検査済証が手元になくても、不動産は売却できます。検査済証は、工事が終わったあとの検査に合格した建物へ交付される書類です。ただ、売出し価格を決める前に、次の2点を切り離して確かめてください。
- 役所などの台帳に、検査済証を交付した日付や番号が残っているか
- 当時の図面と現在の建物に違いがないか
原本をなくしただけなら、「台帳記載事項証明書」で交付の記録を説明できる場合があります。役所などの台帳に残る交付日や番号を写した書類です。売却でつまずきやすいのは、交付の記録が見つからず、そのうえ増築や用途変更で図面と現在の建物がずれているケースです。
いずれにしても、先に値下げしたり、高額な調査を申し込んだりする場面ではありません。まずは書類と工事の履歴を集め、不動産会社に役所調査をどこまで頼めるかを確かめます。
なお、この記事で扱うのは、建築基準法に基づく建物の検査済証です。開発許可、宅地造成、擁壁などの検査済証は別の制度なので、対象に含みません。制度と料金例は2026年7月24日時点で確認しています。
- 検査済証がないだけで、売買が禁止されるわけではない
- 「原本をなくした」と「そもそも交付されていない」は、別の状態として扱う
- 交付の記録が見つかっても、その後の増築まで問題がないとは限らない
- 値下げや建築士への依頼を決めるのは、役所の台帳を調べたあと
検査済証がないときに、まず行う3つのこと
売主の役割は、建物が建築ルール(建築基準法などが定める建物の決まり)に合っているかを、自分で判定することではありません。手元に残っている資料と、わからない点を仕分けし、役所、不動産会社、建築士へ正確に渡すことです。渡す情報が整っているほど、あとの調査は範囲も費用も絞りやすくなります。
探すのは、検査済証だけではありません。
- 確認済証(工事を始める前に、計画が建築ルールに合っていることを確認した書類)
- 確認申請書の副本(申請者側に残る控え)
- 設計図、竣工図(工事後の建物を示す図面)
- 工事監理報告書(図面どおり工事されたかをまとめた書類)
- 新築・増改築の契約書、見積書
- 土地・建物の登記事項証明書、固定資産税の課税明細書
保管しているのが売主とは限りません。施工会社、設計事務所、以前の所有者、管理組合、管理会社にも問い合わせてみてください。
書類が一枚も見つからなくても、手ぶらにはなりません。増築した部屋やサンルーム、あとから設けた車庫や物置、屋根裏に張った床、店舗への用途変更など、覚えている工事の時期と内容をメモしておきます。
住居表示は、郵便物に書く普段の住所です。地名地番は、その土地を登記で特定するための番号です。役所の台帳は住所だけでは引けないことがあるため、登記事項証明書などで地名地番も控えておきます。
建築当時と現在で、地番が変わっている場合もあります。当時の建築主名や建築年もメモしておくと、台帳を探すときの手がかりになります。
窓口対応を、売主が全部引き受ける必要はありません。仲介(法律上は「媒介」と呼びます)を頼む候補の会社に、台帳の照会や証明書の取得を任せられるか、実費・代行費・委任状が必要かを聞きます。
誰が役所へ行くかは、会社の業務範囲や自治体の申請方法で変わります。媒介契約(仲介を正式に依頼する契約)を結ぶ前に、担当と費用を決めておきましょう。
- 新築時だけでなく、増築・用途変更のときの確認済証と検査済証も調べてもらえますか。
- 台帳記載事項証明書や建築計画概要書の取得は、媒介業務に含まれますか。
- 住宅ローンを使う買主へ売る場合、どの資料を使って、どの金融機関へ事前に確認しますか。
- 建築士の調査が必要になったら、誰に、どの範囲を頼む予定ですか。
国土交通省も、媒介契約の内容によって不動産会社が受け持つ手続きの範囲は異なるため、契約前に確認するよう案内しています。
交付の記録と現在の建物で、次の一手が決まる
