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共有物分割請求をされたら?応じたくないときの対処と持分を売る判断

共有物分割請求は、土地や建物を共有している人が、「この共有関係をやめたい」と申し入れる手続です。請求が届いただけで、その日から競売にかけられたり、家を出なければならなくなるわけではありません。

ただし、「応じたくない」の一言で止められる請求でもありません。民法256条・258条により、共有者は原則としていつでも分割を求められます。話合いがまとまらないときや、そもそも話合いができないときは、裁判所へ請求できるからです。

止めにくいのは請求そのものです。相手が示した売り方や金額まで、そのまま受け入れる必要はありません。相手の持分はどれだけか、対象はどの不動産か、どう分けるか、いくらと評価するか、相手に代金を払えるのか。ここには、争う余地も交渉の余地も残っています。

住み続けたいなら相手の持分を買い取る、共有から抜けたいなら自分の持分を売る、土地なら分けてそれぞれの単独名義にする(現物分割)。どの結果を望むかで、そろえる資料は変わります。

最初に見るのは、「誰から、何という書類が届いたか」です。裁判所からの訴状や期日呼出状なら、同封書類に書かれた答弁書(訴状への反論を書いて裁判所へ出す書面)の提出期限と、第1回期日を、その場で確認してください。答弁書を出さず、最初の期日にも行かないと、相手が主張した事実を認めたものとして扱われ、欠席のまま不利な判決が出ることがあります(裁判所「民事訴訟の相手方(被告)となった方へ」)。なお、「訴状が届いてから2週間」といった一律の期限はありません。基準になるのは、届いた書類に書かれた日付です。

逆に、欠席したからといって、原告の希望どおりの分け方が決まるわけでもありません。どう分けるかは、裁判所が事情を見て判断します。それでも期限内に動くのは、こちらの希望、評価の根拠、資金の裏づけを、判断材料に入れてもらうためです。

訴状が届いた日にすること・しないこと

封筒、訴状、証拠の写し、期日呼出状、答弁書催告状は、一式そろえて保管します。中身を確認する前に、電話で価格を約束したり、持分の売買契約書・委任状・分割合意書に署名したりしないでください。

提出方法や期日といった手続のことは、担当の書記官に聞けます。ただし、どう主張すれば有利かという法律相談には応じてもらえません。

本当に裁判所から届いたのか疑わしいときは、書面に印字された連絡先に電話せず、裁判所の公式サイトで番号を調べます。身に覚えのない書類でも、そのまま放置はしないでください。

目次

まず「書類・権利・希望」の順で整理する

止められるかどうかだけを考えていると、選べるはずの手が見えなくなります。次の順で確認すると、判断材料がそろいます。

  1. 届いたのが私的な通知、民事調停の呼出し、訴状のどれかを見分ける
  2. 最新の登記事項証明書と、権利を取得した経緯の資料で、共有者・持分・対象の不動産を確かめる
  3. 住み続けたいのか、代金を受け取って抜けたいのか、土地を分けたいのか、全体を売りたいのかを決める
  4. 不動産全体の時価(市場で売れると見込まれる価格)、資金の用意、誰が使っているか、ローン、費用の精算を資料で裏づける
  5. 訴状が届いているなら、期限内に答弁し、相手の案とは別の分割方法や和解条件を示す

相手と連絡を取ること自体に、暴力、威圧、つきまとい、DVの危険がある場合は、この順番よりも安全を優先してください。直接連絡せず、弁護士を窓口にします。裁判所へ出す書面に今の住所などを書く前にも、秘匿や閲覧制限の手続が使えないか確認します。

届いた書類の種類で、最初にやることが変わる

「共有物分割請求を受けた」と言っても、話合いの申入れと裁判は別物です。差出人、書類の名前、事件番号があるかを照らし合わせます。

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届いたもの今どの段階か最初にやること
口頭、メール、ふつうの手紙私的な話合いの申入れ希望する分割方法、価格の根拠、回答期限を書面で出してもらう
内容証明郵便、弁護士からの通知送った文面の記録が残る交渉段階裁判所の命令とは区別し、登記と価格を確かめてから回答する
裁判所からの民事調停の呼出状合意による解決を目指す手続期日と提出物を確認し、自分の案と資料を用意する
訴状、期日呼出状、答弁書催告状共有物分割訴訟答弁書の期限を控え、訴状のどの事実を認めてどれを争うか、どう解決したいかを整理する
競売開始決定などの民事執行の書類不動産を売ってお金に換える手続が始まった段階申立人と競売の根拠を確認し、直ちに弁護士へ相談する。売却基準価額、誰が使っているか、抵当権などの担保、代金の配分も影響する
届いた書類ごとの段階と、最初にやること

