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セットバック未実施の家は売却できる?費用負担・価格への影響と確認手順

セットバック工事を終えていない家も、原則としてそのまま売却できます。工事が済んでいないことだけを理由に、家の売買や名義の変更が禁止されるわけではありません。

セットバックとは、幅4m未満の道に接する敷地で、建物や塀を道路の中心線から一定の距離まで下げ、道の幅を4mに近づけていく仕組みです。建築基準法42条2項の道路に面していると、この下がった部分(後退部分)は「道路」として扱われます。

そのため、建替えのときは道路内の建築制限を守らなければなりません。すでに受けている指摘や是正命令も、売ってしまえば消えるというものではありません。いま建っている家や塀をそのままにできるかは、建てた時期と工事の履歴を調べ、自治体に確認します。

売れるとはいえ、条件を曖昧にしたまま売り出せば、値引きの理由を買主に委ねることになります。買主が知りたいのは3点です。将来どの線まで下がるのか。敷地は何㎡減るのか。塀や門柱の撤去費は誰が払うのか。ここが分からないほど、買主は不確実な分を価格から差し引いて考えます。

つまり、売却前に優先するのは工事ではなく、次の5点の確認です。

売却前に確認する5項目
  1. 前面の道は、建築基準法42条2項の道路に指定されているか
  2. 基準時(その地域に建築基準法の道路規定が適用された時点)の中心線はどこで、後退線はどこになるか
  3. 後退する面積と、建築に使える敷地面積(有効敷地面積)は何㎡か
  4. 後退部分に、建物・擁壁(土を支える壁)・塀・門柱・植栽・設備が残っていないか
  5. 後退部分の所有、分筆(土地を分けて登記する手続き)、整備、管理を誰が担うか

この5点をそろえたうえで、現況(いまのまま)で売る案と、売主が先に処理してから売る案の手取りを比べます。道路の扱いと後退線が分からないうちに、売却のためだけに建物を解体したり、塀を撤去したりするのは避けてください。

判断の軸は「何cm下がるか」だけではありません。どこまで調べ、誰が費用を負担し、最後にいくら残るか。この3つが売却条件を決めます。

本記事は2026年7月24日時点の法令・公的資料をもとに、都市計画区域・準都市計画区域内にある一般的な42条2項道路を想定しています。区域外の扱い、条例、狭あい道路(幅の狭い道)の整備制度は地域ごとに異なります。個別の土地は、建築基準法上の道路を判定する自治体など(特定行政庁)、道路管理者、土地家屋調査士、建築士へ確認してください。

目次

セットバック未実施でも売却できる|まず4つの状態を分ける

「セットバック未実施」は、法律で決まった一つの状態を指す言葉ではありません。同じ言い方でも、道路の種類さえ分かっていない土地と、塀の撤去だけが残っている土地があります。準備の中身は、いまどこまで分かっているかで変わります。

いまの状態 まだ分からないこと 売出し前に行うこと
そもそもセットバックの対象か分からない 42条2項道路なのか、建築基準法上の道路ではないのか 自治体の指定道路図・調書を調べ、建築指導の担当課へ照会する
対象だが、後退線と面積が分からない 基準時の中心線、片側だけ下がるのかどうか、後退面積 過去の資料と道路資料を照合し、必要なら測量・狭あい道路協議を行う
後退線は分かったが、塀や設備が残っている 建物、擁壁、塀、門柱、植栽、メーターなどの処理 撤去・移設の要否、時期、見積もり、負担者を決める
建物や塀は後退済みだが、所有と管理が未整理 分筆、寄附、無償使用、自主管理、固定資産税の扱い 所有権と管理主体を分け、自治体の制度と契約上の引継ぎを調べる

最初にするのは工事ではなく、表の上の行から順に「分からないこと」を消す作業です。

たとえば、ブロック塀がいまの舗装の端から2m以上離れていても、それだけでは後退済みとは判断できません。基準になるのは、目に見える道の中心ではなく、原則として基準時の道路中心線です。向かいの土地だけが先に後退していると、この2つはずれます。

逆に、土地の一部が道路のように舗装されていても、寄附や分筆が済んだ証拠にはなりません。見た目が道路でも、建築上の道路の範囲、所有者、管理者、税の扱いは、それぞれ別に決まります。

