- 擁壁に危険な兆候があるときの相談先
- 検査済証などの書類が見つからない場合の確認順
- 擁壁の情報を整理し、同じ条件で査定を比べる方法
- 現況仲介・工事後の仲介・直接買取を、手取りと契約条件で選ぶ方法
擁壁のある家は、ひび割れがある、高さが2mを超える、検査済証が見つからないといった事情があっても、直ちに売却できなくなるわけではありません。ただし、擁壁は土地を支える構造物なので、見た目だけで安全性や工事の要否を判断することはできません。
まず、傾き、膨らみ、土砂の流出など、緊急性の高い兆候がないかを安全な場所から確認します。問題がなければ、所有者と境界、許可・検査の記録、現在の状態を整理し、確認できた事実と未確認の事項を分けて不動産会社へ伝えます。
工事を先に決める必要はありません。安全確認、権利・記録の確認、査定、3つの売り方の比較、告知・契約の順で進め、売却価格ではなく、費用を差し引いた手取りと契約条件で判断します。
敷地内または境界付近に擁壁がある中古戸建ての売却を想定しています。傾きや膨らみ、地盤の亀裂、土砂の流出などが見られる場合は、売却準備より安全確保を優先し、自治体と擁壁の調査経験がある専門家へ相談してください。
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擁壁付き中古戸建ての売却は、状況7パターンで最初にやることが変わる
買主は「擁壁があるかどうか」だけを見ているわけではありません。気にしているのは、誰が管理するのか、造ったときにどのような手続きを踏んだのか、いまどのような状態か、買ったあとにどれだけの費用と制約を引き受けるのか。この4点です。
この4点をどこまで答えられるかは、擁壁の状況によって変わります。当てはまる行から読んでください。
| 現在の状況 | 最初にすること | 査定・比較へ進む時点 |
|---|---|---|
| 新しいひび割れ、膨らみ、傾き、地盤の沈下が見られる | 人を近づけず、自治体の防災・宅地造成を扱う窓口と、擁壁の調査経験がある専門家へ相談する | 緊急性と必要な応急対応を確認してから |
| 所有者や境界がわからない | 登記事項、確定測量図、境界標、過去の合意書を確認する | 管理・工事・説明を誰が担うのか整理できてから |
| 許可図面や検査済証がある | 現在の擁壁と、位置・高さ・構造が一致するか確かめる | 図面と現況を照合してから |
| 書類が見つからない | 自治体に記録の有無と閲覧・証明の方法を確認する | 違法と決めつけず、確認できた範囲を整理してから |
| 変状は目立たず、書類と現況がそろっている | 売却査定と、必要に応じた専門家の確認を進める | 3つの売却方法を比べられる |
| 補修・造り替えの見積もりがある | 工事後と現況で、成約予想価格・手取り・期間を比べる | 工事を契約する前に |
| 売却期限が迫り、調査や工事に時間をかけにくい | 現況仲介と直接買取の条件を同時に取る | 最低限の安全確認と事実整理のあと |
擁壁の書類の有無と、いまの安全性は別々に確かめる
書類がそろっていれば安心、なければ危険。このようには決められません。許可や検査の記録が残っていても、その後の劣化や改変まではわかりません。逆に、記録が見つからないという理由だけで、擁壁がいま危険とも違法とも決まらないからです。書類と状態は、次の表のように分けて整理します。
| 書類の状況 | 目立つ変状がない | 警戒すべき変状がある |
|---|---|---|
| 許可図面・検査記録がある | 図面と現在の位置・高さ・構造を照らし合わせ、売り方を比べる | 書類があっても安全とは限らない まず専門家に現状を見てもらう |
| 書類が見つからない | 自治体に記録を照会し、未確認の事項を書き出す | 安全確保と専門家への相談を優先しつつ、自治体への記録照会も進める |
査定は、擁壁に関する確認をすべて終えてからでなくても頼めます。むしろ工事を契約する前に、工事で売却価格がどれだけ上がる見込みか、調査・設計・工事にいくらかかるか、売れるまで家を持ち続ける費用がいくらかを並べたほうが、手取りで判断できます。
売却前の目標は、不安をゼロにすることではありません。危険を見落とさず、わかっていることと未確認のことを分けて、買主が判断できる材料を示すことです。
\ 擁壁の工事を決める前に、まず今の価格を /
擁壁のひび割れは、売却の準備より先に緊急対応が必要な兆候を確かめる
