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相続登記前に売却はできる?故人の名義のまま「売り出す」方法と注意点

「相続登記が終わるまで、家を売りに出せないのでは…」そう思って手が止まっていませんか?

結論から言うと、相続人同士の話し合い(遺産分割協議)さえまとまっていれば、名義変更の手続きと並行して査定も売買契約も進められます。所有権が移るのは「登記をした時」ではなく、「親が亡くなった時点」だからです。

ただし、最終的に買主へ名義を移す決済日(引き渡し日)までには、必ず相続登記を終えておかなければなりません。相続登記は2024年4月に義務化され、過去の相続でも2027年3月31日が期限になります。この記事では、契約書に何を書くか、決済日に何が起きるかまで整理しました。

この記事を読むとわかること
  • 相続登記前に売却を進めるための条件
  • 査定から決済までのスケジュール
  • 契約書の確認ポイント
  • 「共有名義」か「単独名義」かの選び方
  • 登記費用の目安と税務上の注意点

※本記事の情報は2026年8月時点のものです。

目次

相続登記前に家や土地は売却できる?

家でも土地でも、相続登記が終わる前に売買契約を結べます。引き渡しができるのは、相続登記を終えたあと。売買契約と所有権移転登記は、別々の手続きです。

売買契約は相続登記前でも締結できる

登記が亡くなった方の名義のままでも、相続人は売主として売買契約を結べます。

民法896条は「相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する」と定めています。つまり所有権が相続人に移るのは、相続登記をした瞬間ではありません。亡くなった時点です。

登記は、誰がその不動産の所有者かを外から分かるようにする手続きです。所有権そのものを発生させる手続きではありません。相続人はすでに所有者です。自分の財産を売る契約を結べます。

登記が未了だからという理由だけで、査定や売り出しを止める必要はありません。

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※2025年9月19日-23日 「サイト評価に関する調査」より

亡くなった人の名義のままでは買主に引き渡せない

契約は結べても、引渡しは相続登記が終わるまでできません。

買主の名義に所有権移転登記をするには、その前提として相続登記が済んでいる必要があります。登記簿上の名義人が亡くなった方のままだと、そこから買主へ直接名義を移す登記を申請できません。

代金を全額支払ったのに、自分名義の登記ができない。これを受け入れる買主はいません。住宅ローンを使う場合はさらに進みません。金融機関は融資の実行と同時に抵当権を設定します。買主が登記名義人になっていないと、この抵当権を設定できません。

相続人申告登記を済ませても売却はできない

2024年4月から、相続人申告登記という制度が始まりました。相続登記の義務を簡易に果たすための仕組みです。

この制度を使えば相続登記の代わりになると考える方がいます。法務省はこの点をはっきり否定しています。

法務省の見解

不動産についての権利関係を公示するものではなく、相続した不動産を売却したり、抵当権の設定をしたりするような場合には相続登記をする必要があることに留意が必要です。

出典は法務省の「相続登記の申請義務化に関するQ&A」です。相続人申告登記は「この不動産の相続人はこの人です」と申し出る制度です。誰がどれだけの持分を取得したかまでは登記簿に記録されません。

売却を予定しているのであれば、申告登記で済ませる選択肢はありません。

決済日までに相続登記を終えるのが実務の前提

決済日を迎えるまでにできることと、できないことは次のとおりです。

できることできないこと
売買契約の締結買主名義への所有権移転登記
手付金の授受物件の引渡し
買主の住宅ローン審査の申込み買主の抵当権設定

契約から決済までは、1か月から2か月程度の期間が置かれるのが通常です。売主はこの期間内に相続登記を完了させます。ただし戸籍の収集には時間がかかります。この期間に収まらないケースもあるでしょう。