価格を左右するのは、後退後に使える敷地面積、売却後に残る直接費用、手続きにかかる期間、そして未確定のまま残る事項の4つです。セットバック物件に全国共通の値引率はありません。工事を急ぐより未確定を減らしたほうが、値下げの根拠と売主が処理する範囲を決めやすくなります。

2項道路なら再建築不可、という意味ではない

セットバックの対象になる代表例が、建築基準法42条2項の道路、いわゆる「2項道路」です。2項道路とは、基準時にすでに建物が立ち並んでいた幅4m未満の道のうち、特定行政庁が指定したものです。道幅が狭いだけでは2項道路になりません。

一般的な2項道路では、基準時の中心線から水平距離2mの線を道路境界とみなします。ただし、道の片側が、中心線から2m未満のところにある崖地、川、線路敷地などに沿う場合は、その側の道の境界線から反対側へ4mの線を道路境界とみなす規定があります。

さらに、道路幅6mを確保するよう指定された区域では中心線から原則3mとなり、特定行政庁が安全上支障がないと認めた場所では2mになることがあります。42条3項による別の指定もあります。いまの道幅を2で割るだけでは、後退線は決まりません。

「要セットバック」と「再建築不可」は、確認する箇所が違う

2項道路に接しているだけで、再建築不可になるわけではありません。2項道路も建築基準法上の道路です。建替えの可否は、道路に接する長さ(接道)が原則2m以上あるか、後退後の敷地が建築条件を満たすかで判断します。

一方、次のような土地は、セットバックとは別に再建築の可否を調べなければなりません。

  • 前面の通路が建築基準法42条の道路ではない
  • 建築基準法上の道路に接する長さが2m未満である
  • 条例による接道条件を満たしていない
  • 過去の建築確認と現在の敷地範囲が異なる

建築基準法上の道路に接していない土地では、43条2項の認定・許可を検討できる場合があります。ただし、建物の用途・規模や通路の条件を含む個別判断で、セットバックとは別の手続きです。

前面の通路が42条道路か分からない場合は、後退線より先に、そもそも建築基準法上の道路に接しているかを調べます。私道に面しているなら、私道の持分に加えて、通行や掘削(工事のために道路を掘ること)の根拠があるかも確認してください。

未実施でも、いまの家や塀がすべて違法とは限らない

古い建物には、建てた当時は適法だったものの、いまの基準には合わない「既存不適格」があります。基準と違うことは、違法であることと同じではありません。ただし、基準時より後の増築や塀の新設に、別の問題が残っている場合はあります。

見分ける材料は、建築時期、道路の指定時期、建築確認のときの敷地の設定、増改築と外構工事の履歴です。

広告に「既存不適格」「違法建築」と載せる前に、確認済証(建築計画が法令に合うと確認された書類)、検査済証(工事完了時の検査に合格した書類)、建築計画概要書(建物の用途や規模などを記した書類)、過去の狭あい道路に関する協議書を集め、建築士と自治体へ照会します。セットバック以外の法令違反が疑われる場合は、違反の種類と、是正が必要かどうかを分けて調べてください。

売出し前に詰めるのは、工事より「後退線と面積」

登記簿の面積だけでは、買主は建築計画を立てられません。42条2項・3項・5項によって道路境界とみなされる線から道路側の部分は、建築基準法上の敷地面積に算入できないためです。敷地に建てられる建物の大きさを決める建ぺい率や容積率も、この部分を除いた面積で計算します。

確認は、次の順番で進めます。

1.自治体資料で、道路の種類と過去の扱いを探す

まず、市区町村や都道府県が公開する指定道路図・指定道路調書で、前面道路の区分を調べます。オンライン地図に情報がない、図上の線といまの道路が合わない、複数の道路番号が重なる。こうした場合は「道路ではない」と判断せず、建築指導の担当課へ確認します。

窓口では、次のように質問すると、必要な資料と未確認事項を聞き出しやすくなります。

所在地と地番は○○です。前面の道が建築基準法42条の何項・何号に当たるのか、根拠になる指定道路図・調書を確認したいです。2項道路であれば、基準時の中心線、後退線、過去の狭あい道路協議の有無、そしていまの時点で未確認として残る点を教えてください。

