MENU

擁壁のある家は売却できる|ひび割れ・2m超・不適格擁壁の確認手順

擁壁のある家も売却できます。ひび割れがある、高さが2mを超える、検査済証が見つからない。こうした事情があっても、それだけで売れなくなるわけではありません。

ただ、擁壁は外壁や内装とは事情が違います。高低差のある土地の土を支え、崩れるのを防ぐ構造物ですから、表面をきれいにしても安全性は変わりません。買主が知りたいのは見た目ではなく、この擁壁を引き継いだあとに、いくらかかり、何ができなくなるかです。そこが読めないままだと、価格交渉でも住宅ローンの審査でも不利に働きます。

そこで最初にすることは、擁壁を造り直すかどうかを決めることではありません。判断材料になる事実を、次の順にそろえることです。

STEP
緊急性を確かめる

安全な場所から、ひび割れ、傾き、膨らみ、水の出方を見ます。

STEP
所有者と境界を確認する

境界の資料と現地を突き合わせ、誰の所有で、誰が管理と工事を担うのかを確かめます。

STEP
自治体の記録と図面を探す

許可・確認・検査の記録、設計図、過去の工事資料を集めます。

STEP
図面と現在の状態を照らし合わせる

図面どおりの位置・高さ・構造になっているかを確かめます。判断がつかなければ、専門家に調査を頼みます。

STEP
3つの売り方を比べる

いまの状態のまま売る仲介(現況仲介)、工事後の仲介、直接買取を、手取り・期間・契約条件で比べます。

STEP
説明と契約の内容をそろえる

わかった事実と未確認の事項を不動産会社へ伝え、告知書と契約書の内容を一致させます。

書類でわかるのは「造ったとき」のことだけです。いまどうなっているかは、現地を見なければわかりません。許可の記録が残っていても、その後の劣化や造り替えまでは証明できません。逆に、古い書類が見つからなくても、それだけで違法とは決まりません。

この記事の対象

敷地内、または敷地の境界付近に擁壁がある中古戸建ての売却を想定しています。擁壁の設計や補強方法を自分で決めるための記事ではありません。ひび割れや傾きなどの変化(以下、変状)が進んでいる、崩落のおそれがある、自治体から勧告や命令を受けている。こうした場合は、売却の準備より安全の確保が先です。

目次

擁壁の状態を整理すれば、売却方法を比較できる

買主は「擁壁があるかどうか」を見ているわけではありません。気にしているのは、誰が管理するのか、造ったときにどんな手続きを踏んだのか、いまどんな状態か、そして買ったあとにどれだけの費用と制約を引き受けることになるのかです。

自分の家がどこに当てはまるか、次の表で確かめてください。

現在の状況最初にすること査定・比較へ進む時点
新しいひび割れ、膨らみ、傾き、地盤の沈下が見られる人を近づけず、自治体の担当窓口と擁壁に詳しい専門家へ相談する緊急性と応急対応を確認してから
所有者や境界がわからない登記事項、確定測量図、境界標、過去の合意書を確認する管理・工事・説明を誰が担うのか整理できてから
許可図面や検査済証がある現在の擁壁と、位置・高さ・構造が一致するか確かめる図面と現況を照合してから
書類が見つからない自治体に記録の有無と閲覧方法を確認する違法と決めつけず、確認できた範囲を整理してから
変状は目立たず、書類と現況がそろっている売却査定と、必要に応じた専門家の確認を進めるすぐに3つの売却方法を比べられる
補修・造り替えの見積もりがある工事後と現況で、成約予想価格・手取り・期間を比べる工事を契約する前に
売却期限が迫り、調査や工事に時間をかけにくい現況仲介と直接買取の条件を同時に取る最低限の安全確認と事実整理のあと
擁壁の現在の状況ごとに、最初にすることと査定へ進む時点を整理した表

書類と現在の安全性は、別々に確かめる

書類がそろっていれば安心、なければ危険。そう考えたくなりますが、この二つは別の話です。許可や検査の記録でわかるのは造ったときの手続きで、いまの安全性は現地を見なければ判断できません。書類と状態は、次のように分けて整理します。

