- 違反建築物・既存不適格・書類不足を分ける考え方がわかる
- 検査済証がないだけで違反建築物と決めつけずに済む
- 現況売却・是正後売却・直接買取・解体後の土地売却を、概算手取りで比べられる
- 買取査定を、提示額だけでなく8つの条件で比べられる
- 売却後の責任範囲を明確にするため、何を書面に残すかがわかる
違反建築物でも、売買自体が一律に禁止されているわけではありません。
ただし、売れることと、一般的な物件と同じ価格・融資・契約条件で売れることは別です。違反の内容や資料不足によって、買主が使える住宅ローン、是正費用、将来の増改築・建て替えに影響します。
最初にするのは、仲介か買取かを決めることではありません。物件を適法・既存不適格・違反・不明に分け、違反なら是正方法を確認したうえで、4つの売却方法を比べます。
適法なのか、建築時は適法だった既存不適格なのか、違反しているのか、資料不足で判断できないのかを分けます。
どこを直すのか、費用と工期、是正後の状態を示す資料まで確認します。
現況仲介・是正後仲介・直接買取・解体後の土地売却を、手取り、期間、成立条件、売却後の責任で比べます。
- 行政から是正指導や命令を受けている
- 建物の安全性に不安がある
- 敷地の境界や、建築基準法上の道路への接道状況がわからない
- 解体後に再建築できるか確認できていない
査定の相談はできますが、条件が固まる前の売買契約や解体は避けてください。資料を残したまま、建物がある地域の建築担当窓口と、既存建築物に詳しい建築士へ相談します。
この記事は、一戸建てや一棟の建物を敷地ごと売るケースを想定しています。区分マンションの共用部分に関わる違反、用途変更、大規模建築物は確認範囲が異なるため、個別の専門調査が必要です。
\ まずは、現在の状態でいくらになるかを知る /
「違法建築」は、適合・既存不適格・違反・不明を分けて判断する
「違法建築」は広く使われる呼び方ですが、その中には法的な扱いが異なる状態が混ざっています。建てた当時から法令に適合していなかった建物と、当時は適法だった建物を同じように扱うことはできません。
国土交通省の「既存建築物の現況調査ガイドライン」では、調査結果を次の4つに分けています。登記と現況の不一致は、これとは別に確認します。
| 状態 | 典型的な状況 | 売却前の対応 |
|---|---|---|
| 適合 | 調査した範囲で、建築基準関係法令に適合している | 調査範囲と、調べられなかった箇所を確認し、売却資料へ反映する |
| 不適合 (既存不適格) | 建築時は適法だったが、法改正や都市計画の変更後に現行基準へ合わなくなった | 建築時期と当時の適法性を確認し、増改築・用途変更・建て替えの制限を調べる |
| 不適合(その他) 違反建築物の可能性 | 建築時から基準を満たしていなかった 確認が必要な増築を手続きせず行った 確認を受けた計画と異なる建物になった | 不適合箇所、根拠、是正方法、行政対応を確認する |
| 不明 | 図面や記録がない 現地で確認できない部分がある 建築時の法令や敷地を特定できない | 「違反なし」と扱わず、不明の範囲と理由を報告書に残す |
| 登記と現況の不一致 (別の論点) | 増築部分が未登記 登記面積と実際の面積が異なる | 法適合性とは分け、表示変更登記などの要否を土地家屋調査士へ確認する |
- 確認申請書・設計図書・確認済証
- 検査済証、または交付記録を確認できる資料
- 土地・建物の登記事項証明書
- 公図・地積測量図・境界資料
- 増改築、敷地変更、行政対応の記録
見つからない資料は「未取得」と書き残し、どの建築士・不動産会社にも同じ情報を渡してください。
同ガイドラインは、増改築、用途変更、大規模修繕などを計画するときに既存建築物の法適合状況を調べるためのものです。売却査定の制度ではなく、調査報告書が建物全体の適法性を保証するものでもありません。ただし、書類と現地を照合し、既存不適格・その他の不適合・不明を分ける考え方は、売却前の整理にも役立ちます。
建築基準法3条2項は、法令の施行・改正時にすでに建っていて、その時点では適法だった建築物などについて、一定の規定を直ちには適用しないと定めています。これが、一般にいう既存不適格の法的な根拠です。
一つの建物で状態が混在することもあります。「この規定については既存不適格」「あとから増築した部分は不適合(その他)」「壁の内部は不明」という組み合わせです。建物全体を一つの呼び名だけで処理せず、規定と場所ごとに分けてください。
