- 私道持分なし物件を売る前に確認すべきこと
- 持分の取得・地役権・承諾書の選び方
- 仲介と買取を、手取りや売主負担まで含めて比べる方法
私道の持分がない土地や戸建ても、売買の対象にできます。持分がないだけで売却が禁止されたり、必ず再建築できなくなったりするわけではありません。
ただし、買主が購入後も問題なく使えるかは別です。重要なのは持分の有無だけではなく、公道まで通れるか、建て替えられるか、配管工事ができるか、その根拠を書類で示せるかです。
私道の持分なし=私道を使う権利なし、ではありません。一方で、位置指定道路だから自由に通行・掘削できるとも限りません。
- 道路・再建築
敷地が建築基準法上の道路へ必要な長さだけ接しているか - 徒歩・車両の通行
公道まで通れる根拠を、登記・契約・法律などで示せるか - ライフライン工事
上下水道やガスなどの新設・交換・修理で私道を掘れるか - 融資・売買契約
確認結果を買主と金融機関へ説明し、契約条件に反映できるか
売却を考え始めたら、購入時の売買契約書・重要事項説明書、対象地と私道の登記・図面、自治体の道路資料、通行・掘削の書面、配管図や工事記録をまとめてください。書類名や内容が分からなくても、そのまま不動産会社へ見せて構いません。
私道所有者から通行や工事を断られている、妨害がある、所有者や所在が分からない、再建築の見通しが立たない場合は、売主だけで交渉や約束を進めないでください。資料を不動産会社へ渡し、必要に応じて建築士、司法書士、土地家屋調査士、弁護士へ確認します。
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私道持分なしの売却方針は、4つの確認結果で3つに分かれる
持分を買う、承諾書を取る、買取に出す。対策を先に決めると、解決したい問題に合わない費用や手間が生じることがあります。先に4項目を調べれば、自分の物件が次のどれに近いかが見えてきます。
再建築、通行、工事、費用、売却後の使い方まで資料で説明できる状態です。買主と金融機関が求める書類をそろえ、仲介での売却を検討します。
再建築の見通しはあるものの、通行や工事の範囲、書面の内容が足りない状態です。持分の取得、地役権、合意書のうち、不足している根拠に合う方法を検討します。
拒否、妨害、所有者不明などがあり、解決の費用と期間を読みにくい状態です。一般市場、隣接地の所有者、事情のある不動産を扱う買取会社の条件を比べます。
この3分類は、法的な結論を売主だけで出すためのものではありません。どの専門家に何を確認してもらい、どこまで整えてから売るかを決めるための目印です。
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「私道の持分なし」と「通行・掘削の権利なし」は別物
私道の持ち方は一つではありません。道路全体を近隣住民で共有する形もあれば、複数の道路部分を各自が一筆ずつ所有する形、分譲会社や第三者がまとめて所有する形もあります。対象地の所有者だけが、一部の区間に持分を持っていないこともあります。
登記のうえで一つの土地として扱われる単位を「筆(ひつ)」と呼びます。見た目は1本の道でも、登記では3筆以上に分かれていることがあります。
買主が道路を使える根拠と、その根拠を裏付ける材料は、次の5つに分けて確認します。
- 私道の所有権・共有持分
道路の全部または一部を所有している、という根拠です。ただし、別の筆を通れるか、共有の道路を自分ひとりの判断で掘れるかは、これとは別に確かめます。 - 登記された通行地役権
地役権とは、自分の土地のために他人の土地を使う権利です。対象の土地、経路、徒歩だけか車両まで含むのかを、登記と設定契約書で確かめます。 - 通行・掘削の契約書や承諾書
当事者が合意した使い方、工事、費用、条件が分かります。対象地や私道の所有者が変わった後も効力を主張できるかは、書面ごとに確認します。 - 民法など法律上の権利
一定の要件を満たすと、公道へ出るための通行や、電気・ガス・水道などの設備設置・使用が認められることがあります。ただし、経路、方法、通知、金銭負担を自由に決められるわけではありません。 - 分譲時の経緯、黙示の合意、長年の利用
通行地役権や合意の内容を判断する材料になることがあります。ただし、長く使ってきた事実だけで、希望どおりの車両通行や掘削が認められるとは限りません。
