媒介契約書の「建物状況調査を実施する者のあっせん」という欄で、ペンが止まったかもしれません。2018年に義務化されたと聞いていれば、「無」に丸を付けてよいのか迷うところです。ただ、義務化されたのは売主の調査ではなく、不動産会社の説明でした。
この欄に「無」と書いても法律に違反しません。
国土交通省の令和4年度の調査でも、実際に調査を受けた売主と買主は27.3%にとどまっています。残る7割が違反しているわけではなく、費用と時間を見比べて受けないと決めただけです。
- 売主に実施義務がない理由
- 不動産会社が負う3つの義務
- 調査費用の目安と補助制度
- 調査結果が使える期間
- 売買価格と成約期間への影響
※本記事の情報は2026年9月時点のものです。制度や費用の条件は変わることがあるため、実施前に不動産会社または調査実施者にご確認ください。
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※2025年9月19日-23日 「サイト評価に関する調査」より
不動産のインスペクションで調べる範囲
国土交通省が7,854人に聞いた調査で、売買時にインスペクションを実施した人は27.3%でした。裏を返せば、7割以上の取引では調査が行われていません。この数字だけなら、多くの人が「必要ない」と判断したように読めます。
ところが内訳を見ると、話が変わります。「実施していない」と答えた人は33.1%。これを上回って最も多かったのが「分からない、インスペクションを知らない」の34.5%でした。判断した結果として受けなかったのではなく、選択肢として認識していなかった人が3人に1人いたことになります。平成30年4月から令和4年3月までの4年間に既存住宅を売却または購入した人が対象です。
戸建(3,943人)は実施が32.4%、マンション(3,911人)は22.1%。床下や小屋裏を自分で見られない戸建のほうが、調べる意味を感じやすいのかもしれません。
では、その「知らなかった」人が受け損ねているのは、どんな調査なのでしょうか。まず中身から確かめていきましょう。
建物状況調査とホームインスペクションの違い
「ホームインスペクション」「住宅診断」「建物調査」。呼び名は違っても中身は似たようなものだろう、と受け取りがちなところです。実際に宅地建物取引業法が定めているのは、このうち「建物状況調査」だけです。
建物状況調査とは、国の登録を受けた既存住宅状況調査技術者講習を修了した建築士が、国が定める既存住宅状況調査方法基準に従って行う調査を指します。調べる人の資格と、調べる方法。この2つのどちらかを欠くと、名前がホームインスペクションでも宅建業法上の建物状況調査に当たりません。国土交通省も「提供されているサービス毎に内容は異なります」として、各サービス提供者への確認を求めています。
つまり、重要事項説明に使えるかどうかが変わります。
名前で選ぶと、費用を払ったのに売却手続きでは使えない調査になりかねません。
実際に受けた1,739人の内訳を見ると、この区別は市場にも表れていました。既存住宅状況調査が36.0%、既存住宅売買瑕疵保険のための検査が25.5%。仲介する不動産会社のサービスによるインスペクションが19.1%で、民間の検査会社や建築士などによるものは1.6%です。公的な制度に基づく調査が過半を占めています。
なお、既存住宅状況調査方法基準は、既存住宅売買瑕疵保険やフラット35の現場検査基準としても引用されています。調べる中身は共通しているということです。ただし保険に使うには、検査する人の側にも条件が付きます。この点は後ほど扱います。
構造耐力上主要な部分と雨水の浸入を防ぐ部分
調べる場所は法律で2系統に決められています。「構造耐力上主要な部分」と「雨水の浸入を防止する部分」。前者は家を支える骨組み、後者は雨の入り口をふさぐ部分です。調査箇所は工法によって変わりますが、一般的には次のとおりです。
- 構造耐力上主要な部分
基礎、土台及び床組、床、柱及び梁、外壁及び軒裏、バルコニー、内壁、天井、小屋組 - 雨水の浸入を防止する部分
外壁、内壁、天井、屋根
並べてみると、外壁・内壁・天井が両方に入っています。同じ場所を2つの目的で見るためです。外壁なら、建物を支えられているかと、雨を通していないか。壁のひび1つでも、意味は2通りあります。
戸建とマンションでは、見る中身が変わります。マンション(鉄筋コンクリート造)はコンクリートの強度や鉄筋の本数・間隔、戸建(木造)は床下の蟻害や腐朽が対象。マンションでは共用部分も調査に入るため、あらかじめ管理組合の了承を得てください。
自分の家が対象になるかも確かめておきましょう。人が居住の用に供した住宅か、建設工事の完了の日から1年を経過した住宅なら対象。賃貸住宅も含まれます。店舗や事務所は外れますが、店舗併用住宅なら居住部分が対象です。取り壊しが決まっている空き家など、今後人が住む見込みのないものは「住宅」に当たりません。
調査の対象から外れる住宅設備と目視の限界
専門家が数時間かけて見るのだから、家の状態はひととおり分かる。そう期待して依頼すると、報告書を見て物足りなさを感じます。調査は原則として目視と非破壊検査だからです。壁をはがしたり床をめくったりはしません。基礎を調べるといっても、敷地内の地中までは含まれません。
給排水管路や給排水設備も対象外でした。台所の水漏れや排水の詰まりは、建物状況調査では出てきません。ただしオプション調査として依頼できる場合があるので、気になるなら別料金で対応できるか確認しておくとよいでしょう。
見えない箇所があっても調査自体は実施できます。小屋裏や床下の点検口がない場合、動かせない家具で隠れている場合、雨や雪で屋根が見えない場合。いずれも「調査できなかった」と結果の概要と報告書に記載されます。天候が理由なら、調査実施者と相談して後日改めて調べることもできます。