既存不適格建築物には、一定の増改築などで緩和措置を検討できる場合があります。ただし、緩和の対象になり得るのは、既存不適格であることを確認できた規定です。「不適合(その他)」や「不明」の部分まで、既存不適格として扱えるわけではありません。
\ 違反か既存不適格かで、査定の前提は変わります /
検査済証がないだけでは、違反建築物とは決まらない
検査済証は、完了検査を受け、その時点で建築基準法などの関係規定に適合していると認められたことを示す重要な書類です。ただし、古い建物では原本を紛失していたり、完了検査の記録をすぐに確認できなかったりすることがあります。
検査済証が見つからないときに分かるのは、「手元の検査済証では、完了検査時の適合確認を示せない」ということまでです。違反していると即断せず、自治体などの建築担当窓口で、処分等概要書、台帳記載事項証明書、建築計画概要書などの記録を確認します。名称、保存期間、取得方法は自治体によって異なります。
確認申請図書、契約書、登記・課税資料、増改築の記録も集め、現在の建物と照らし合わせます。検査済証が見つかった場合も、交付後の無断増築や用途変更まで適法だと示す書類ではありません。検査時の建物と現在の建物が同じかを確認してください。
なお、現在の建物を調べた現況調査報告書は、検査済証の代わりにはなりません。調査報告書の結果と、検査済証の交付記録は分けて買主や金融機関へ説明します。
未登記増築と建築基準法違反は、別の問題として確認する
増築部分が登記簿に載っていない「未登記」と、建築基準法に適合しているかどうかは同じ問題ではありません。確認申請などの必要な手続きを経て適法に増築したものの、登記だけが現況と合っていない場合もあります。
反対に、必要な確認を受けずに増築し、建ぺい率・容積率などの違反と未登記が重なっている場合もあります。法適合性は建築士へ、建物表題部の変更登記が必要かは土地家屋調査士へ確認してください。
容積率オーバー・建ぺい率オーバーは、登記簿の面積だけで違反と即断しない
建ぺい率と容積率は、敷地に対して建てられる建物の規模を制限する基準です。建築基準法52条・53条をもとに、ごく単純化すると次の式になります。
建ぺい率(%)=建築面積÷敷地面積×100
容積率(%)=容積率へ算入する各階床面積の合計÷敷地面積×100
式は単純ですが、建築面積は登記上の床面積と同じとは限りません。容積率にも、一定の車庫、地下室、共同住宅の共用廊下など、条件によって算入しない部分があります。登記上の一筆の土地と、建築確認で一つの敷地として扱った範囲が一致しない場合もあります。
たとえば、敷地100平方メートル、建ぺい率の上限60%、建築面積68平方メートルなら、単純計算は68%です。それでも、登記簿の数字だけを見て「8平方メートル分が違反」とは断定できません。
適用される上限や計算には、前面道路の幅、用途地域、防火地域・準防火地域、角地などの緩和、建築面積・床面積に含める部分、敷地の分筆・売却履歴が関わります。建築確認時の図面、当時の規制、現在の建物と敷地を突き合わせて判断してください。
とくに注意したいのは、建築確認で一つの敷地として扱った土地の一部を、あとから切り離したケースです。同じ土地を別の建物の敷地にも重ねて使っていれば、建ぺい率・容積率・接道の基準を満たさなくなる可能性があります。
容積率・建ぺい率が上限を超える5つの背景
現在の上限を超えて見える経緯は、おおむね次の5つに分かれます。最後の法改正・都市計画変更によるものは、当時適法であれば違反ではなく、既存不適格となる可能性があります。
- 確認が必要な部屋・車庫・物置などの増築を、手続きせずに行った
- 確認を受けた図面より広く施工し、法令に適合しない建物になった
- バルコニー、吹き抜け、地下部分などの面積算入を誤っていた
- 敷地の一部を売却・分筆したり、隣接地との利用関係が変わったりした
- 法改正や用途地域・上限値の変更により、建築後に現行基準を超えた
同じ「容積率オーバー」でも、無断増築による違反と、当時は適法だった既存不適格では、是正の要否も売却時の説明も変わります。建築時の資料、敷地の履歴、現在の建物・敷地の実測、当時と現在の規制を確認してください。
\ 上限を超えていても、売却の相談はできます /
違法建築の売却前に集める資料と、見つからないときの調べ方