書類の状況目立つ変状がない警戒すべき変状がある
許可図面・検査記録がある図面と現在の位置・高さ・構造を照らし合わせ、売り方を比べる書類があっても安全とは限らない。まず専門家に現状を見てもらう
書類が見つからない自治体に記録を照会し、未確認の事項を書き出す安全確保と専門家への相談を優先しつつ、自治体への記録照会も進める
書類の有無と現在の変状を分けて考えるための判断表

査定は、擁壁の問題を片づけてからでなくても頼めます。むしろ工事を契約する前に、工事で売却代金がどれだけ上がりそうか、調査・設計・工事にいくらかかるか、売れるまで家を持ち続ける費用がいくらかを並べたほうが、手取りで判断できます。

売却前の目標は、不安をゼロにすることではありません。危険を見落とさず、わかっていることと未確認のことを分けて、買主が自分で判断できる状態にすることです。

擁壁にひび割れがある家は、売却より先に安全を確かめる

ひびが1本入っているから違法、倒壊寸前、全面的な造り直しが必要。そこまでは判断できません。かといって、細いひびだから安全ともいえません。ひび割れは、それ単独では意味の決まらないサインです。

国土交通省の「我が家の擁壁チェックシート」や「宅地擁壁の健全度判定・予防保全対策マニュアル」でも、ひび割れだけを見るのではなく、傾き、膨らみ、ずれ、排水の状態を組み合わせて確認する考え方が示されています。

ひびの幅だけで判断せず、周囲の変化も見る

安全な場所から、次の点を確認してください。

  • ひび割れが以前より長く、太く、深くなっていないか
  • ひびの両側に段差やずれがないか
  • 擁壁全体が傾いたり、前へ膨らんだりしていないか
  • 擁壁の上や下の地面に、沈下、隆起、亀裂がないか
  • 石やコンクリート片が浮いたり、剥がれたり、落ちたりしていないか
  • 擁壁の下から土が流れ出していないか
  • 水抜き穴が土や植物でふさがっていないか
  • 晴れた日でも湿っている、面や継ぎ目から水や濁った水がにじむ、といったことはないか
  • 擁壁に近い建物で、床の傾きや、基礎・外壁の新しい亀裂が出ていないか
  • 豪雨や地震のあとに、急な変化がなかったか
  • 上への継ぎ足し、斜面途中の二段擁壁など、後から手を加えた跡がないか

膨らみや傾き、地盤の沈下、部材の落下が見られるとき、または変状が短期間で広がっているときは、擁壁の上下に近づかず、人や車が入らないようにしてください。そのうえで、市区町村の建築・開発・宅地造成を扱う窓口と、擁壁の調査経験がある建築士や土木系の技術者に相談します。豪雨や地震のあとは、見た目が変わっていなくても、もう一度確かめます。

原因がわからないうちのDIY補修は避けてください。表面のひびを埋めると進行の様子が読めなくなり、水抜き穴を自分で開ければ、排水や構造に影響するおそれがあります。

同じ位置・角度で撮ると、変化を伝えやすい

安全な場所から、擁壁の全体と、ひび割れや傾きなどの変状部分を撮影します。日付、天候、撮影した位置、ひびの場所は、平面図や手書きの図に残してください。定規など大きさのわかるものを一緒に写し、毎回同じ位置・角度から撮ると、調査する人が変化を追えます。

植栽、塀、物置、隣地の都合で見えない場所があるなら、「ひび割れなし」ではなく「確認できた範囲では見当たらない」と書きます。この書き分けが、あとで告知書や契約書の記載を支えます。

2m超の擁壁と不適格擁壁は、同じ意味ではない

2mを超えるという事実は、法令上の手続きを調べるきっかけにはなります。ただし、それだけで危険とも違法とも決まりません。

高さが2mを超える擁壁を新たに造る場合、原則として、建物以外の構造物として受ける確認・検査(工作物確認・検査)の対象になります。根拠は建築基準法88条1項と建築基準法施行令138条1項5号です。ただし建築基準法88条4項は、盛土規制法や都市計画法の許可対象について、手続きが重ならないよう調整しています。すでに建っている擁壁が2mを超えるというだけで、いまあらためて確認申請が必要になったり、違法になったりするわけではありません。