見るべきなのは、持分の有無だけではありません。誰が、どの筆を、何のために、どこまで使えるのか。公道までの経路で、確認できる根拠がどこかで途切れていないかを調べます。
私道持分なしの土地は、公道までの全筆を特定してから所有者に話す
私道所有者へ話を持ちかける前に、資料をそろえます。すでに使える権利があるのに新たな承諾を求めたり、関係のない所有者へ交渉したりすると、手続や条件が複雑になることがあるからです。
公道までの通行経路と、通る私道の筆を1枚に描く
手書きで構いません。対象地から公道へ出るまでの線を引き、その線が通る筆をすべて書き出します。
ここで、たとえば3筆のうち2筆にしか登記や契約上の根拠を確認できない、という状態が見つかることがあります。手前は問題なくても、公道へ出る最後の1筆だけ根拠が確認できない、といった状態です。
書面や登記で根拠を確認できない区間があれば、その区間について、黙示の合意、地役権、民法上の通行権などを別途確認します。書類がないことだけで、直ちに通行権がないと決めないでください。
幅の狭い部分や、曲がり角を斜めに切り取った「隅切り」の部分まで、地番を一つずつ確かめます。
対象地と私道全筆の登記事項証明書・公図・測量図を取る
登記事項証明書で調べるのは、所有者、共有持分、抵当権(住宅ローンなどの担保)、通行地役権など、登記された権利です。
図面は、公図に加えて、地積測量図(土地の形や辺の長さを示す図面)、土地所在図、地役権図面があれば重ねて見ます。書面上の権利の範囲と、実際に歩いたり車で通ったりしている通路がずれていないかを確認します。
ただし、公図だけでは、現在の境界や道路幅を正確に判断できないことがあります。図面と現地が合わないときは、土地家屋調査士による測量や境界調査を検討します。
自治体で道路種別・位置指定・接道長と現地のずれを調べる
自治体の窓口や公開システムで、指定道路図・指定道路調書、道路の種類、位置指定の範囲、敷地が道路に接している長さ(接道長)、現地とのずれを調べます。建築計画概要書や過去の建築確認記録を見られるなら、以前どの範囲を敷地として申請していたかも確認します。
現在、建物が建っていることは、将来も同じ条件で建て替えられる保証にはなりません。道路や敷地の状態が変わっている、現在の法令・条例では追加条件があるなど、再建築時に別の判断が必要になることがあります。
具体的な建て替え計画によって判断が変わるときは、建築士を通じて自治体の建築指導担当へ照会します。
上下水道・ガスの配管経路と掘削の可否を事業者に聞く
上下水道やガスの図面で、本管と、そこから敷地へつながる引込管を追います。どの土地を通っているか、設備を誰が所有しているか、太さや容量に問題はないかを確認します。
今使えていること、建て替え時に配管を引き直せること、漏水や故障が起きたときに修理できること。この3つは、それぞれ別に確かめる必要があります。新設、交換、修理のそれぞれについて、必要な手続と書類を事業者に聞いてください。
通行掘削承諾書などの書面と、実際の使い方を突き合わせる
通行・掘削の契約書や承諾書、地役権設定契約書、購入時の重要事項説明書、分譲時の資料を集めます。あわせて、通行料や私道補修費の支払記録、道路・配管工事の記録、車の通り方、過去に断られた経緯や障害物を、時系列で並べます。
「昔から自由に使っている」という口頭説明だけでは、購入や融資の判断材料として足りないことがあります。書類と実際の使い方を対応させ、食い違いがあれば、その内容も不動産会社へ伝えます。
足りない権利を絞ってから、私道所有者と交渉する
調査をすると、不足している根拠が具体的になります。足りないのが車両通行なのか、配管の新設・交換なのか、それとも対象地を売った後も買主が同じ範囲で利用できることを示す書面なのかを分けます。
依頼する内容を絞れれば、通行や工事の範囲、金銭、維持費、事前連絡、工事後の復旧方法まで含めた具体的な案を出せます。
一方、はっきりした通行拒否や妨害、所有権をめぐる争いがあるときは、売主だけで交渉を続ける段階ではありません。手元の資料を持って弁護士へ相談してください。
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私道持分の取得・通行地役権・掘削承諾書は「何を解消するか」で選ぶ
対策には、それぞれ解消できることと、解消できないことがあります。名前で選ばず、調査で見つかった不足に合わせます。