公開される情報の範囲は自治体によって異なります。道路台帳、境界図、過去の建築計画概要書、航空写真を合わせて判断する土地もあります。

2.所有権の境界と、建築上の道路境界を分ける

同じ道路沿いでも、確かめる線は1本ではありません。側溝や縁石が所有権の境界を示すとは限らず、所有権の境界と、2項道路のみなし道路境界も別の線です。

法務局で登記事項証明書(土地の権利関係が分かる書類)、公図(土地のおおまかな位置・形を示す図)、地積測量図(土地の面積や辺の長さを示す図)を集め、自治体の道路台帳や境界図と照合します。境界標がない、図面どうしで距離が合わない、後退部分を分筆する予定がある場合は、土地家屋調査士へ必要な測量の範囲を相談します。

3.後退線の中にある物を、現況の図面へ書き込む

後退線が分かったら、その内側に何があるかを現地で確認します。

  • 建物本体、ひさし、出窓
  • 擁壁、基礎、ブロック塀、門柱
  • 生け垣、立木、花壇
  • 水道メーター、汚水ます、雨水ます
  • 電柱、支線、ガス管などの設備
  • 段差、側溝、舗装、排水勾配

一覧のすべてを売主が撤去するわけではありません。法律上そこに置けない物、自治体の制度で撤去対象になる物、工事の妨げになる物に分け、必要な処理だけを建築士、設備事業者、自治体へ確認します。

先に移設すると、買主の建築計画と合わず、二重工事になることがあります。まず位置と処理案を図面にし、そのうえで見積もりを取ります。

4.概算式が使えるのは、道幅が一定で敷地がほぼ長方形の場合だけ

後退線が決まれば、ようやく面積を概算できます。逆に、中心線が曖昧なまま計算すると、もっともらしい数字だけが一人歩きします。

道路幅が一様で、基準時の中心線が確認済み、敷地がほぼ長方形という場合は、次のように概算できます。

必要水平距離 = 法令・道路指定で定まる、基準時の中心線から後退線までの距離

後退距離 = 必要水平距離 − 基準時の中心線から後退前の敷地側道路境界までの直角距離

概算後退面積 = 後退距離 × 道路に接する長さ

概算有効敷地面積 = 実測敷地面積 − 概算後退面積

たとえば、一般的な幅4mの2項道路で、必要水平距離が2m、中心線から後退前の敷地側道路境界までが1.5m、道路に接する長さが10mなら、後退距離は0.5m、概算後退面積は5㎡です。実測敷地面積が100㎡なら、概算有効敷地面積は95㎡となります。ここでいう道路境界は、いまの舗装端や側溝ではなく、資料と測量で確認した後退前の敷地側境界です。

これは計算の仕組みを示す例で、対象地の確定値ではありません。次に当てはまる土地は、この式で決めず、自治体と土地家屋調査士へ確認します。

  • 基準時の中心線が未確定
  • 道幅や敷地形状が一定ではない
  • 反対側に川、崖地、線路敷、水路などがある
  • 道路幅6mを確保するよう指定された区域、42条3項など、通常とは異なる指定がある
  • 過去に一部だけ後退した形跡がある
  • 所有権の境界が未確定

セットバック確認シートで「誰が何をするか」を決める

調べた資料を保管するだけでは、「誰が何をするか」までは決まりません。次の項目を1枚にまとめると、不動産会社、買主、土地家屋調査士、建築士が同じ前提で話せます。

この表を表計算ソフトへコピーするか、印刷して使ってください。分からない項目は推測で埋めず、「未確認」と書き、次に確認する人を決めます。

項目 確認結果/未確認 根拠資料・確認日・確認者 次に行うこと・担当者
道路の判定 ____ ____ ____
基準時の中心線・後退線 ____ ____ ____
登記・実測・後退・有効敷地の各面積 ____ ____ ____
建物・擁壁・塀・門柱・植栽・設備 ____ ____ ____
後退部分の地番・所有者・分筆 ____ ____ ____
寄附・無償使用・整備・管理 ____ ____ ____
いまの課税・非課税申告 ____ ____ ____
売主が行う調査・工事 ____ ____ ____
買主へ引き継ぐ作業・費用・時期 ____ ____ ____
引渡し状態・期限・条件未達時の処理 ____ ____ ____
査定の前提(現況/売主が処理した後) ____ ____ ____