条文は「2m以上」ではなく「2mを超える」と書いています。ちょうど2mなら、この号の高さ要件には入りません。とはいえ、2m以下なら規制がなく安全だという意味でもありません。造成の内容、規制区域、自治体の条例、建物と崖の位置関係によっては、別の許可や安全措置が必要になります。

では、その高さはどこからどこまでを測るのか。盛土規制法施行令1条4項は、擁壁前面の上端と、前面下部が地盤面に接する部分との垂直距離を擁壁の高さとしています。ただし、この定義だけで建築基準法上の扱いまで決まるわけではありません。

二段擁壁、上への継ぎ足し、斜面の途中にある擁壁は、測り方も、どこまでを一体とみなすかも自己判断できません。図面と現況を示して自治体に確認してください。自分で測る場合も、おおよその値(概算)にとどめます。擁壁の下へ降りたり、脚立に乗ったりしてはいけません。

「不適格」の一語では、擁壁の状態を説明できない

同じ「不適格」でも、法律の話なのか、安全性の評価なのかで、次にやることは変わります。

状態意味売却前に確認すること
違法・違反の疑い造った当時に必要な手続きを経ていない、または当時の基準に合っていない可能性がある当時の法令、許可・確認記録、図面、自治体に確認した結果
既存不適格造った当時は法令に合っていたが、その後の法改正などで現在の基準に合わなくなった造った時期と当時の法令への適合、増改築・建て替え時の扱い
マニュアル上の「いわゆる不適格擁壁」国土交通省の安全性評価で、注意を要する構造として扱われる擁壁構造、変状、排水、地盤条件、専門家の評価
確認不能記録や図面、現在の状態に関する情報が足りず、法令への適合も安全性も判定できない追加で探す記録、現地調査の範囲、未確認の事項
違法・既存不適格・マニュアル上の不適格擁壁・確認不能の違い

国土交通省の「宅地擁壁の安全性評価マニュアル」は、石をモルタルなどで固めずに積んだ「空石積み」、上へ継ぎ足した「増積み」、斜面の途中で上下に分かれた「二段擁壁」、建物の床などが張り出す「張り出し床版付き擁壁」などを「いわゆる不適格擁壁」として扱っています。これは安全性を評価するための技術上の呼び方で、法律でいう「既存不適格」とは別物です。

これらの構造は、国土交通省の一般向けチェックシートによる簡易判定の対象外です。目立つ変状がなくても自分だけで安全と決めず、擁壁に詳しい専門家に見てもらってください。

売却時に調べるのは、造った当時の手続きと基準、いまの形状、後から加えられた工事の3つです。これを混ぜて考えると、どこに問題があるのかを買主へ説明できなくなります。

盛土規制法の許可要否は、擁壁の高さだけで決まらない

2023年5月26日に施行された宅地造成及び特定盛土等規制法、いわゆる盛土規制法では、都道府県知事などが規制区域を指定し、区域内で一定規模を超えて土を盛る工事(盛土)や地面を削る工事(切土)などを許可の対象としています。許可がいるかどうかは、区域、盛土・切土の高さ、崖が生じるか、施工面積などで決まります。「2m超の擁壁なら必ず許可対象」とは限りません。

規制区域内の土地の所有者・管理者・占有者には、安全な状態を保つ努力義務があります。行政による勧告のほか、擁壁が設置されていない、または著しく不完全で災害発生のおそれが大きいなど、法律で定められた条件に当てはまる場合は、改善命令の対象になり得ます。ひび割れを1つ見つけただけで、すぐ全面改修を命じられるという意味ではありません。

制度の概要と区域指定は、国土交通省の「宅地造成及び特定盛土等規制法について」で確認できます。区域の指定状況も自治体独自の条例も変わるため、最終的には物件所在地の窓口で確かめてください。

擁壁が誰のものかは、上の土地・下の土地だけでは決められない

高い側の土地にあるから高い側の所有者。低い側の土地を守っているから低い側の所有者。どちらも見た目からの推測にすぎません。

擁壁の位置と、所有・管理の手がかりになる資料は次のとおりです。

  • 土地の登記事項証明書、公図、地積測量図
  • 確定測量図、境界確認書、境界標
  • 分譲時の図面、売買契約書、重要事項説明書
  • 隣地所有者との工事・管理・費用負担に関する合意書
  • 擁壁の許可図面、設計図、工事請負契約書、領収書
  • 過去の補修記録や近隣とのやり取り