内容証明郵便は、それだけで不動産を分けたり、退去を命じたりする書類ではありません。日本郵便の案内によると、証明されるのは、いつ、誰から誰宛てに、どんな文書を出したかだけです。書かれた内容が真実であることも、相手が受け取ったことも、内容証明では証明されません。届いた事実を証明したいときは、別に配達証明を使います。

裁判所の命令ではないとはいえ、返事をしないまま放っておけば、「話合いができない」という理由で訴訟を起こされることがあります。すぐ承諾する必要はありませんが、自分の希望と条件は考え始めておきます。

結論をすぐ出せないときは、黙ったままにせず、受け取ったこと、確認中であること、追加でほしい資料、回答予定日だけを短く伝える方法があります。たとえば、次のような文面です。

私的な通知への一次返信例

○月○日付の通知書を○月○日に受領しました。現在、登記上の権利関係と不動産の評価を確認しています。検討のため、貴殿が主張する持分の根拠資料、希望する分割方法、その評価額と算定資料をご提示ください。資料を確認したうえで、○月○日をめどに回答します。

これは裁判所へ出す答弁書のひな型ではありません。権利を認めた、価格に同意した、持分を売ると読める文言は、安易に加えないでください。通知に時効や契約解除といった別の問題が絡んでいるときは、返信する前に弁護士へ確認します。

民事調停は、裁判官と調停委員を交えて合意を探る手続です。まとまらなくても、そのまま共有物分割の判決へ移るわけではありません。ただし、裁判所が相当と判断すれば「調停に代わる決定」が出ることがあり、告知から2週間以内に異議を出さなければ確定します。決定書が届いた場合も、放置はできません。

共有物分割は、協議、調停、訴訟の順に進むと決まっているわけでもありません。民法258条は、話合いがまとまらない場合だけでなく、話合いができない場合にも、裁判所へ請求できるとしています。

「応じたくない」だけでは止まらない

民法256条の分割請求は、共有関係を終わらせるために、各共有者へ認められた権利です。そのため、「思い入れがある」「今のままがいい」という希望だけで共有を無期限に続けるのは、原則として難しくなります。話合いを拒み続けても、「協議できない」として訴訟へ進まれることがあります。

一方、次に当てはまるときは、請求が当然に通る前提で進めず、権利関係と制度を詳しく調べます。

  • 5年以内の「共有物を分けない」という有効な合意(不分割契約)が残っている
  • 請求してきた人の持分や、分割の対象になる不動産の範囲に争いがある
  • 共同相続人の間で遺産分割をすべき相続財産である
  • 法令上、通常の共有物分割が制限される共有物である
  • 個別の事情から見て、請求が、権利の使い方として例外的に認められない「権利濫用」に当たる

不分割契約は更新できますが(民法256条2項)、更新後の期間も、更新した時から5年を超えられません。

権利濫用が認められるのは、あくまで例外です。「住んでいるから」「売りたくないから」で通るとは考えず、共有になった経緯、相手の目的、分割で生じる不利益、代わりの案を、証拠とともに見比べます。

「請求自体を争うこと」と「分け方や価格を争うこと」は、別の問題です。請求を止める根拠が弱くても、次の点はまだ検討できます。

  • 現物分割ができるか
  • 誰が不動産を取得し、誰へいくら支払うか
  • 任意売却にして競売を避けられるか
  • 不動産の適正な評価額はいくらか
  • 居住、賃料、固定資産税、管理費、修繕費をどう精算するか
  • 支払日、登記、退去・引渡しをどの順で行うか