相続登記を経ないと買主へ名義を移せない理由

所有権はすでに相続人に移っていて、買主も決まっている。それなら亡くなった方から買主へ一度に名義を移せばよさそうに思えます。この方法は使えません。

遺産分割が終わるまで不動産は相続人全員の共有

相続人が1人だけなら、その人が単独の所有者です。複数いる場合、民法898条1項が「相続人が数人あるときは、相続財産は、その共有に属する」と定めています。

この共有持分は、同条2項により法定相続分に応じて算定されます。子2人が相続したなら、遺産分割の前は2分の1ずつの共有です。

共有のままでも売却はできます。ただし共有者全員が売主になり、契約にも決済にも全員が関わることになるでしょう。誰の名義で登記するかは、遺産分割協議で決めます。

登記の申請には権利が動いた原因を示す資料が要る

不動産登記法61条の条文にはこう書かれています。

不動産登記法 第61条

権利に関する登記を申請する場合には、申請人は、法令に別段の定めがある場合を除き、その申請情報と併せて登記原因を証する情報を提供しなければならない。

登記原因を証する情報。つまり「なぜ権利が動いたのか」を示す資料です。

相続なら、戸籍や遺産分割協議書がそれにあたります。売買なら売買契約書です。登記を申請するたびに、その権利変動の原因を示さなければなりません。

中間省略登記は原則として使えない

亡くなった方から買主へ直接移す登記は、中間省略登記と呼ばれます。

亡くなった方と買主の間には、直接の権利変動がありません。売買契約を結んだのは相続人と買主です。亡くなった方が買主に売ったという事実は存在しません。

存在しない権利変動を証する資料は提出できません。61条が求める登記原因証明情報をそろえようがないわけです。法務局は申請自体を受け付けません。

相続登記と所有権移転登記は別の手続き

この2つは名前が似ていて混同されやすいところです。

申請する人が違います。 不動産登記法60条は「権利に関する登記の申請は、法令に別段の定めがある場合を除き、登記権利者及び登記義務者が共同してしなければならない」と定めています。売買の登記は、売主と買主が共同で申請するのが原則です。

相続登記は単独で申請できます。同法63条2項が「相続又は法人の合併による権利の移転の登記は、登記権利者が単独で申請することができる」と定めているためです。亡くなった方に申請してもらえません。そこで相続人が1人で手続きを進める形になっています。

未登記建物も、相続登記が未了の状態と混同されやすいものです。

「相続登記が未了」とは、権利の登記がされていない状態を指します。登記簿自体は存在します。対して「未登記建物」は、登記簿そのものが作られていない状態です。この2つは根拠条文も期限も別です。

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相続登記が未了未登記建物
何が未了か権利の登記(名義変更)表題登記(登記簿の作成)
根拠条文不動産登記法76条の2不動産登記法47条1項
申請期限取得を知った日から3年以内所有権取得の日から1か月以内
売却との関係決済までに完了が必要表題登記から始める必要がある

実家の古い増築部分や物置が、未登記のまま残っている場合があります。登記簿と現地を照らし合わせて、建物がすべて登記されているかを確認してください。

相続登記と並行して進める売買契約の流れ

売買契約の手続きと相続登記は、並行して進められます。決済日の時点で相続登記が完了していることが条件です。ここから逆算すると、着手すべき順番が決まります。

ここでは相続登記が未了の場合に絞って書きます。登記を終えたあとの売却の流れは、相続した不動産を売却する方法で解説しています。

遺言書があるかを確認して相続人を確定する

最初にやることは、遺言書の確認です。あるかないかで、その後の手続きが変わります。遺言書で不動産の取得者が指定されていれば、遺産分割協議は不要です。逆に遺言書がなければ、相続人全員で話し合う必要があります。

並行して相続人を確定させます。確定に必要なのは戸籍です。法務局の登記手続ハンドブックは、被相続人について「出生から死亡までの経緯が分かる戸籍の証明書」を求めています。

出生までさかのぼるのは、前の結婚での子や認知した子がいないかを確認するためです。家族が把握していない相続人が見つかることは、実際にあります。

遺産分割協議で売主と分け方を決める

相続人が確定したら、遺産分割協議に進みます。

売却を前提とする場合、換価分割という方法がよく使われます。不動産を売却して現金化し、その代金を相続人で分ける方法です。誰か1人が住み続けるわけではないケースに向いています。

協議がまとまったら遺産分割協議書を作成します。法務局のハンドブックは「相続人全員が実印を押し、その印鑑証明書を各1通添付」と定めています。認印を押した協議書では、法務局が登記を受け付けません。

民法909条は「遺産の分割は、相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずる」と定めています。協議で不動産を取得した相続人は、亡くなった時点から単独の所有者だったことになります。

戸籍謄本や住民票など必要書類をそろえる

売買契約と並行して書類を集めます。法務局のハンドブックが挙げている書類は次のとおりです。

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書類対象注意点
戸籍の証明書被相続人の出生から死亡まで転籍していると複数の役所での取得が必要
戸籍の証明書遺産分割協議の当事者である相続人全員被相続人が死亡した日以後の証明日のもの
住民票の除票の写しなど被相続人登記上の住所と戸籍の本籍が異なる場合に必要
遺産分割協議書相続人全員全員が実印を押す
印鑑証明書相続人全員各1通
住民票の写し不動産を取得する相続人マイナンバーの記載がないもの