ただし、土地のおおまかな位置関係を示す公図や登記の内容だけでは、擁壁の面が境界のどちら側にあるのか、地中の基礎が境界を越えていないかまでは確定できないことがあります。境界がはっきりしないなら土地家屋調査士へ、所有や費用負担で意見が食い違うなら弁護士へ相談してください。

隣地の擁壁に見えても、売る敷地の安全や建て替えに影響することはあります。逆に、自分の土地にあるように見えても、隣地所有者の合意なしに工事できるとは限りません。査定の前に、わかっている所有関係と、まだわからない部分を不動産会社へ伝えてください。

査定前に「擁壁カルテ」と自治体の資料をそろえる

A社には写真だけ、B社には図面も渡す。これでは価格を並べても比べたことになりません。前提をそろえるために、擁壁の情報を1枚にまとめ、どの会社にも同じものを渡します。ここではこれを「擁壁カルテ」と呼びます。

コピーして使える擁壁カルテ

項目記入する内容
擁壁の場所敷地の北側、道路側など。平面図や写真に番号を付ける
所有・境界自己所有、隣地所有、共有、不明。根拠になる資料も書く
土地の位置擁壁の高い側、低い側、両方に接する
高さ・長さ誰が、どこからどこまで測ったか。自分で測ったなら「概算」と明記
構造・形鉄筋コンクリート、石やコンクリートブロックを規則的に積む間知石・ブロック積み、空石積みなど。わからなければ「不明」
造った時期・変更した時期新築時、造成時、継ぎ足し(増積み)や補修の時期。不明なら、そう推定した根拠
許可・確認・検査手続きの名称、番号、年月日、資料の取得先
図面との一致位置、高さ、形が現況と一致するか。確認した人と、未確認の部分
現在の変状ひび、傾き、膨らみ、ずれ、表面のはがれ(剥離)、地盤の沈下など
排水水抜き穴の有無と詰まり、にじみ、排水先。確認できない部分
点検・工事履歴調査者、日付、結果、補修内容、保証、再発の有無
自治体からの指摘勧告、命令、改善に関する相談の有無と書面
添付資料全景・近景写真、図面、許可記録、報告書、見積書
査定先へ同じ情報を渡すための擁壁カルテ

高さや構造を自分で断定できないなら、空欄にせず「概算」「不明」と書きます。どこが未確認なのかも、買主にとっては判断材料です。

すべてを一度にそろえる必要はありません。優先するのは、所有・境界の根拠、許可・確認・検査の記録、いまの変状の記録の3つ。足りない資料は「未確認」として残しておきます。

自宅、過去の関係者、自治体の順に書類を探す

探す順番は決まっています。まず自宅に保管している売買・建築・相続の資料。次に、以前の所有者、分譲会社、設計者、施工会社。それでも見つからなければ、物件所在地の自治体で、建築確認、開発許可、宅地造成・盛土規制を扱う窓口に、記録の有無と閲覧方法を尋ねます。

探す資料の候補は次のとおりです。名称も保存期間も、閲覧や証明の方法も、自治体によって違います。

  • 工作物の確認済証、検査済証
  • 建築・工作物の計画概要書、確認台帳の記載事項証明
  • 宅地造成または盛土規制法の許可・届出・検査資料
  • 開発許可通知書、開発登録簿、土地利用計画図
  • 擁壁の配置図、平面図、断面図、構造図、構造計算書
  • 地盤調査資料、施工写真
  • 点検報告書、補修・造り替えの見積書、工事記録、保証書
  • 規制区域図、造成宅地防災区域、土砂災害警戒区域などの指定資料

確認済証や検査済証そのものは再発行しない自治体でも、台帳の記載事項証明や概要書なら取得できることがあります。たとえば横浜市は、建築・開発・宅地造成に関する台帳や証明書の取得方法を案内しています。実際に何が使えるかは、所在地の自治体で確認してください。

なお、敷地に許可の履歴があっても、目の前の擁壁がその許可どおりに造られているとは限りません。許可図面に対象の擁壁が含まれているか、位置・高さ・構造が現況と合うかまで照らし合わせます。