「原本をなくした」「そもそも交付されていない」「増改築している」は、同じ物件で重なることがあります。どれか一つに当てはめて考えるより、交付の記録があるか、図面と現在の建物に違いがあるかの順で確かめるほうが、判断が早く進みます。
まず、検査済証の交付の記録を調べる
役所などの台帳に交付日や番号が残っていれば、原本を紛失していても、その記録を示す資料を取得できる場合があります。
記録が見つからないときも、「未交付だった」と決めつけないでください。完了検査を受けていない、検査は受けたが交付まで至っていない、古い台帳が残っていない、当時は手続きの対象外だった。理由はいくつも考えられます。窓口では、「交付の記録がない」のか「台帳そのものが残っていない」のかを、分けて聞いてください。
次に、図面と現在の建物の違いを調べる
交付の記録は、検査を受けた時点のものです。その後に行った増築や用途変更まで問題がないことを示すわけではありません。次のような箇所が図面に載っているか、工事のときの確認申請や検査の記録があるかを確かめます。
- 部屋、サンルーム、バルコニーの増築
- 車庫、カーポート、物置の設置
- 屋根裏や吹き抜けへの床の設置
- 窓、防火設備、階段などの変更
- 住宅から店舗、事務所、宿泊施設などへの用途変更
違いが見つかっても、それが建築ルール違反かどうかを売主が判定する必要はありません。図面とずれている箇所とわからない点をメモして示し、どこまで調べるかは建築士と決めます。
4つの状態別に見る、売却前の第一手
- 交付の記録あり・図面との違いは見当たらない
-
第一手:台帳記載事項証明書などを取得し、不動産会社から買主の金融機関へ必要書類を確認します。
注意点:検査後の増改築がないかは、別に確かめます。
- 交付の記録あり・図面との違いがある、またはわからない
-
第一手:増改築の資料を集め、ちがう箇所を示して建築士へ相談します。
注意点:建物全体を調べる必要があるのか、その箇所だけで足りるのかを、見積もり前に決めます。
- 交付の記録を確認できない・図面との違いは見当たらない
-
第一手:「未交付」と決めず、台帳の保存状況と残っている図面を調べます。
注意点:買主や金融機関が求める資料を先に洗い出し、必要な調査だけに絞ります。
- 交付の記録を確認できない・図面との違いがある、またはわからない
-
第一手:住宅ローンや改修の可否を約束せず、自治体の建築指導課などと建築士へ相談します。
注意点:現在の状態で仲介する、調査や修繕をしてから仲介する、不動産会社へ買い取ってもらう、の3案を比べます。
検査済証を紛失したときは、役所などの台帳で交付の記録を調べる
- 確認済証:原則として工事を始める前に、建築計画が建築ルールに合っていることを確認した書類
- 検査済証:対象工事の完了後に検査を行い、建物と敷地が建築ルールに合っていると認められたときに交付される書類
確認済証があっても、計画どおりに工事が終わったかどうかまではわかりません。
検査済証の原本は、なくしても再発行されないのが一般的です。ただ、役所などに台帳が残っていれば、確認済証・検査済証の交付日や番号などを記載した「台帳記載事項証明書」を取得できる場合があります。
この証明書でわかるのは、行政の台帳に残る交付の記録だけです。検査済証が再発行されるわけではなく、現在の建物全体が建築ルールに合っているかまでは示しません。交付後に増改築しているなら、その履歴と現在の状態は別に調べます。
窓口へ問い合わせる前にそろえる情報
- 現在の住居表示と地名地番
- 建築当時の地名地番
- 建築当時の建築主名(現在の所有者とは異なる場合があります)
- おおよその建築年
- 建物の用途、構造、階数、敷地面積、建築面積、延べ面積
- 土地・建物の登記事項証明書、公図(土地の位置や形を示す図面)、付近見取図
- 確認番号がわかる書類、図面、工事請負契約書