「応じる」とは、相手の提案を丸のみすることではありません。共有関係をどう終わらせたいのか、自分の案を根拠資料とともに示すことです。

対処は「残る・売る・分ける」から選ぶ

何を残し、何を手放せるのかで、選ぶ方法は変わります。第一希望が難しかった場合の代替案まで決めておくと、交渉が「売る・売らない」の押し問答で止まりません。

残る

相手の持分を買うか、自分が不動産全体を取得します。価格の合意だけでなく、支払期限までに用意できる資金が必要です。

売る

自分の持分だけ売るか、共有者全員で不動産全体を売ります。提示額ではなく、費用を引いた手取りと、終わる時期で比べます。

分ける

土地を分けて、それぞれの単独名義にします。測量に加えて、道路への接し方や、分けた後も使える土地かを確認します。

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望む結果第一候補先にそろえる材料実現しにくい事情・注意点
今の家に住み続けたい相手の持分を買い取る、または自分が不動産全体を取得して相手へ代金を払う(全面的価格賠償)不動産全体の時価、預金残高と融資の見込み、住んでいる実態、維持費代金を払える見込みが弱いと、取得する案は通りにくい
適正な代金を受け取って共有から抜けたい相手に自分の持分を売る、全体を任意売却する査定、諸費用を引いた後の見込額、税引後に残る額、決済の希望日相手の提示額だけでは適正価格を判断できない
自分の持分だけ早く売りたい第三者への持分売却持分の査定、買主・仲介者の役割、減額される条件、訴訟の状況売っても、訴訟の当事者から当然に外れるとは限らない
土地を分けて別々の名義にしたい現物分割測量図、道路への接し方、面積、建築規制、分けた後の価値分けられても、使いにくい土地になったり、価値が大きく下がったりする
できるだけ高く全体を売りたい共有者全員で任意売却し、代金を分ける査定、売出条件、費用の配分、退去・引渡しの条件全員の合意が必要。競売と任意売却は別物として扱う
当面は共有を続けたい請求が制限される根拠を確認しつつ、期限付きの管理・使用の合意を提案する不分割契約、利用と費用負担の記録、代わりの案拒むだけでは、最終的な分割を避けにくい
望む結果から選ぶ解決方法と、先にそろえる材料

住み続けたい人に必要なのは、「退去したくない」という説明ではありません。相手の持分を取得する価格、支払期限、資金の裏づけを示して初めて、全面的価格賠償や和解案が現実味を持ちます。

手放す意向があるなら、相手への持分売却、全体の任意売却、第三者への持分売却を、諸費用を引いた金額、税引後の見込額、終わる日で比べます。査定額が高くても、調査後の減額、弁護士費用、登記費用、未精算金、税金によって、手元に残る金額は変わります。

裁判所が選ぶ分割方法は3つ

裁判上の分割方法は、民法258条に沿って次の3つに分かれます。原告が求めた方法が、そのまま採用されると決まっているわけではありません。

現物分割|土地を分けて、それぞれの単独名義にする

土地を登記上分ける「分筆」を行い、各共有者の単独所有にする方法です。ただし、面積を持分割合どおりにすれば公平になるとは限りません。道路への接し方(接道)、間口、形状、高低差、建物の位置、建築規制が違えば、同じ面積でも価値が変わるからです。

そのため、現物分割を希望するなら、分割案の図面だけでなく、分けた後もそれぞれの土地を使えるか、価値の差を金銭で調整する必要がないかまで確認します。建物や区分マンションのように、物理的に分けられない不動産には使えません。

全面的価格賠償|一部の共有者が取得し、ほかの共有者へお金を払う

共有者の一人、または一部が不動産を取得し、ほかの共有者へ持分に相当するお金を払う方法です。「代償分割」と呼ばれることもありますが、共有物分割訴訟では「全面的価格賠償」と表現されます。

最高裁判所は1996年10月31日の判決で、共有物の性質・形状、共有になった原因、共有者の人数と持分、使われ方、分割後の経済的な価値、各共有者の希望とその合理性などを総合的に考慮しました。そのうえで、価格が適正に評価されていること、取得する人に支払能力があること、共有者の間で実質的な公平が損なわれないことを条件としています。

自宅を残したい人にとって有力な方法ですが、資金の準備は後回しにできません。融資の事前相談、預金残高、売れる別の資産、支払える日を整理し、評価額が変わっても対応できるかを検討します。

