結論から言えば、管理費や修繕積立金を滞納したままでも、マンションは売却できます。滞納を理由に売買が禁止されることはなく、管理組合の許可も通常は必要ありません。
ただし、「売れること」と「滞納を残さず引き渡せること」は別です。売っても未払い分は消えません。管理組合は、売主だけでなく買主にも、一定の滞納金を請求できます。
そのため一般的な仲介売却では、契約前に滞納額をはっきりさせ、売主の負担で清算する条件を契約書に定めます。手元に現金がなくても、売却代金で足りるなら、決済日(買主から代金を受け取り、部屋と登記を引き渡す日)にその代金から管理組合へ支払えます。
| 現在の状況 | 最初にすること |
|---|---|
| 自己資金で滞納を払える | 先に清算し、残高0円を示す書面を受け取る |
| 売却代金でローン・滞納・費用を払える | 決済予定日時点の清算見込額を取り、決済日に清算する |
| ローンは完済できるが、管理費等の清算資金が足りない | 契約前に、自己資金や清算条件を管理組合・不動産会社と調整する |
| 売却代金と自己資金でローンを完済できない | 借入先へ、抵当権を外す条件と任意売却の可否を相談する |
| 訴状・差押通知・競売開始決定などが届いている | 書面の期限を確認し、弁護士と借入先へすぐ相談する |
| 請求額や内訳に争いがある | 金額を確定する前に契約せず、規約・明細・決議を弁護士に見てもらう |
最初の一歩は、査定の依頼だけではありません。管理会社または管理組合から項目別の滞納明細をもらい、金融機関から住宅ローンの一括返済額を出してもらうことです。この2つがないと、査定額が高く見えても、決済日に支払いをすませられるかどうかは判断できません。
本記事は、日本国内の区分所有マンションを所有者が売却する場合を想定した一般的な解説です。請求される範囲は、管理規約、総会決議、契約、滞納の時期、法的手続の状況によって変わります。請求額に争いがある場合や、裁判所・弁護士から期限付きの書面が届いている場合は、弁護士へ相談してください。
管理費を滞納したマンションは売却できるが、未払いは消えない
所有者が変わっても、それまでの未払い分は消えません。むしろ、管理組合から見れば、請求できる相手が一人増えます。
管理組合は買主にも一定の滞納金を請求できる
区分所有法7条は、共用部分の管理や管理規約・総会決議にもとづく一定の未払い金について、管理組合に先取特権を認めています。先取特権とは、決められた財産から優先して支払いを受けられる権利です。
さらに同法8条により、管理組合は、その部屋を買った人にも一定の未払い金を請求できます。法律では、この買主を「特定承継人」と呼びます。
これは、売った瞬間に売主の支払義務が消え、すべて買主だけの負担になるという意味ではありません。売主の支払義務は残ったまま、管理組合が買主にも請求できるという関係です。
売主と買主が「滞納分は売主が負担する」と約束しても、その合意だけで管理組合から買主への請求は止まりません。当事者どうしの取り決めにすぎないからです。実際に全額を払い、残高0円を示す書面を受け取るところまで確認する必要があります。
東京高裁平成17年3月30日判決では、競売でマンションを取得した買主が滞納分を支払ったあと、旧所有者へ立替分を請求できると判断されています。通常の売買では契約内容によって結論が変わり得るものの、「買主に払ってもらえば自分の負担は消える」と考えるのは危険です。
管理組合と管理会社では役割が違う
管理費を請求する主体は、通常、区分所有者で構成される管理組合です。管理会社は、その管理組合から委託を受け、請求、入金管理、売却に必要な管理資料の発行などを担当します。
売却準備では管理会社が窓口になることが多いものの、分割払い、遅延損害金の減額、訴訟の取下げまで決められるとは限りません。回答をもらったら、管理組合として正式に決まった内容かどうかを書面で確かめましょう。
| 関係者 | 主な役割 | 売却時に確認すること |
|---|---|---|
| 売主 | 現在の区分所有者 | 滞納額を開示し、契約どおりに清算する |
| 買主 | 新たに所有権を取得する人 | 未払い額と清算方法を契約前に把握する |
| 管理組合 | 管理費等を請求する主体 | 請求項目、基準日、振込先、清算後の残高を確定する |