- 新築後に行った増築・改築・用途変更の時期と内容
自治体によっては、住所や地図から検索できる窓口もあります。ただ、住所だけでは物件を特定できないこともあるため、地名地番まで用意しておくと照会が速く進みます。福岡市は現住所と地名地番を必須情報とし、横浜市のオンライン閲覧は地図や住所から探す方法も案内しています。
窓口への問い合わせ例
この建物について、新築時だけでなく、その後の増築・用途変更を含む確認済証と検査済証の交付記録を調べたいです。台帳記載事項証明書、建築計画概要書、処分等概要書など、取得・閲覧できる資料と、検索に必要な情報を教えてください。
区分マンションでは、住戸の所有者が一棟全体の書類を持っていないことがあります。管理組合、管理会社、分譲会社にも問い合わせてください。
手数料と期間は、自治体によって差がある
自治体の公式な例を見ると、台帳記載事項証明書の手数料は1件または1通あたり250〜1,000円です。窓口で即日交付する地域もあれば、郵送を含めて約2週間かかる地域もあります。
| 自治体の公式例 | 手数料 | 交付・発送の目安 |
|---|---|---|
| 大阪市 | 1件250円 | 申請方法ごとに確認。郵送は送料別 |
| 横浜市 | 1枚300円。電子申請は送料別 | 申請審査に3営業日前後、支払い後の郵送処理に3営業日前後 |
| 東京都 | 1件400円 | 対象窓口では即日交付。電子申請は発送まで数日かかる場合あり |
| 岩国市 | 1件700円 | 交付準備2〜3日。郵送手続き全体は約2週間 |
| 富山県 | 1通1,000円 | 管轄窓口へ確認 |
表の金額と日数は、各自治体が公表している例です。申請前に、対象年代、閲覧と証明書の違い、郵送費、代理申請の条件を確かめてください。
売主・不動産会社・役所・建築士の役割を分ける
法令から住宅ローンまで、売主一人で調べ切るのは無理があります。誰に何を聞くかを決めておけば、相談先を何度も行き来せずに済みます。
- 売主
-
行うこと:手元の書類を探し、知っている工事、用途変更、役所から受けた指摘を不動産会社へ伝えます。希望価格と売却期限も示します。
判断しないこと:建物が建築ルールに合っているか、住宅ローンが通るかを、自分だけで断定しません。
- 不動産会社
-
行うこと:役所調査の範囲、販売方法、想定する買主、必要資料、契約条件を整理します。必要に応じて建築士や金融機関へつなぎます。
判断しないこと:役所の法的判断、建築士の技術判断、金融機関の融資承認を、代わりに確定することはできません。
- 自治体の建築指導課など
-
行うこと:保存されている台帳の検索、証明書・概要書の案内、地域ごとの手続きや相談先を示します。建築確認などを担当する行政機関は、法律上「特定行政庁」と呼ばれます。自治体によっては都道府県が担当するため、最初に市区町村へ管轄を確認します。
判断しないこと:台帳証明は、現在の建物全体が建築ルールに合うことや、売却価格、住宅ローンの可否まで証明するものではありません。
- 建築士・調査機関
-
行うこと:図面と現在の建物を見比べ、依頼された範囲について、建築ルールに合う箇所、合わない箇所、判断できない箇所を整理します。
判断しないこと:調査していない箇所や、金融機関の審査結果までは保証できません。
- 金融機関・ローンの適合証明を行う検査機関
-
行うこと:対象となる住宅ローンに必要な資料と技術基準を示し、融資や適合証明の可否を審査します。
判断しないこと:一つの金融機関の判断が、別の金融機関や別の商品にもそのまま当てはまるとは限りません。
台帳証明を取れば準備が終わる、というわけでもありません。その資料を買主の金融機関が審査に使うかどうかは不動産会社を通じて確かめ、図面との違いがあれば、対象箇所を示して建築士と調査範囲を決めます。ここまで整えてから、価格の話に入ります。