この「調査できなかった」の記載は、後で説明する瑕疵保険の加入に響きます。家具の移動でどうにかなる箇所なら、当日までに動かしておくと無駄がありません。なお、瑕疵がないことを保証する調査ではない点も押さえておいてください。国土交通省も「瑕疵がないことを保証するものではありません」と明記しています。
調査を担当できる既存住宅状況調査技術者
建築士に頼めば足りるだろう。そう考えて依頼すると、宅建業法上の建物状況調査にならないことがあります。必要なのは建築士であることに加えて、国土交通大臣が定める講習を修了していること。この2つを満たした人が「既存住宅状況調査技術者」です。
講習制度が平成29年2月に創設されたのは、調査の手順を揃えるためでした。同じ家を別の人が見ても同じ結果になるよう、国が方法基準を定めています。だから経験の長い建築士でも、独自のやり方で見た調査は制度上の建物状況調査に入りません。
確認する方法はあります。調査実施者は当日、有資格者であることを証明できるカード型の修了証などを携帯しているので、提示を頼めばその場で分かります。登録を受けた講習実施機関は、一般社団法人住宅瑕疵担保責任保険協会や公益社団法人日本建築士会連合会など。いずれも平成29年3月の登録でした。
\ 依頼する前に、売れる金額を知っておく /
インスペクションに関する宅建業法上の義務
「2018年に義務化された」という説明は、あちこちで目にします。義務化と聞けば、売主に何かを強制する制度だと受け取るのが自然です。
ところが条文を追うと、義務を課された相手は売主ではありませんでした。国土交通省も「既存住宅を売買する場合に、必ず建物状況調査を実施しなければならないものではありません」と明言しています。
2018年4月1日の法改正で不動産会社に課されたのは、次の3つです。
| 場面 | 内容 | 根拠条文 |
|---|---|---|
| 媒介契約時 | あっせんの有無を書面に記載する(「無」なら理由も) | 宅建業法34条の2第1項4号 |
| 重要事項説明時 | 実施の有無と結果の概要を説明する | 同35条1項6号の2イ |
| 契約成立時 | 当事者双方が確認した事項を書面に記載する | 同37条1項2号の2 |
媒介契約書に記載するあっせんの有無
媒介契約書で手が止まったのは、この条文が理由です。宅建業法第34条の2第1項第4号は、書面に記載すべき事項としてこう定めています。
当該建物が既存の建物であるときは、依頼者に対する建物状況調査(建物の構造耐力上主要な部分又は雨水の浸入を防止する部分として国土交通省令で定めるものの状況の調査であつて、経年変化その他の建物に生じる事象に関する知識及び能力を有する者として国土交通省令で定める者が実施するものをいう。)を実施する者のあつせんに関する事項
読み下すと、中古住宅の媒介契約書には「建物状況調査をする人を紹介するかどうか」を書かなければならない、という意味です。書く義務があるのは不動産会社側で、売主が調査を受ける義務ではありません。
「業者を1社教えてもらった」なら、あっせんを受けたことになりそうです。国土交通省の定義は、そこまで緩くありませんでした。あっせんとは、調査実施者が作成した見積もりを依頼者に伝えるなど、調査の実施に向けた具体的なやりとりが行われるよう手配すること。連絡先を教えるだけでは、あっせんに当たりません。
この線引きは売主の手間に直結します。あっせんなら、見積もりが届くところまで不動産会社が動いてくれる仕組み。情報提供だけなら、そこから先は自分で連絡することになります。
不動産会社があっせん「無」と記載するときは、その理由も書くことになっています。だから不動産会社は、まず制度の概要を説明したうえで希望を聞きます。売主が希望し、あっせんが可能なら、媒介契約書に「有」と記載して具体的な手配へ。紹介してもらう人数に制限はありません。
媒介契約の種類そのものについては、一般媒介と専任媒介の違いを整理した記事も参考になります。
重要事項説明で伝える調査結果の概要
調査を実施した場合、その結果は買主への重要事項説明で伝えられます。宅建業法第35条第1項第6号の2イが定める内容です。
建物状況調査(実施後国土交通省令で定める期間を経過していないものに限る。)を実施しているかどうか、及びこれを実施している場合におけるその結果の概要
注目してほしいのは括弧書きです。「実施後国土交通省令で定める期間を経過していないものに限る」と条件が付いています。実施した調査がいつまでも使えるわけではありません。この期間については後の章で詳しく扱います。
この第6号の2には、イとロの2つが並んでいます。いま見たイが調査結果で、続くロが「設計図書、点検記録その他の建物の建築及び維持保全の状況に関する書類」の保存状況です。ロも説明対象になります。ここでいう書類には「建物状況調査の結果についての報告書」が含まれる点に注意。報告書を紛失していると、不動産会社は重要事項説明の場で調査結果が不明である旨を説明することになります。再発行を頼めるうちに手元を確認しておきましょう。
売買契約書に残す当事者双方の確認事項
契約が成立すると、今度は売買契約書に記載が回ってきます。宅建業法第37条第1項第2号の2はこう定めています。
当該建物が既存の建物であるときは、建物の構造耐力上主要な部分等の状況について当事者の双方が確認した事項
売主と買主が、建物の骨組みと雨の浸入を防ぐ部分の状態について何を確認したのかを、書面に残すという意味です。調査を実施していれば、その結果が確認事項の中身になります。
実施していなければ空欄で終わり、と読めるところですが、扱いは違います。確認した事項がない旨を記載して交付することになるためです。何も書かない、という選択肢はありません。
この一行が、後から意味を持ちます。引き渡し後に買主から「聞いていなかった」と言われたとき、契約書に確認事項が残っていれば何を伝えたかを書面で示せるためです。逆に「確認した事項なし」で契約していれば、建物の状態について双方が情報を持たないまま合意した記録が残ります。