ひびが1本あるから違法、倒壊寸前、全面的な造り直しが必要。そこまでは判断できません。かといって、細いひびなら安全というわけでもありません。ひび割れは、ほかの症状と合わせて確認する手がかりです。
国土交通省の「我が家の擁壁チェックシート」と「宅地擁壁の健全度判定・予防保全対策マニュアル」も、ひび割れだけでなく、傾き、膨らみ、ずれ、地盤、排水などを組み合わせて確認する考え方をとっています。
擁壁のひび割れは幅だけで判断せず、傾き・膨らみ・水の出方も見る
安全な場所から、次の点を確認してください。
- ひび割れが以前より長く、太く、深くなっていないか
- ひびの両側に段差やずれがないか
- 擁壁全体が傾いたり、前へ膨らんだりしていないか
- 擁壁の上や下の地面に、沈下、隆起、亀裂がないか
- 石やコンクリート片が浮いたり、剥がれたり、落ちたりしていないか
- 擁壁の下から土が流れ出していないか
- 水抜き穴が土や植物でふさがっていないか
- 晴れた日でも湿っている、面や継ぎ目から水や濁った水がにじむ、といったことはないか
- 擁壁に近い建物で、床の傾きや、基礎・外壁の新しい亀裂が出ていないか
- 豪雨や地震のあとに、急な変化がなかったか
- 上への継ぎ足し、斜面途中の二段擁壁など、後から手を加えた跡がないか
膨らみや傾き、地盤の沈下、部材の落下、土砂の流出が見られるとき、または変状が短期間で広がっているときは、擁壁の上下に近づかず、人や車が入らないようにしてください。
そのうえで、市区町村の防災・建築・開発・宅地造成を扱う窓口と、擁壁の調査経験がある建築士や土木系技術者へ相談します。豪雨や地震のあとは、以前と見た目が変わっていないように見えても、離れた安全な場所から再確認してください。
表面のひびを埋めると、変化を追う手がかりが隠れることがあります。新たな水抜き穴を自己判断で開ければ、排水や構造へ影響するおそれもあります。緊急性や原因がわからないうちは、補修方法を専門家へ確認してください。
擁壁の写真は同じ位置・角度で撮り、変化を追える記録にする
安全な場所から、擁壁の全体と、ひび割れや傾きなどの変状部分を撮影します。危険な兆候がある場合は、撮影のために擁壁の上下へ近づかず、離れた場所からズームなどを使ってください。
日付、天候、撮影した位置、ひびの場所は、平面図や手書きの図に残します。安全に近づける場合に限り、定規など大きさのわかる物を一緒に写し、毎回同じ位置・角度から撮ると、調査する人が変化を追いやすくなります。
植栽、塀、物置、隣地の都合で見えない場所があるなら、「ひび割れなし」ではなく「確認できた範囲では見当たらない」と書きます。この書き分けが、あとで告知書や契約書の記載を支えます。
高さ2m超の擁壁と不適格擁壁は、同じ意味ではない
2mを超えるという事実は、法令上の手続きを調べるきっかけになります。
ただし、それだけで危険とも違法とも決まりません。
高さが2mを超える擁壁を新たに築造する場合、原則として、建築基準法上の工作物として確認申請と完了検査の対象になります。
根拠は建築基準法88条1項と建築基準法施行令138条1項5号です。ただし、盛土規制法、都市計画法などの許可・検査の対象となる擁壁では、安全性の審査と工事完了の検査が重複しないよう、建築基準法88条4項による手続きの調整があります。どの手続きを使うかは、工事内容と物件所在地の制度を自治体へ確認してください。
すでに建っている擁壁が2mを超えているというだけで、いまあらためて確認申請が必要になったり、直ちに違法になったりするわけではありません。造った時期、当時必要だった手続き、その後の増積みや造り替えの有無を調べます。
条文は「2m以上」ではなく「2mを超える」と定めています。ちょうど2mなら、この号の高さ要件には入りません。とはいえ、2m以下なら規制がなく、安全だという意味でもありません。造成の内容、規制区域、自治体の条例、建物と崖の位置関係によっては、別の許可や安全措置が必要になります。
高さをどこからどこまで測るかにも定めがあります。盛土規制法施行令1条4項では、擁壁前面の上端と、前面の下部が地盤面に接する部分との垂直距離を、擁壁の高さとしています。ただし、この定義だけで建築基準法や自治体条例上の扱いまで決まるわけではありません。
二段擁壁、上への継ぎ足し、斜面の途中にある擁壁は、測り方も、どこまでを一体とみなすかも自己判断できません。図面と現況の写真を持って、市区町村の建築指導や宅地造成を扱う窓口へ相談してください。自分で測る場合も、安全な場所から測れるおおよその値にとどめ、「概算」と明記します。擁壁の下へ降りたり、脚立へ乗ったりしてはいけません。