検査済証がないと、住宅ローンと売却価格にどう影響するか
検査済証がないだけで、買主が現金購入者に限られるとは言い切れません。求める書類と建物の基準は、金融機関や住宅ローン商品ごとに違います。
一方、交付の記録を示す資料がなく、建築ルールに合っているかわからない箇所も多ければ、審査できる金融機関と検討できる買主は減ります。その減りが、値下げ交渉として表に出ます。
- 金融機関が、必要書類と建物に求める条件を示す
- 住宅ローンを使って買える人の範囲が変わる
- 買主が負担する調査・修繕費と、残る不確実性が見積もられる
- 買主が、その負担を織り込んだ価格を提示する
価格を動かすのは、紙一枚の有無そのものではありません。書類が足りないことで買主がどこまで減り、追加費用とわからない点がどれだけ残るかです。
「相場の70〜80%になる」を一律の目安にしない
「検査済証がない物件は相場の70〜80%になる」という説明を見かけることがあります。しかし、検査済証の原本がない物件だけを対象にした全国共通の公的な値下げ率は確認できません。
東京圏の戸建ての成約データを使った研究でも、検査済証があることで価格が有意に上がるという結果は、築年数を問わず確認されませんでした。個別の物件で価格に影響しないという意味ではありません。ただ、全国どこでも20〜30%下がると考える根拠にもなりません。
実際に住宅ローンの選択肢が乏しく、現金で買う買取会社や投資家が主な候補になれば、一般の買主へ仲介する場合より低い価格を提示されることはあります。その差は、土地の価値、建物の状態、問題箇所を直せるか、売却期限、地域の需要で変わります。割合だけで決めず、条件をそろえた提案を並べて比べましょう。
3通りの査定を同じ条件で比べる
不動産会社には、査定額を一つ出してもらうのではなく、次の3案を分けて書面にしてもらいます。
| 査定する案 | 売却前に行うこと | 主な確認点 |
|---|---|---|
| 現在の資料で売る | わかっていることと不明点を開示する | 想定する買主、融資条件、引き渡し後の売主責任 |
| 役所の資料をそろえて売る | 台帳記載事項証明書や残っている図面をそろえる | 交付の記録を金融機関が審査に使うか |
| 建築士の調査・必要な修繕後に売る | 利用目的に必要な範囲を調べ、必要なら問題箇所を直す | 調査費、工期、価格の改善幅、残る不明点 |
成約予想価格が近くても、費用と期間が違えば手取りは変わります。各案について、次の項目もそろえてください。
- 想定する買主(自宅用、投資用、リノベーション、建て替え、買取会社など)
- どの金融機関・商品へ、どの資料で事前確認するか
- 売出価格ではなく、類似する成約事例をもとにした成約予想価格
- 調査期間を含む、引き渡しまでの見込み
- 証明書、調査、修繕、維持費、追加手続きの費用
- 住宅ローン特約(融資が通らなかった場合の扱い)、追加調査、不明箇所、引き渡し後の売主責任
売主が比べる概算手取り
成約予想価格 − 調査・修繕費 − 売却に伴う諸費用 − 引き渡しまでの追加保有費(固定資産税など)
調査後の成約予想価格が上がっても、その差より調査・修繕費と保有費が大きければ、現在の状態を開示して売るほうが合理的です。反対に、少額の証明書で住宅ローン審査に必要な履歴を補えるなら、値下げより先に取りに行く価値があります。
住宅ローンは、物件と商品を示して確認する
国土交通省は、検査済証がない建物では、増改築の前に建築ルールへの適合状況を調べる必要が生じる場合があると説明しています。また、建築基準法に適合していない場合などは、住宅ローンの対象外になる可能性があります。ここで大切なのは、「検査済証がないこと」と「法令に適合していないこと」を同じ扱いにしないことです。