※出典:法務局「相続登記・遺贈の登記の申請をされる相続人の方へ(登記手続ハンドブック)遺産分割協議編」2026年4月10日更新

印鑑証明書には、他の不動産取引と違う扱いがあります。ハンドブックには「この印鑑証明書については、作成後3か月以内のものといった制約はありません」と書かれています。不動産取引の他の場面では3か月以内を求められることが多く、混同しやすいところです。

※買主や金融機関が、別途新しい印鑑証明書を求める場合はあります。

戸籍集めを楽にする制度もあります。法定相続情報証明制度です。法務局に戸籍の束と相続関係を表した図を提出すると、登記官が認証文を付けた写しを無料で交付してくれます。ハンドブックも「相続登記の申請に先立って、この法定相続情報証明制度の利用をご検討ください」と勧めています。

この一覧図の写しは、金融機関の預金の名義変更でも使えます。戸籍の束を出し直さずに済みます。

書類集めには時間がかかります。その間に不動産会社へ査定を依頼しておくと、売り出し価格を決める段階で待たされません。査定を依頼する会社の選び方は、不動産査定サイトおすすめ10選にまとめています。

決済日に2件の登記をまとめて申請する

決済日には2件の登記を続けて申請します。1件目が相続登記。2件目が売買による所有権移転登記です。実務ではこれを連件申請と呼びます。ただし「連件」は現場での呼び方であり、法令上の用語ではありません。

2件目の登記には、通常なら登記識別情報が必要です。登記識別情報とは、かつての権利証にあたるものです。ところが1件目の相続登記はまだ完了していません。

不動産登記法21条は、登記識別情報の通知について「当該登記を完了したとき」と定めています。完了後でなければ交付されないのです。同日に申請する以上、2件目を出す時点では1件目の登記識別情報がまだ手元にない状態です。

この問題を解決しているのが、不動産登記規則67条です。

不動産登記規則 第67条(登記識別情報の提供の省略)

同一の不動産について二以上の権利に関する登記の申請がされた場合(当該二以上の権利に関する登記の前後を明らかにして同時に申請がされた場合に限る。)において、前の登記によって登記名義人となる者が、後の登記の登記義務者となるときは、当該後の登記の申請情報と併せて提供すべき登記識別情報は、当該後の登記の申請情報と併せて提供されたものとみなす。

1件目で登記名義人になる相続人が、2件目では登記義務者、つまり売主になります。この関係にあてはまる場合、登記識別情報は提供されたものとみなされます。交付を待つ必要はありません。

順序が守られる仕組みもあります。不動産登記法20条は、同一の不動産について2つ以上の申請があったとき、受付番号の順序に従って登記しなければならないと定めています。相続登記が先、売買が後という順序は崩れません。

決済当日は、司法書士が書類を確認してから法務局へ申請します。買主が代金を支払い、売主が鍵を引き渡す。この3つを同じ日に終えます。

契約書に決済日までの取り決めがないと、登記が遅れたときに売主も買主も動けなくなります。

\ 相続した家、いくらで売れる? /

相続登記が未了のときに売買契約書へ入れる特約

特約がなければ売主は相続登記をしなくてよい。そう受け取っている方がいます。

決済日までに相続登記を完了させる特約

特約がなくても、売主には登記を備えさせる義務があります。

民法560条は「売主は、買主に対し、登記、登録その他の売買の目的である権利の移転についての対抗要件を備えさせる義務を負う」と定めています。ここでの対抗要件とは、買主が自分の所有権を他の人に主張できる状態、つまり登記のことです。

つまり売買契約を結んだ時点で、売主は買主名義の登記ができる状態にする義務を負っています。相続登記はそのための前提です。特約を入れても入れなくても、やらなければならない作業です。

特約が決めているのは、この義務をいつまでに果たすのかと、間に合わなかったときにどうするのかの2点です。

期日までに完了しない場合の解除と違約金の扱い

契約書に期日を書くことには、法律上の意味があります。

民法541条は、債務の履行がない場合の解除を定めています。原則は「相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないとき」に解除できるという形です。まず催告が要ります。

一方、民法542条1項4号は例外を置いています。催告なしに解除できる場合として、次の状況を挙げています。

民法 第542条第1項第4号

契約の性質又は当事者の意思表示により、特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場合において、債務者が履行をしないでその時期を経過したとき。