競売|ほかの方法が難しい場合に売ってお金に換える

現物分割も価格賠償もできない場合や、現物分割によって価格が著しく下がるおそれがある場合、裁判所は競売を命じることができます。競売は、共有者全員が仲介会社を選んで市場へ売り出す任意売却とは、別の手続です。

「競売なら必ず何割安くなる」といった公的な数字はありません。ただし、売る時期や条件を当事者が自由に決めにくく、手続費用、抵当権などの担保、誰が使っているかも結果に影響します。全員が売ること自体には賛成できるなら、判決の前に和解して、任意売却の条件を具体化する道も残っています。

競売を命じる判決が出ても、その場で売却まで終わるわけではありません。判決が確定した後などに、地方裁判所へ「形式的競売」を申し立て、売却手続を進めます。

この形式的競売と、住宅ローンの抵当権にもとづく競売や、別の債権者による差押えから始まる競売とでは、手続の始まり方が違います。競売開始決定が届いたら、事件番号だけで判断せず、申し立てた人、申立ての根拠、対象になっている権利を確認してください。

訴状が届いたときの5ステップ

訴状への対応は、長い反論を書くことから始めません。期限を守り、争う事実と望む分割方法を分けて整理します。

1.提出期限と第1回期日を先に押さえる

訴状と同封書類から、答弁書の提出期限、期日、担当の部と係、事件番号を控えます。期限に間に合わない、期日に行けないという場合は、黙っていないで、早めに担当書記官へ手続の相談をしてください。答弁書の様式は、地方裁判所用と簡易裁判所用、2026年5月21日より前の旧法が適用される事件と同日以降の新法が適用される事件で、違うことがあります。

2026年5月21日以降、民事訴訟はオンラインでの提出にも対応し、弁護士などの訴訟代理人には電子提出が義務づけられています。本人が自分で対応する場合は書面提出も選べるため、同封の案内と、裁判所の最新の案内に従います。

裁判所が正式に書類を届けることを「送達」といいます。これをオンラインで受け取る届出をしている場合は、登録したメールアドレスへの通知をきっかけに、裁判所のシステムで書類を確認することもあります。不審なメールのリンクは開かず、公式ページからシステムへ入ってください。

2.訴状を「求めていること」と「主張している事実」に分ける

訴状の「請求の趣旨」には、相手が求める最終結果が書かれています。「請求の原因」には、なぜその結果を求めるのかが書かれています。共有者、持分、取得の経緯、話合いがまとまらなかった経緯、不動産の評価、希望する分割方法などを読み取ります。

次に、書かれた事実を一つずつ資料と照らし、「認める」「否認する(争う)」「知らない」のどれに当たるかを整理します。相手の評価額に納得できないからといって、共有関係や持分までまとめて否定するのは適切ではありません。

共有物分割訴訟では、原則として、登記名義だけでなく実際に権利を持つ共有者全員が当事者になります。登記名義人を見て終わりにせず、相続や未登記の持分移転がないか、訴状に共有者全員が書かれているかも確認します。

3.自分が望む終わり方を決める

答弁では、請求を争うかどうかだけでなく、住み続けたい、代金を受け取りたい、現物分割したい、任意売却したいといった希望を具体化します。

第一希望が難しい場合に備えて、第二案も用意します。たとえば「自分が取得する。融資が難しければ、全員で任意売却する」と決めておけば、和解の幅が広がります。

4.希望を裏づける資料をそろえる

自分が不動産を取得したいなら資金の資料、価格を争うなら査定や鑑定、現物分割を求めるなら測量・接道・法規制の資料が必要です。居住、賃料、固定資産税、管理費、修繕費に争いがあるときは、契約書、通帳、領収書、メッセージを時系列に並べます。

5.判決だけでなく和解条件も考える

民事訴訟は、途中で和解して終えることもできます。和解するときは、価格だけでなく、支払日、持分移転登記、費用の負担、退去・引渡し、残った家具や荷物、訴えを取り下げて終える時期まで決めます。支払いと登記、退去・引渡しの順番も、あいまいにしないでください。