記入例|後退5㎡、売値の差250万円でも手取りの差は80万円

以下は、シートの使い方を示す架空の例です。面積、価格、費用は実在する物件の相場や標準額ではありません。

調査結果

項目 架空の記入内容 確度・残る作業
道路 42条2項道路、指定番号第123号(架空) 指定道路調書と自治体照会で確認済み
中心線・後退線 基準時の中心線を確認。両側が後退する 現況測量図へ後退線を記載済み
面積 実測100㎡、後退5㎡、有効敷地95㎡ 境界確認済み。分筆は未実施
残っている物 後退線内にブロック塀10m、門柱1組、生け垣 撤去見積もり取得済み
所有・管理 後退部分は対象地と同じ一つの土地として登記され、売主が所有・管理 寄附・無償使用は利用しない前提
売主が課税明細と自治体の資産税担当で、宅地課税・道路部分の申告なしを確認 取得後の申告が必要かどうかは買主へ引き継ぐ
売主の候補作業 後退線の確定、塀・門柱・生け垣の撤去 工期と総額を書面で取得済み
買主への引継ぎ 分筆、舗装、将来の自治体制度の利用 実施義務や費用負担を契約に明記
不成立のとき 撤去前に売買契約。融資不成立などの場合は着工しない 手付金による解除や、住宅ローンが通らなければ契約を解除できる特約との関係を宅建士が確認

3つの売却案を同じ条件で比べる

売値が高い案が、手取りも同じだけ増えるとは限りません。調査、工事、売却、保有の費用を同じ表に入れます。

売却案 売却見込み・提示価格 売主が負担する仮の金額 税引前の概算手取り 数字の確度
後退線を確定し、現況で仲介 2,600万円 調査・測量30万円、仲介手数料92.4万円、契約・登記等3万円、保有費9.6万円 2,465万円 現況を前提とする査定
売主が塀などを撤去して仲介 2,850万円 調査・測量30万円、撤去等150万円、仲介手数料100.65万円、契約・登記等3.35万円、保有費21万円 2,545万円 工事完了を前提とする査定
現況のまま直接買取 2,250万円 調査・測量30万円、契約・登記等5万円。仲介会社を介さないため仲介手数料0円 2,215万円 買取会社の提示

税引前の概算手取り = 売却見込み・提示価格 − 売主負担の調査・工事費 − 売却費・保有費(売れるまでにかかる固定資産税・管理費など) − ローン返済等

この例では、費用を次のように仮定しました。実際の費用目安ではなく、手元の見積もりへ入れ替えて使うための内訳です。

  • 仲介手数料:売買価格が400万円を超える場合の上限式(売買価格 × 3% + 6万円)× 1.1を仮定。2,600万円の案は92.4万円、2,850万円の案は100.65万円
  • 契約・登記等:現況で仲介する案は、売買契約書の印紙税1万円、抵当権を消す手続き1.5万円、証明書等0.5万円の計3万円。工事後に仲介する案は、これに工事契約書類0.35万円を加えた計3.35万円。直接買取は3万円に契約確認費2万円を加えた計5万円
  • 保有費:現況で仲介は月2.4万円×4か月=9.6万円。工事後の仲介は仮設管理などを含む月3万円×7か月=21万円。直接買取は早期決済を仮定し、追加の保有費0円
  • ローン:返済残高は0円。ただし、登記簿には抵当権が残っており、抹消費用が生じる想定

譲渡所得税、引越費用、固定資産税等の精算は計算に含めていません。

売主が撤去して仲介する案は、現況で仲介する案より売値が250万円高い一方、手取りの上積みは80万円です。この80万円が、追加工事、売却の長期化、想定価格で売れないリスクに見合うかどうか。ここが判断の分かれ目です。

実際には、まず同じ会社へ「現況」と「売主が処理した後」の2条件で査定を依頼します。そのうえで、別の会社にも同じ資料と条件で見てもらいます。直接買取は、価格に加え、追加調査後に減額される条件、家財などの残置物、契約不適合責任(引き渡した土地が契約の内容と違った場合に売主が負う可能性のある責任)の扱いまで比べます。