| 対策 | 解消できること | 別に確認すること |
|---|---|---|
| 私道持分・道路部分の取得 | 取得した部分について、所有権や共有持分を示せる | 別の筆を通る根拠、共有私道を掘るために必要な決定や合意 |
| 通行地役権の設定・登記 | 対象の土地のために、指定した私道を通る根拠を示せる | 車両・工事車両の範囲、掘削や設備設置を含むか |
| 通行・掘削の承諾書、合意書 | 通行方法、工事、費用、復旧を文字にできる | 私道が第三者へ売られた後、その新所有者にも効力を主張できるか |
私道持分や道路部分を買い取って取得する
取得した道路部分について、所有権や共有持分を示せるようになります。ただし、公道までの経路に別の筆があれば、そこを通る根拠は改めて必要です。共有私道の工事も、持分を取得した人が自分ひとりで決められるとは限りません。
通行地役権を設定し、登記して買主へ引き継ぐ
対象地を売った後も、通行の根拠を示しやすくなります。どの土地のための権利か、どの私道を通るのか、徒歩だけか車両まで含むのかを、契約と登記で明確にします。
通行地役権という名称だけでは、配管の新設・交換や掘削まで含むとは限りません。設備工事も認めてもらうなら、その目的、範囲、工事方法を別に確認します。
通行・掘削の承諾書や合意書を作る
通行方法、工事、費用、復旧などを当事者間で文字にしておく方法です。対象となる道路の地番、署名する人に所有者・共有者・代理人としての権限があるか、対象地が売れた後の扱いまで確認します。
合意書に「将来の所有者へ引き継ぐ」と書けば、対象地の売主と買主の間では、買主が取り決めを引き継ぐ条件を示せます。
一方、私道が第三者へ売られた後、その新しい私道所有者を当然に拘束できるとは限りません。必要に応じて、地役権の設定・登記や、新しい私道所有者が契約上の立場を引き受ける手続を検討します。
承諾取得を売買契約の条件にするなら、取れなかった場合も決めておく
売主が決済までに承諾を取ると約束するなら、売買契約には次の点を具体的に書き込みます。
- 誰から、どの筆について、どの内容の承諾を得るのか
- 買主が承諾書の内容を確認する方法と期限
- 取得できなかったときに解除するのか、条件を変更するのか
- 手付金などをどのように返還・精算するのか
- 住宅ローンが承認されなかった場合の取り決めと、各条件を判定する順番
「近隣なら同意してくれるはず」という見込みだけで取得を約束すると、契約の解除、手付金の返還、違約金や損害賠償が問題になることがあります。特約は不動産会社と読み合わせ、必要に応じて弁護士へ確認してください。
私道所有者が不明・連絡不能なときは、状況で使う制度が変わる
登記名義人が従来の住所・居所を離れ、容易に戻る見込みがなく、その人の財産を管理する人もいない場合は、家庭裁判所へ「不在者財産管理人」の選任を申し立てられることがあります。管理人が不動産の売却など権限を超える行為をするには、家庭裁判所の許可が必要です。
登記名義人が亡くなり、相続人の存在・不存在が明らかでない場合や、相続人全員が相続放棄して相続する人がいなくなった場合は、「相続財産清算人」が対象になることがあります。相続人が単に行方不明というだけでは、この制度の対象とは限りません。
必要な調査をしても土地や共有持分の所有者、またはその所在が分からず、その土地を管理する必要がある場合は、地方裁判所の「所有者不明土地管理命令」を検討できることがあります。この制度は、原則として命令の対象となった特定の土地や共有持分を管理する制度です。
戸籍・住所の調査、申立先、管理人にできること、売却や権利設定に必要な許可は制度ごとに違います。登記資料を司法書士や弁護士へ渡し、どの制度が使えるか、期間と費用を含めて確認してください。
\ 権利を整える前でも、査定は取れます /
位置指定道路の持分なしでも、再建築の可否は個別に判断する
「位置指定道路の持分がないから、再建築できない」。そう説明されることがありますが、この二つは直結しません。
位置指定道路とは、土地を建物の敷地として利用するために造られ、建築行政を担当する自治体などから道路の位置の指定を受けた道路です(建築基準法42条1項5号)。
都市計画区域と準都市計画区域では、建物の敷地は、原則として建築基準法上の道路に2m以上接していなければなりません。この接道ルールが直接求めているのは道路に接していることであり、その道路の所有権や持分を持っていることではありません。