擁壁の調査は、目的ごとに相談先を分ける

不動産会社は売り方と価格の専門家です。ただ、擁壁が法令上の手続きや基準を満たしているか、構造として安全かまで判断できるとは限りません。逆に、技術者に擁壁を調べてもらっても、成約価格や販売期間は決まりません。聞く相手は、確かめたい内容で分けます。

確認したいこと主な相談先依頼時に伝えること
許可・確認・検査記録、規制区域、自治体からの指導市区町村・都道府県の建築、開発、盛土規制の窓口所在地、擁壁の位置、おおよその高さ、造った時期、手元の図面
構造、劣化、排水、変状の原因、調査の限界擁壁の調査経験がある建築士、土木系技術者、専門事業者変状の記録、図面、施工・補修履歴、豪雨・地震後の変化
境界、境界を越えた部分(越境)、擁壁の位置土地家屋調査士測量図、境界標、隣地との合意書、現在の写真
成約予想価格、販売期間、買主層、売り方擁壁付き物件の取引経験がある不動産会社擁壁カルテと同じ資料一式
所有・費用負担・契約責任の争い不動産取引に詳しい弁護士契約書、告知書、調査結果、隣地・行政とのやり取りの記録
擁壁について確認したい内容ごとの主な相談先

「ホームインスペクション(住宅診断)」という名前がついていても、擁壁まで調べるとは限りません。対象の範囲、目に見えない部分をどう扱うか、構造計算をするのか、法令上の手続きや基準まで確認するのか。依頼の前に書面で確かめます。

調査報告書には、結論だけでなく、調べた範囲と調べられなかった範囲、判断に使った資料、追加調査が必要になる条件まで書いてもらいます。そのまま「どこまでわかっているか」の説明資料として買主へ示せるからです。

建て替えの条件と住宅ローンへの影響も確認する

いま家が建っているからといって、同じ位置・同じ大きさで建て替えられるとは限りません。建て替え(再建築)では、擁壁の状態に加えて、自治体のがけ条例、建物の位置、必要な安全措置があらためて検討されます。建築基準法19条4項も、崖崩れなどによる被害のおそれがある場合に、擁壁の設置その他の安全措置を求めています。

売主が建て替えの案まで固める必要はありません。ただ、査定を頼む不動産会社には、「既存の家をそのまま使う買主」と「建て替える買主」で想定する買主層がどう変わるのか、何がまだわからないのかを聞いてください。必要なら、図面と現況を自治体や建築士に示し、再建築のときに擁壁の補修・造り替えや建物位置の変更を求められる可能性があるかを確かめます。

住宅ローンを借りられるかどうかは、金融機関が物件と借入希望者を個別に審査して決めます。擁壁の書類や安全性がはっきりしないと、担保としての評価がしにくく、建て替えの見通しも立ちません。その結果、候補になる金融機関や買主が絞られることがあります。とはいえ、「擁壁があるから融資不可」とも、「調査報告書があれば必ず融資可」とも言えません。

擁壁が売却価格へ与える影響に、一律の値下がり率はない

「擁壁がある家は相場の何割下がる」という全国共通の目安はありません。法令上の手続きや基準、安全性、工事の要否、土地の使い方、買主の融資、地域の需要で変わります。

買主が見ているのは、家の価格そのものではなく、買ったあとの総負担です。考え方はこうなります。

買主が検討する価格 ≒ 擁壁に問題がない場合の価格 - 調査・設計・工事費 - 利用制限・工期・融資など、不確実な負担を見込んで差し引く金額

図面も調査結果もなく、追加の負担が読めないほど、買主は想定外の費用を厚めに見込み、価格を低く判断しやすくなります。図面と現在の状態、専門家の見解、工事の見積もりがそろえば、必要な費用を具体的に検討できます。ただし、資料をそろえれば必ず高く売れる、住宅ローンが必ず通るという保証はありません。

補修や造り替えが必要な場合も、工事費をそのまま売却価格から引けば済むとは限りません。工事中に敷地を使えない期間、建物配置への影響、隣地との協議、仮設工事、設計・申請、買主が持つ予備費まで含めて見られることがあるためです。

工事を決める前に、3つの売却方法を手取りで比べる

売却価格が上がっても、手取りまで増えるとは限りません。調査・設計・工事の費用に加えて、工事や販売を待つ間にも、税金や保険料など家を持ち続ける費用(保有コスト)がかかるからです。