売却価格への影響は「面積・費用・期間・不確実性」に分ける

価格を下げるのは、後退する面積だけではありません。セットバックが必要な家に全国共通の値引率がないのは、次の4つが物件ごとに違うからです。

1.建築に使えない面積

後退部分を除くと有効敷地が小さくなり、建てられる建物の規模にも影響します。それでも、5㎡の後退が土地価格の5㎡分の下落に直結するわけではありません。

道路側の余白が増えて採光や出入りが良くなることもあれば、駐車区画が取れない、玄関や階段の配置が難しくなることもあります。買主にとって重要なのは、減る面積そのものではなく、後退後の形で希望する建物が入るかどうかです。

2.売却後に必要な直接費用

未処理のまま引き継ぐ費用は、買主の値引き判断に反映されます。主な項目は次のとおりです。

  • 現況を確認する測量、境界確認、後退線の確認
  • 分筆、登記
  • 建物・擁壁・塀・門柱・植栽の撤去
  • 水道メーター、汚水ます、配管などの移設
  • 舗装、側溝、排水の工事
  • 建築設計、行政との事前協議・申請

発生する費用は物件ごとに異なります。見積書は「一式」で終わらせず、対象物、数量、施工範囲、残土処分、設備の移設、申請、追加工事になる条件まで確認します。

3.手続きにかかる期間

中心線や境界が決まっていなければ、買主は建物の設計を確定できません。隣地所有者の立会い、自治体との協議、分筆、設備の移設が必要になるほど、引渡しや着工までの時間も読みづらくなります。

売却前にすべてを終える必要はありません。ただし、必要な手続きと担当者、順番、そして一般的な目安ではなくこの土地で見込む期間を示せると、買主が抱える不確実性は減ります。

4.説明と契約に残る不確実性

「約5㎡のセットバック予定」とだけ書かれた土地と、根拠の図面、残っている物、費用の見積もり、負担者まで分かる土地。同じ5㎡でも、買主の判断は変わります。

査定を比べるときは、セットバック確認シートと、その根拠資料を各社へ渡します。道路、後退線、面積、残っている物、費用負担の前提がそろって、はじめて査定額を横並びにできます。

不動産情報ライブラリで分かる周辺相場は、あくまで参考です。対象地と同じ前提による複数社の査定、建築士によるどの程度の建物を建てられるかの確認、工事見積もりを重ねます。

相続税評価の「70%」は、売却価格の値引率ではない

国税庁は、42条2項道路に面し、将来の建替え時などに道路敷として提供する必要がある部分を持つ宅地について、相続税・贈与税の財産評価方法を示しています。

セットバック考慮後の評価額 = 通常の宅地評価額 − 通常の宅地評価額 ×(セットバック部分の面積 ÷ 宅地の総面積)× 70%

これは税額を計算するための評価ルールです。「セットバック部分は市場価格の70%引き」「土地全体を70%値下げする」という意味ではありません。売却価格は、有効敷地の形、建築計画、費用、需要、買主が負う不確実性を踏まえて決まります。

売却前にどこまで処理するかは、3つの案で決める

費用を売主と買主のどちらが負担するかに、決まった正解はありません。調査を終えたら、次の3案を同じ条件で比べます。「工事をすれば高く売れる」「未実施なら買取しかない」と先に結論を置かないことが大切です。

売却案 向いている状況 売却前に売主が負担するもの 主な注意点
後退線・面積を確認し、現況で仲介 買主の建築計画に合わせて工事したほうが合理的、先行費用を抑えたい 調査・測量・説明資料の費用 買主が負担する作業と、価格への反映を明確にする
売主が塀や門柱などを撤去して仲介 支障物と工事範囲が明確で、手取りの増加が見込める 撤去・移設・整備・保有費 着工後の追加費用、売却が成立しなかった場合の負担
現況のまま直接買取 期限を優先する、権利や塀・門柱の状況が複雑、個人の買主には説明しにくい 比較的少ないことがある 調査後の価格変更条件、売主の責任を免除する範囲、再販利益を含む価格差