契約書に決済日を明示しておくと、この規定に当てはまる余地が出てきます。ただし日付を書けば自動的に無催告解除ができる、という単純な話ではありません。

※該当するかどうかは事案ごとの判断になります。

違約金にも決まりがあります。民法420条3項は「違約金は、賠償額の予定と推定する」と定めています。賠償額の予定とは、実際の損害額を証明しなくてもその金額を請求できる仕組みです。契約書に違約金の定めがあれば、実損の立証なしにその額が基準になります。

自分の契約書に違約金の条項があるか、あるなら金額はいくらか。署名する前に確認してください。

「間に合わなければ手付解除すればいい」という想定は通用しません。民法557条1項は、買主が手付を放棄し、売主が倍額を提供して解除できると定めています。ただし条文には続きがあります。「その相手方が契約の履行に着手した後は、この限りでない」。

決済日が近づくころには、買主側で融資の手続きが進んでいます。買主が契約の履行に着手したと判断されると、売主は手付の倍額を払っても解除できません。

※履行の着手にあたるかどうかも、事案によって判断が分かれます。

登記費用の負担と司法書士の指定

費用の負担者を決めておくことも、特約の役割です。

一般的な整理としては、相続登記の費用は売主、売買による移転登記の費用は買主が負担します。当事者の合意で変えることもできます。決めないまま決済日を迎えると、その場で揉めることになりかねません。

司法書士を誰が指定するかも決めておきます。買主が住宅ローンを使う場合、金融機関が司法書士を指定するのが通常です。売主側で相続登記を別の司法書士に頼んでいると、決済日に2人の司法書士が関与することになります。どちらの司法書士がどの登記を担当するか、契約の段階で決めておきます。

契約書と重要事項説明書のどこを見るか

条項の文言そのものは、不動産会社が用意します。売主が確認すべきなのは、その条項が契約書のどこに書かれるかです。

移転登記の申請時期は、契約書に必ず書かれます。 宅地建物取引業法37条1項は、不動産会社が交付する書面に書くべき事項を列挙しています。その5号が「移転登記の申請の時期」です。この項目には「定めがあるときは」という限定が付いていません。仲介が入る取引であれば、必ず記載されます。

対照的なのが7号と8号です。「契約の解除に関する定めがあるときは、その内容」「損害賠償額の予定又は違約金に関する定めがあるときは、その内容」。こちらは「定めがあるときは」付きです。当事者が決めた場合にだけ、契約書に載ります。

もうひとつ確認できる場所があります。重要事項説明書です。宅地建物取引業法35条1項1号は、説明すべき事項の筆頭に次を挙げています。

宅地建物取引業法 第35条第1項第1号

当該宅地又は建物の上に存する登記された権利の種類及び内容並びに登記名義人又は登記簿の表題部に記録された所有者の氏名

相続登記が未了なら、この欄には亡くなった方の氏名が記載されます。契約を結ぶ前に、自分の物件がどういう状態にあるかを書面で確かめられます。

契約前に、次の5つを不動産会社に確認してください。そのまま聞ける形にしてあります。

不動産会社に確認する5つの質問
  1. 契約書の「移転登記の申請の時期」には、いつと記載されますか。
  2. その日までに相続登記が完了しなかった場合、契約はどうなりますか。解除できますか。
  3. その場合、違約金や損害賠償は発生しますか。金額はどう決まりますか。
  4. 相続登記の費用は売主・買主のどちらの負担ですか。司法書士はどちらが指定しますか。
  5. 決済日に相続登記と所有権移転登記を続けて申請する段取りで問題ありませんか。

この5点にすべて答えが返ってくれば、契約書の特約は機能します。答えが曖昧なまま契約を結ぶと、決済日に揉めることになります。

\ 契約の前に相場を知っておく /

共有名義と単独名義、どちらで登記するか

遺産分割協議では、誰の名義で登記するかも決めます。相続人全員の共有名義にするか、代表者1人の単独名義にするか。選び方によって、売買契約に署名する人の数も、登録免許税を払う人も変わります。

相続人全員の共有名義で登記する場合

遺産分割協議で「全員が持分を持つ」と決め、その持分どおりに登記する方法です。

売却代金は各自の口座へ直接入ります。分配をめぐる行き違いが起きません。登録免許税も持分に応じて分担します。誰かが立て替える必要がありません。

かわりに、売買契約の手続きが増えます。共有者全員が売主になるからです。契約書には全員が署名押印します。決済日にも全員が出席するか、出席できない人は委任状を用意することになります。