売主と買主の実施は任意という位置づけ
3つの義務を並べると、共通点が見えてきます。記載する、説明する、書面に残す。
すべて情報の受け渡しについての義務で、調査そのものを命じる規定はどこにもありませんでした。
義務化という言葉から受ける印象と、条文が求めている中身は別物です。
あっせんを受けたあとも同じです。国土交通省は「必ず実施しなければいけないものではありません」として、見積金額や調査内容の説明を受けたうえで実施するかを決められるとしています。あっせんは媒介業務の一環なので、仲介手数料とは別にあっせん料を払う必要もありません。
\ あっせんの相談は不動産会社から /
買主側も同様に任意です。ただし買主が調査を希望する場合は、あらかじめ売主の承諾を得る必要があります。他人の家を勝手に調べることはできないためです。
義務がないなら受けない、で話は終わりそうなものです。それでも実際に受けた売主の8割近くが、満足したと答えています。ではこの調査にはどのようなメリットがあるのでしょうのか。
売主がインスペクションを受けるメリット
調査を受けた人は不動産会社に勧められて受けたのだろう。そう思われがちですが、「宅建業者(不動産会社)に勧められたため」を挙げた人は13.3%にとどまりました。
1,739人が挙げた理由の1位は「住宅の状態を知りたかったため」で42.5%。2位が「売却後のトラブルを避けたいため」の35.3%、3位が「補修、修繕をしてから売却した方がよいか判断するため」の17.7%です。勧められたから受けたのではなく、自分の家の状態を知りたい、引き渡した後で揉めたくないという理由が上位を占めていました。
この2つの動機は、いずれも法律の話につながります。売主が引き渡し後に負う責任の範囲が、調査を受けたかどうかで扱われ方が変わるためです。
契約不適合責任をめぐるトラブルの予防
契約書に「契約不適合責任を負わない」と書いておけば、引き渡した後の雨漏りは自分の責任ではなくなる。中古住宅の売買でよく聞く整理です。ただし、この特約には効かない場面があります。
民法は、引き渡された目的物が種類・品質・数量について契約の内容に適合しない場合、買主が修補などの履行の追完を請求できると定めています(第562条)。追完がなければ代金の減額請求もできます(第563条)。この責任を負わないという特約を結ぶことは可能ですが、そこには例外があります。民法第572条です。
売主は、第五百六十二条第一項本文又は第五百六十五条に規定する場合における担保の責任を負わない旨の特約をしたときであっても、知りながら告げなかった事実及び自ら第三者のために設定し又は第三者に譲り渡した権利については、その責任を免れることができない。
知っていて言わなかったことについては、特約があっても責任から逃れられません。つまり特約は、売主が知らなかったことにしか効きません。国土交通省も、調査を実施しないリスクとして、引き渡し後に不具合が発見された場合に売主が訴訟などのトラブルに発展する可能性を挙げています。同じ資料は、仲介した不動産会社が調査義務違反を問われる可能性にも触れています。ここでいう調査義務は、建物状況調査そのものではなく、不動産会社が取引にあたって物件の状況を調べて説明する義務のことです。いずれのリスクも、売主が契約不適合責任を負わない特約を結んでいても変わらないとしています。
なお買主側にも期限があります。買主が不適合を知った時から1年以内に売主へ通知しないと、追完請求や代金減額請求、損害賠償請求、契約解除ができなくなります(民法第566条)。ただし売主が引渡しの時に不適合を知っていた場合や、重大な過失で知らなかった場合は、この制限は適用されません。
ここで注意したいのは、調査を受ければ責任が免除される、という話ではないことです。受けただけで責任がなくなる制度ではありません。効果があるのは、状態を把握したうえで買主に伝えるという手順を踏めることのほうです。伝えた事実が残れば、「知りながら告げなかった」には当たりません。
既存住宅売買瑕疵保険への加入という選択肢
調査で問題がなければ、引き渡した後の修補費用をまかなう保険に入れます。既存住宅売買瑕疵保険です。国土交通大臣が指定した5つの住宅瑕疵担保責任保険法人から提供されています。
ここで見落としやすいのが、依頼先の条件です。建物状況調査ができる技術者に頼めば保険にもつながる、とは限りません。加入には、住宅瑕疵担保責任保険法人の登録を受けた検査事業者の検査員に依頼する必要があるためです。講習を修了した建築士でも、保険法人の登録がなければ保険に使える検査になりません。保険まで視野に入れているなら、依頼の段階で伝えてください。伝えていなければ、調査をやり直すことになります。
住宅の条件もあります。対象は新耐震基準等に適合している住宅です。5社のひとつ、日本住宅保証検査機構の商品では、昭和56年6月1日以降に建築確認を受けた住宅が該当。それ以前でも、新耐震基準等への適合が確認されていれば対象で、改修工事で適合させる場合も含まれます。築年数だけで諦める必要はありません。
もうひとつ、個人間売買タイプには2つの型があります。誰が買主に保証するかで分かれます。
| 項目 | 検査事業者保証型 | 仲介事業者保証型 |
|---|---|---|
| 保証する人 | 検査事業者 | 仲介事業者(不動産会社) |
| 保険期間 | 1年または5年 | 1年、2年または5年 |
| 保険金額 | 500万円または1,000万円 | 200万円、500万円または1,000万円 |
| 免責金額 | 5万円 | 原則5万円 |
| 填補率 | — | 100% |
※ 検査事業者保証型の値は住宅保証機構および日本住宅保証検査機構の商品仕様、仲介事業者保証型の値は国土交通省の資料によります。条件は保険法人と商品によって異なります。