違法擁壁・既存不適格・不適格擁壁・確認不能を、売却前に区別する
同じ「不適格」という言葉でも、法令上の扱いなのか、安全性を評価する技術上の区分なのかで、次にすることは変わります。
| 状態 | 意味 | 売却前に確認すること |
|---|---|---|
| 法令違反の可能性 | 造った当時に必要だった手続きを経ていない、または当時の基準に合っていない可能性がある | 当時の法令、許可・確認記録、図面、自治体に確認した結果 |
| 既存不適格 | 造った当時は法令に適合していたが、その後の法改正などで現在の基準に合わなくなった | 造った時期と当時の法令への適合、増改築・建て替え時の扱い |
| マニュアル上の「いわゆる不適格擁壁」 | 国土交通省の安全性評価資料で、注意を要する構造として扱われる擁壁 | 構造、変状、排水、地盤条件、専門家の評価 |
| 確認不能 | 記録、図面、現在の状態に関する情報が足りず、法令への適合や安全性を判断できない | 追加で探す記録、現地調査の範囲、未確認の事項 |
国土交通省の宅地擁壁に関する資料には、「いわゆる不適格擁壁」という区分があります。
石をモルタルなどで固めずに積んだ「空石積み」、上へ継ぎ足した「増積み」、斜面の途中で上下に分かれた「二段擁壁」、建物の床などが張り出す「張り出し床版付き擁壁」などです。これは安全性を評価するための技術上の呼び方で、法律でいう「既存不適格」とは別のものです。
これらの構造は、国土交通省の一般向けチェックシートによる通常の簡易判定には適しません。目立つ変状がなくても、自分だけで安全と決めず、擁壁の調査経験がある専門家へ相談してください。
売却時に調べるのは、造った当時の手続きと基準、いまの形状と状態、後から加えられた工事の3つです。これらを混ぜると、どこまで確認できていて、何が未確認なのかを買主へ説明できなくなります。
盛土規制法の許可が必要かは、擁壁の高さだけで決まらない
宅地造成及び特定盛土等規制法、いわゆる盛土規制法は、2023年5月26日に施行されました。
都道府県知事などが規制区域を指定し、区域内で一定規模を超えて土を盛る工事(盛土)、地面を削る工事(切土)、土石を一時的に堆積する行為などを許可・届出の対象とします。許可が必要かどうかは、区域、盛土・切土の高さ、崖が生じるか、施工面積などで決まります。「2m超の擁壁なら必ず盛土規制法の許可対象」とは限りません。
規制区域に指定された土地でも、盛土・切土や擁壁などの工事をしない限り、指定されたという理由だけで新たな申請が必要になるわけではありません。一方、規制区域内で対象規模の工事をする場合は、あらかじめ許可などが必要です。
規制区域内の土地の所有者、管理者、占有者には、盛土等を常時安全な状態に維持する努力義務があります。行政による勧告のほか、擁壁が設置されていない、または著しく不完全で災害発生のおそれが大きいなど、法律で定める条件に当てはまる場合は、改善命令の対象になり得ます。ひび割れを一つ見つけただけで、直ちに全面改修を命じられるという意味ではありません。
制度の概要と区域指定は、国土交通省や各自治体の盛土規制法に関するページで確認できます。区域の指定状況や条例による規制対象規模は変わるため、最終的には物件所在地の窓口で確かめてください。
擁壁の所有者と境界は、上の土地・下の土地の位置だけでは決まらない
高い側の土地にあるから高い側の所有者。低い側の土地を守っているから低い側の所有者。どちらも見た目からの推測にすぎません。
所有と管理の手がかりは、登記と測量の資料、分譲時と工事時の書類、隣地とのやり取りの記録に分かれます。
- 土地の登記事項証明書、公図、地積測量図
- 確定測量図、境界確認書、境界標
- 分譲時の図面、売買契約書、重要事項説明書
- 隣地所有者との工事・管理・費用負担に関する合意書
- 擁壁の許可図面、設計図、工事請負契約書、領収書
- 過去の補修記録や近隣とのやり取り
ただし、登記事項証明書、公図、地積測量図などを個別に見るだけでは、擁壁の面が境界のどちら側にあるのか、地中の基礎が境界を越えていないかまで判断できないことがあります。境界がはっきりしないなら土地家屋調査士へ、所有や費用負担で意見が食い違うなら弁護士へ相談してください。
隣地の擁壁に見えても、売る敷地の安全や建て替えに影響することはあります。逆に、自分の土地にあるように見えても、隣地所有者の合意なしに工事できるとは限りません。査定の前に、確認できている所有関係と、まだわからない部分を不動産会社へ伝えてください。