相続人が遠方に住んでいる場合、この日程調整には時間がかかります。

代表者の単独名義で登記する場合

遺産分割協議で1人を取得者に決め、その人の単独名義で登記する方法です。

売主が1人になります。契約も決済も代表者だけで進められます。全員の日程を合わせる必要がありません。相続人が多い場合や、遠方に散っている場合に選ばれることが多い方法です。

代金の流れには注意が必要です。売却代金は、いったん代表者の口座に入ります。そこから他の相続人へ分配する形です。この分配が贈与とみなされないよう、遺産分割協議書に換価分割である旨と分配割合を明記します。書き方によって税務上の扱いが変わるところです。税理士に確認してください。

単独名義では登録免許税を一人が負担する

相続登記の登録免許税は、不動産の価額の0.4%です。単独名義で登記すると、この全額を代表者1人が納めます。固定資産評価額が1,000万円なら40,000円です。司法書士報酬も代表者が先に払うことになります。

代表者が立て替えたままにならないよう、精算方法を決めてください。売却代金から差し引く形にするのが実務では一般的です。

登記識別情報は登記名義人にしか交付されない

登記識別情報を誰が受け取るかも、名義の決め方で変わります。

不動産登記法21条は、登記識別情報の通知について「その登記をすることによって申請人自らが登記名義人となる場合」と条件を付けています。つまり登記名義人になった人にしか通知されません。

単独名義で登記した場合、登記識別情報を受け取るのは代表者だけです。他の相続人には交付されません。売却代金の取り分があっても、権利を示す書類は手元に残りません。

いったん単独名義で登記した後に「やはり共有にしたい」と考え直すと、登記をやり直すことになります。どの登記で対応するかは法務局によって取り扱いが異なります。名義を決める前に司法書士へ確認してください。

2つの方法を並べると次のようになります。

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共有名義代表者の単独名義
売買契約の売主相続人全員代表者1人
決済日の出席全員または委任状代表者のみ
登録免許税の負担持分に応じて全員代表者が全額
登記識別情報の交付全員代表者のみ
代金の受領各自の持分に応じて代表者が受領後に分配
税務上の注意各自が譲渡所得を申告換価分割の明記が必要

どちらが正解ということはありません。相続人が何人いるか、遠方に住んでいるか、代金の分配で揉める心配があるかで選びます。

契約が止まるリスクと放置したときの過料

買主がついてから決済までの間に、契約が止まるケースがあります。多くは契約前に確認しておけば避けられます。

相続人の一人でも反対すると契約が進まない

遺産分割協議は、相続人全員の合意が必要です。1人でも同意しなければ成立しません。

民法898条1項により、遺産分割前の相続財産は相続人全員の共有です。全員が権利者である以上、全員の意思が必要になります。多数決では決まりません。

口頭で「売却でいいよ」と言っていた相続人が、書類に押印する段階で態度を変えることがあります。売却価格が具体的になった途端、分配額への不満が出るケースです。

買付が入る前に遺産分割協議書を作成してください。この順番なら、契約後に分配で揉めることがありません。少なくとも価格の目安と分配割合は、売り出す前に全員の合意を取っておきます。

他の相続人が法定相続分を勝手に処分するおそれがある

各相続人は法定相続分に応じた共有持分を持っています。この持分は、その相続人の財産です。自分の持分だけを第三者に譲渡することもできます。

譲渡が行われると、見知らぬ第三者が共有者として加わります。その第三者の同意がなければ、不動産全体を売却できません。相続人の関係が良くない場合ほど、起こりやすい事態です。

早期に遺産分割協議を成立させ、登記まで済ませてください。誰が取得したかが登記されると、法定相続分を前提にした処分はできなくなります。

持分の譲渡先として実際に多いのは、共有持分を専門に扱う買取業者です。買い取られたあとに何が起きるかは、共有持分の買取とは?で解説しています。

権利証が見つからない場合の対応

権利証が見当たらないと決済間近で分かることがあります。

登記識別情報は再発行されません。紛失しても、代わりのものを取り寄せられません。

それでも手続きは進められます。不動産登記法23条が代替手段を用意しています。原則は登記官による事前通知です。登記義務者に対して、本人であることの確認が郵送で行われます。

もうひとつの方法が、資格者代理人による本人確認情報の提供です。同条4項1号は、司法書士などから本人確認に必要な情報の提供を受け、登記官がその内容を相当と認めるときは事前通知を行わないと定めています。実務ではこちらが多く使われています。