費用は調査費とは別に必要です。保険料は個々の保険法人が設定し、国土交通省は戸建住宅で5万円程度からと示しています。住宅保証機構の商品では、料金は保険料と現場検査手数料の合計。保険料は既存住宅の床面積などによって変わります。
支払い対象になるのは、修補費用、調査費用、仮住居・転居費用等です。ただし満額が出るわけではありません。保険金の支払額は、修補費用等から5万円を差し引いた額になります。対象部分は構造耐力上主要な部分と雨水の浸入を防止する部分が基本で、給排水管路などは特約扱い。しかも給排水管路や給排水設備・電気設備については、保険法人によっては保険対象としていないところもあります。水回りまで守られると考えていると、加入後に食い違いが出ます。
もうひとつ、調査を受けさえすれば入れる保険でもありません。調査結果の概要に「調査できなかった」または「劣化事象有り」と記載があると、そのままでは加入できないためです。調べられなかった部位は再度調査が必要になり、劣化事象があれば内容に応じて修補したうえで再検査を受けることになります。ここが、次に見る売主の負担につながります。
買主の不安を減らして商談を進めやすくする効果
調査を受けた物件の査定平均額は、戸建で2,165万円。受けていない物件は1,830万円でした。300万円以上の差があります。ここだけ見れば、調査を受けた分だけ高く売れたという結論になりそうです。
ところが国土交通省は、この読み方を否定しています。
なお、更なる専門的分析により、既存住宅状況調査を実施することそのものについての売買価格への影響は中立的であることが検証されている。
差が生まれた原因は、調査ではなく物件のほうにありました。建物性能・立地・面積などの点で価値の高い物件について、調査が実施される傾向がある。だから調査済み物件の平均額が高く出る、という説明です。
調査そのものが価格を押し上げるわけではありません。
では、費用をかける意味はどこにあるのか。差が出ていたのは価格ではなく、時間のほうでした。
売主による実施の有無で、媒介契約から成約までの期間を比べたデータがあります。「1週間未満」で成約した割合は、戸建で実施617件のうち25.3%に対し、未実施326件では8.1%。マンションでは実施345件のうち18.4%、未実施445件では8.6%です。3倍前後の開きがあります。
国土交通省はこの結果について、調査済み物件であることが取引当事者の意思決定を促し、成約期間の短縮につながっていると読み取っています。買主が判断を先延ばしにする理由が1つ減るためです。ただしアンケートの傾向であって、実施すれば必ず早く売れるという保証ではありません。
実施した人の満足度も出ています。「とても満足」22.4%と「満足」56.1%を合わせて78.5%(205人)。売主118人に限ると「とても満足」23.7%、「満足」55.9%でした。今後も実施したいと答えた割合は、実施経験のある戸建の売主で77.1%、マンションで71.0%です。
価格は変わらず、成約までの期間が短くなる。この整理ができていれば、売却価格の値下げをどのタイミングで判断するかという問題とは切り離して考えられます。調査を受けたのに価格が上がらない、と落胆する必要はありません。
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ただし、成約が早まる理由は買主に情報が渡ることでした。同じ情報が、売主にとって不利に働く場面もあります。
売主がインスペクションで負うリスク
調査で劣化が見つかっても、報告書は自分のものだから伏せておけばよい。そう考えると、思わぬところでつまずきます。民法第572条が、知りながら告げなかった事実については責任を免れないと定めているためです。
調査を受けた時点で、売主は自分の家の状態を知った人になってしまい不都合があっても隠し通すことはできません。ここからはインスペクションで追うリスクについて解説していきます。
見つかった劣化は買主に伝える必要がある
調査結果の概要は、重要事項説明で買主に伝えられます。報告書についても、依頼者が売主の場合は買主に渡すことが望ましいと国土交通省はしています。買主がリフォームやメンテナンスをする際の参考になるためです。劣化事象が記載されていれば、そのまま買主の知るところになります。
では、伝えたくないから調査を受けない、という選択はどうか。制度上は可能です。ただし調べなければ知らずに済む、ともいきません。国土交通省は、買主からの調査の要望を断って成約し、引き渡し後にトラブルへ発展した例を挙げています。
見方を変えると、伝えることは不利ばかりではありません。劣化があることを前提に価格を決めて契約すれば、引き渡し後に問題を持ち出される余地は小さくなります。今の価格を守るか、後の紛争を避けるか。どちらを優先するかの判断です。
指摘事項が値引き交渉の材料になる場面
劣化事象が明らかになれば、買主はそれを根拠に価格の話をしてきます。民法上、引き渡し後に契約の内容と違う点が見つかれば、買主は修補を求められる立場。修補されなければ代金の減額も請求できます。契約前に劣化が分かっていれば、買主は「あとで修補を求めるくらいなら、いま価格に反映してほしい」と言えることになります。
売主から見れば、調査を受けなければ表に出なかった指摘を自分で用意したことになります。とくに築年数の経った物件では、何かしらの指摘が出る可能性を織り込んでおいたほうがいいでしょう。
では、調査を受けなければ交渉されずに済むのか。そうとも限りません。買主が独自に調査して同じ指摘が出る展開があるためです。その場合、交渉は契約直前に発生します。売主に準備の時間がないぶん、条件を飲まざるをえない場面も出てきます。早めに知って備えるか、指摘が出ないことを期待するか。どちらのリスクを取るかという判断です。
修繕費と再調査費が二重にかかる場合
調査費用さえ払えば保険に入れる。そう見積もっていると、途中で予算が足りなくなります。結果の概要に「劣化事象有り」とあると、そのままでは加入できないためです。修補したうえで再度検査を受け、劣化事象がないことを確認してもらう流れになります。かかるのは調査費用、修繕費用、再検査費用の3つ。修繕の金額は劣化の中身次第なので、調査が終わるまで総額が読めません。