\ 所有関係が未確定でも査定は頼めます /
査定前にそろえる擁壁カルテと自治体の記録
A社には写真だけ、B社には図面も渡す。これでは、査定額を並べても同じ条件で比べたことになりません。
擁壁の情報を1枚にまとめ、どの会社にも同じものを渡します。
ここでは、この資料を「擁壁カルテ」と呼びます。
コピーして使える擁壁カルテ13項目
| 項目 | 記入する内容 |
|---|---|
| 擁壁の場所 | 敷地の北側、道路側など 平面図や写真に番号を付ける |
| 所有・境界 | 自己所有、隣地所有、共有、不明 根拠になる資料も書く |
| 土地の位置 | 擁壁の高い側、低い側、両方に接する |
| 高さ・長さ | 誰が、どこからどこまで測ったか 自分で測ったなら「概算」と明記 |
| 構造・形 | 鉄筋コンクリート、間知石・ブロック積み、空石積みなど わからなければ「不明」 |
| 造った時期・変更した時期 | 新築時、造成時、継ぎ足し(増積み)や補修の時期 推定なら、その根拠も書く |
| 許可・確認・検査 | 手続きの名称、番号、年月日、資料の取得先 |
| 図面との一致 | 位置、高さ、形が現況と一致するか 確認した人と、未確認の部分 |
| 現在の変状 | ひび、傾き、膨らみ、ずれ、表面のはがれ(剥離)、地盤の沈下など |
| 排水 | 水抜き穴の有無と詰まり、にじみ、排水先 確認できない部分も書く |
| 点検・工事履歴 | 調査者、日付、結果、補修内容、保証、再発の有無 |
| 自治体からの指摘 | 勧告、命令、改善に関する相談の有無と書面 |
| 添付資料 | 全景・近景写真、図面、許可記録、報告書、見積書 |
高さや構造を自分で断定できないなら、空欄にせず「概算」「不明」と書きます。どこが未確認なのかも、買主が価格や条件を考えるための情報になります。
すべてを一度にそろえる必要はありません。優先するのは、所有・境界の根拠、許可・確認・検査の記録、いまの変状の記録の3つです。足りない資料は「未確認」として残しておきます。
擁壁の検査済証・許可図面は、自宅・関係者・自治体の順に探す
まず、自宅に保管している売買・建築・相続の資料を探します。次に、以前の所有者、分譲会社、設計者、施工会社へ確認します。それでも見つからなければ、物件所在地の自治体で、建築確認、開発許可、宅地造成・盛土規制を扱う窓口に、記録の有無と閲覧・証明の方法を尋ねます。
探すのは、確認・許可の記録、設計と施工の資料、点検と工事の履歴、区域指定の資料です。名称、保存期間、閲覧や証明の方法は自治体によって違います。
- 工作物の確認済証、検査済証
- 建築・工作物の計画概要書、確認台帳の記載事項証明
- 宅地造成または盛土規制法の許可・届出・検査資料
- 開発許可通知書、開発登録簿、土地利用計画図
- 擁壁の配置図、平面図、断面図、構造図、構造計算書
- 地盤調査資料、施工写真
- 点検報告書、補修・造り替えの見積書、工事記録、保証書
- 規制区域図、造成宅地防災区域、土砂災害警戒区域などの指定資料
確認済証や検査済証そのものを再発行しない自治体でも、台帳の記載事項証明や概要書、開発登録簿の写しなどを取得できることがあります。
たとえば横浜市では、宅地造成工事許可申請台帳記載証明書は1件300円、開発登録簿の写しはA2サイズまで図面1枚あたり470円です。建築計画概要書は昭和46年1月以降の物件を無料で閲覧でき、事前に利用申請をすればWeb閲覧もできます。
ただし、証明書の名称、対象年代、手数料、Webで確認できる範囲は自治体ごとに違います。擁壁の工作物確認記録と建物の確認記録で、窓口や取得できる資料が異なる場合もあります。
なお、敷地に許可の履歴があっても、目の前の擁壁がその許可に含まれ、図面どおりに造られているとは限りません。許可図面に対象の擁壁が含まれているか、位置・高さ・構造が現況と合うかまで照らし合わせます。
\ 擁壁カルテがそろったら、次は査定 /
擁壁の調査と相談は、目的別に自治体・建築士・土地家屋調査士へ分ける
不動産会社は売り方と価格の専門家です。ただし、擁壁が法令上の手続きや基準を満たしているか、構造として安全かまで判断できるとは限りません。
逆に、技術者に擁壁を調べてもらっても、実際の成約価格や販売期間が決まるわけではありません。聞く相手は、確かめたい内容で分けます。
| 確認したいこと | 主な相談先 | 依頼時に伝えること |
|---|---|---|