相手が示した金額は「何の価格」かを見分ける

共有不動産をめぐる「価格」は一つではありません。何の価格を比べているのかがずれると、交渉もかみ合いません。

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価格意味主な使いどころ
不動産全体の市場価格単独所有の不動産として市場で売った場合の見込額持分割合で割った額を考える出発点
全体価格を持分割合で割った額全体価格に持分割合を掛けた額共有者どうしで価格を話し合うときの目安
第三者への持分売却価格持分だけを買う第三者が示す額自分の持分だけ売る場合の比較
全面的価格賠償・和解での評価額一部の共有者が不動産を取得する前提で考える額裁判や和解で持分を取得するとき
競売後の受取見込額競売代金から手続費用や権利関係を反映した後の見込額競売と話合いによる解決の比較
共有不動産をめぐる5つの価格の違い

たとえば、不動産全体の市場価格が4,800万円、持分が4分の1なら、持分割合で割った額はこうなります。

4,800万円 × 1/4 = 1,200万円

この1,200万円は、比較を始めるための数字にすぎません。第三者への売却価格や、裁判上の賠償額が、自動的に1,200万円になるわけではないからです。持分だけを買う第三者は、使用の制約、ほかの共有者との交渉、保有期間、再売却までの費用を価格へ反映することがあります。一方、共有者の一人が全体を取得すれば、その後は共有の制約がなくなります。第三者の持分買取の査定を、そのまま価格賠償の根拠にできるとは限りません。

査定や鑑定を比べるときは、少なくとも次の条件をそろえます。

  • 評価の基準日
  • 不動産全体の価格か、持分だけの価格か
  • 空室・空き家が前提か、誰かが使用中の状態が前提か
  • 参考にした成約事例と、補正した理由
  • 接道、境界、建物の状態、賃貸借、抵当権などの担保をどう扱ったか
  • 売却費用、未精算金、税金を含むか

固定資産税評価額、相続税評価額、売出価格、査定額、成約価格も、それぞれ別の数字です。相手が出した一つの資料だけで合意せず、算定の前提をそろえて比べてください。

訴訟が始まった後でも、自分の持分は売れる?

自分の共有持分は、原則としてほかの共有者の同意なく売れます(民法206条)。不動産全体を売るには、原則として共有者全員の合意が必要です。ただし、売る前に、自分が権利者であることを登記と実際の権利関係の両面で確認します。権利の取得を第三者へ主張するには登記が問題になるため、代金の支払と持分移転登記の順序も契約で決めます。

問題は、訴訟が始まった後です。共有物分割訴訟の途中で持分を売っても、自動的に被告から外れるわけではありません。民事訴訟法47条〜51条により、買主を訴訟に参加させるか、誰が訴訟を続けるかといった手続が必要になることがあります。売る前に、進行中の訴訟を誰がどの立場で続けるのかを、弁護士へ確認してください。

訴訟中の持分売却を検討するなら、契約前に次の点を整理します。

  1. 売るのが通常の共有持分か、遺産分割前の相続分か
  2. 買主へ訴状、期日、主張、証拠をどこまで開示するか
  3. 買主を訴訟に参加させる手続、引き継がせる手続、その費用、和解する権限を誰が持つか
  4. 買主が当初の買取提示額から減額できる条件と期限
  5. 買主が新しい共有者になった後、残る共有者へどう連絡するか
  6. 売却代金、取得費、譲渡費用、税金をどう計算するか

持分を買った不動産会社から分割請求をされた場合も、まず最新の登記事項証明書で持分の移転を確認します。相手が有効に持分を取得していれば、会社だからという理由で分割請求権がなくなることはありません。とはいえ、その会社の購入額が、そのままあなたの持分の適正価格になるわけでもありません。

第三者への持分売却と持分移転登記は、登記上の共有者から抜けるための選択肢です。買主は新しい共有者になり、自分から共有関係の解消を求められる立場になります。ただし、進行中の訴訟で誰が原告・被告になるかは、売買だけで自動的に切り替わりません。

また、売った人の住宅ローンや連帯保証、抵当権、売買契約上の責任、訴訟での立場、売却前の使用料や共有費用の精算は、自動的には消えません。誰と契約するのか、売却後にどの責任が残るのか、個人情報をどう扱うのかまで確かめます。