かわりに司法書士報酬が上がります。日本司法書士会連合会が2024年3月に実施した報酬アンケートによると、通常の売買による所有権移転登記の報酬は平均56,678円でした。これに対し、売主が登記識別情報を提供できず司法書士が本人確認情報を作成したケースは平均94,887円です。差額は約38,000円になります。

いずれも固定資産評価額の合計1,000万円の土地1筆と建物1棟という設例での調査結果です。実際の金額は事務所や案件によって異なります。

相続登記から進める場合、被相続人名義の権利証は使いません。決済日に連件申請をするなら、相続人名義の登記識別情報も交付を待たずに済みます。

紛失が問題になるのは、生前に名義を変えていた不動産を売る場合や、相続登記だけ先に済ませて年数が経っている場合です。

相続登記を放置すると過料と税の期限が重なる

2024年4月1日から、相続登記が義務になりました。

期限は、不動産を相続で取得したことを知った日から3年以内です。不動産登記法76条の2第1項に定められています。

過去の相続も対象です。法務省のQ&Aは、令和6年4月1日より前に相続を知った不動産についても、令和9年3月31日までに相続登記をする必要があるとしています。2027年3月31日です。何十年も放置されてきた不動産も、この期限に含まれます。

義務を怠った場合の制裁は過料です。不動産登記法164条1項は「正当な理由がないのにその申請を怠ったときは、十万円以下の過料に処する」と定めています。

ただし、期限を過ぎた瞬間に自動的に科されるものではありません。法務省のQ&Aが示す手順は3段階です。1段階目は登記官からの催告書です。それでも期限内に登記がされないとき、登記官が裁判所に通知します。最終的に裁判所が判断して過料の裁判を行う流れです。登記官が正当な理由があると認めた場合、裁判所への通知は行われません。

正当な理由として法務省が挙げているのは、次の5つです。

  • 相続人が極めて多数に上り、かつ、戸籍関係書類等の収集や他の相続人の把握等に多くの時間を要する場合
  • 遺言の有効性や遺産の範囲等が相続人等の間で争われているために相続不動産の帰属主体が明らかにならない場合
  • 相続登記の義務を負う者自身に重病その他これに準ずる事情がある場合
  • 配偶者暴力防止法上の被害者その他これに準ずる者であり、避難を余儀なくされている場合
  • 相続登記の義務を負う者が経済的に困窮しているために、登記の申請を行うために要する費用を負担する能力がない場合

期限に間に合いそうにない場合の受け皿もあります。相続人申告登記です。特定の相続人が単独で申し出ることができ、申出をした相続人については義務を履行したものとみなされます。ただし全員が義務を果たしたことにはなりません。法務省のQ&Aは「相続人の全員が義務を履行したとみなされるには、相続人全員がそれぞれ申出をする必要があります」としています。

申告登記のままでは、売却の手続きに進めません。売却を予定しているなら、相続登記まで終わらせてください。

期限があるのは相続登記だけではありません。売却にも税制上の期限があります。相続税を納めた方が使える取得費加算の特例は、相続開始のあった日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までの譲渡が対象です。空き家の3,000万円特別控除は、相続の開始があった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までが期限になります。この2つは併用できません。

誰も住まなくなった実家は、売却までの間も固定資産税や管理の手間がかかります。空き家のまま売る場合の費用と進め方は、空き家を売りたいで扱っています。

税の特例については、相続した土地を3年以内に売却する場合の特例で詳しく解説しています。

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登記にかかる費用と期間の目安

登記関係の費用は、売主側と買主側に分かれます。相続登記は売主、買主名義への移転登記は買主が負担するのが通常です。

相続登記の登録免許税と司法書士報酬

相続による所有権移転登記の登録免許税は、不動産の価額の1,000分の4です。売買の場合と違い、軽減税率は設定されていません。

税額の計算の基になる価額について、国税庁は「市町村役場で管理している固定資産課税台帳に登録された価格がある場合は、原則その価格」としています。売買価格ではありません。固定資産税の納税通知書に記載されている評価額です。

登録免許税がかからない場合もあります。国税庁のNo.7191は2つのケースを挙げています。

ひとつは数次相続の場合です。

登録免許税の免税措置

相続により土地の所有権を取得した個人が、その相続によるその土地の所有権の移転登記を受ける前に死亡した場合には、令和9年3月31日までに、その死亡した個人をその土地の所有権の登記名義人とするために受ける登記については、登録免許税は課されません。