| 許可・確認・検査記録、規制区域、自治体からの指導 | 市区町村・都道府県の建築、開発、盛土規制の窓口 | 所在地、擁壁の位置、おおよその高さ、造った時期、手元の図面 |
| 構造、劣化、排水、変状の原因、調査の限界 | 擁壁の調査経験がある建築士、土木系技術者、専門事業者 | 変状の記録、図面、施工・補修履歴、豪雨・地震後の変化 |
| 境界、境界を越えた部分(越境)、擁壁の位置 | 土地家屋調査士 | 測量図、境界標、隣地との合意書、現在の写真 |
| 成約予想価格、販売期間、買主層、売り方 | 擁壁付き物件の取引経験がある不動産会社 | 擁壁カルテと同じ資料一式 |
| 所有・費用負担・契約責任の争い | 不動産取引に詳しい弁護士 | 契約書、告知書、調査結果、隣地・行政とのやり取りの記録 |
「ホームインスペクション(住宅診断)」という名称でも、擁壁が標準の調査範囲に含まれるとは限りません。擁壁の目視確認がオプション扱いになる調査もあります。擁壁のどこまでを見るのか、見えない部分をどう扱うのか、構造計算をするのか、法令上の手続きや基準まで確認するのかを、依頼前に書面で確かめてください。
資格名だけで選ばず、擁壁・地盤の調査実績、報告書の見本、調査の限界も確認します。調査報告書には、結論だけでなく、調べた範囲と調べられなかった範囲、判断に使った資料、追加調査が必要になる条件まで書いてもらいます。そのまま「どこまでわかっているか」の説明資料として買主へ示せるからです。
擁壁付きの土地は、建て替え条件と住宅ローン審査で買主が絞られる
いま家が建っているからといって、同じ位置・同じ大きさで建て替えられるとは限りません。
建て替え(再建築)では、擁壁の状態に加えて、自治体のがけ条例、建物の位置、必要な安全措置があらためて検討されます。建築基準法19条4項も、崖崩れなどによる被害のおそれがある場合に、擁壁の設置その他の安全措置を求めています。
売主が建て替えの案まで固める必要はありません。ただし、査定を頼む不動産会社には、「既存の家をそのまま使う買主」と「建て替える買主」で、想定する買主層がどう変わるのか、何がまだわからないのかを聞いてください。
必要であれば、図面と現況を自治体や建築士に示し、再建築の際に擁壁の補修・造り替え、建物位置の変更、追加の安全措置を求められる可能性があるかを確かめます。ただし、具体的な建築計画がない段階では、確定的な回答を得られないこともあります。
住宅ローンを借りられるかどうかは、金融機関が物件と借入希望者を個別に審査して決めます。擁壁の書類や安全性がはっきりしないと、担保評価や建て替えの見通しを判断しにくくなり、候補になる金融機関や買主が絞られることがあります。
とはいえ、「擁壁があるから融資不可」とも、「調査報告書があれば必ず融資可能」とも言えません。査定時には、不動産会社へ過去の取引で買主がどのような資料を求められたかを聞き、買主には早めに金融機関へ相談してもらいます。
\ 擁壁の情報を伝えて、複数社の見方を比較 /
擁壁のある家の売却価格は、買主が見込む追加負担で決まる
「擁壁がある家は相場の何割下がる」という全国共通の目安はありません。法令上の手続きや基準、安全性、工事の要否、土地の使い方、買主の融資、地域の需要によって変わります。
買主は、家の価格だけを見ているわけではありません。買ったあとの総負担で考えます。価格の考え方を整理するための式にすると、次のようになります。
これは法令や業界で決められた査定式ではなく、価格が下がる理由を整理するための考え方です。
図面も調査結果もなく、追加の負担が見えないほど、買主は想定外の費用を厚めに見込み、価格を低く判断しやすくなります。図面、現在の状態、専門家の見解、工事の見積もりがそろえば、必要な費用を具体的に検討できます。ただし、資料をそろえれば必ず高く売れる、住宅ローンが必ず通るという保証はありません。
補修や造り替えが必要な場合も、工事費をそのまま売却価格から引けば済むとは限りません。買主は、工事中に敷地を使えない期間、建物配置への影響、隣地との協議、仮設工事、設計・申請、自分が持つ予備費まで見込むからです。
\ あなたの家は、いくらで売れる? /
擁壁工事を契約する前に、3つの売却方法を手取りで比べる
売却価格が上がっても、手取りまで増えるとは限りません。
調査・設計・工事の費用に加えて、工事や販売を待つ間にも、固定資産税、保険料、光熱費など家を持ち続ける費用(保有コスト)がかかるからです。
比べる相手は3つです。調査後に現況のまま仲介する、補修・造り替えのあとに仲介する、不動産会社へ直接売る。表にある「契約不適合責任」とは、引き渡した土地・建物が契約で合意した内容と違っていた場合に、売主が負う責任のことです。
