庫帰属以外の選択肢のひとつとして、地方公共団体などへの寄付を挙げています。ただし、自治体が土地を受け取るのは、道路・公園・防災といった公共の利用か、売却・貸付による活用が見込める場合が中心です。所有者が寄付を申し出ても、自治体に受け入れる義務はありません。
公共施設に隣接している、道路の後退部分である、地域計画と関係するなど、用途が具体的なら、その事業の担当課へ相談します。用途がなければ、管財・財産管理の担当へ現況資料を示し、受入れの基準を尋ねてください。利用計画がないまま、寄付のためだけに測量や撤去を先行させるのは避けます。
相続放棄は、却下された土地だけを後から捨てる手続ではない
裁判所の案内によると、相続放棄は、土地だけでなく被相続人の権利・義務をいっさい受け継がないための手続です。原則として、自分のために相続が始まったことを知ったときから3か月以内に、家庭裁判所へ申述します。
国庫帰属が却下されたあとに、その土地だけを選んで相続放棄することはできません。まだ3か月以内で、遺産を処分していないなど判断の余地がある場合は、ほかの財産・債務や次順位の相続人への影響も含めて、すぐに弁護士へ相談してください。相続財産を調べても判断材料がそろわないときは、期間の伸長を申し立てられることがあります。
相続放棄が受理されても、土地がすぐ国へ移るわけではありません。ほかの相続人への承継や、相続財産清算人による管理・清算が必要になる場合があります。
民間の有料引取サービスは、所有権移転と支払順序を確認する
有料の引取は、不動産を売って代金を受け取る取引とは逆に、元の所有者が事業者へ引取料を支払う仕組みです。
国土交通省の検討資料は、利用するときの主な注意点として次を挙げています。
- 金銭を支払う前に、事業者への所有権移転登記が行われたことを確認する
- 費用と引取条件を契約書で確認する
- 宅建業者への相談などを通じ、通常の売却を含む方法を比較する
- 引取後の土地の管理方針を確認する
広告の窓口と実際の契約相手が同じか、追加費用の上限、契約が成立しなかったときの返金、登記申請と支払の順序も確認します。契約前に、その事業者と利害関係のない司法書士や弁護士へ契約書を示し、所有権の移転や支払条件のリスクを確かめると安心です。
法務局への30分相談を有効に使うため、質問と資料を絞る
法務省の相談案内では、全国の法務局・地方法務局の本局で、事前予約による対面・電話・ウェブ相談を受け付けています。申請を具体的に検討しているなら、土地がある都道府県の本局へ相談するのが基本です。1回の相談時間は30分で、担当者の見解は承認を保証するものではありません。
相談前にそろえる資料
- 却下または不承認の決定書
- 申請書の控えと、提出した添付書類の一覧
- 登記事項証明書
- 法務局で取得した地図・公図
- 地積測量図、境界確認書、その他の測量図面があればその写し
- 土地全体、境界点、接道、建物・工作物・樹木がわかる写真
- 固定資産税の納税通知書
- 相続や遺贈による取得を示す戸籍、遺産分割協議書、遺言書など
- 抵当権、賃貸借、通行、土地改良区の賦課金などに関する資料
- 是正を検討している場合は、工事・測量・撤去の見積書
法務局で確認する6項目
次の書き出しと質問は、そのまま相談メモとして使えます。
- どの条文の要件に、土地のどの事実が当てはまったのでしょうか。
- その事実を解消すれば再申請できますか。完了を示す資料は何ですか。
- 審査中に追加資料の提出や是正をする余地はありましたか。
- 現在わかる範囲で、ほかに却下・不承認の要件となり得る事情はありますか。
- 是正後に申請する場合の筆数、審査手数料、負担金の区分は、どこで確認できますか。
- 決定の前提事実に疑問がある場合、審査請求の提出先と期限は、どこに記載されていますか。
相談で「直せば大丈夫そう」と言われても、正式な承認ではありません。実地調査や関係機関の資料によって結論が変わることもあります。相談の結果は、確認した資料、担当した窓口、日付、回答の範囲まで記録しておきましょう。
相続土地国庫帰属制度の却下に関するよくある質問
却下・不承認になった土地は再申請できますか?
具体的な却下・不承認の理由を解消すれば、再申請できます。ただし、前回の審査手数料は戻らず、再申請分の手数料と是正費用がかかるため、ほかの処分方法との総額比較が必要です。
申請を取り下げれば、審査手数料は戻りますか?
戻りません。一筆あたり14,000円の審査手数料は、取下げ、却下、不承認のいずれでも返還されません。複数筆あるなら、まず一筆だけ先に申請する方法も検討できます。
境界確定測量をしていない土地は、必ず却下されますか?
必ず却下されるわけではありません。確定測量や境界確認書は必須ではありませんが、認識している境界を現地で示せて、隣地所有者と争いがないことが必要です。
却下された土地は売却できませんか?
却下されたことだけで売却できないとは決まりません。決定書と現況資料を不動産会社へ示し、現況のまま売る条件と、問題を直したあとの条件を比べます。
不承認通知が来たあとも、固定資産税や管理は必要ですか?
必要です。負担金を納めて所有権が国へ移るまでは、課税される土地の固定資産税や、草刈り、倒木・崖への対応などを所有者が負担します。
まとめ
相続土地国庫帰属制度の却下は、建物、権利、他人の利用、土壌汚染、境界という土地の5要件だけで決まりません。申請できる立場か、書類がそろっているか、法務局の調査に協力したかも条件です。一方の不承認は、国が土地を管理・処分するときの負担を実質的に審査した結果です。
通知が届いたら、決定書の条文と認定された事実を照らし合わせます。前提に疑問があれば不服申立ての期限を確かめ、理由を直せるなら、是正費、再申請の手数料、負担金、所有権が移るまでの管理費を合計します。費用に見合わなければ、現況での売却、隣地への譲渡、地域のマッチング制度、寄付などへ切り替えます。
最初にそろえるのは、決定書、登記事項証明書、公図、現況写真の4点です。それを申請先の法務局の本局へ示し、「どの事実を直せば、どの要件が解消するのか」を尋ねてください。却下は、土地の価値を否定する判定ではありません。決定書は、次の処分ルートを選ぶための資料に変えられます。
参考資料
情報確認日:2026年7月24日
- e-Gov法令検索「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」
- e-Gov法令検索「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律施行令」
- e-Gov法令検索「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律施行規則」
- 法務省「相続土地国庫帰属制度について」
- 法務省「相続土地国庫帰属制度の概要」
- 法務省「相続土地国庫帰属制度において引き取ることができない土地の要件」
- 法務省「相続土地国庫帰属制度に関するQ&A」
- 法務省「相続土地国庫帰属制度の統計」
- 法務省「相続土地国庫帰属制度の相談対応について」
- 法務省「相続土地国庫帰属制度の負担金」
- 法務省「相続土地国庫帰属制度における専門家の活用等について」
- e-Gov法令検索「行政不服審査法」
- e-Gov法令検索「行政事件訴訟法」
- 裁判所「相続の放棄の申述」
- 国税庁「贈与を受けたとき」
- 農林水産省「農地中間管理機構」
- 林野庁「森林経営管理制度」
- 国土交通省「空き家・空き地バンク総合情報ページ」
- 国土交通省「不動産の『引取サービス』について」