\ 修繕するか決める前に、売れる金額を確認 /
「調査できなかった」の記載も同じです。点検口がない、家具が動かせないといった理由で調べられなかった部位があれば、その部位についての再調査が必要になります。当日に動かせる家具は動かしておくと、この二度手間を減らせます。
ただし、修繕費用には補助が用意されている場合があります。既存住宅流通活性化緊急促進事業では、既存住宅状況調査により判明した補修が必要な箇所について、1箇所あたり5万円、1戸あたり上限15万円の補助が受けられます。対象は構造耐力上主要な部分等と、その修繕のために撤去等を要する台所・便所・洗面及び浴室等のみ。水回りそのものの交換は対象外です。対象区域も限定されているため、詳しくは次の章で扱います。
補助があるとはいえ、そもそもの調査費用がいくらなのかが分からなければ、受けるかどうかは決められません。
インスペクションの費用相場と負担する人
国土交通省が示す目安は「6万円程度〜」です。令和6年4月時点の同省の資料に、標準的な検査内容の場合の目安として記載されています。
国が目安を出しているなら、料金は横並びに近いだろう。そう受け取ると見積もりで驚きます。基準となる費用の設定はなく、金額は調査実施者ごとに違うためです。動く理由は物件の規模、工法、依頼先の3つ。戸建(木造)とマンション(鉄筋コンクリート造等)では、調査する部位や箇所数が違います。その分だけ費用にも差が出ます。
どれくらい違うのか。国が集めた実例が残っています。
一戸建てとマンションの費用の目安
国土交通省が各検査事業者のホームページなどをもとに4社の料金をまとめた資料があります。令和5年9月時点の一例です。
| 事業者 | 戸建住宅 | 共同住宅(住戸単位) |
|---|---|---|
| A社 | 93,500円〜(125㎡未満) | 60,500円〜(85㎡未満) |
| B社 | 60,500円〜(165㎡未満) | 66,000円〜 |
| C社 | 66,000円〜(125㎡未満) | 66,000円〜(85㎡未満) |
| D社 | 66,000円〜(125㎡以下) | 49,500円〜(100㎡以下) |
※ 税込・オプション検査を含まない基本料金です。標準検査時間は戸建で1〜3時間程度、共同住宅で2時間程度とされています。金額は事業者により異なり、変わることがあります。
料金はどの社も延床面積の区分で決まります。戸建なら「125㎡未満」「165㎡未満」といった区切りがあり、面積が大きくなるほど上がる仕組み。マンションは住戸単位で、「85㎡未満」「100㎡以下」といった区切りが使われます。
ここまでなら、面積が同じなら金額も近いはずです。ところが表のA社とC社は、どちらも「125㎡未満の戸建」でありながら93,500円と66,000円。3万円近い開きがあります。差の理由は、標準料金にどこまで含めるかの設計です。A社は床下・小屋裏への進入調査まで標準に含める一方、非破壊検査は追加料金としていました。ほかの3社は床下・小屋裏をオプション項目に置いています。
だから、自宅の延床面積を確認したうえで複数社の見積もりを取る意味があります。金額だけを並べても、含まれる中身が違えば比べたことになりません。
所要時間は1〜3時間程度が見込まれます。丸一日拘束されるわけではないので、立ち会いの予定も組みやすいでしょう。
オプション調査で費用が上がるケース
基本料金に含まれるのは、既存住宅状況調査の調査項目だけです。ここから外れるものはオプションになります。
外れる項目を見ると、売主が「見てほしい」と思う場所が並びます。4社の例では次のとおりでした。
- 床下・小屋裏への進入調査(シロアリ、給排水管・排水桝)
- 給排水管路検査、住宅設備機器検査
- 全室での傾斜確認、水漏れ等の設備確認
- 詳細報告書の作成、指摘事項の再確認
- 非破壊検査を実施する場合の追加料金
シロアリ、水漏れ、床の傾き。買主が中古住宅で気にする項目のほとんどが、基本料金の外にありました。築年数が経ち、水回りの状態が読めない物件なら足しておく価値があります。
ただ、全部を足せば費用は膨らみます。売却手続きに必要なのは基本の調査項目だけ。オプションは買主から質問されそうな箇所に絞れば足ります。見積もりでは、基本料金に何が含まれ何がオプションなのかを先に確認してください。
売主と買主のどちらが払うかの実務
費用を負担するのは、調査を依頼した人です。国土交通省も「建物状況調査の依頼者(売主、購入希望者等)が負担するのが一般的」としています。売主が依頼すれば売主、買主が依頼すれば買主が払います。ルールで決まっているわけではありません。
不動産会社にあっせんしてもらった場合でも、あっせん料はかかりません。あっせんは媒介業務の一環として行われるものだからです。仲介手数料とは別に請求されることはありません。
瑕疵保険まで使う場合は、費用の内訳が増えます。
| 費目 | 目安 |
|---|---|
| 建物状況調査の費用 | 6万円程度から(基準の設定はなし) |
| 瑕疵保険の保険料 | 戸建住宅で5万円程度から |
| 瑕疵保険の現場検査手数料 | 構造・床面積・検査タイプにより異なる |
※ 2026年9月時点で公表されている目安です。実際の金額は事業者と保険法人により異なります。
保険に入らず調査だけを受けるなら、かかるのは調査費用のみです。
ここで知っておきたいのが補助制度です。既存住宅流通活性化緊急促進事業では、住宅所有者への補助として最大20万円が用意されています。
| 補助対象 | 補助額 | 補助金の交付先 |
|---|---|---|
| 既存住宅状況調査 | 5万円/戸(5万円未満の場合は実費、千円未満切り捨て) | 住宅所有者または買取再販業者、既存住宅状況調査技術者 |