| 売却方法 | この方法が合う状況 | 主な利点 | 契約前の確認点 |
|---|---|---|---|
| 調査後、現況のまま仲介 | 状態と費用の目安を開示でき、工事費を先に負担したくない | 買主の計画に合わせて工事を任せられる | 成約予想価格 買主負担の範囲 融資・建て替え条件 売主の責任 |
| 補修・造り替え後に仲介 | 工事内容が固まり、価格の上昇が工事費と期間の負担を上回る見込みがある | 買主が検討する不確実性を減らせる可能性がある | 追加工事 近隣協議 完了書類 価格の下振れ 工期の延長 |
| 不動産会社の直接買取 | 期限を優先し、一般の買主を探す期間や工事の不確実性を抑えたい | 条件が合えば日程を組みやすい | 価格が確定する時点 再調査による減額条件 費用負担 売却後の責任 |
どの方法を選ぶ場合も、把握しているひび割れ、自治体からの指摘、調査結果、許可・確認・検査記録の確認状況は、不動産会社へ正確に伝えます。とくに買主の判断や契約条件に関わる情報は省けません。
現況仲介・工事後の仲介・買取を比べる14項目の記入シート
確認できない金額を0円にしないでください。「不明」と書きます。幅のある金額は、低いほうと高いほうの両方で計算します。
| 比較項目 | 工事後に仲介 | 調査後に現況仲介 | 不動産会社が直接買取 |
|---|---|---|---|
| 成約予想価格・買取価格 | [ ]万円 | [ ]万円 | [ ]万円 |
| 価格の根拠 | [ ] | [ ] | [ ] |
| 調査・設計・申請費 | [ ]万円 | [ ]万円 | [ ]万円 |
| 工事費・予備費 | [ ]万円 | [ ]万円 | [ ]万円 |
| 売却関連費用 | [ ]万円 | [ ]万円 | [ ]万円 |
| 月額保有コスト×月数 | [ ]万円 | [ ]万円 | [ ]万円 |
| 住宅ローン残債 | [ ]万円 | [ ]万円 | [ ]万円 |
| ローン返済後・税引前の概算手取り | [ ]万円 | [ ]万円 | [ ]万円 |
| 査定から代金受領・引き渡し(決済)までの想定期間 | [ ] | [ ] | [ ] |
| 価格が確定する時点 | [ ] | [ ] | [ ] |
| 契約後に価格が変わる条件 | [ ] | [ ] | [ ] |
| 売主が負う契約不適合責任 | 対象[ ]・期間[ ] | 対象[ ]・期間[ ] | 対象[ ]・期間[ ] |
| 売主が先に用意する資金 | [ ]万円 | [ ]万円 | [ ]万円 |
| 未調査・未確定の事項 | [ ] | [ ] | [ ] |
計算式は次のとおりです。
なお、仲介の査定額は、その価格で売れることを保証するものではありません。「広告に出す売出価格」だけでなく、「成約予想価格」「想定販売期間」「その根拠」を分けて出してもらってください。
仮想例:擁壁工事後に仲介すると手取りが204万円減るケース
次の数字は計算方法を示すための仮想例で、擁壁の工事費、売却相場、標準的な販売期間を示すものではありません。金額は1万円単位で、売却益にかかる税金(譲渡所得税など)は含めていません。
仮定した条件は4つです。
- 工事後に仲介する案だけ、工事費550万円と予備費80万円を計上する
- 保有コストは、工事後の仲介が月4万円×12カ月、現況仲介が月4万円×6カ月、直接買取が月3万円×1カ月と仮定する
- 売却関連費用は、仲介手数料、印紙、登記関係費用などをまとめた仮定で、直接買取は仲介会社を介さない想定とする
- 測量、解体、転居、繰上返済など、表にない費用は含めない
実際の計算では、調査・工事の見積書と不動産会社の費用明細を使い、自分の物件で発生する費用を足してください。直接買取でも、別の仲介会社を通す契約なら仲介手数料がかかることがあります。
| 比較項目 | 工事後に仲介 | 調査後に現況仲介 | 不動産会社が直接買取 |
|---|---|---|---|
| 成約予想価格・買取価格 | 3,000 | 2,500 | 2,050 |
| 調査・設計・申請費 | 60 | 25 | 10 |
| 工事費 | 550 | 0 | 0 |
| 工事予備費 | 80 | 0 | 0 |
| 売却関連費用 | 110 | 95 | 10 |
| 売却までの保有コスト | 48 | 24 | 3 |
| 住宅ローン残債 | 900 | 900 | 900 |