資料が欠けていても、調査は始められます。問題なのは、何がないのかを整理しないまま査定だけを比べることです。各社が異なる状態を想定すると、提示額の高い・安いを正しく比べられません。
| 資料 | 確認できること | 見つからない場合 |
|---|---|---|
| 確認申請書・設計図書・確認済証 | 確認を受けた計画の用途、規模、配置、構造 | 建物がある地域の建築担当窓口で、建築計画概要書や台帳記録を確認する |
| 検査済証 | 完了検査を受けたことと、その時点の適合確認 | 処分等概要書や台帳記載事項証明書などで、交付記録を確認する |
| 土地・建物の登記事項証明書 | 所有者、地積、床面積、増築登記など | 法務局で取得し、現況との違いを整理する |
| 公図・地積測量図・境界資料 | 登記上の土地の位置、形、面積、境界資料 | 境界や実際の利用範囲が不明なら、土地家屋調査士へ相談する |
| 増改築の図面・契約書・写真・領収書 | いつ、どこを、どの程度変更したか | 家族、施工会社、前所有者にも確認する |
| 行政からの通知・相談記録 | 指導、命令、使用制限、過去のやり取り | 担当部署へ記録の有無と取得方法を確認する |
公図は、土地のおおまかな位置や形を確認する資料です。地積測量図や境界確認書と同じ精度・役割ではありません。また、行政資料でたどれるのは主に手続きの履歴です。現在の建物が図面どおりか、法令に適合しているかは、現地調査と合わせて判断します。
保存されている年代、資料の名称、閲覧・証明の申請方法は自治体によって異なります。取得できなかった資料も、依頼先と確認日、取得できなかった理由を一覧に残してください。
建物状況調査だけでは、容積率・建ぺい率の適否を判定できない
中古住宅の建物状況調査(インスペクション)は、基礎、外壁、屋根などの劣化・不具合を調べる制度です。建物の傷みを把握するためには役立ちますが、建築基準関係法令への適合性を判定する調査ではありません。
容積率、建ぺい率、接道、無断増築などを確認したい場合は、既存建築物の法適合調査に対応できる建築士へ相談します。必要に応じて、自治体や指定確認検査機関にも、調査・相談を受け付けているか確認してください。
- 建築時と現在の法令・都市計画条件
- 確認申請図書と現在の建物の違い
- 建築確認時の敷地と、現在の敷地・境界・接道状況
- 建築面積、延べ面積、容積率へ算入する床面積
- 適合・不適合(既存不適格)・不適合(その他)・不明の区分と根拠
- 見えない部分など、調査できなかった範囲と理由
- 是正する場合の方法、工期、完了を確認する手段
「問題ありません」という口頭の回答だけでは、買主や金融機関へ判断の根拠を示せません。調査日、参照資料、適用した法令、判断の前提、不明点を記載した報告書を受け取りましょう。
国土交通省のガイドラインに基づく現況調査を行った場合も、報告書は検査済証ではありません。買主が予定する融資や増改築で追加資料が必要かは、金融機関、行政、指定確認検査機関へ個別に確認します。
違法建築の相談先は、建築士・土地家屋調査士・不動産会社で分ける
一つの相談先ですべてを確定できるとは限りません。確認したい内容に応じて、専門家の役割を分けます。
| 確認したいこと | 主な相談先 |
|---|---|
| 建物が法令に適合しているか、どう是正できるか | 既存建築物の調査経験がある建築士、必要に応じて指定確認検査機関 |
| 行政記録、指導・命令、現在の規制 | 自治体などの建築担当窓口 |
| 境界、敷地面積、登記上の建物面積 | 土地家屋調査士 |
| 売却方法、査定、買主への説明 | 違反・既存不適格・資料不足がある物件の取引経験を持つ不動産会社 |
| 行政命令、すでに起きている紛争、契約条項 | 不動産取引・建築紛争を扱う弁護士 |
建物の法令面は建築士、境界・表示登記は土地家屋調査士、売却条件は不動産会社へ確認します。それぞれの調査結果を一つにまとめ、同じ資料を査定先へ渡してください。
\ 資料がそろったら、同じ内容で複数社へ /
違反・不明点が通常の物件と同じ条件で売れにくい4つの理由
売却条件へ影響するのは、「違法建築」という呼び名そのものではありません。買主が利用できる融資、購入後の使い方、是正費用、行政・契約上の不確実性です。
違反や不明点があると、住宅ローンの選択肢が狭まりやすい