現況で仲介するなら、未実施を「買主の宿題」にしない

現況での引渡しは、何も決めずに渡すことではありません。少なくとも、後退線、概算または確定した面積、残る塀や門柱、想定する処理、費用の負担者を示します。

買主の建築計画によって設備の位置や外構が変わるなら、売主が先回りして工事しないほうが合理的です。その場合も、買主が取得後に何を確認し、どの時点で費用が発生するのかは説明します。

売主が工事するなら、契約と着工の順番を決める

売却の見込みがないまま工事を始めると、費用を回収できないことがあります。工事を価格の条件にするなら、次を決めます。

  • 工事範囲と完成状態
  • 使用する図面と後退線
  • 売主が負担する上限と、追加工事の扱い
  • 完了確認を誰が行うか
  • 売買が成立しなかった場合の費用
  • 住宅ローンなどの融資が通らず、契約が解除された場合の処理
  • 引渡しまでに完了しない場合の期限延長、代金調整、解除

古家付き土地では、セットバック以外の再建築条件を調べる前に家を壊さないことも大切です。解体費と売却価格の差を、現況で売る案と比べてから決めてください。

直接買取は「安いが早い」だけで比べない

買取価格が仲介の査定より低く見えても、手取りは同じ順番に並ぶとは限りません。売主が負担しない工事、売却期間中の固定費、仲介手数料の有無、家財などの残置物、契約不適合責任の範囲によって差が出ます。

買主が不動産会社でも、売主の責任が自動的になくなるわけではありません。契約書で、会社がどこまで調査したか、売主が伝える事項、売主の責任を免除する対象、知りながら伝えなかった事実の扱いを確かめます。少なくとも2社から、同じ資料を前提とする書面の提示を受けると比較しやすくなります。

後退部分は「建築・所有・管理・税」を別々に確認する

塀を撤去し、道路のように整備しても、それで土地の処理が終わるわけではありません。セットバックした部分が、自動的に自治体の所有になることもありません。建築、所有、管理、税は、それぞれ別に決まります。

確認する内容 確かめること 主な確認先
建築上の扱い 道路とみなされる範囲、建物や擁壁などの制限 建築指導担当、建築士
所有権 同じ一つの土地として登記されているか、分筆済みか、所有者は誰か、寄附するか 法務局、道路管理担当、土地家屋調査士
整備・管理 舗装、排水、清掃、補修を誰が行うか 道路管理担当、自治体の狭あい道路担当
固定資産税等 非課税の要件、申告、適用時期 市区町村の資産税担当、東京都では都税事務所

自治体の制度には、後退部分を寄附する方法、所有者のまま無償使用を承諾して自治体が整備・管理する方法、所有者が自分で管理する方法などがあります。たとえば新宿区は、無償使用承諾、寄附、自主管理で所有権や管理主体が異なることを案内しています。

寄附には、分筆、抵当権(住宅ローンなどの担保として登記された権利)を消す手続き、境界確認などの条件が付く場合があります。無償使用にも対象の要件があります。売却前に利用するなら、申請の時期、対象工事、助成の対象、売買後に制度を引き継げるかまで、所在地の制度を調べます。

固定資産税等が自動で非課税になるわけではない

地方税法は、公共の用に供する道路を固定資産税の非課税対象としています。都市計画税も、この非課税に連動する規定があります。ただし、物理的に後退しただけで自動的に非課税になるとは限りません。

東京都は、23区内で道路として利用される土地について、利用上の制約なく不特定多数が利用していることなどを要件とし、原則として申告と現地確認が必要と案内しています。実際の利用状況、申告方法、適用時期は自治体の資産税担当ごとに異なるため、所在地の資産税担当へ確認してください。

広告と契約では、確定・未確認・条件を混ぜない

危ないのは、未確認の項目が残ること自体ではありません。概算を確定値として扱うことです。説明はしていても、後退線や面積が後で変われば、そこがトラブルの起点になります。

不動産公正取引協議会の表示規約施行規則では、42条2項道路に接し、セットバックを要する物件はその旨を表示します。その面積が土地面積(正味面積)のおおむね10%以上なら、おおむねの面積も表示する扱いです。この規約を守る宅地建物取引業者等は、10%未満でも「セットバック要」の表示が必要です。売買の判断に関わる条件は、広告・重要事項説明・契約で整合させます。