| 管理会社 | 管理組合から委託を受ける会社 | 委託範囲内で明細や管理資料を発行し、清算事務を行う |
| 不動産会社 | 売買を仲介する宅建業者 | 滞納を調査し、買主への説明と契約・決済を調整する |
| 住宅ローンの借入先 | マンションに担保を設定している金融機関 | 一括返済額と、担保を外す条件を示す |
滞納は、売主が黙っていても調査で表に出る
国土交通省の「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」では、管理費や修繕積立金に滞納があるとき、不動産会社(宅建業者)がその額を買主へ説明することとされています。しかも、できるだけ新しい時点の金額を調べるよう求められています。
マンション標準管理委託契約書14条でも、売却を仲介する不動産会社から求められれば、管理会社が管理規約、管理費・修繕積立金の月額、滞納額などを書面で回答する形が採られています。
つまり、売主が伝えなくても、滞納は管理会社への調査で明らかになるのが通常です。隠すのではなく、管理側の資料と数字を突き合わせ、重要事項説明書と売買契約書へ正確に反映するのが基本になります。
「決済日に清算できるか」を4つの数字で確かめる
売れるかどうかは、いくらで売れるかだけでは決まりません。買主から代金を受け取る決済日に、住宅ローン、滞納分、売却費用をまとめて払いきれるか。ここが実際の分かれ目です。
税引前の概算手取り
= 現実的な売却見込額
− 住宅ローンの一括返済額
− 決済日までの滞納総額
− 売却費用
答えがプラスで、価格が下振れしても耐えられるなら、決済日に清算できる見込みがあります。0円に近い場合やマイナスの場合は、不足分を自己資金で補えるかを先に確かめます。
ただし、計算が合えば必ず進むわけではありません。差押えや競売が動いている、請求額に争いがある、ほかにも担保が付いているといった場合は、収支がプラスでも別の調整が必要です。
4つの数字は同じ決済予定日でそろえる
滞納額もローン残高も、日が変われば金額が変わります。契約日の数字と決済日の数字を混ぜると、計算は簡単に狂います。
| 数字 | 取得先 | 見落としやすい点 |
|---|---|---|
| 現実的な売却見込額 | 不動産会社 | 希望価格や最も高い査定額ではなく、期限内に成約する見込みの価格を使う |
| 住宅ローンの一括返済額 | 金融機関 | 残高だけでなく、決済予定日の利息や繰上返済手数料も含める |
| 決済日までの滞納総額 | 管理会社・管理組合 | 元本、遅延損害金、回収費用、決済までに増える月額を分けて取る |
| 売却費用 | 不動産会社・司法書士など | 仲介手数料、印紙、登記、ローン手続費用などを含める |
査定書は、その金額で売れることを保証する書類ではありません。「売出し価格」だけでなく、似た物件の成約事例を根拠にした「成約見込額」と、その価格で売れるまでにかかる想定期間まで出してもらいましょう。
売却代金で清算できる計算例
次の数字は計算方法を示すための例であり、特定のマンションの相場や標準費用ではありません。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 成約価格 | 3,200万円 |
| 住宅ローン一括返済額 | ▲2,450万円 |
| 管理費・修繕積立金の滞納元本 | ▲54万円 |
| 遅延損害金・回収費用 | ▲9万円 |
| 仲介手数料 | ▲112万2,000円 |
| その他の売却・登記費用 | ▲14万8,000円 |
| 税引前の概算手取り | 560万円 |
この例なら、手元に現金がなくても、決済日に売却代金から滞納63万円を支払えます。
では、滞納額はそのままで、成約価格が2,600万円だったらどうなるか。仲介手数料を92万4,000円、その他の費用を14万8,000円とすると、税引前でも20万2,000円足りません。
2,600万円 − 2,450万円 − 63万円 − 107万2,000円 = ▲20万2,000円
この20万2,000円を自己資金で補えるなら、通常の売却を進められる余地があります。補えないなら、買主と契約する前に借入先へ相談してください。買主が見つかっても、住宅ローンを完済できず、抵当権(金融機関が設定した担保)を外せなければ、予定どおりに引き渡せないためです。