| リフォーム設計・提案 | 3万円/戸 | 宅建業者 |
| 補修工事 | 5万円/箇所、上限15万円/戸 | 住宅所有者または買取再販業者 |
※ 2026年9月時点。制度は変更されることがあります。
補修工事とセットでないと使えない制度に見えますが、調査だけでも対象になります。
しかも調査費用が5万円を下回る場合は実費までの補助です。先ほどの表では、D社のマンション住戸単位が49,500円でした。この水準なら、自己負担がほとんど残らない計算になります。
ただし条件があります。対象区域は、首都圏、近畿圏、中部圏、札幌都市圏、仙台都市圏、広島都市圏、福岡都市圏とその周辺に限られます。そのうえで、地価公示等から住宅地の一定の地価上昇が確認できる市区町村だけが対象。自宅が該当するかは事務局の一覧で確認してください。
申請するのは宅地建物取引業者または既存住宅状況調査技術者で、住宅所有者が直接申請することはできません。流れは、不動産会社へ相談し、不動産会社が必要書類を準備して申請し、調査と補修工事を経て補助金が交付されるという順序です。調査と補修工事の補助金は住宅所有者に交付されます。不動産会社が受け取るのは、リフォーム設計・提案の3万円だけです。
交付申請(変更申請)の提出期限は令和8年11月30日(月)17時必着、完了実績報告の提出期限は令和8年12月25日(金)17時必着です。2026年9月時点で受付は継続していますが、予算の状況により早期に終了する場合があります。最新の状況は不動産会社または事務局にご確認ください。
\ 補助の対象区域かもまとめて聞ける /
費用の見通しが立つと、早めに受けておこうという発想になります。しかし早すぎる調査は、売却が長引いたときに使えなくなるので注意してください。
売却の流れの中でインスペクションを入れる時期
6万円かけて受けた調査なら、売れるまでずっと使えるはずです。ところが宅地建物取引業法施行規則第16条の2の2が、使える期間を区切っていました。
法第三十五条第一項第六号の二イの国土交通省令で定める期間は、一年(鉄筋コンクリート造又は鉄骨鉄筋コンクリート造の共同住宅等(住宅の品質確保の促進等に関する法律施行規則第一条第四号に規定する共同住宅等をいう。)にあつては、二年)とする。
木造戸建なら1年、鉄筋コンクリート造や鉄骨鉄筋コンクリート造のマンションなら2年。
この期間を過ぎた調査は、重要事項説明で「実施している」ものとして扱われません。
売り出してから1年を超える戸建は珍しくありません。その場合、最初に受けた調査は買主への説明材料から外れ、受け直しが必要になります。つまり実施時期は、費用と同じくらい結果を左右する要素でした。
\ 売れるまでの期間は物件しだい /
媒介契約の直後に実施する場合の進み方
売主が実施するなら、媒介契約を結んだ後の早い段階が動きやすいタイミングです。販売活動が始まる前に結果が出ていれば、買主への説明材料として最初から使えます。
当日までに用意しておく書類があります。調査対象住宅の設計図書、耐震性に関する書類(新築時の確認済証、住宅性能評価書等)などが代表的。共同住宅の場合は、これらに加えて管理規約や長期修繕計画の写しを管理組合に請求して準備することもあります。
面倒な作業に見えますが、この書類探しで費用が下がることがあります。瑕疵保険の現場検査手数料に、新築時の検査実績に応じた割引が設けられているためです。
住宅保証機構の商品では、いくつかの条件に当てはまると現場検査の一部を省略できます。昭和56年6月1日以降に建築確認を受け完了検査済証を取得した住宅、新築時に住宅性能保証制度に加入した住宅、建設住宅性能評価を取得した住宅などが該当。省略した分が割引になります。建設住宅性能評価を取得していて1999年5月以降に建築確認を受けた住宅、または長期修繕計画がある場合は、さらに割引になります。
調査自体は1〜3時間程度です。立ち会いは建物の所有者が行うのが一般的で、居住中の住宅でも実施できます。住みながら売却を進めている場合でも、日程さえ合えば問題ありません。内覧の準備と合わせて考えるなら、マンション売却の内覧で見られるポイントも参考になります。
受け取った結果の概要と報告書に、保管義務はありません。捨ててもよさそうですが、重要事項説明で必要になる書類です。紛失すると、不動産会社は調査結果が不明である旨を買主に説明することになります。6万円かけた調査が、説明材料として使えなくなります。媒介を依頼している場合は、結果の概要を不動産会社に渡してください。
補助制度を使うなら、スケジュールにもう一段の制約が加わります。
| 手続き | 期限 |
|---|---|
| 交付申請(変更申請)の提出 | 令和8年11月30日(月)17時 必着 |
| 完了実績報告の提出 | 令和8年12月25日(金)17時 必着 |
※ 交付申請は受付期間内であれば随時受付されます。
補修工事まで行うなら、11月末に申請してから12月25日までに工事を終えて報告する必要があります。年末近くに動き出すと間に合わない可能性があるため、余裕を持って相談を始めておきましょう。
調査結果を重要事項説明で使える期間
1年を過ぎた調査は無効になる。そう受け取ると、少しずれます。国土交通省は「有効期限はありませんが、時間の経過とともに建物の現況と調査結果との間に乖離が生じることが考えられます」と説明しています。報告書そのものは失効しません。
期限が付いているのは、重要事項説明の対象になるかどうかという範囲です。調査から2年経った戸建の報告書も、買主に見せる資料としては使えます。ただし不動産会社が重要事項として説明する対象からは外れる、という区別でした。
マンションの2年という期間は、令和6年4月1日から適用されました。住戸内と住戸外の調査を別々の調査者が実施することも可能になったためです。共同住宅の場合の既存住宅売買瑕疵保険で、加入に必要な現場検査結果の要件と揃える形で見直されました。