金融機関は、担保となる物件の法令・技術基準への適合状況や、確認・検査の資料を審査します。たとえばフラット35の中古住宅には、接道、住宅の規模、耐震性、劣化状況などの技術基準があります。
民間ローンでも、法令に適合しない物件や、その可能性がある物件を対象外とする商品があります。ドコモSMTBネット銀行(旧・住信SBIネット銀行)は、建築確認申請の内容と現況が異なる建物や、必要な確認を受けずに増築した建物などを、取扱対象外となる例として案内しています。
違反や資料不足があると、希望するローン商品を使えない、是正や追加資料を求められる、審査に時間がかかるといったことが起こります。その結果、購入できる人が、現金購入者や、物件を個別に審査できる金融機関を利用する人へ限られやすくなります。
一方、「違反建築物なら、どの金融機関でも絶対に借りられない」とは言えません。物件の状態、違反の程度、是正状況、金融機関・商品によって判断は異なります。
買主が住宅ローンを使う場合は、売買契約を結ぶ前に、金融機関へ渡す資料を整理します。融資を受けられなかったときに契約を解除できるローン特約の対象、申込先、融資承認期限、解除期限も明確にしてください。
違反部分があると、リフォーム・用途変更・建て替えが制限される
既存不適格の建物には、既存不適格であることを確認できた規定について、一定の増改築などで緩和措置を検討できる場合があります。
一方、違反部分がある物件では、違反を是正しないと増改築や用途変更の確認手続きを進められないことがあります。「不明」の部分も、必要な調査が終わるまで既存不適格として扱うことはできません。
買主が知りたいのは、現在のまま使えるかだけではありません。希望するリフォームができるか、住宅から店舗などへ用途変更できるか、解体後に同じ規模で建て直せるか、将来売り直すときに何が制約になるかです。
不動産会社の判断だけで「増改築できます」「再建築できます」と断定せず、建築士と行政へ確認した範囲、まだ確認していない範囲を分けて買主へ伝えます。
是正費用と不確実性が、違反建築物の売却価格に反映される
買主や買取会社は、減築、改修、解体、測量、登記といった直接費用に加え、調査・行政相談にかかる時間、融資の難しさ、再販売までの維持費、資料不足のリスクを見込みます。
そのため、建ぺい率・容積率の超過割合が同じでも評価は変わります。物置の撤去で是正できる物件と、構造部分を含む大規模な減築が必要な物件では、費用も期間も異なるからです。
土地の立地、解体後の再建築可否、既存建物を利用できる期間も物件ごとに違います。「違反建築物は相場の何割」といった全国一律の値下がり率は使わず、各社が差し引いた費用と不確実性の内訳を確認してください。
違反状態は売却で解消せず、行政措置や契約責任が問題になる
建築基準法9条は、違反建築物について、特定行政庁が工事の停止、除却、移転、改築、増築、修繕、使用禁止・制限などを命じられることを定めています。命令の相手は、所有者、管理者、占有者など、状況に応じて判断されます。
売却しても、建物の違反状態そのものが消えるわけではありません。買主が新しい所有者になれば、違反状態が続く限り、行政措置の対象になる可能性があります。
一方、売主などへすでに出された命令が、売却後に誰へどのような効力を持つかは、命令の内容と経緯によって異なります。行政から指導・命令を受けている場合は、担当部署と弁護士へ確認し、対応方針が決まる前に売買契約を結ばないでください。
売却後の契約責任も、違反の有無だけでは決まりません。契約でどのような状態を約束したか、売主が何を知っていたか、買主へ何を説明したか、責任をどこまで調整したかによって変わります。
\ 住宅ローンを使える売り方かどうかを相談する /
違法建築を売却する4つの方法|現況売却・是正後売却・買取・解体
売却方法を考える軸は、「現況のまま売るか、是正してから売るか」と、「市場で買主を探すか、不動産会社へ直接売るか」です。建物を残す利点が小さければ、解体後の土地売却も候補に入ります。
| 売却方法 | 向いている状況 | 主な利点 | 先に確認する条件 |
|---|---|---|---|
| 1. 現況のまま仲介売却 | 法的な状態と不明点を資料にでき、売却期限に余裕がある | 複数の買主へ提案でき、価格を比べやすい | 想定する買主の融資 ローン特約 説明資料 売主の責任 |