祖父から父、父から自分へと相続が重なっているケースが該当します。

もうひとつは価額が小さい土地です。令和9年3月31日までに相続による所有権移転登記を受ける場合で、税額の基になる不動産の価額が100万円以下のときは非課税になります。

日本司法書士会連合会が2024年3月に実施した報酬アンケートでは、相続登記の報酬は平均74,888円でした。有効回答数は1,109件です。

この金額は、次の設例に対する回答です。相続を原因とする土地1筆と建物1棟、固定資産評価額の合計1,000万円。戸籍謄本等5通の交付請求、遺産分割協議書と相続関係説明図の作成、登記申請の代理を含みます。法定相続人は3名で、うち1名が単独相続したケースです。

同アンケートには「報酬のほかに登録免許税……や戸籍謄本等の実費などの費用が発生します」との注記があります。この平均値に、先に見た登録免許税は含まれていません。

条件によって金額は変わります。相続人が多い場合、不動産の数が多い場合、集める戸籍が多い場合は上振れします。依頼する前に見積もりを取ってください。

戸籍や評価証明書の取得にかかる実費

戸籍謄本、除籍謄本、改製原戸籍、住民票、印鑑証明書、固定資産評価証明書。これらを取り寄せるときに、それぞれ手数料がかかります。1通あたりの金額は市区町村の条例で決まっています。

合計で数千円から1万円程度に収まるケースが多くあります。転籍を繰り返していた場合は、取得する通数が増えていくでしょう。郵送で請求するなら、定額小為替の手数料も加わります。

2024年3月1日から、戸籍法の改正により本籍地以外の市区町村でも戸籍証明書を請求できる制度が始まりました。複数の役所を回らずに済むケースが増えています。

※広域交付の対象範囲には制限があります。利用前に市区町村へ確認してください。

相続登記費用は譲渡所得の経費にできるのか

売却して利益が出た場合、その利益に譲渡所得税がかかります。相続登記に払った費用を、この利益から差し引けるかどうかが問題になります。

取得費に含めることができます。

国税庁のタックスアンサーNo.3252「取得費となるもの」に、次の記載があります。

国税庁 No.3252「取得費となるもの」

土地や建物を購入(贈与、相続または遺贈による取得も含みます。)したときに納めた登録免許税(登記費用も含みます。)、不動産取得税、特別土地保有税(取得分)、印紙税

かっこ書きが2つあります。「贈与、相続または遺贈による取得も含みます」と「登記費用も含みます」。相続で取得したときに納めた登録免許税も、司法書士に支払った報酬も、取得費に入れられます。令和7年4月1日現在の法令等にもとづく記載です。

ただし条件が付きます。同じページに「なお、業務の用に供される資産の場合には、これらの税金は取得費に含まれません」と書かれています。賃貸に出していた物件は対象外です。この場合の登録免許税は、不動産所得の必要経費として処理します。

譲渡費用と混同しないよう注意してください。国税庁のNo.3255は譲渡費用を「土地や建物を売るために直接かかった費用」と定義しています。仲介手数料、売主が負担した印紙税、建物の取壊し費用などが該当します。相続登記の費用はここには入りません。取得費として扱います。

取得費と譲渡費用は、どちらも譲渡所得を減らす点では同じです。ただし取得費加算の特例など、取得費だけに関わる制度があります。確定申告の際は税理士に確認するか、税務署の相談窓口を利用してください。

売買契約書には印紙税もかかります。国税庁のNo.7108によると、令和9年3月31日までに作成される不動産の譲渡に関する契約書には軽減税率が適用されます。契約金額が1,000万円超5,000万円以下なら1万円、5,000万円超1億円以下なら3万円です。

買主が負担する費用も確認しておきます。売買による土地の所有権移転登記の登録免許税は、本則が1,000分の20です。令和11年3月31日までに登記を受ける場合は1,000分の15に軽減されます。建物は1,000分の20で、住宅用家屋の要件を満たす場合を除いて軽減はありません。司法書士報酬は、相続登記より1万8千円ほど安い水準です。