同じ1年・2年の期限は、瑕疵保険にもあります。住宅保証機構は検査機関保証型について、現場検査に合格した住宅の引渡し期限を定めています。直近の現場検査実施日から1年間、RC造およびSRC造の共同住宅等の場合は2年間です。日本住宅保証検査機構の商品でも、検査実施日から引渡日までの期間が1年以内であることが条件。調査と保険で期限が揃っているため、片方だけが切れるという事態は起きにくい設計になっています。
期間内に調査が複数ある場合はどうなるか。現況との乖離が最も小さいと考えられる直近の調査が、重要事項説明の対象です。ただし直近以外の調査で劣化事象等が確認されているなら、扱いが変わります。取引の判断に重要な影響を及ぼすと考えられる場合、そちらも購入希望者に説明することが適当だと国土交通省はしています。
期間内に大規模な自然災害が発生した場合も、その調査は重要事項説明の対象のままです。災害による建物への影響を具体的に判断することが難しく、災害前の調査結果も判断の参考になるためです。説明の際には、調査後に大規模な自然災害が発生した旨も併せて伝えることが望ましいと国土交通省はしています。
買主から実施を求められたときの売主の対応
購入希望者から「調査させてほしい」と言われたとき、断る権利は売主にあります。買主が勝手に調査を進めることはできず、あらかじめ売主の承諾が必要だからです。窓口は不動産会社になります。
ただし、断った側が守られるとは限りません。国土交通省の資料には、要望を断って成約した売主の例が載っています。引き渡した後に買主から不具合の指摘を受け、隠していたのではないかと言われて発展したケースでした。断る権利はあっても、断ったこと自体が後で不利に働く場面があります。
買主が依頼した場合、結果の概要と報告書は買主に渡されます。ここで売主が気にしたいのは、買主が購入を見合わせたときです。契約に至らなくても書類は買主の手元に残り、自宅の劣化事象を記した資料が他人に渡ったままになります。だから調査後の情報の取り扱いについては、あらかじめ売主と購入希望者の間で相談しておくよう国土交通省は案内しています。承諾する前に、書類をどう扱うかを不動産会社経由で確認してください。
なお、売主がすでに調査を実施していても、不動産会社は購入希望者に対して制度の概要を説明し、あっせんを希望するかを確認する必要があります。売主が調査済みだから買主への説明は不要、とはなりません。
瑕疵保険の検査・保証依頼については、買主(予定者)からの依頼も可能です。売主が保険まで手を回さない方針でも、買主側が主導することはできます。
時期を決めても、依頼先を間違えれば調査そのものが使えません。最後に、選ぶときの条件を確認しましょう。
インスペクションの依頼先を選ぶ基準
建築士に頼めば間違いない。依頼先を選ぶとき、多くの人がここで判断を止めます。
ところが建築士であることは、条件の半分でしかありません。
分かれ目は2つあります。国の講習を修了した建築士かどうかと、瑕疵保険法人の登録を受けた検査事業者かどうかです。前者を満たさなければ宅建業法上の建物状況調査にならず、重要事項説明に使えません。後者を満たさなければ、瑕疵保険に加入できません。
料金の安さだけで選ぶと、この2つを外すことがあります。費用を払ったのに売却手続きでは使えなかった、という事態を避けるには、何に使う調査なのかを先に決めておく必要があります。
資格と検査実績の確認方法
探し方は主に2つ。不動産会社にあっせんを頼む方法と、自分で探す方法です。
自分で探すとなると当てがなさそうですが、公的な検索先が用意されています。既存住宅状況調査技術者検索サイト(https://kizon-inspection.jp/)です。国土交通省の補助事業により、一般社団法人住宅リフォーム推進協議会が開設しました。
検索できるのは、調査・検査種別、対応可能エリア、物件種別、技術者名や事業者名。このうち調査・検査種別には、既存住宅状況調査のほか、フラット35物件検査、既存住宅売買瑕疵保険の検査といった区分があります。保険まで使いたいなら、この段階で該当する種別に対応している人を絞り込めます。
依頼先が決まったら、当日に資格を確認できます。調査実施者はカード型の修了証などを携帯しているため、提示を頼めばその場で分かります。
法人に頼むか個人に頼むかは、どちらでも構いません。ただし報酬を得て建物状況調査をするには、建築士法に基づく建築士事務所に所属している必要があります。あっせんの対象になるのも、登録を受けている建築士事務所に所属する建築士か、その建築士事務所です。
報告書の中身とその後の相談体制
報告書は、重要事項説明の場面だけでなく、買主が引き渡し後にリフォームやメンテナンスを計画する際の資料にもなります。だから内容の充実度は、売却の場でそのまま説得力の差になります。
見積もりの段階で確認しておきたいのは次の点です。
- 報告書に写真がどの程度含まれるか
- 「調査できなかった」と記載される可能性がある部位を事前に教えてもらえるか
- 劣化事象が見つかった場合に、修補の方向性まで相談できるか
- 再調査が必要になった場合の費用の扱い
4つ目を見落とすと、後から予算が狂います。瑕疵保険まで進むなら、修補後の再検査が発生する可能性があるためです。最初の見積もりに再検査の条件が書かれていなければ、修補の後になって追加費用が判明します。安く見えた見積もりが、最終的に高くつくのはこの場面です。
書類の再発行に応じてもらえるかも聞いておくとよいでしょう。結果の概要や報告書を紛失した場合、再発行を依頼できれば売主が準備して不動産会社に渡すのが一般的です。再発行が難しいと、重要事項説明で調査結果が不明である旨を説明することになってしまいます。
不動産会社のあっせんを使うか自分で探すか
あっせんを使う利点は、手間が省けることと、費用が上乗せされないことです。あっせんは媒介業務の一環なので、仲介手数料とは別にあっせん料を払う必要はありません。あっせんする調査実施者の数にも制限がないため、複数を紹介してもらって比較することもできます。