なお、この計算には、譲渡所得にかかる税金、決済月の管理費等の日割り、引越し費用を含めていません。税金は取得費、所有期間、特例を使えるかどうかで変わるため、必要に応じて税理士へ相談してください。
基本の3つの売り方と、資金不足時の任意売却
売り方の分かれ目は、引渡しまでに未払いを0円にできるかどうかです。できるなら、売却前か決済日の全額清算。難しいなら、滞納を残したままの取引。住宅ローンまで完済できないなら任意売却、という順に検討します。
| 売り方 | 向いている状況と注意点 |
|---|---|
| 1. 売却前に全額払う | 自己資金を出せる場合。一般の買主へ通常の条件で売りやすい。支払い後は残高0円の書面を受け取る |
| 2. 決済日に売却代金から払う | 手元資金はないが、売却代金で全額清算できる場合。決済までの増加額、振込先、送金担当を事前に決める |
| 3. 滞納を残したまま売る | 清算が難しく、そのリスクを受け入れる買主がいる場合。買主が限られやすく、価格と契約条件の調整が必要 |
| 別枠:任意売却 | 売却代金と自己資金で住宅ローン等を完済できない場合。金融機関などの同意が必要で、希望条件どおりに売れるとは限らない |
第一候補は売却前の清算か、決済時の清算
自己資金を出せるなら、先に滞納を払ってしまう方法が最も単純です。入金後は、管理会社または管理組合から最新の未収金残高表や領収書を受け取り、残高が0円になったことを確かめます。
手元資金がないなら、決済日に売却代金から払う方法が現実的です。住宅ローンがあれば、金融機関への一括返済、抵当権を外す手続、管理組合への清算を、すべて同じ決済日に進めます。
誰がどの口座から振り込むかは、金融機関や管理組合の運用によって違います。不動産会社に「決済日に払います」と伝えるだけで終わらせず、振込先、金額を確定する日、送金する担当者、入金をどう確かめるかまで決めてください。
滞納を残したまま売っても、支払義務は消えない
滞納額を開示し、買主が管理組合から請求される可能性を承知したうえで、そのまま引き渡す契約も考えられます。専門の買取会社や投資家が検討することはありますが、一般の買主には受け入れられにくい条件です。
この方法でも、売主の支払義務は自動では消えません。買主が管理組合へ支払ったあと、売主が立替分を請求されるという問題も残ります。契約書に「現況有姿」「買主了承済み」とだけ書き、金額や負担を曖昧にするのは避けてください。
滞納を残したまま売るなら、滞納額の基準日と内訳、引渡しまでに増える金額、買主が立て替えた場合の精算方法、価格への反映、法的手続の状況を、契約書へ具体的に記載します。滞納額の分だけ値下げすれば足りるとも限りません。買主は、金額がさらに増える可能性や、管理組合と調整する手間まで引き受けるからです。
売却前に、管理費以外の未払いも項目別に確定する
通帳を見て「管理費を6か月払っていない」と計算しただけでは、決済に必要な金額は確定できません。管理規約や総会決議によっては、遅延損害金(支払いの遅れに対して加算される金額)や回収費用が加わります。駐車場料や水道料など、管理費と一緒に引き落とされる別の費用が含まれることもあります。
国土交通省のマンション標準管理規約60条には、管理費等を滞納した区分所有者へ、遅延損害金や弁護士費用などを加えて請求できる規約例が示されています。ただし、標準管理規約はモデルにすぎません。実際の請求額は、そのマンションの管理規約、使用細則、総会決議と照らして初めて決まります。
だからこそ、合計額を聞くだけでは足りません。項目ごとに、次の3点を分けて確認します。
- 売主が負担すべき請求か
- 買主にも請求が及ぶ項目か
- 決済日にいくら払えば未払いがなくなるか
| 調べる項目 | 主な資料 | 確認する点 |
|---|---|---|
| 管理費 | 管理規約、月別台帳 | 月額変更や、反映されていない入金がないか |
| 修繕積立金 | 管理規約、総会議事録、月別台帳 | 値上げや臨時徴収の決議がないか |
| 遅延損害金 | 管理規約、計算書 | 利率、計算開始日、基準日までの計算 |
| 督促・弁護士・訴訟費用 | 管理規約、請求書、裁判書類 | 請求の根拠と金額の内訳 |
| 駐車場・駐輪場・専用庭等の使用料 | 使用契約、使用細則、台帳 | 買主にも請求できる項目かを個別に確認 |