流れ・費用・期間の見通し

共有物分割請求に、一律の期間はありません。話合いがつけば合意書と登記で終わりますが、評価や権利関係を争えば、訴訟、鑑定、判決、控訴、競売まで進むこともあります。

一般的な流れは次のとおりです。

  1. 共有者間の協議、または協議できない事情の確認
  2. 必要に応じた民事調停
  3. 共有物分割訴訟の開始と、裁判所から訴状が届くこと(送達)
  4. 答弁書、準備書面、証拠による争点整理
  5. 査定・鑑定、資金資料、分割案の検討
  6. 裁判上の和解、または判決
  7. 代金の支払、登記、現物分割、競売など、判決・和解の実行

期間が延びる主な原因は、共有者全員に書類を届けられるか、持分や相続に争いがあるか、鑑定や測量が必要か、取得する人に資金があるかです。和解できず、控訴などの不服申立てや競売へ進む場合も長引きます。「必ず数か月」「競売まで何年」と決めつけず、今の段階から次の節目までの見通しを弁護士に尋ねてください。

費用も、次の項目を分けて見積もります。

  • 訴えを起こす側が裁判所へ納める申立手数料
  • 登記事項証明書、戸籍、測量図などの取得費
  • 不動産鑑定、測量、境界確認の費用
  • 弁護士費用
  • 分筆、持分移転、抵当権抹消などの登記費用
  • 仲介手数料、売却費用、譲渡所得税など、売却時にかかる費用
  • 競売手続で必要になる費用

2026年5月21日の民事訴訟手続デジタル化に伴い、手数料や納付方法にも、新しい事件と古い事件の違いがあります。過去の記事に書かれた金額をそのまま当てはめず、訴えを起こした日と訴額(手数料計算の基準になる金額)を示して、裁判所の手数料案内、担当の裁判所、または弁護士へ確認してください。

なお、訴状を受け取った被告が答弁書を出すこと自体には、通常、申立手数料はかかりません。ただし、反訴(被告の側から原告へ訴えを起こすこと)をする、鑑定を申し出る、専門家へ依頼するといった対応には、別の費用がかかります。

相続・居住・ローンなど、事情別の注意点

同じ共有名義でも、共有になった理由と今の使い方によって、進む手続は変わります。

遺産分割前の相続不動産

共同相続人だけで相続した不動産を共有している場合は、原則として通常の共有物分割訴訟ではなく、家庭裁判所の遺産分割で解消します。登記に法定相続分が記載されていても、それだけで通常の共有持分になったと決めつけないでください。

一つの不動産に、もともとの共有持分と、相続で生じた未分割の持分が混じっていることもあります(通常共有と遺産共有の併存)。この場合、相続開始から10年が過ぎているときなどは、まとめて共有物分割で扱える特別なルールがあります(民法258条の2)。

ここで注意したいのが期限です。ほかの相続人から遺産分割の請求があり、共有物分割で扱うことに異議を述べる場面では、裁判所から通知を受けた日から2か月以内に申し出る必要があります。答弁書の期限とは別に走る期限です。相続がからむ訴状が届いたら、法務省の制度資料も見ながら、早めに弁護士へ相談してください。

通常の共有持分を売ることと、遺産分割前の「相続分」を第三者へ譲渡することも、別の話です。後者には、ほかの共同相続人が代金と費用を払って、その相続分を取り戻せる制度があり、行使できる期間は譲渡を知った時から1か月です(民法905条)。売る対象がどちらなのか分からないまま契約しないでください。

自分または他の共有者が住んでいる

通知や訴状が届いただけで共有者の地位がなくなり、すぐ退去しなければならない、ということはありません。ただし、判決や和解、競売で所有関係が変われば、住み続けられる条件も変わります。

共有物を使っている共有者は、別の合意がない限り、持分を超えて使った分の使用料に相当する金額を、ほかの共有者へ支払う義務を負います(民法249条2項)。無償で使う合意、亡くなった人(被相続人)との約束、固定資産税や修繕費の負担も含め、誰が何を負担し、誰が収入を受け取ったのかを書き出してください。

気をつけたいのは、税金やローンを多く払ってきたという事実だけでは、登記上の持分も、実際の権利としての持分も増えないという点です。持分とは別に、立て替えた費用の請求や精算として扱えるかを確かめます。