| ローン返済後・税引前の概算手取り | 1,252 | 1,456 | 1,127 |
この例では、工事後の成約予想価格が現況仲介より500万円高いのに、ローン返済後・税引前の概算手取りは204万円少なくなります。価格の上乗せ分より、調査・工事・予備費と保有コストの増加分のほうが大きいからです。
直接買取は、この例では手取りが最も少なくなりました。それでも、販売や工事にかかる期間を短くしたい売主には合うことがあります。実際の判断では、価格だけでなく、追加費用の上限、期限、契約後の減額条件、売却後の責任まで並べて比べます。
\ 工事を契約する前に、手取りで比べる /
擁壁の告知と契約不適合責任は、事実と未確認事項を分けて扱う
手を加えず、いまの状態で引き渡す「現状有姿」と書いても、それだけで売主の契約不適合責任がなくなるわけではありません。
引き渡した家や土地が契約で合意した内容と合っていなければ、買主は条件に応じて、修理などの対応(追完)、代金の減額、損害賠償、契約の解除を求められる場合があります。根拠となるのは、民法562条から564条などです。
民法566条は、種類・品質に関する契約不適合について、原則として買主が不適合を知った時から1年以内に売主へ通知するよう定めています。この1年は、権利そのものを行使する期限ではなく、売主へ不適合を通知する期限です。
ただし、引き渡しの時に売主が不適合を知っていた場合、または重大な過失によって知らなかった場合は、この通知期間の制限が適用されません。さらに民法572条は、売主が知りながら告げなかった事実について、責任を免除する特約があっても責任を免れないと定めています。
実際にどこまで責任を負うかは、売主と買主の属性、契約内容、不適合の内容、告知や調査の経緯によって変わります。免責や責任期間について安易に定型文を使わず、必要に応じて弁護士へ確認してください。
重要事項説明は、宅地建物取引業法35条に基づいて宅地建物取引業者が行います。個人の売主がすべきことは、把握している変状、補修履歴、行政からの指摘、調査結果、書類の確認状況を仲介会社へ正確に伝えることです。
小さなひび割れがすべて同条の独立した説明事項になるわけではありませんが、買主の判断に関わる情報を、売主や仲介会社だけで「説明は不要」と決めないでください。
なお、売主が宅地建物取引業者で、買主が宅地建物取引業者ではない取引には、契約不適合責任の特約を制限する宅地建物取引業法40条があります。この記事が主に想定している個人売主の取引とは、扱いが異なります。
告知書に「問題なし」と「未確認」を混ぜない
告知書(物件状況報告書)や契約書へ反映してもらうため、次のようなメモを作ります。
| 項目 | 事実ベースの記載例 |
|---|---|
| ひび割れ | 2026年6月10日に道路側擁壁の中央部で確認 全景・近景写真あり |
| 変化 | 2026年6月10日と7月10日の写真を比較 目視では変化を判定できず、専門家は未確認 |
| 排水 | 水抜き穴は5カ所を確認 植栽の裏側と隣地側は確認できていない |
| 書類 | 1998年の工作物確認台帳に記録あり 検査済証と構造計算書は手元になく、自治体へ照会中 |
| 図面との一致 | 配置はおおむね一致 高さと上部のブロック部分は未照合 |
| 調査 | 2026年7月15日に目視調査 非破壊で、目視できる範囲のみ。報告書あり |
| 工事履歴 | 2015年ごろにひびを補修したと前所有者から聞いたが、工事資料はない |
| 自治体からの指摘 | 所有期間中に受けた記録はない それ以前の有無は未確認 |
この表は書き方の例で、実在する物件の情報ではありません。「問題はありません」「安全です」と売主の判断だけで書かず、誰が、いつ、どの範囲を調べたのかを添えます。
告知書は、技術者による安全性の保証書ではありません。調査していない内容を「問題なし」と書かず、「未確認」「目視できる範囲のみ」「専門家による判定なし」など、確認の限界を示します。
告知書で状況を伝えることと、契約不適合責任の範囲を契約で決めることは別の作業です。調査報告書、物件状況報告書、重要事項説明書、売買契約書。この4つで、擁壁の位置と状態、未確認部分、修繕の負担、契約不適合責任の書き方が食い違っていないか確認してください。
擁壁のある家の売却でよくある質問
よく聞かれる質問を7つ挙げます。当てはまるものから読んでください。
擁壁カルテをそろえてから、一括査定で不動産会社を比べる