宅地建物取引業者が行う重要事項説明では、建築基準法等による制限や私道負担が説明対象です。私道負担とは、敷地の一部を私道として持つことや、その維持費などを負担することです。国土交通省の様式にも、敷地と道路の関係、私道負担の面積・費用、後退部分を除いた建ぺい率・容積率の算定に関わる欄があります。

概算を確定値として扱わないため、3列に分ける

確定している事実 未確認の事項 売買契約で決める条件
道路種別、根拠資料、確認日 基準時の中心線の最終協議 誰がいつ確認し、結果が変わった場合どうするか
いまの道幅、道路に接する長さ 確定後退面積、境界の立会い 実測差が出た場合の代金精算
後退線内の建物・塀・設備 撤去・移設の追加工事 売主・買主の範囲、上限、期限
後退部分のいまの登記名義 分筆・寄附・無償使用の可否 所有・管理をどの状態で引き渡すか
いまの課税明細 非課税要件への適合 申告を誰が行うか、適用は保証しないこと
過去の建築確認資料の有無 買主の計画に対する建築確認・融資 特定の建物や融資の承認は保証しないこと

紛争を防ぐため、売主は知っている範囲を物件状況確認書などへ記載し、根拠資料を不動産会社へ渡します。これは、宅地建物取引業者が負う重要事項説明等の義務とは別の、望ましい実務対応です。

「セットバックあり」「現況有姿(いまの状態のまま引き渡すこと)」だけでは、負担の境目が伝わりません。契約書、重要事項説明書、物件状況確認書、添付図面など取引書類の全体で、次の4組をそろえます。

  • 道路種別、いまの道幅、中心線、後退線、後退面積と、その根拠
  • 後退部分に残っている物、所有、分筆、寄附、無償使用、管理、課税の現状
  • 売主と買主が行う作業、費用、期限、完了確認の方法
  • 条件を満たせない場合の代金調整・解除と、建築計画や融資は保証しないこと

引き渡した土地の道路種別、後退範囲、権利・負担が契約の内容と違えば、売主が負う契約不適合責任が問題になる可能性があります。不動産会社が重要事項を誤って説明した場合や、知っている事実を故意に伝えなかった場合は、宅地建物取引業法上の責任も別に問題になります。売主の責任を免除する特約(免責特約)を設けても、売主が知りながら伝えなかった事実まで、当然に責任を免れるわけではありません。個別の契約条項は不動産会社の宅建士へ確認し、紛争のおそれがある場合は弁護士へ相談してください。

売却の相談先は、会社名より「出てくる資料」で選ぶ

ここで比べるのは、査定額の高さではありません。「なぜその価格になるのか」を資料で説明できる会社かどうかです。「セットバックに詳しいです」という言葉だけでは、どこまで調べる会社か分かりません。査定を依頼したら、誰が作ったどの資料まで出てくるかを見ます。

確認する成果物 主な作成・確認者 見るポイント
道路判定の根拠資料 特定行政庁が判定、不動産会社が資料化 指定道路図・調書の写し、照会日、部署があるか
現況図と後退後の図面 土地家屋調査士・建築士、必要に応じ自治体 いまの境界、基準時の中心線、後退線、残っている物を分けているか
面積表 土地家屋調査士 登記、実測、後退部分、有効敷地を混同していないか
2条件の査定 不動産会社 現況での引渡しと、売主が処理した後の価格・期間を分けているか
費用表 各工事・設備事業者、不動産会社が集約 測量、分筆、撤去、移設、整備、保有費と負担者が分かるか
契約条件案 宅建士、必要に応じ弁護士 作業、期限、未達時の処理を文章にできるか

査定額が最も高い会社を選ぶ前に、その金額が「後退線が決まっていない現況の価格」なのか、「売主が工事を終えた後の想定価格」なのかを聞きます。前提が違えば、金額の高さだけでは判断できません。

複数社へ相談するときは、同じセットバック確認シートを渡し、次の2点を依頼してください。

  1. 現況のまま引き渡す場合の成約見込み価格と期間
  2. 売主が指定した作業を終えた場合の成約見込み価格と期間

その差から売主負担の費用と保有費を引けば、先に処理する価値があるかどうかが見えます。道路資料を確認せず、その場で一律の値下げ率や工事額を示す会社には、数字の根拠を尋ねましょう。