| 水道料など | 請求書、契約、台帳 | 管理費とまとめず、請求の根拠を分ける |
| 決済までに発生する月額 | 管理会社の見込明細 | 契約時ではなく、決済予定日まで含める |
注意したいのは、遅延損害金、駐車場料、水道料、弁護士費用のすべてが、当然に区分所有法8条の対象になるとは限らない点です。項目ごとに請求の根拠が違うため、合計額ではなく明細で押さえます。
管理会社へ書面で依頼する内容
口頭で合計額だけを聞くのではなく、次のように依頼すると、必要な情報がまとまって出てきます。
売却を予定しています。決済予定日の○年○月○日時点で、管理費、修繕積立金、その他使用料、遅延損害金、督促・弁護士費用を項目別に分けた清算見込額を書面でください。決済までに増える金額、振込先、入金をどの未払い項目から差し引くか、全額入金後に残高0円を示す書類も教えてください。
併せて、次の資料と事実を集めます。
- 管理規約、使用細則、該当する総会決議
- 対象住戸の月別滞納台帳
- 管理費・修繕積立金・滞納額などをまとめた「重要事項調査報告書」
- 督促状、内容証明、支払督促、訴状、判決などの有無
- 差押えや競売申立ての有無
- 管理組合側の弁護士がいる場合の連絡窓口
- 清算金の振込先と、入金を確認する窓口
- 清算後に発行される領収書または未収金残高表
重要事項調査報告書には基準日があります。発行後も毎月の管理費や遅延損害金は増えるため、契約時の金額をそのまま使わず、決済直前に最新額を取り直してください。
契約から決済まで、滞納管理費を清算する7つの手順
滞納額と法的手続の状況を早めに調べ、売却代金と自己資金で全額を払えるなら、通常の売却手続に清算を組み込めます。
1. 滞納と法的手続を不動産会社へ伝える
査定を依頼するときに、滞納している事実、分かる範囲の金額、管理組合から届いた書面を伝えます。金額がまだ確定していないなら、その点も併せて伝えます。説明を契約直前まで遅らせると、買主の資金計画や契約条件を組み直すことになり、取引が止まりやすくなります。
2. 管理資料と滞納明細を取得する
不動産会社を通じて重要事項調査報告書を取り、売主自身も最新の滞納明細を確認します。ここで、自分の部屋の滞納と、マンション全体の滞納状況を分けて見ます。建物全体に滞納者が多いことと、売主自身が滞納していることでは、買主への説明内容も清算方法も違うからです。
3. 決済できる価格の下限を計算する
住宅ローンの一括返済額、滞納総額、売却費用を合計し、自己資金でどこまで補えるかも決めます。売却見込額がこの合計を下回るなら、売り出す前に不足分の埋め方を決めましょう。査定額が複数あるときは、最も高い数字ではなく、同じ販売期間を前提にした成約見込額で比べます。
4. 買主へ正確に説明する
購入判断に必要な滞納の事実と金額を契約前に説明し、管理資料と食い違わないようにします。請求額に争いがあるなら「滞納なし」とはせず、管理組合の請求額、売主の認識、争っている内容を分けて示します。
5. 売買契約で清算方法を決める
契約書には、決済日に売主の負担で清算すること、対象額、金額が変わった場合の調整、清算できなかった場合の扱いを記載します。重要事項説明書に金額が書かれていても、売主と買主のどちらが負担するか、当日どう動くかまで自動で決まるわけではありません。
不動産適正取引推進機構が紹介した裁判例でも、契約時に滞納額が確定しておらず、売買契約書に滞納管理費の取扱いが定められていなかったことが、紛争の背景になっています。
6. 決済日に売却代金から送金する
決済直前に最終残高を取り、売却代金の一部を管理組合の指定口座へ送ります。住宅ローンがある場合は、金融機関への一括返済と抵当権を外す手続も同じ日に行います。
送金後は着金を確認します。振込控えを見るだけでなく、管理費や遅延損害金など、どの項目へ支払いが反映され、残額がいくらになったかまで照合すると安全です。
7. 残高0円を示す書面を受け取る
領収書、入金後の未収金残高表、清算確認書など、管理側が発行できる書類を受け取ります。決済後に月額の計上や遅延損害金の端数が分かった場合の負担も、契約どおりに処理します。所有者変更届、口座振替の停止・開始、駐車場等の解約も忘れずに行いましょう。
売買契約では、清算できなかった場合まで決める