そこで、売り方を次の3つに分け、同じ条件で並べます。表にある「契約不適合責任」とは、引き渡した土地・建物が契約で合意した内容と違っていた場合に、売主が負う責任のことです。

売却方法向きやすい状況主な利点契約前の確認点
調査後、現況のまま仲介状態と費用の目安を開示でき、工事費を先に負担したくない買主の計画に合わせて工事を任せられる成約予想価格、買主負担の範囲、融資・建て替え条件、売主の責任
補修・造り替え後に仲介工事内容が固まっていて、価格の上昇が工事費と期間の負担を上回る見込みがある買主の不安を減らせる可能性がある追加工事、近隣協議、完了書類、価格の下振れ、工期の延長
不動産会社の直接買取期限を優先し、一般の買主を探す期間や工事の不確実性を抑えたい条件が合えば日程を組みやすい価格が確定する時点、再調査による減額条件、費用負担、売却後の責任
現況仲介・工事後の仲介・直接買取の比較

どの方法を選ぶ場合も、把握しているひび割れ、自治体からの指摘、調査結果、許可・確認・検査記録の確認状況は、不動産会社へ正確に伝えます。とくに買主の判断や契約条件に関わる情報は省けません。各社に同じ擁壁カルテと資料を渡し、査定の前提をそろえてください。

コピーして使える3ルート比較シート

確認できない金額を0円にしないでください。「不明」と書きます。幅のある金額は、低いほうと高いほうの両方で計算します。

比較項目工事後に仲介調査後に現況仲介不動産会社が直接買取
成約予想価格・買取価格[ ]万円[ ]万円[ ]万円
価格の根拠[ ][ ][ ]
調査・設計・申請費[ ]万円[ ]万円[ ]万円
工事費・予備費[ ]万円[ ]万円[ ]万円
売却関連費用[ ]万円[ ]万円[ ]万円
月額保有コスト×月数[ ]万円[ ]万円[ ]万円
住宅ローン残債[ ]万円[ ]万円[ ]万円
ローン返済後・税引前の概算手取り[ ]万円[ ]万円[ ]万円
査定から代金受領・引き渡し(決済)までの想定期間[ ][ ][ ]
価格が確定する時点[ ][ ][ ]
契約後に価格が変わる条件[ ][ ][ ]
売主が負う契約不適合責任対象[ ]・期間[ ]対象[ ]・期間[ ]対象[ ]・期間[ ]
売主が先に用意する資金[ ]万円[ ]万円[ ]万円
未調査・未確定の事項[ ][ ][ ]
3つの売却方法を同じ条件で比べる記入用シート

計算式はこれだけです。

ローン返済後・税引前の概算手取り = 成約予想価格または買取価格 - 調査・設計・申請費 - 工事費・予備費 - 売却関連費用 - 売却までの保有コスト - 住宅ローン残債

なお、仲介の査定額は、その値段で売れることを保証するものではありません。「広告に出す売出価格」だけでなく、「成約予想価格」「想定販売期間」「その根拠」を分けて出してもらってください。

3ルートを比べる仮想例

次の数字は計算方法を示すための仮想例で、擁壁の工事費や売却相場を示すものではありません。金額は1万円単位、売却益にかかる税金(譲渡所得税など)は含めていません。

計算の条件は次のとおりです。

  • 工事後に仲介する案だけ、工事費550万円と予備費80万円を計上する
  • 保有コストは、工事後の仲介が月4万円×12カ月、現況仲介が月4万円×6カ月、直接買取が月3万円×1カ月と仮定する
  • 売却関連費用は、仲介手数料、印紙、登記関係費用などをまとめた仮定で、直接買取は仲介会社を介さない想定とする
  • 測量、解体、転居、繰上返済など、表にない費用は含めない

実際の計算では、見積書と不動産会社の費用明細を使い、自分の物件で発生する費用を足してください。直接買取でも、別の仲介会社を通す契約なら仲介手数料がかかることがあります。