位置指定が決めるのは、建築基準法上の道路としての扱いです。
その道路を人や車が通れるか、配管工事で掘れるかは、所有権、地役権、契約、民法などによる権利をもとに別に確認します。
再建築の見通しを左右するのは、指定の内容と、現地・敷地とのずれです。
- 位置指定の番号と指定年月日
- 指定された位置、延長、道路幅
- 指定範囲と現在の道路形状が合っているか
- 対象地が指定範囲に、必要な長さだけ接しているか
- 指定範囲内の幅員、隅切り、敷地側の後退、自治体条例などの条件
- 道路が変更・廃止されていないか
- 建築基準法43条2項の認定・許可が必要か
国土交通省は、道路の種類や位置などを「指定道路図」で、指定年月日・位置・延長・道路幅などを「指定道路調書」で確認できる仕組みを案内しています。ただし、作成・公開の状況や閲覧方法は自治体によって異なります。
窓口では、次のように伝えると確認したい内容が伝わりやすくなります。
「対象地の地番は○○です。前面の私道について、建築基準法上の道路の種類、位置指定番号と指定範囲、現地とのずれ、敷地が道路に接している長さ、再建築時に必要な手続、条例上の条件を知りたいです。閲覧できる指定道路図・指定道路調書と、過去の建築確認記録を教えてください」
なお、私道の変更や廃止によって、接している敷地が接道ルールなどに違反することになる場合、特定行政庁が変更・廃止を禁止または制限できることがあります。ただし、これは建築行政上の規制です。敷地の所有者に、私法上の通行権や掘削権を与える規定ではありません。
通行掘削承諾書がないときは、通行の権利とライフライン工事を分けて考える
実務では、道路を通ることと、道路を掘って配管を設けることを、1通の「通行掘削承諾書」にまとめることがあります。しかし、通行する権利と、設備工事をする権利は別です。片方が認められても、もう片方は別に確かめます。
囲繞地通行権で確保できる範囲と、確保できないもの
民法210条から213条は、ほかの土地に囲まれて公道へ出られない土地などについて、公道まで周囲の土地を通れる権利を定めています。囲まれた土地を袋地、周囲の土地を囲繞地(いにょうち)と呼ぶため、この権利は囲繞地通行権や袋地通行権とも呼ばれます。
ただし、通る場所と方法は、通行する人にとって必要で、通られる土地への損害が最も少ないものに限られます。原則として、通行によって生じる損害に対する金銭(法律上の「償金」)も必要です。土地の分割や一部の譲渡によって公道へ出られなくなった場合は、通る土地や償金について別のルールがあります。
この権利が認められても、希望する経路、自動車での通行、建築基準法上必要な道路幅、接道要件、配管の埋設までが一度に確保されるわけではありません。通行の目的、従来の使い方、代替経路、周囲の土地への負担を個別に確認します。
位置指定道路でも、車両通行が認められるかは利用実態で変わる
次の最高裁判例は、道路の指定だけから抽象的な「車両通行権」を認めたものではありません。通行妨害の排除を求められるかについて、日常生活上の必要性や私道所有者の不利益を個別に判断した事例です。
最高裁1997年(平成9年)12月18日判決では、位置指定道路であることだけを理由に、道路敷地の所有者へ妨害排除を求める権利が当然に生じるわけではないとしたうえで、日常生活に欠かせない通行を妨げられた人は、一定の条件を満たせば障害物の除去などを求められると示しました。
この事案では、道路が30年以上にわたり徒歩と自動車で利用されていたこと、ほかの経路が階段状で車両通行できなかったこと、私道所有者に通行利益を上回る著しい損害が認められなかったことなどが考慮されています。
一方、最高裁2000年(平成12年)1月27日判決では、建築基準法42条2項の道路について、それまで主に徒歩や二輪車で利用されていた道を、賃貸駐車場のために自動車で通ることが問題になりました。
工事期間中に所有者の承諾を得て車両が通ったことはありましたが、通常は自動車で利用されておらず、目的も居住ではなく賃貸駐車場でした。最高裁は、自動車通行が日常生活上不可欠とはいえないとして、ポールの撤去請求を認めませんでした。
2つの道路は、法律上の種類も事実関係も異なります。それでも共通しているのは、車を通せるかどうかが道路指定や利用年数だけでは決まらないことです。代替経路、従来の使い方、利用目的、私道所有者の不利益によって結論は変わります。「何年使えば車両通行権が成立する」という一律の年数はありません。