| 2. 是正してから仲介売却 | 是正可能で、費用を上回る手取り増を見込める | 買主と融資の選択肢が広がる可能性がある | 是正方法 総費用 工期 行政との調整 完了を示す資料 |
| 3. 現況のまま直接買取 | 価格の最大化より、期限と成立の見込みを重視する | 一般の買主募集を省き、事業者と条件を調整できる | 調査後の減額・撤回 売主負担 契約不適合責任 契約上の買主 |
| 4. 解体して土地として売却 | 建物を使う価値より、是正・維持の負担が大きい | 建物に起因する問題を解消し、土地需要へ切り替えられる可能性がある | 再建築可否 接道 解体・アスベスト・測量費 ローン残高 税務 |
違反・不明点を開示し、現況のまま仲介で売却する
違反箇所や不明点を具体的に開示し、その状態を理解した買主を市場で探す方法です。買主候補を広く募れるため、現金購入者や、調査・是正を前提に検討する事業者からも条件を聞けます。
弱点は、購入申込みのあとに住宅ローン審査や契約条件が固まらず、取引が止まる可能性があることです。調査が終わっていない段階で「住宅ローン利用可」「増改築可」と広告せず、確認済みの事実と金融機関・行政が判断する事項を分けてください。
重要事項説明書へ違反の名称だけを書くのではなく、該当部分、根拠、行政対応、不明点、買主へ渡した資料、是正を誰が負担するかまで売買契約書と一致させます。
\ 現況のままの査定額を、先に確かめる /
違反部分を是正してから仲介で売却する
無断増築部分の撤去や減築などで違反を是正し、買主の不安を減らしてから売る方法です。是正後に見込める価格上昇分が、調査、設計、申請、工事、確認、販売までの維持費を上回るなら候補になります。
ただし、工事をしただけで自動的に「適法な物件」になるわけではありません。着工前に建築士の是正案を作り、行政または指定確認検査機関へ必要な手続きを確認します。工事後に、何の資料で是正完了を示すかも決めてください。
見積書では、設計、申請、足場、解体、構造補強、廃材処分、アスベスト調査、登記などを分けます。工事費だけでなく、売却までに売主が負担する総額で判断しましょう。
現況のまま、不動産会社へ直接売却する
容積率・建ぺい率オーバーなどを扱う買取会社は、自社で是正・再販する費用とリスクを織り込んで価格を提示します。一般の買主を探すより、価格や引渡し条件が早く固まる場合もあります。
ただし、専門会社でも必ず買い取るわけではなく、最初の査定額が最終的な支払額になるとも限りません。建築士の調査、測量、行政確認後に減額できる条項がある場合は、対象となる事実、算定方法、期限、売主が契約を解除できる条件を確認してください。
直接買取では、仲介手数料が発生しない形もあります。一方、別の会社が買主を紹介する仲介が入れば、仲介手数料がかかることがあります。契約書上の買主と、媒介契約を結ぶ仲介会社を区別してください。
建物を解体して、土地として売却する
是正費用が大きく、法令の範囲で建物を使い続ける価値も低い場合は、解体後の土地売却を検討します。ただし、建物を壊せば一般的な土地と同じ条件で売れるとは限りません。
接道義務を満たしていない、現在の敷地では同じ規模の建物を建て直せない、境界が確定していないといった問題は、解体しても残ります。建物に起因する違反と、敷地に起因する制限を分けてください。
固定資産税・都市計画税は、原則として毎年1月1日の状況をもとに課税されます。その日に住宅がない土地では、建て替え中などの例外を除き、住宅用地の特例を受けられないことがあります。解体時期と翌年度の税額は、市区町村の担当部署へ確認しましょう。
解体後に再建築できるか、解体費、アスベスト調査・除去費、測量費、登記費、税負担、住宅ローンを完済できる見込みが確認できるまで、解体契約を先に結ばないほうが安全です。
\ 解体を決める前に、建物付きの査定額を知る /
違法建築の売却ルートは「手取り・成立の見込み・期間・残る責任」で決める
仲介か買取かを決めるのは、法的な状態と不明点を整理したあとです。調査結果によって、選べる方法や買主が利用できる融資が変わるからです。
| 調査結果 | 次の判断 |
|---|---|
| 行政命令や安全上の危険がある | 売買契約を止め、行政・建築士と対応する 紛争があれば弁護士へ相談する |
| 既存不適格で、その他の不適合が確認されない | 増改築・建て替えの制限と融資条件を資料にまとめ、通常の仲介も含めて査定する |