単位:万円

比較項目工事後に仲介調査後に現況仲介不動産会社が直接買取
成約予想価格・買取価格3,0002,5002,050
調査・設計・申請費602510
工事費55000
工事予備費8000
売却関連費用1109510
売却までの保有コスト48243
住宅ローン残債900900900
ローン返済後・税引前の概算手取り1,2521,4561,127
架空の条件による3つの売却方法の手取り比較。単位は万円

この例では、工事後の成約予想価格が現況仲介より500万円高いのに、ローン返済後・税引前の概算手取りは204万円少なくなります。価格の上乗せ分より、調査・工事・予備費と保有コストの増加分のほうが大きいからです。

直接買取は、この例では手取りが最も少なくなりました。それでも、販売や工事にかかる期間を短くしたい売主には合うことがあります。実際の判断では、価格だけでなく、追加費用の上限、期限、契約後の減額条件、売却後の責任まで並べて比べます。

擁壁の状態は、事実と未確認事項を分けて買主へ伝える

手を加えずいまの状態で引き渡す「現状有姿」と書いても、それだけで売主の契約不適合責任がなくなるわけではありません。引き渡した家や土地が契約で合意した内容と合っていなければ、買主は条件に応じて、修理などの対応(追完)、代金の減額、損害賠償、契約の解除を求められます。根拠は民法562条から564条です。

民法566条は、種類・品質に関する契約不適合について、原則として買主が不適合を知った時から1年以内の通知を求めています。この1年は、権利を行使する期限ではなく、通知の期限です。しかも、引き渡しのときに売主が不適合を知っていた場合、または重大な不注意(法律上の「重大な過失」)で知らなかった場合は、この通知期間の制限が適用されません。さらに民法572条は、売主が知りながら告げなかった事実について、責任を免除する特約(免責特約)があっても責任を免れないと定めています。

重要事項説明は、宅地建物取引業法35条に基づいて宅地建物取引業者が行います。個人の売主がすべきことは、把握している変状、補修履歴、行政からの指摘、調査結果、書類の確認状況を仲介会社へ正確に伝えることです。小さなひび割れがすべて同条の独立した説明事項になるわけではありませんが、買主の判断に関わる情報を、売主や仲介会社だけで「説明は不要」と決めないでください。

なお、売主が宅地建物取引業者で、買主が宅地建物取引業者ではない取引には、契約不適合責任の特約を制限する同法40条があります。この記事が主に想定している個人売主の取引とは、扱いが違います。

「問題なし」と「未確認」を混ぜない

告知書(物件状況報告書)や契約書へ反映してもらうため、次のようなメモを作ります。

項目事実ベースの記載例
ひび割れ2026年6月10日に道路側擁壁の中央部で確認。全景・近景写真あり
変化2026年6月10日と7月10日の写真を比較。目視では変化を判定できず、専門家は未確認
排水水抜き穴は5カ所を確認。植栽の裏側と隣地側は確認できていない
書類1998年の工作物確認台帳に記録あり。検査済証と構造計算書は手元になく、自治体へ照会中
図面との一致配置はおおむね一致。高さと上部のブロック部分は未照合
調査2026年7月15日に目視調査。非破壊で、目視できる範囲のみ。報告書あり
工事履歴2015年ごろにひびを補修したと前所有者から聞いたが、工事資料はない
自治体からの指摘所有期間中に受けた記録はない。それ以前の有無は未確認
擁壁の事実と未確認事項を分けて記録する例

この表は書き方の例で、実在する物件の情報ではありません。「問題はありません」「安全です」と売主の判断だけで書かず、誰が、いつ、どの範囲を調べたのかを添えます。

告知書で状況を伝えることと、契約不適合責任の範囲を契約で決めることは別の作業です。調査報告書、物件状況報告書、重要事項説明書、売買契約書で、擁壁の位置、状態、未確認部分、修繕の負担、契約不適合責任の書き方が食い違っていないか確認してください。

擁壁のある家の売却でよくある質問

高さがちょうど2m、または2m以下なら問題ありませんか?

そうとは限りません。建築基準法施行令138条1項5号は「2mを超える」と定めていますが、盛土規制法、自治体のがけ条例、建物の安全措置など、別の規制や安全上の確認が必要になる場合があります。

確認済証や検査済証がなければ、違法擁壁ですか?