民法213条の2(2023年施行)でも、私道を自由に掘削できるわけではない
2023年4月1日に施行された民法213条の2は、電気、ガス、水道水などの継続的な供給を受けるための設備について定めています。ほかの土地へ設備を設置するか、他人が所有する設備を使わなければ供給を受けられない場合、必要な範囲で設備を設置・使用できることを明文化しました。
場所と方法は、ほかの土地や設備への損害が最も少ないものを選ばなければなりません。また、自分の設備を他人の土地へ置く場合と、他人が所有する設備を使う場合では、通知先と金銭負担が異なります。
| 場面 | 事前に知らせる相手 | 主な金銭負担 |
|---|---|---|
| 他人の土地へ自分の設備を置く | 土地所有者と、その土地を実際に使用している人へ、目的・場所・方法を通知する | 工事のための一時使用で生じた損害と、設備設置による土地の継続的な損害に対する償金 |
| 他人が所有する設備を使う | 設備所有者へ通知する。接続工事などで土地を使う場合は、土地所有者と実際の使用者にも通知する | 使用開始で生じた損害に対する償金と、利益の割合に応じた設置・改築・修繕・維持費 |
通知する相手を知ることができない、または所在が分からない場合でも、事前通知そのものが不要になるわけではありません。法務省のガイドラインでは、要件を満たす場合の「公示による意思表示」などが案内されています。
民法213条の2の要件を満たす場合、私道所有者全員の署名入り承諾書が、法律上の権利が成立するための当然の要件になるわけではありません。ただし、要件を満たすか、どの経路・工法が必要で損害が少ないか、誰に通知し、いくら負担するかは別に判断します。
法律上の権利が考えられるからといって、反対を押し切って工事を始めてよいことにはなりません。
私道所有者が拒んでいる、経路や工法、償金などで争いがある場合は、実力で工事を強行せず、弁護士へ相談してください。妨害しないよう求める裁判手続などが必要になることがあります。
民法213条の2は、道路上のあらゆる工事や、希望する工事車両の通行を無条件で認める規定でもありません。
土地を分けた結果、ほかの土地に設備を置かなければ継続的な供給を受けられない土地が生じた場合は、民法213条の3に別のルールがあります。
この場合は、ほかの分割者が所有する土地に限って設備を設置でき、設備を置くことで土地利用が継続的に制限される損害について、民法213条の2第5項の償金規定は適用されません。ただし、事前通知や、工事のために土地を一時使用して生じた損害への対応まで不要になるわけではありません。
私道の排水設備には、下水道法11条という別の根拠がある
他人の土地や排水設備を使わなければ、下水を公共下水道へ流すことが困難な場合もあります。そのときは下水道法11条により、他人の土地へ排水設備を設けたり、他人が設けた排水設備を使ったりできることがあります。
この場合も、損害が最も少ない場所と方法を選びます。他人の排水設備を使うなら、受ける利益の割合に応じて、設置・改築・修繕・維持の費用を負担します。工事や維持のために他人の土地を使うときは、その土地を実際に使用している人へ事前に知らせ、損失が生じれば補償が必要です。
法律上の権利とは別に、自治体の条例、下水道管理者の申請手続、指定工事店の利用、提出書類も確認してください。
法律上の権利があっても、売却実務では承諾書の中身が効く
法律上の権利が成り立ち得ることと、買主、金融機関、工事会社がその場で判断できることは同じではありません。合意書を作るなら、題名より中身を見ます。
| 確認する項目 | 書面に入っているか見る内容 |
|---|---|
| 対象 | 私道の全地番、通る範囲、工事する範囲、添付図面 |
| 当事者 | 所有者、共有者、相続人、代理人が署名する権限 |
| 通行 | 徒歩、自転車、自家用車、来客車両、引っ越し・工事車両 |
| 工事 | 新設、引き直し、交換、修理、撤去、点検と対象設備 |
| 工事後 | 事前連絡、安全対策、元の状態へ戻す方法、損害への対応 |
| 金銭 | 承諾料、通行料、維持管理費、補修費、償金の有無と負担者 |