| 違反だが、是正方法と完了確認が明確 | 現況売却と是正後売却の概算手取りを比べる |
| 違反があり、是正費用を回収しにくい | 現況仲介、直接買取、解体後の土地売却を同じ資料で比べる |
| 調べても不明な部分が残る | 不明の範囲と理由を報告書に残し、その不確実性を織り込んだ条件で査定する |
同じ物件でも、渡す資料が違えば査定の前提が変わります。一社には「違反の疑い」だけを伝え、別の会社には建築士の報告書や是正見積もりまで渡している状態では、提示額を比べられません。
違法建築の売却価格に、全国一律の「何割減」はない
違反・不明点がある物件の評価は、次のように分けると読み解きやすくなります。公的な査定式ではなく、各社が何を価格へ織り込んだかを確認するための考え方です。
適法な比較物件をもとにした価値
− 是正・解体・測量・登記などの必要費用
− 再販売費用と、売却までの金利・税・管理費
− 融資、行政対応、資料不足などの不確実性
± 立地、土地価値、法令の範囲で可能な将来利用
査定書では、どの比較物件を使ったか、違反部分を通常の床面積として評価していないか、是正費用を二重に差し引いていないか、再建築できる土地の価値を低く見積もりすぎていないかを確認します。
全国一律の値下がり率ではなく、是正方法、土地の利用価値、販売先、想定期間が同じ条件になっているかを比べてください。
4つの売却方法を概算手取りで比べる仮想例(税金・ローン元金返済前)
次の数字は、比較方法を示すための架空の値です。実在する地域の相場や、違反建築物の値引率・買取率を示すものではありません。
土地付き中古戸建てで、あとから増築した部分により容積率オーバーと判定されたケースを想定します。行政命令や差し迫った安全上の問題はなく、増築部分を撤去して是正することも、解体後に再建築することも可能という仮定です。
- 売却代金・買取額
現況仲介3,000万円、是正後仲介3,300万円、直接買取2,800万円、解体後の土地仲介3,200万円 - 調査・工事等
現況仲介40万円、是正後仲介260万円(調査等40万円+是正220万円)、直接買取30万円、解体後300万円(調査等50万円+解体250万円) - 売却までの費用
ローン利息、固定資産税、保険料、管理・光熱費などの合計を月5万円と仮定 - 売却までの期間
現況仲介6か月、是正後仲介8か月、直接買取1か月、解体後の土地仲介4か月 - 仲介・契約等
仲介3案では、仲介手数料の通常の上限額「(売却代金×3%+6万円)×1.1」に、印紙などの仮額を加えて110万円・120万円・115万円とする - 直接買取の契約費
仲介会社が入らない前提で5万円とする - 含めない費用
決済時に返済する住宅ローン元金、固定資産税等の日割り精算、譲渡所得税、引っ越し・残置物処分など
計算式は「売却代金−調査・工事等−仲介・契約等−月5万円×売却までの月数」です。
| 売却方法 | 売却代金 | 調査・工事等 | 仲介・契約等 | 売却までの費用 | 概算手取り |
|---|---|---|---|---|---|
| 現況のまま仲介 | 3,000万円 | 40万円 | 110万円 | 30万円 | 2,820万円 |
| 是正してから仲介 | 3,300万円 | 260万円 | 120万円 | 40万円 | 2,880万円 |
| 現況のまま直接買取 | 2,800万円 | 30万円 | 5万円 | 5万円 | 2,760万円 |
| 解体後に土地を仲介売却 | 3,200万円 | 300万円 | 115万円 | 20万円 | 2,765万円 |
この例では是正後の仲介が最も高いものの、現況仲介との差は60万円です。追加工事、工期の延長、予想より安い成約価格による差額の合計が60万円を超えれば、現況仲介のほうが多く残ります。
工事をするか判断するときは、是正後の成約予想価格を一つの金額ではなく幅で出してもらいます。価格の下限、工事費の上限、販売期間が延びた場合を使っても手取りが増えるかを確認してください。
自分の物件で比べるときは、表の各項目を実際の見積額へ置き換えます。取得していない費用は0円にせず「未取得」とし、判断を左右する費用がそろうまで最終決定を保留しましょう。
最終的な手取りは、この概算手取りから、決済予定日の住宅ローン一括返済額、固定資産税等の精算、譲渡所得税などを差し引いて確認します。税額は取得費、所有期間、居住用財産の特例などで変わるため、税理士または税務署へ確認してください。