住宅ローン・抵当権が残っている

持分を売ったり共有を解消したりしても、借入人や連帯保証人の立場は自動的に消えません。ローン契約、抵当権の対象、残高、完済・解除の条件を金融機関へ確認します。

全面的価格賠償で相手の持分を取得できても、既存のローンと賠償金の両方を払えるとは限りません。借換えや追加融資の見込みは、和解条件を固める前に確認してください。

賃借人がいる

入居者がいる不動産では、共有物分割だけでなく、賃貸借の扱いも確認します。契約を結んだのは誰か、ほかの共有者の同意はあるか、入居者が新しい所有者にも賃借権を主張できるか、賃料の受取口座、敷金、滞納、所有者が変わった後の契約関係を、資料で整理してください。共有関係を解消しても、賃貸借が当然に終わるわけではありません。

暴力・威圧・住所漏えいのおそれがある

共有者と直接連絡する前提に立たないでください。連絡は弁護士を通し、裁判所へ出す書面や証拠に、今の住所、勤務先、子どもの学校などが現れていないかを確かめます。住所や氏名が相手に知られることで社会生活に著しい支障が生じるおそれがある場合は、裁判所の秘匿制度を使える可能性があります。

危険が差し迫っているときは、不動産の交渉より、警察などへの安全相談を優先します。

相談前にそろえる資料

資料は「権利」「価格」「使い方」「お金」「期限」に分けておくと、相談時間を有効に使えます。

権利を確認する資料

  • 土地・建物それぞれの最新の登記事項証明書
  • 売買契約書、贈与契約書、遺言書、遺産分割協議書、離婚協議書
  • 戸籍、相続関係図など、共有になった経緯がわかる資料
  • 不分割契約、共有者間の管理・使用の合意

価格と物件を確認する資料

  • 相手の査定書・鑑定書と価格の提案
  • 自分で取った不動産全体の査定
  • 公図、地積測量図、境界確認書、建物図面
  • 賃貸借契約、管理規約、修繕履歴
  • 抵当権、差押え、仮差押え、仮登記、賃借権などの登記情報

使用・費用・資金を確認する資料

  • 誰が住み、誰が家賃を受け取ったかがわかる記録
  • 固定資産税、管理費、修繕費、保険料の領収書・通帳
  • ローン契約書、残高証明、抵当権の資料
  • 相手の持分を取得する場合の預金残高、融資相談の結果

手続と安全を確認する資料

  • 届いた封筒を含む、通知書・訴状・証拠・呼出状の一式
  • 回答期限、答弁書の期限、期日、事件番号
  • 共有者や買取会社とのメール、手紙、録音、メッセージ
  • 相手へ伝えてはいけない住所・連絡先と、安全上の事情

相談のときは、次のメモを1枚にまとめて持って行きます。

共有物分割請求・相談メモ
  • 届いた書類と差出人:
  • 受取日、回答・提出期限、第1回期日:
  • 対象の不動産と共有者、各持分:
  • 共有になった経緯:
  • 第一希望(住み続ける/取得する/売る/現物分割):
  • 第一希望が難しい場合の代わりの案:
  • 相手の提示額とその根拠:
  • 自分が把握している全体価格とその根拠:
  • 居住者、賃料、税・管理費・修繕費の状況:
  • ローン・抵当権、取得資金の状況:
  • 直接連絡や住所開示に関する危険:

今日は3つに着手する

共有物分割請求をされたら、今日のうちに次の3つに着手します。

  1. 届いた書類の種類と回答・提出期限を確認し、本当に裁判所からのものか確かめる
  2. 登記事項証明書と取得経緯の資料で、共有者・持分・相続の有無を確かめる
  3. 望む解決方法を仮に書き出し、価格と資金の資料を集め始める

請求そのものを止められる場面は限られます。それでも、どう分けるか、いくらと評価するか、支払・登記・退去をどの順で行うかは、まだ動かせます。

訴状が届いた、相手の価格と大きな差がある、相続や担保がからむ、直接交渉に危険がある。こうした場合は、署名や価格の回答をする前に、不動産の共有紛争を扱う弁護士へ資料一式を見せてください。費用の負担が難しいときは、収入・資産などの要件を確認したうえで、法テラスの民事法律扶助も検討できます。

※本記事は、2026年7月24日時点の一般的な制度と対処を整理したものです。個別の権利関係、訴訟方針、税務判断を代替するものではありません。


出典・参考資料

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