| 所有者が変わる場合 | 対象地の買主が同じ範囲で使えるか、私道所有者が変わっても権利を主張できるか、有効期間と解除条件 |
道路が複数の筆に分かれているなら、必要な筆がすべて書面の対象になっているかも確認します。物件の所有関係と売買条件に合わせ、弁護士、司法書士、不動産会社に文案を確認してもらいましょう。
私道持分なし物件の売却価格に、全国一律の値引率はない
私道持分がない物件について、「相場より必ず何割下がる」という公的な基準はありません。価格を動かすのは、持分の有無だけではありません。再建築の見通し、徒歩・車両通行、配管工事、売却後の利用範囲、争いの有無、住宅ローンの見通しなどが影響します。
問題が未解決のまま買い取る事業者は、権利を整えて売り直したときの価格を見込みます。そこから調査・測量・法務の費用、保有中の費用、資金調達費用、想定外の出費に備える金額などを反映して価格を提示します。
金額だけでなく、どの作業と費用を誰が負担する条件なのかも確認しましょう。同じ資料を渡し、次の3条件をそれぞれ書面でもらうと比べやすくなります。
| 比べる売り方 | そろえて確認する条件 |
|---|---|
| 権利を整えた後に仲介で売る | 想定成約価格、売却期間、解決費用、売主が行う作業 |
| 未解決のまま仲介で売る | 想定する買主、融資の前提、売却期間、売買契約の条件 |
| 未解決のまま買い取ってもらう | 最終的な手取り、価格が変わる条件、引渡し時期、売主の責任と協力事項 |
査定額が高くても、売主が承諾取得や測量を負担する条件なら、手取りと売却までの期間は変わります。「誰が、何を、いつまでに行う価格か」までそろえて比べてください。
\ 3つの売り方を、同じ資料で比べる /
私道持分なしの住宅ローンは、事前審査が通っても物件審査が残る
私道持分がないという理由だけで、すべての金融機関が融資を断るわけではありません。ただし、再建築、通行、掘削の根拠が曖昧だと、金融機関が担保価値や売却可能性を判断しにくくなります。追加資料を求められたり、取り扱いを見送られたりすることがあります。
住宅ローンの事前審査が承認されても、本審査、物件の担保評価、融資実行まで確定したとはいえません。事前審査で物件資料をどこまで確認するかも金融機関によって異なります。
不動産会社を通じて、候補の金融機関に次の点を照会します。
- 私道全筆の登記、位置指定道路、建築関係の資料のうち、何が必要か
- 通行・掘削について、どの権利と書面があれば審査できるか
- 持分がない場合、地役権や合意書をどのように扱うか
- 物件資料をどの段階で確認し、最終判断をいつ行うか
売り出す前の照会は、あくまで融資の見通しを立てるためのものです。最終的な判断は、買主が正式に申し込み、金融機関が本人と物件の審査を終えた後に出ます。ある金融機関で扱えたからといって、ほかの買主や金融機関でも同じ結果になるとは限りません。
\ 金融機関への照会は、不動産会社から /
私道負担は、重要事項説明書と売買契約書に書き分ける
同じ事実でも、書類ごとに役割が違います。重要事項説明は、仲介する宅地建物取引業者が、宅地建物取引業法35条などに基づいて行います。
登記された権利、建築基準法などの制限、私道に関する負担、飲用水・電気・ガス・排水設備の整備状況、未整備の場合の見通しや特別な負担などは、買主の判断に関わる情報です。
売主がすることは、持っている資料、これまでの使い方、近隣との合意や話し合い、通行妨害、費用負担、未確認の事項を、不動産会社に正確に伝えることです。そのうえで、確認した内容を次のように書き分けます。
| 書類 | 主に記載・確認すること |
|---|---|
| 私道利用の合意書 | 対象道路、徒歩・車両、工事、費用、工事後の復旧、所有者が変わった場合の扱い |
| 重要事項説明書・物件状況の説明資料 | 現在確認できる権利、道路・配管の状態、費用、争い、未確認事項、調査日 |
| 売買契約書 | 売主が決済までに行うこと、期限、条件を満たせない場合の解除と金銭処理、買主が引き受ける事項 |
重要事項説明書に書いたから、売買契約書には不要とは限りません。売主が承諾取得や測量を行う、買主が未解決の状態を引き受ける、条件を満たせなければ解除するといった約束は、売買契約書や特約へ具体的に反映させます。
「現状のまま売る」「契約内容と違う点があっても売主は責任を負わない」と取り決めれば、分かっている事実を説明しなくてよい、ということにはなりません。