あっせんを受けた後に断ることも可能です。見積金額や調査内容の説明を受けたうえで、実施するかどうかを決められます。紹介されたから受けなければならない、ということはありません。
売主または購入希望者が、自分で調査実施者に依頼することもできます。ただし不動産会社には、結果の概要について重要事項説明をする義務があります。調査結果の概要は不動産会社に伝えてください。
瑕疵保険まで考えているなら、あっせんを頼むときにその旨を伝えてください。国土交通省は、保険加入の意向がある場合、不動産会社は住宅瑕疵担保責任保険法人の登録を受けた検査事業者の検査員をあっせんすることが適切だとしています。伝えていないと、保険に使えない調査になってしまう可能性があります。
\ 調査をあっせんできる会社を探す /
不動産会社の対応そのものに不安が残る場合は、媒介契約を結んだ後に不動産会社を変える方法も選択肢として整理しておくと安心です。
まとめ
義務ではない、価格も上がらない。ここまで読むと受ける理由が乏しく見えますが、受けた売主の8割近くが満足したと答えていました。効果が出ていたのは、責任の範囲と成約までの時間でした。
- 売主にも買主にも実施義務はない
- 義務を負うのは仲介する不動産会社
- 不動産会社に課されるのは以下の3つ
- 媒介契約書へのあっせんの記載
- 重要事項説明での結果の説明
- 売買契約書への確認事項の記載
- 費用の目安は6万円〜
- 負担するのは依頼した人のため、あっせん料は不要
- 調査費用に5万円の補助が受けられる
- 対象区域なら、既存住宅流通活性化緊急促進事業として扱われる
- 調査により売買価格を押し上げるのは違法ではない
- 国土交通省の分析で中立と検証された
- インスペクション調査は売買において有利に働く可能性が高い
- 成約までの期間が短くなる可能性がある
- 重要事項説明で使える条件がある
- 調査から1年(鉄筋コンクリート造等のマンションは2年)以内のもの
迷っている段階なら、まず媒介契約の相談時に「あっせんは可能か」「うちの物件は補助の対象区域か」の2つを不動産会社に聞いてみてください。この2つの答えが出れば、実施するかどうかの判断材料はほぼ揃います。
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よくある質問
売主から寄せられることの多い質問を、6つにまとめました。
インスペクションを実施しないと売却できませんか
実施しなくても売却できます。国土交通省も、既存住宅を売買する場合に必ず建物状況調査を実施しなければならないものではないとしています。義務があるのは不動産会社の説明であって、売主の実施ではありません。
不動産会社からあっせんを勧められたら断れますか
断れます。あっせんを受けた場合でも、調査費用の見積もりや調査内容について説明を受けたうえで、実施するかどうかを決められます。あっせん自体は媒介業務の一環なので、断ったからといって別途費用が発生することもありません。
住んだままの状態でも調査してもらえますか
居住中の住宅でも実施できます。ただし動かせない家具で隠れている箇所は「調査できなかった」と記載されるため、移動できる家具は当日までに動かしておくと記載を減らせます。所要時間は1〜3時間程度が目安です。
調査で不具合が見つかったら必ず修繕しなければなりませんか
修繕は義務ではありません。ただし既存住宅売買瑕疵保険に加入したい場合は、劣化事象を修補したうえで再度検査を受け、劣化事象がないことを確認してもらう必要があります。保険を使わないなら、劣化があることを前提に価格を決めて売却する道もあります。
マンションでもインスペクションは必要ですか
マンションも対象です。ただし共用部分も調査の対象になるため、あらかじめ管理組合の了承を得る必要があります。調査には2種類あります。住棟全体のうち特定階等を調べる「住棟型調査」と、特定住戸とマンション出入口から住戸に至る経路等を調べる「住戸型調査」です。共用部分のみ、専有部分のみの実施もできます。
調査は何時間かかり、立ち会いは必要ですか
住宅の規模等にもよりますが、1〜3時間程度が見込まれます。立ち会いは建物の所有者が行うのが一般的です。調査当日までに、設計図書や新築時の確認済証、住宅性能評価書などを準備しておくとスムーズに進みます。
出典
※公表日・更新日が明示されていない資料は、2026年9月時点で各機関が公開している内容によります。
- e-Gov法令検索・宅地建物取引業法(建物状況調査に関する規定の施行日:2018-04-01)
- e-Gov法令検索・宅地建物取引業法施行規則(第16条の2の2の改正施行日:2024-04-01)
- e-Gov法令検索・民法(債権関係改正の施行日:2020-04-01)
- 国土交通省・宅地建物取引業法における建物状況調査に関するQ&A(公表日:2024-04-01)
- 国土交通省・建物状況調査(インスペクション)活用の手引き(公表日:2024-04-01)
- 国土交通省・既存住宅状況調査、既存住宅瑕疵保険関係資料(公表日:2023-09-01)
- 国土交通省・インスペクションに関する消費者向けアンケート調査(調査年度:令和4年度)
- 既存住宅流通活性化緊急促進事業・交付申請等手続きのご案内(更新日:2026-06-29)
- 日本住宅保証検査機構・JIO既存住宅かし保証保険パンフレット(公表日:2025-06-01)
- 国土交通省・インスペクション(既存住宅の点検・調査)
- 国土交通省・既存住宅売買瑕疵保険(個人間売買タイプ、仲介事業者保証型)
- 国土交通省・既存住宅状況調査技術者講習制度について
- 住宅瑕疵担保責任保険協会・既存住宅売買のかし保険(個人間売買タイプ)
- 住宅保証機構・まもりすまい既存住宅保険【検査機関保証型】
- 既存住宅状況調査技術者検索サイト