登記にかかる費用は、負担者ごとに次のように分かれます。

スクロールできます
費用目安負担者出典
相続登記の登録免許税不動産の価額 × 0.4%売主国税庁 No.7191
相続登記の司法書士報酬平均74,888円売主日司連 2024年3月調査
売買の登録免許税(土地)不動産の価額 × 1.5%(令和11年3月31日まで)買主国税庁 No.7191
売買の登録免許税(建物)不動産の価額 × 2.0%買主国税庁 No.7191
売買の司法書士報酬平均56,678円買主日司連 2024年3月調査
売買契約書の印紙税契約金額1,000万円超5,000万円以下で1万円契約当事者国税庁 No.7108
戸籍等の取得実費市区町村により異なる売主

※登録免許税と印紙税は令和8年4月1日現在の法令等によります。司法書士報酬は日本司法書士会連合会が2024年3月に実施した調査の平均値です。

固定資産評価額の合計が1,000万円の実家を、3人の相続人のうち1人が取得するケースで計算します。登録免許税は1,000万円の0.4%で40,000円。司法書士報酬は調査の平均値で74,888円です。売主が相続登記に支払う金額は、合わせて114,888円になります。

※この条件は、日本司法書士会連合会のアンケートの設例と同じものです。相続人の数や不動産の評価額が変われば、金額も変わります。

書類収集から登記完了までにかかる日数

登記が完了するまでの日数に、全国共通の目安はありません。法務局は各庁で登記完了予定日を掲示しています。混雑状況によって変わります。申請先の法務局に確認してください。

期間の大半を占めるのは、登記の処理ではありません。戸籍の収集と遺産分割協議です。被相続人が転籍を繰り返していると、複数の役所へ順に請求します。郵送でのやり取りが続くと、それだけで数週間かかることもあります。

相続人が遠方に散っている場合、遺産分割協議書への実印と印鑑証明書を集めるのにも時間がかかります。

決済日を決めるときは、この期間を見込んでください。買主から「来月末に決済したい」と言われても、書類が揃わなければ応じられません。契約を結ぶ前に司法書士へ相談し、実際に間に合う日程を確認してください。

\ 費用を引いて手元にいくら残る? /

相続登記前の売却に関するよくある質問

相続登記をせずに不動産を売却することはできますか?

売買契約を結ぶところまでは可能です。買主への所有権移転登記は、相続登記を経なければ申請できません。法務省も「相続した不動産を売却したり、抵当権の設定をしたりするような場合には相続登記をする必要がある」としています。決済日までに相続登記を完了させる必要があります。

相続登記と売却の登記は同時にできますか?

同じ日に、続けて申請できます。不動産登記規則67条が、前の登記で登記名義人になる人が後の登記の登記義務者になる場合について、登記識別情報は提供されたものとみなすと定めているためです。1件目に相続登記、2件目に売買による所有権移転登記という順序になります。実務では連件申請と呼ばれます。

相続登記の費用は売却の経費にできますか?

取得費に含めることができます。国税庁のタックスアンサーNo.3252は、相続による取得の際に納めた登録免許税と登記費用を取得費に含まれるものとして挙げています。ただし賃貸に出していた物件などは対象外です。譲渡費用ではなく取得費として扱う点に注意してください。

遺産分割協議が終わっていなくても売却を進められますか?

遺産分割前の不動産は、民法898条により相続人全員の共有です。売却するには全員の合意が必要になります。1人でも反対すれば手続きは進みません。買付が入る前に遺産分割協議を成立させ、協議書を作成しておくのが確実です。

契約後・決済前に売主が亡くなったらどうなりますか?

契約上の地位は相続人に引き継がれます。不動産登記法62条は、登記義務者について相続があったときは相続人が登記を申請できると定めています。相続人が売主の立場で登記を申請する形です。この場合も相続登記は必要です。司法書士へ早めに相談してください。

建物を取り壊して土地だけを売る場合も相続登記は必要ですか?

土地については相続登記が必要です。買主名義への所有権移転登記の前提になります。取り壊した建物については、別途で滅失登記を申請してください。手続きの順序や必要書類は事案によって異なります。司法書士に確認してください。

相続登記をしないまま何年も放置していた不動産でも売却できますか?

売却できます。ただし相続登記を先に済ませてください。放置期間が長い場合、相続人がさらに亡くなって数次相続が発生している可能性があります。手続きに関わる相続人が増え、集める戸籍も亡くなった相続人の分だけ多くなるでしょう。なお2024年4月1日より前に相続を知った不動産については、令和9年3月31日までに相続登記をする必要があります。

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本記事は2026年8月時点の法令等にもとづいて作成しています。制度は改正される場合があります。個別の事案の判断については、司法書士・税理士・宅地建物取引業者などの専門家にご確認ください。

出典

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