売買契約に「滞納分は売主負担」と一文入れるだけでは、決済当日の動きまでは決まりません。少なくとも次の事項を、重要事項説明書や添付資料と食い違わないように記載します。
| 契約で決めること | 記載内容の例 |
|---|---|
| 滞納額の基準日 | ○年○月○日現在とし、内訳書を添付する |
| 売主が負担する範囲 | 管理費、修繕積立金、遅延損害金、回収費用などを項目別にする |
| 契約後の増加分 | 決済日までに増える月額や遅延損害金を誰が負担するか |
| 支払時期と方法 | 決済日に、売却代金から指定口座へ送金する |
| 金額の確定方法 | 決済直前に管理側の書面で再計算する |
| 買主へ請求が来た場合 | 売主への連絡方法、買主が立て替えた場合の精算方法、必要書類の渡し方 |
| 清算できない場合 | 決済延期、売買代金の一部をすぐ売主へ渡さず確保する方法、追加送金、契約解除の条件 |
| 法的手続 | 督促、訴訟、差押え、競売の有無と、取下げ・終了の条件 |
| 完了を示す書面 | 領収書、残高表、清算確認書をいつ、誰へ渡すか |
管理組合へ直接送金する予定でも、清算額が想定より増えれば、売却代金だけでは足りなくなることがあります。契約前に増額分も見込んだ収支表を作り、最新額を取り直す日も決めておきましょう。
管理組合が分割払いに同意している場合も、売却後の扱いを書面にします。売却後も売主が分割払いを続けるだけでは、管理組合から買主への請求が止まるとは限りません。管理組合、売主、買主の三者で認識をそろえる必要があります。
滞納の影響は「売却価格」と「手取り」に分けて考える
管理費の滞納があるからといって、売却価格が全国一律で何%下がる、といった基準はありません。
決済日までに全額を清算できるなら、買主は未払いを引き継ぎません。この場合の価格は、立地、築年数、階数、広さ、室内や建物の状態、成約事例などをもとに査定されます。減るのは価格ではなく、売主の手取りです。
ここを混同すると、「滞納額が63万円だから、査定額も必ず63万円下がる」と考えてしまいます。実際に効いてくるのは、全額を清算できるか、金額が確定しているか、法的手続が進んでいるかの3点です。
| 状態 | 売却価格への影響 | 売主の手取りへの影響 |
|---|---|---|
| 売却前に全額清算済み | 物件自体の条件を中心に査定される | 自己資金で払った分が減る |
| 決済日に売主負担で全額清算 | 手順が明確なら、不確実性を抑えやすい | 売却代金から滞納額が差し引かれる |
| 金額が未確定・争いがある | 買主が不確実な分を価格に織り込みやすい | 金額確定まで代金の一部を確保するなど、追加の対応が必要になり得る |
| 滞納を残して引き渡す | 買主が限られ、価格調整を求められやすい | 値下げ後も売主への請求が残ることがある |
| 訴訟・差押え・競売が進行 | 期限や権利の調整によって販売条件が狭まる | 法務や回収の費用も加わる可能性がある |
マンション全体の管理状態は、これとは別に考えます。自分の部屋に滞納がなくても、管理組合全体で滞納が多い、修繕積立金が不足している、大規模修繕の臨時徴収が予定されているといった事情は、買主の判断や査定に影響します。
査定では、次の2つの条件を分けて比べてもらいましょう。
- 決済日に売主負担で全額清算し、未払いを残さず引き渡す場合
- 滞納と法的手続をすべて開示し、買主がそのリスクを負う場合
価格だけでなく、想定する買主、販売期間、売却費用、引渡し後に契約と違う不具合が見つかった場合の売主責任、清算後の手取りまで書面にしてもらってください。
住宅ローンも払えない場合や、法的手続が始まっている場合
管理費だけを滞納している段階と、住宅ローンも返せず差押えや競売が近い段階とでは、進め方が変わります。
ローンを完済できないなら、借入先との調整が必要
住宅ローンが残っていても、売却代金や自己資金で一括返済し、抵当権を外せるなら、通常の売却で進められます。ローンが残っているだけで、任意売却になるわけではありません。
任意売却を検討するのは、売却代金と自己資金では住宅ローンなどを完済できず、そのままでは抵当権を外せない場合です。借入先、保証会社、差押えを申し立てた相手などの同意を得て、売却条件と代金の配分を調整します。