フラット35の中古住宅では、原則として書類審査と現地調査を受け、住宅金融支援機構の技術基準に合うことを示す適合証明書を取得します。2026年4月版の手続ガイドは、建築確認日を確認する資料として、確認済証・検査済証のほか、建物の登記事項証明書や自治体の台帳記載事項証明書なども挙げています。
不動産会社へは「ローンは使えますか」とだけ聞かず、対象物件、予定する商品、手元の資料を示して事前確認を依頼します。広告に「住宅ローン利用可」などと書くのは、確認が取れてからです。
似た書類・調査でも、わかることは違う
台帳証明、建築ルールへの適合状況を調べる調査、建物の劣化を調べる調査は、名前が似ていても役割が違います。検査済証の代わりになる万能な書類はありません。費用をかける前に、「何を知りたいのか」と「誰へ提出するのか」を決めましょう。なお、「現況」は現在の状態という意味です。
| 書類・調査 | 主にわかること | 検査済証との違い |
|---|---|---|
| 台帳記載事項証明書 | 行政台帳に残る確認・検査の記録 | 検査済証の再発行ではなく、現在の建物が建築ルールに合うことも証明しない |
| 建築計画概要書・処分等概要書 | 建築計画の概要や、確認・検査などの手続き履歴 | この資料だけで、完了検査に合格したことがわかるとは限らない |
| 既存建築物の現況調査 | 依頼した範囲について、建築ルールに合うか、合わないか、判断できないか | 報告書は検査済証ではなく、作成しただけで建物の問題が直るものでもない |
| 既存住宅状況調査(インスペクション) | 建物の構造上重要な部分や、雨漏りを防ぐ部分などの劣化・不具合 | 建築ルールへの適合状況を網羅的に判定しない |
| 耐震診断 | 地震に対する構造上の安全性 | 建築基準法のすべての項目に合うことは証明しない |
| フラット35の適合証明 | 対象となる住宅ローンの技術基準に合うか | 中古住宅では原則として別の物件検査が必要 |
調査費用と期間は、目的と範囲で変わる
| 書類・調査 | 費用の公表例 | 期間の公表例 |
|---|---|---|
| 台帳記載事項証明書 | 自治体例で1件・1通250〜1,000円 | 窓口即日〜数日。郵送を含め約2週間の自治体例もある |
| 既存住宅状況調査 | 実施主体例で5万〜9万円(税別) | 木造戸建ての現地調査は通常2〜3時間。報告書を現地調査後10営業日以内とする実施主体例がある |
| 既存建築物の現況調査 | 個別見積もり。ある実施機関の例では、報告書作成費22万円(税込)に、書類上の調査や現地調査の費用が加わる | 建物規模、図面の有無、確認する建築ルールの数、追加調査で変わる |
既存住宅状況調査の総額は、構造、規模、築年数、オプション、交通費で変わります。建築ルールへの適合状況を調べる現況調査では、書類の調査、現地調査、図面の復元、遠隔地の費用が加わる場合があります。発注前に、基本料金に含まれる範囲、追加費用、報告書の交付日を明記した見積書をもらいましょう。
現況調査は、必要な範囲だけ依頼する
国土交通省の「既存建築物の現況調査ガイドライン」は、増築、改築、移転、大規模な修繕・模様替え、用途変更を行う既存建築物について、建築士などが建築ルールへの適合状況を調べる手順を示しています。現行の第4版は2026年3月版です。
調査結果は、依頼した範囲について「適合」「不適合」「不明」などに分けて整理されます。検査済証の再発行にはならず、報告書ができても建物の問題が直るわけではありません。隠れた部分や資料のない箇所は、「不明」と扱われる場合があります。
また、この調査だけで、消防法、都市計画法、盛土規制法などまで一括して確認できるわけではありません。売却や買主の工事に必要な法令は、個別に確かめます。
- 売却資料に使うのか、買主の確認申請や住宅ローンに使うのか
- 買主が予定する増築、改築、用途変更
- 台帳で確認できた交付の記録