同じ条件で査定を比べる

リビンマッチの不動産売却一括査定では、一度の入力で最大6社へ無料で査定を依頼できます。紹介される会社数は、地域や物件条件などで異なります。申込み後は、選択した不動産会社から連絡が入ります。

申込画面とプライバシーポリシーで、入力した物件情報・個人情報の提供先を確認してください。そのうえでセットバック確認シートを各社へ渡し、同じ条件で比べます。セットバック実務への対応や、査定額での売却を保証するサービスではありません。

売出しを始めてよい状態を3段階で確かめる

調査を続ければ、資料はいくらでも増えます。必要なのは資料の枚数ではなく、売出しを始めてよいかを判断できることです。次の3段階を完了条件にします。

段階 売出しを始めてよい状態 まだ進めないこと
1.道路と後退線 道路種別、根拠資料、基準時の中心線が確認済み、または未確認の範囲を示せる 再建築できると断定しない
2.価格と作業 現況と、売主が処理した後の査定、必要工事の見積もりが同じ前提でそろう 手取りを比べる前に、解体・撤去・舗装を発注しない
3.広告と契約 確定・概算・未確認、売主と買主の負担、期限、未達時の処理が書面になる 「セットバックあり」「現況有姿」だけで売り出さない

倒壊や崩落のおそれ、行政の指導など緊急性がある場合は、売却の順番より安全の確保を優先し、自治体や建築士へ相談してください。

セットバックと家の売却でよくある質問

向かい側がすでに後退していれば、自分の土地は下がらなくてよいですか?

いいえ。向かい側が後退済みでも、自分の側の後退が不要とは限りません。原則の基準は、いま見える道路の中心ではなく、基準時の中心線です。向かい側だけが先に後退していると、舗装された範囲の中心がずれて見えます。過去の道路資料と自治体照会で、自分の側の後退線を確認してください。

反対側に川、崖地、線路敷、水路などがある場合も、機械的に片側4mと決めず、所在地の扱いを確認します。

セットバック部分を駐車場や物置に使えますか?

将来の道路とみなされる部分を、恒常的な駐車や物置など、道路としての利用を妨げる形で使えると考えないほうが安全です。建築基準法44条が直接規制する対象と、自治体の条例・整備制度・税の非課税要件が扱う対象は同じではありません。

具体的な植栽、動かせる物、駐車、段差の扱いは自治体ごとに確認し、売却の広告や契約で「利用できる」と約束しないようにします。

セットバックが必要だと住宅ローンは使えませんか?

セットバックが必要という事実だけで、住宅ローンの利用可否は決まりません。利用できる条件や必要書類は、商品と金融機関ごとに個別の確認になります。

中古住宅としてフラット35を利用する場合の技術基準では、住宅の敷地が原則として一般の交通の用に供する道へ2m以上接することが確認項目に含まれます。ほかの商品を含む担保審査の条件は金融機関ごとに異なるため、道路資料、後退後の図面、建築確認資料を示して個別に確認してください。

更地にしてから売った方がよいですか?

道路種別、後退線、後退後にどの程度の建物を建てられるかが分かるまでは、売却のためだけに解体を先行しないほうがよいでしょう。解体後に接道や建築上の別の問題が分かっても、家を元には戻せません。

建物の安全上の問題がある場合は例外です。倒壊、崩落、火災などの危険があるときは、自治体や建築士へ連絡し、安全対策を優先してください。

まとめ|工事の前に、後退線と負担の境目を決める

セットバック未実施の家でも、原則として現況のまま売却できます。最初に行うのは工事ではなく、道路種別、基準時の中心線、後退面積、後退線内に残っている物、所有・管理の確認です。

確認結果をセットバック確認シートへまとめ、現況での売却と、売主が処理した後の査定を同じ条件で比べてください。売主が行う作業と買主へ引き継ぐ作業が見えれば、価格の差だけでなく、手取りと時間、残るリスクで判断できます。

道路の扱いと後退線が固まるまでは、売却のためだけに解体や擁壁の撤去、設備の移設、舗装を発注しない。これが、余計な費用と契約トラブルを避ける最初の停止線です。

主要な根拠資料

確認日:2026年7月24日

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