売主が知りながら買主に伝えなかった事実については、民法572条により、責任を免れる特約があっても責任を免れない場合があります。現状のまま売るときほど、分かっている事実と未確認の事項を具体的に書き残します。
私道持分なし物件の相談先は、建築・登記・権利で使い分ける
私道の問題は、建築、登記、境界、契約が重なります。一人にすべてを任せるのではなく、確認したい内容で相談先を選びます。
| 相談先 | 主に確認・依頼すること |
|---|---|
| 自治体の建築指導担当 | 道路の種類、位置指定、接道、建築基準法・条例上の扱い |
| 建築士 | 具体的な再建築計画、敷地形状、工事車両の進入 |
| 不動産会社 | 資料整理、想定する買主、売却方法、金融機関への照会、条件比較 |
| 土地家屋調査士 | 道路、境界、接道長、図面、測量 |
| 司法書士 | 登記名義人・相続関係、持分移転、地役権などの登記 |
| 弁護士 | 通行・掘削の権利判断、合意書・売買契約、拒否や争いへの対応 |
| 上下水道・ガスなどの事業者 | 配管経路、設備所有者、容量、工事方法、必要書類 |
不動産会社には、「私道物件を扱ったことがありますか」と聞くだけでなく、次の3点も質問します。
- 公道までの私道全筆を、どの資料で特定するか
- 再建築、徒歩・車両通行、配管工事、融資を分けて調べるか
- 権利を整えた場合と未解決のまま売る場合を、費用・期間・売主負担までそろえて比べるか
「昔から通れているので大丈夫」「現金で買い取るなら説明はいりません」と、資料を見ずに言い切る回答には注意してください。根拠や契約条件を示してもらえない場合は、別の会社にも意見を求めましょう。
\ 3つの質問に答えられる会社を見つける /
私道の持分なしで売却するときのよくある質問
売主から質問の多い3点を、ここまでの内容に沿ってまとめます。
私道持分なしの売却は、公道までの根拠を途切れさせない
私道の持分がないだけで、売却を諦める必要はありません。売却条件を左右するのは、持分の有無だけではなく、公道までの経路と、通行、再建築、配管工事の根拠を買主と金融機関へ示せるかどうかです。
まず、公道までの私道を1筆ずつ特定します。次に、登記、指定道路資料、配管図、過去の合意書を一つにまとめましょう。確認できない区間があれば、契約、地役権、民法上の権利などを別に調べます。
ここまで分かれば、今ある権利で仲介するのか、不足を整えるのか、未解決のまま仲介・買取へ進むのかを、同じ条件で比べられます。
はっきりした拒否や妨害、所有者不明、相続登記が済んでいない状態、再建築の不確実性があるときは、売主だけで承諾交渉や契約を進めず、いったん立ち止まってください。資料を不動産会社に渡し、建築・登記・権利の問題ごとに専門家へ確認を依頼します。
購入時の契約書と重要事項説明書、対象地・私道の登記と図面、自治体の道路資料、通行・掘削の書面、配管図と工事記録。まずは、この5組をそろえるところから始めましょう。
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この記事は2026年8月17日時点の法令・公表資料をもとにした一般的な情報です。道路の指定状況、自治体条例、登記、契約、分譲時の経緯、これまでの利用によって結論は変わります。個別の売却や権利行使は、関係資料を示したうえで自治体と各分野の専門家へ確認してください。
出典
e-Gov法令検索「建築基準法」
国土交通省「建築基準法上の道路情報の整備について」
e-Gov法令検索「民法」
法務省「新制度の概要・ポイント」
法務省「複数の者が所有する私道の工事において必要な所有者の同意に関する研究報告書~所有者不明私道への対応ガイドライン~第2版」
e-Gov法令検索「下水道法」
国土交通省「共有私道における排水設備の円滑な設置等の促進に関する事例勉強会 とりまとめ」
裁判所「最高裁判所平成9年12月18日判決」
裁判所「最高裁判所平成12年1月27日判決」
裁判所「不在者財産管理人選任」
裁判所「相続財産清算人の選任」
法務省「所有者不明土地の解消に向けた民事基本法制の見直し」
e-Gov法令検索「宅地建物取引業法」
国土交通省「宅地建物取引業法 法令改正・解釈について」
不動産適正取引推進機構「RETIO No.98 私道の通行・掘削承諾の取得特約」
リビンマッチ「不動産売却の一括査定」