- 残っている図面と現在の建物の違い
- 報告書を確認する役所、確認検査機関、金融機関
調査する範囲、見られない部分、成果物、追加調査、費用総額、納期は、見積書に書いてもらってください。
「12条5項の報告」を案内されたら、提出先まで確認する
検査済証がない建物への対応として、建築基準法12条5項に基づく報告を案内されることがあります。自治体の建築指導課などが所有者等に対し、敷地、構造、用途などの報告を求める制度です。
売主が申し込めば、全国どこでも検査済証の代わりとなる証明書を受け取れる仕組みではありません。費用をかけて建築士へ依頼する前に、次の3点を確かめます。
- 管轄の役所が、この物件と目的についてどの手続きを案内しているか
- 必要な図面と調査項目、提出後に返される書面は何か
- その書面を、予定する金融機関や確認申請先が判断資料として扱うか
役所が報告を受け取ることと、金融機関が住宅ローンの資料として採用することは、別の判断です。提出先まで確かめてから発注すれば、「報告書を作ったのに売却では使えなかった」という空振りを防げます。
確認結果と売却期限に合わせて売り方を選ぶ
売り方は、検査済証があるかないかだけでは決まりません。交付の記録、図面との違い、買主が使う住宅ローン、売主の期限を組み合わせて選びます。
- 役所の資料をそろえて仲介で売る
-
向いている状態:交付の記録を確認でき、検査後の大きな増改築を把握していない。
確認点:台帳記載事項証明書などを、買主の金融機関が審査資料として受け入れるか。
- 必要な調査・修繕後に仲介で売る
-
向いている状態:図面と現在の建物を見比べることができ、調査や修繕によって買主の条件を満たせる。
確認点:調査範囲、不明箇所、費用と工期、修繕後も残る制約。
- わかっていることを開示し、現在の状態で仲介する
-
向いている状態:不明点を理解したうえで検討する買主を探せる。
確認点:融資が通らなかった場合の扱い、追加調査、費用負担、引き渡し後の売主責任。
- 不動産会社へ直接買い取ってもらう
-
向いている状態:売却期限が短く、一般の買主には住宅ローンや説明の壁が大きい。
確認点:仲介より価格が低くなる可能性、査定後の減額条件、売主責任、室内などに残す家財(残置物)の扱い。
- 古家付き土地として売る
-
向いている状態:建物を使う価値より、調査・修繕費のほうが大きい。
確認点:道路に接する条件、建て替えができるか、解体費、アスベスト、土地としての需要。
検査済証がないことだけで、建て替え(再建築)ができないとは判断できません。敷地が道路に接する条件、用途地域(建てられる建物の種類や規模を定める地域区分)、敷地と建物が建築ルールに合っているかを調べて、はじめて判断できます。
検査済証を取得していない既存建物でも、直ちに建て替えができないとは限らないと整理した裁判例があります。ただし、その裁判例でも、役所からの指導、追加工事、費用負担の可能性まで説明していたことが、不動産会社の説明義務を判断する材料になりました。
解体して更地にする場合も、先に再建築できるかと手取りを調べます。解体費、アスベスト対応、更地にした後の固定資産税、土地としての需要まで含めて、古家付きのまま売る案と比べてください。
契約前に「わかったこと」と「わからないこと」をそろえる
不動産会社が仲介する中古住宅では、確認済証・検査済証などを保存しているかどうかが、重要事項説明の対象です。紙の書類に代えて、その書類の電子データを保存している場合も「保存あり」に含まれます。
検査済証も電子データも残っていない場合は、その事実を示します。台帳記載事項証明書がある場合も、検査済証そのものとは区別して説明します。
- 検査済証の原本、電子データ、交付の記録、台帳証明の有無
- 確認できた増改築と、時期・内容を確認できない工事
- 建築士による調査の正式名称、対象範囲、結果、見られなかった箇所