一括査定を使わなくても、この記事の擁壁カルテと比較シートは使えます。まず事実をそろえ、どの会社にも同じ資料を渡せる状態にしてください。
本記事を掲載するリビンマッチは、リビン・テクノロジーズ株式会社が運営しています。運営会社のサービス概要によると、利用者は無料で、広告掲載企業が所定の成果に応じて費用を負担する仕組みです。不動産売却サービスでは、売却を検討する人の情報を不動産売買仲介会社へ提供しています。
仲介による売却案を比べたい場合は、不動産売却一括査定の仕組みや選び方を確認できます。実際に査定を申し込む前に、物件情報、擁壁カルテ、希望する売却時期を整理しておくと、各社へ同じ内容を伝えやすくなります。
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フォームで入力するのは、物件情報と利用者情報です。申込後は、査定結果や相談内容について不動産会社から連絡が入ります。紹介される会社数や対応範囲は、物件、地域、提携状況によって変わります。また、すべての会社が、擁壁の調査、工事後の仲介、現況仲介、直接買取のすべてに対応するわけではありません。
直接買取も検討する場合は、不動産買取一括査定の仕組みと注意点を確認できます。無料なのは査定サービスの利用料です。実際の売買にかかる税金、登記費用、契約で売主負担とした費用は別にかかります。
申し込みの前に、フォームに表示される個人情報の取り扱いと利用規約を確認してください。連絡方法、入力した情報の利用目的、情報が提供される相手まで読んでから申し込みます。
\ 買取・仲介への対応を各社に確認 /
不動産会社には、次の質問を各社へ同じ内容で聞きます。
- 擁壁付き物件の取引経験と、今回の査定で確認した資料は何か
- 現況と工事後の成約予想価格、それぞれの根拠は何か
- 買主の建て替えや融資について、何を未確認としているか
- 調査・工事・測量・解体の費用は誰が負担するか
- 価格が確定する時点と、その後に変わる条件は何か
- 擁壁の状態を広告、告知書、重要事項説明書、契約書へどう反映するか
- 売主の契約不適合責任を、何について、いつまで負う提案か
「問題ない」「買取なら責任はない」と口頭で言い切るだけで、確認した資料、調査範囲、価格の根拠、契約条項を示さない会社です。
擁壁のある家は、安全確認・擁壁カルテ・3つの売り方の比較の順で売る
擁壁のある家も売却できます。いきなり工事を契約せず、まず所有・境界、行政の記録、いまの状態を調べます。
傾き、膨らみ、地面の亀裂、土砂の流出などが見られる場合は、売却の準備をいったん止めてください。擁壁の上下に近づかず、自治体の防災・宅地造成の担当窓口と、擁壁の調査経験がある専門家へ相談します。
緊急性を確かめ、必要な専門調査を終えたら、造ったときの記録と、いまの状態を分けて擁壁カルテにまとめます。そのうえで同じ資料を各社へ渡し、現況仲介・工事後の仲介・直接買取を、手取り、期間、契約条件で比べて選びます。
ここまでそろえば、擁壁は「よくわからないもの」ではなく、確認済みの事実、未確認の事項、想定費用を分けて比較できる条件に変わります。
\ 1社だけで決めず、査定根拠と条件を比較 /
※本稿は2026年8月17日時点の公表資料をもとにした一般的な解説です。擁壁の安全性、法令上の扱い、必要な手続き、境界、売買契約、住宅ローンの審査は、物件の所在地、築造時期、構造、現況、契約内容によって変わります。危険な兆候がある場合は擁壁へ近づかず、自治体と擁壁の調査経験がある専門家へ相談してください。
出典
e-Gov法令検索「建築基準法」
e-Gov法令検索「建築基準法施行令」
e-Gov法令検索「宅地造成及び特定盛土等規制法」
e-Gov法令検索「宅地造成及び特定盛土等規制法施行令」
e-Gov法令検索「民法」
e-Gov法令検索「宅地建物取引業法」
国土交通省「宅地造成及び特定盛土等規制法について」
国土交通省「宅地擁壁について」
国土交通省「我が家の擁壁チェックシート(案)」
国土交通省「宅地擁壁の健全度判定・予防保全対策マニュアル」
国土交通省「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方 令和8年4月1日版」
横浜市「擁壁を作る場合、手続きが必要ですか」
横浜市「建築・開発に関する証明・閲覧について」
リビン・テクノロジーズ株式会社「サービス概要」
リビン・テクノロジーズ株式会社「リビンマッチが全国認知度・今後利用したい不動産査定サイト6年連続No.1」(公開日:2025年10月9日)