住宅金融支援機構の任意売却の案内でも、売出し価格の確認を受け、購入希望者が見つかったあとに売却価格を申請し、抵当権を外すための審査を受ける流れが示されています。買主が見つかった時点では、まだ売却は確定していません。
また、任意売却なら管理費の滞納を必ず全額清算できる、というものでもありません。売却代金を誰にいくら配分するかは、金融機関などとの調整で決まります。管理組合への支払額、売却後に残る借金、引越し費用がどうなるかは、承認前に確認してください。
裁判所や弁護士から書面が届いたら、期限を最優先する
管理費の滞納を放置すると、管理組合からの督促を経て、訴訟、差押え、競売へ進むことがあります。ただし、「何か月滞納すると必ず競売になる」という全国一律の期間はありません。
次の書類が届いている場合は、査定の比較より先に、書類名と回答期限を確かめます。
- 内容証明郵便による請求書
- 裁判所からの支払督促
- 訴状、呼出状、答弁書催告状
- 判決、和解調書
- 預金・給与・不動産の差押通知
- 担保不動産競売または強制競売の開始決定
- 管理組合側の弁護士から届いた期限付きの通知
これらを放置したまま売却活動だけを進めると、その間に差押えなどが進み、契約どおりに引き渡せなくなるおそれがあります。売買契約を結ぶ前に、不動産売却に対応する弁護士へ、住宅ローンがあれば借入先へも相談してください。
次の状態では売買契約を急がない
- 決済日時点の滞納額を項目別に把握できない
- 管理会社と管理組合の説明が食い違っている
- 管理組合の請求額に争いがある
- 売却代金と自己資金でローン・滞納・費用を払えない
- 金融機関の同意が必要なのに、まだ相談していない
- 差押え・競売・訴訟が進んでいる
- 不動産会社や買主から、滞納を隠すよう求められた
- 契約書に、清算方法や清算できなかった場合の扱いが書かれていない
- 決済直前の最終残高を取得できない
- 破産、相続争い、共有者間の対立などで、売却できる人が決まっていない
止めるべきなのは売却の検討ではなく、条件が見えないままの契約です。資料をそろえ、関係者の同意と清算方法を固めれば、売却を再開できる場合もあります。
不動産会社は、査定額より清算の段取りで選ぶ
滞納があるマンションでは、高い査定額を出す会社が、最も安全に売却できる会社とは限りません。決済日に誰が何をいくら払い、清算が終わったことをどう確かめるか。そこまで説明できる会社を選びます。
候補の不動産会社へ、次の質問を同じ順番で聞いてください。
査定と手取りについて
- 「この査定額は売出し価格ですか、成約見込額ですか」
- 「成約見込額の根拠になった類似成約事例を見せてください」
- 「ローン、滞納、売却費用を引いた手取りと、成約価格が査定額より5%、10%下がった場合を計算してください」
滞納の調査と説明について
- 「重要事項調査報告書と、決済日時点の滞納明細を誰が取得しますか」
- 「管理費、修繕積立金、遅延損害金、回収費用を分け、どの書面で買主へ説明しますか」
- 「清算方法は、管理組合と管理会社のどちらへ照会しますか」
契約と決済について
- 「決済日に誰が管理組合へ送金し、入金をどう確認しますか」
- 「契約後に滞納額が増えた場合や、全額清算できなかった場合を、どの条項で処理しますか」
- 「買主に請求が来た場合の負担と連絡方法を、契約書へ入れますか」
資金不足や法的手続について
- 「通常売却でローンを完済し、抵当権を外すには、あといくら必要ですか。自己資金で補えない場合、誰の同意が必要ですか」
- 「差押えや競売がある場合、必要な同意と期限を一覧にできますか」
- 「裁判所から届いた書面は、弁護士が確認するまで契約手続を止めますか」
仲介と直接買取を比べるときは、価格だけでなく、仲介手数料、決済日、引渡し後の売主責任、清算する項目、売主に残る借金まで同じ条件で並べます。直接買取でも、滞納が自動で免除されるわけではありません。
マンションの管理費滞納と売却に関するよくある質問
1か月だけの滞納でも売却できますか
売却できます。滞納期間にかかわらず、滞納があるだけで売却が禁止されるわけではありません。ただし、少額だから説明しなくてよい、ということにもなりません。口座振替の行き違いならすぐに払い、残高0円を示す書面を受け取りましょう。決済時に払う場合は、契約から決済までに増える月額も含めて清算します。