なお、売却までの毎月の住宅ローン返済と、決済時の一括返済額を両方計算へ入れる場合は、元金返済によって一括返済額が減る関係を確認します。同じ元金を二重に差し引かないようにしてください。
\ 手取りで比べるには、複数の提示額が要ります /
建ぺい率オーバー物件の買取査定は、提示額より8つの条件をそろえて比べる
買取査定の最高額が、そのまま最も多い手取りになるとは限りません。提示額が確定する時期、売主が負担する費用、契約後の減額条件、売却後の責任までそろえて比べます。
- 契約書上の買主は誰か。査定した会社自身か、別の会社か
- 仲介か直接買取か。仲介手数料は発生するか
- 建築士調査、測量、登記、残置物、是正、解体を誰が負担するか
- 提示額はいつ確定し、契約後に減額・撤回できる条件と期限は何か
- 契約不適合責任を何について、いつまで負うか。知っている事実をどう記録するか
- 行政とのやり取り、近隣対応、境界確認を誰が行うか
- 決済日、代金の支払方法、買主の資金調達が整わない場合の扱い
- 買主側の転売先が見つからなくても、契約どおり代金を支払うか
どの会社にも、同じ版の建築士報告書、行政資料、図面、登記、測量資料、是正見積もりを渡します。資料の前提が違えば、買取額の差が物件評価によるものか、未確認リスクの差によるものか判断できません。
「今日だけの価格」「詳しい調査は契約後」と急がせる提案では、調査後の減額条項をとくに慎重に確認してください。減額理由を買取会社だけが一方的に決められるのか、金額の算定資料を受け取れるのか、合意できない場合に売主が解除できるのかを確認します。
比較するのは、最初の査定額ではありません。売主負担を差し引いた最終支払額、決済までの期間、契約後に残る責任を一枚の表にまとめてください。
\ 1社の提示額だけで決めると損するかも /
違法建築の契約不適合責任は、契約内容と開示資料で変わる
「現況有姿」「契約不適合責任を負わない」と書けば、知っている違反を伝えなくてよいわけではありません。契約不適合責任とは、引き渡した物件が、売買契約で約束した種類・品質などに適合しない場合に売主が負う責任です。
反対に、違反や不明点があるだけで、自動的に契約不適合になるわけでもありません。違反・不明点を明確に説明し、買主がその状態を前提に購入した場合は、その内容が契約の基準になります。
民法562条から564条は、契約内容に適合しない物件が引き渡された場合について、追完請求、代金減額、損害賠償、解除を定めています。ただし、各手段が認められるかは、契約内容、買主の認識、帰責事由、催告など、それぞれの要件によって変わります。
また、民法572条により、売主の責任を免除・制限する特約があっても、売主が知りながら買主へ告げなかった事実については、その特約で責任を免れることはできません。
宅建業者は、建築基準法などによる法令上の制限を重要事項として説明し、取引判断に重要な事実を故意に告げなかったり、事実と異なる説明をしたりすることはできません。
そのため、宅建業者が関与する取引では、「違法建築である」と一行書くだけでは不十分です。広告、重要事項説明書、物件状況報告書、売買契約書、添付資料の内容を一致させます。個人間で直接売買する場合も、知っている事実と合意した条件を書面に残してください。
- どの部分が、どの規定に、どの時点で適合しないと判断されたか
- 容積率・建ぺい率の計算に使った敷地面積、建築面積、床面積
- 適合・既存不適格・その他の不適合・不明を分けた調査結果
- 行政への相談、指導、命令、使用制限の有無
- 是正案・見積もりの内容と、実施していない事項
- 調査できなかった部分、その理由、買主へ渡した資料
- 融資、増改築、用途変更、建て替えについて確認済みの範囲
- 買主が引き受ける状態と、売主が責任を負う範囲・期間
契約不適合責任をどこまで調整できるかは、売主・買主の属性や契約内容によって変わります。行政命令、すでに起きている紛争、免責特約の有効性に不安がある場合は、契約前に不動産取引・建築紛争を扱う弁護士へ確認してください。
\ 契約条件の整理は、取引経験のある会社ほど進めやすい /
違法建築を売却する7つの手順
順番を間違えると、解体や工事のように元へ戻せない判断を先にしてしまいます。現況を記録し、行政資料と現地を調べてから、売却方法と契約条件を決めます。