- 買主が予定する住宅ローンや改修について、確認済みの条件
- 追加調査や修繕を、誰が、いつ、いくらで行うか
- 融資が通らない場合や追加工事が判明した場合に、契約をどう扱うか
- 引き渡し後に売主が負う責任の範囲
免責の書き方にも限界があります。「現状有姿」「契約不適合責任を負わない」と定めても、売主が知りながら告げなかった事実については、責任を免れない場合があります。わかった事実と、調べてもわからなかった範囲は、分けて記録しておきましょう。
「現状有姿」とは、現在の状態のまま引き渡すという契約上の表現です。「契約不適合責任」とは、引き渡した物件が契約で約束した内容と違う場合に売主が負う責任を指します。個別の特約は宅地建物取引士と、必要に応じて不動産取引に詳しい弁護士へ確認してください。
住宅ローン特約を付ける場合は、対象となる金融機関・商品、承認期限、契約を解除できる期限を具体的に決めます。売主が融資を保証するのではなく、融資が通らなかったときの扱いを契約書で決めておく、ということです。
検査済証がない不動産の売却でよくある質問
まとめ
検査済証がない不動産も売却できます。売り方を左右するのは、原本があるかないかではありません。役所などの台帳に交付の記録が残っているか、当時の図面と現在の建物に違いがあるか。この2点です。
まず、新築・増改築の書類と工事履歴を集めます。次に、住居表示と地名地番をそろえ、不動産会社へ役所調査の範囲を確認します。交付の記録や現在の建物にわからない点が残ったときだけ、使う目的を決めて建築士へ相談してください。
価格は「相場の何割」から決めません。現在の資料で売る案、役所の資料をそろえる案、必要な調査・修繕後に売る案を、買主、住宅ローン、成約予想価格、期間、売主の負担、残る条件で並べて比べます。確かめた事実が増えるほど、値下げが本当に必要かどうかを、根拠をもって判断できます。
出典・参考資料
- e-Gov法令検索「建築基準法」
- e-Gov法令検索「宅地建物取引業法」
- e-Gov法令検索「民法」
- 国土交通省「既存建築物の確認審査等の円滑な運用について」(PDF)
- 国土交通省「既存建築物の活用の促進」
- 国土交通省「既存建築物の現況調査ガイドライン第4版・2026年3月」(PDF)
- 国土交通省「既存建築物の現況調査ガイドラインに関するQ&A」(PDF)
- 国土交通省「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方・2026年4月施行版」(PDF)
- 国土交通省「不動産取引に関するお知らせ」
- 国土交通省「既存住宅流通・建物状況調査」
- 国土交通省「安心R住宅に関するQ&A」
- 国土交通省「令和4年改正 建築基準法」
- フラット35「中古住宅の物件検査」
- 住宅金融支援機構「中古住宅物件検査手続ガイド・2026年4月版」(PDF)
- 福岡市「建築確認等台帳記載事項証明書の交付申請」
- 大阪市「建築計画概要書等の閲覧・交付について」
- 横浜市「建築確認申請台帳記載証明書の取得方法」
- 東京都「建築計画概要書等電子閲覧システムについて」
- 岩国市「既存建築物の確認台帳記載事項証明書について」
- 富山県「確認台帳記載事項証明書について」
- 東京大学CREI「住宅認証が取引価格に与える影響」(PDF)
- 住宅瑕疵担保責任保険協会「既存住宅状況調査Q&A」
- 大阪府建築士会「既存住宅状況調査」
- ERI検査センター「既存住宅状況調査業務約款」(PDF)
- 日本建築センター「既存建築物のガイドライン調査」
- 日本確認検査センター「既存建築物の現況調査」
- 日本確認検査センター「確認検査等手数料」
- 不動産適正取引推進機構「住宅ローン利用の特約」
- 不動産適正取引推進機構「検査済証未取得の地下車庫に関する裁判例」(PDF)