管理費の滞納は買主に知られますか
通常の仲介取引では、不動産会社が管理会社などへ管理状況を調べ、管理費・修繕積立金の月額と滞納額を買主へ説明します。売主が伝えなくても、管理会社への調査で分かるのが通常です。説明が遅れると、買主の資金計画や信頼を損ねるため、査定の段階で不動産会社へ伝えてください。
5年以上前の管理費なら、時効で払わなくてよいですか
5年が過ぎただけで、滞納分が自動的に消えるわけではありません。民法166条は時効の期間を定めていますが、時効を使うには、その意思を相手へ示す「援用」が必要です(民法145条)。どの月の滞納か、途中で支払義務を認めたか、訴訟や差押えがあったか、法改正の前後かによっても結論が変わります。手取り計算から古い滞納分を除く前に、請求明細と過去のやり取りを弁護士へ見せてください。
売却後も売主が分割払いを続ける条件で売れますか
管理組合、売主、買主が条件を理解し、契約で合意できれば売却できる場合はあります。ただし、売主と管理組合の分割合意だけで、管理組合から買主への請求が止まるとは限りません。残額、支払日、支払いが遅れた場合の扱い、買主へ請求が来た場合の負担、売買代金の一部を確保するかどうかまで書面にします。まずは、売却前または決済時の全額清算を検討しましょう。
修繕積立金を長く払ってきた分は、売却時に返してもらえますか
一般に、修繕積立金はマンション全体の維持・修繕に使う組合の財産であり、売却時に自分の支払分を個別に引き出すものではありません。実際の取扱いは管理規約で確認してください。過去に多く払ったことと、現在の滞納を差し引けるかどうかも別の問題です。自己判断で支払いを止めず、管理組合へ問い合わせましょう。
最初に不動産会社と管理会社のどちらへ相談すべきですか
先に管理会社または管理組合へ、項目別の滞納明細を依頼します。同時に、住宅ローンがあれば金融機関から一括返済額を取得してください。その数字を持って不動産会社へ査定を依頼すれば、売却代金で清算できるかまで計算できます。すでに支払督促、訴状、差押通知、競売開始決定が届いている場合は、回答期限を確かめて弁護士へ相談します。
まとめ
マンションの管理費や修繕積立金を滞納したままでも、売却はできます。ただし、売却によって未払いが消えるわけではなく、管理組合は区分所有法にもとづき、一定の滞納金を買主にも請求できます。
一般的には、次の順で進めます。
- 管理会社・管理組合から、決済予定日時点の滞納総額を項目別に取得する
- 金融機関から、同じ日時点の住宅ローン一括返済額を取得する
- 不動産会社から、現実的な成約見込額と売却費用を出してもらう
- 売却見込額からローン・滞納・費用を引き、決済できるか判断する
- 契約書に清算額、送金方法、金額が変わった場合の調整、清算できなかった場合の扱いを定める
- 決済日に売却代金から管理組合へ払い、残高0円を示す書面を受け取る
手元資金がなくても、売却代金で足りれば決済時に清算できます。反対に、計算がマイナスになる、請求額に争いがある、訴訟や競売が始まっている場合は、条件が固まる前に売買契約を結ばないことが大切です。
判断の軸は、査定額の高さではありません。成約見込額、住宅ローンの一括返済額、滞納総額、売却費用の4つを、同じ決済予定日でそろえることです。この4つがそろえば、通常売却のまま清算できるのか、自己資金や金融機関などとの調整が必要なのかを判断できます。
参考資料
- e-Gov法令検索「建物の区分所有等に関する法律」
- e-Gov法令検索「民法」
- 国土交通省「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」
- 国土交通省「マンション標準管理委託契約書」
- 国土交通省「令和7年改正マンション標準管理規約(単棟型)」
- 不動産適正取引推進機構「延滞管理費がある場合の説明」
- 不動産適正取引推進機構「RETIO」137号
- 住宅金融支援機構「融資住宅等の任意売却」
- 裁判所「東京高等裁判所平成17年3月30日判決」
※2026年7月24日時点で確認した法令・公的資料を基に作成しています。法令・制度・各マンションの規約は改正されることがあります。個別案件の法的判断、税務判断、任意売却、訴訟・競売への対応は、弁護士、税理士、金融機関などへ相談してください。