違反の疑いがわかっても、すぐに増築部分を壊したり、図面のない改修を始めたりしないでください。建物の外観・室内・増築部分を撮影し、確認・検査書類、増改築記録、行政からの通知を集めます。
建築担当窓口で、建築計画概要書、処分等概要書、台帳記録などを確認します。土地・建物の登記、公図、地積測量図も取得し、敷地の分筆・売却や増改築の時期を時系列に並べます。
相談した部署、日付、質問、回答の範囲も記録してください。口頭回答だけで法適合性が証明されたとは扱いません。
書類と現地を照らし合わせ、適合・不適合(既存不適格)・不適合(その他)・不明を分けてもらいます。不適合(その他)があれば、是正案、概算費用、工期、是正後の確認方法も依頼しましょう。
境界、敷地面積、登記面積に問題があれば、土地家屋調査士にも相談します。
是正と解体は、できれば複数の見積もりを取ります。設計、申請、施工、廃材処分、アスベスト調査、測量、登記のうち、何が見積もりに含まれるかを確認してください。
さらに、仮住まい、残置物処分、販売中のローン利息、固定資産税、保険料、管理費を加えます。工事見積額と、売主が負担する総額を分けて書くと、見落としと二重計上を防げます。
現況仲介、是正後仲介、直接買取、解体後の土地売却について、想定価格、概算手取り、期間、成立条件、売却後に残る責任を示してもらいます。
査定理由が「違法建築だから一律に何割減」だけなら、比較物件、是正費用、再販売費用、不確実性の内訳を求めてください。
想定する買主が利用する住宅ローンに必要な資料と、ローン特約の条件を整理します。広告、重要事項説明書、物件状況報告書、売買契約書で、違反・既存不適格・不明点・是正の扱いを一致させます。
建築士報告書、行政資料、図面、登記・測量資料、見積書、契約書の特約、説明記録を一覧にし、買主の受領確認を取ります。
契約後に追加資料や新たな不適合が見つかった場合も、決済・引渡し前に不動産会社と買主へ伝えてください。
\ STEP5の「4つの方法を査定」はここから /
違法建築の売却でよくある質問
検査済証の紛失、現況売却での開示、買取の可否、時間の経過、解体の順番について、よくある疑問をまとめます。
違法建築の売却は、査定より先に物件の状態を分ける
違反建築物だからといって、売買が一律に禁止されるわけではありません。ただし、最初の判断を「仲介か買取か」にすると、必要以上の値下げや、回収できない是正費用につながることがあります。
まず、確認申請図書、確認済証・検査済証の記録、登記・測量資料、増改築履歴、行政からの通知を集めます。そのうえで、既存建築物に詳しい建築士へ、適合・不適合(既存不適格)・不適合(その他)・不明を分けた報告書を依頼してください。
調査後は、現況仲介、是正後仲介、直接買取、解体後の土地売却を、同じ資料と費用範囲で比べます。見るべき数字は最高査定額ではなく、概算手取り、成立の見込み、期間、売却後に残る責任です。
行政命令、安全上の問題、接道、再建築可否に不明点があるなら、売買契約や解体を先に進めないこと。知っている違反や不明点をぼかしたまま契約しないこと。
この2つが、違反建築物の売却で損失と紛争を抑える基本です。
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出典
e-Gov法令検索「建築基準法」
国土交通省「既存建築物の活用の促進について」
国土交通省「既存建築物の現況調査ガイドライン(第4版)」
国土交通省「令和7年度 建築物の改修における建築基準法のポイント説明会Q&A 第2部『既存建築物の現況調査』」(公開日:2026年3月5日)
国土交通省「既存建築物の緩和措置に関する解説集(第3版)」
国土交通省「建物状況調査の結果の概要(重要事項説明用)」
e-Gov法令検索「宅地建物取引業法」
国土交通省「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方(令和8年4月1日以降)」
e-Gov法令検索「民法」
住宅金融支援機構「中古住宅の技術基準の概要」(更新日:2026年4月1日)
ドコモSMTBネット銀行「商号変更について」(公開日:2026年8月3日)
ドコモSMTBネット銀行「住宅ローンを利用できない物件はありますか?」
国土交通省「宅地建物取引業法関係・報酬額の告示」
横浜市「住宅を取り壊して駐車場にした場合の固定資産税」(更新日:2026年4月8日)
リビンマッチ「不動産売却」(更新日:2025年10月8日)