手元にないというだけでは、違法と決まりません。自治体に台帳や許可の記録が残っていることもあります。許可記録・図面と現況を照合し、必要に応じて自治体や専門家の見解を確認してください。裏付けが足りなければ、売主や仲介会社だけで適法・違法・既存不適格と決めず、「確認不能」として調査した範囲と未確認の事項を明示します。

既存不適格擁壁は、売却前に必ず造り直しますか?

一律には決まりません。造った当時に法令へ合っていたか、いまも安全か、自治体から指導を受けているか、建て替え計画や買主の融資に影響するか。これらによって対応が変わります。工事の前に専門家の所見と、現況・工事後それぞれの査定を取り、手取りを比べてください。

ひび割れを補修してから査定したほうがよいですか?

原因がわからないうちの表面補修は避けてください。変化を追う手がかりが消え、排水や構造に影響するおそれもあります。先に記録と調査を行い、補修の必要性、範囲、費用を確かめてから、工事の前後で売却条件を比べます。

隣地所有の擁壁でも、買主へ伝える必要がありますか?

隣地の擁壁でも、売る敷地の安全、利用、建て替えに影響するなら、買主の判断材料になります。所有者、境界、把握している状態、確認できていない範囲を不動産会社へ伝え、説明の方法を決めてください。

擁壁のある家は、不動産会社に買い取ってもらえますか?

買取の対象とする会社はありますが、すべての会社が対応するわけではありません。買取なら責任が自動的になくなるわけでもありません。価格が確定する時点、調査後の減額条件、費用の負担、売主の契約不適合責任を、契約書で確認します。

建物を解体して土地だけにすれば売りやすくなりますか?

解体しても擁壁の問題は残ります。むしろ建物がなくなると、買主は建て替えの条件をより重く見ることがあります。建物付きと更地それぞれの査定、解体費、税への影響、再建築時の擁壁の扱いを確かめてから決めてください。

擁壁カルテを用意し、同じ条件で不動産会社を比べる

一括査定を使わなくても、この記事の擁壁カルテと3ルート比較シートは使えます。まず事実をそろえ、どの会社にも同じ資料を渡せる状態にしてください。

本記事を掲載するリビンマッチは、リビン・テクノロジーズ株式会社が運営しています。運営会社のサービス概要によると、利用者は無料で、広告掲載企業が所定の成果に応じて費用を負担する仕組みです。不動産売却サービスでは、売却を検討する人の情報を不動産売買仲介会社へ提供しています。

仲介を含む売却案を比べたい場合は、不動産売却一括査定を利用できます。入力の前に物件情報と希望条件を整理しておくと、各社へ同じ内容を伝えられます。

フォームでは物件情報と利用者情報を入力します。申込後は、査定結果や相談内容について不動産会社から連絡が入ります。紹介できる会社数や対応範囲は、物件、地域、提携状況によって異なります。また、すべての会社が、擁壁の調査、工事後の仲介、現況仲介、直接買取のすべてに対応するわけではありません。

直接買取を比べたい場合は、不動産買取一括査定を利用できます。無料なのは査定サービスの利用料です。実際の売買にかかる税金、登記費用、契約で売主負担とした費用は別にかかります。

申し込みの前に、フォームに表示される個人情報の取り扱いと利用規約を確認してください。連絡の方法、入力した情報の利用目的、情報が提供される相手まで読んでから申し込みます。

不動産会社には、次の質問を同じ順で伝えます。

  • 擁壁付き物件の取引経験と、今回の査定で確認した資料は何か
  • 現況と工事後の成約予想価格、それぞれの根拠は何か
  • 買主の建て替えや融資について、何を未確認としているか
  • 調査・工事・測量・解体の費用は誰が負担するか
  • 価格が確定する時点と、その後に変わる条件は何か
  • 擁壁の状態を広告、告知書、重要事項説明書、契約書へどう反映するか
  • 売主の契約不適合責任を、何について、いつまで負う提案か

「問題ない」「買取なら責任はない」と口頭で言い切るだけで、調査範囲や契約条項を示さない会社は、候補から外したほうが安全です。

まとめ

擁壁のある家も売却できます。いきなり工事を契約せず、まず所有・境界、行政の記録、いまの状態を調べます。

傾き、膨らみ、地面の亀裂、土砂の流出が進んでいる場合は、売却の準備をいったん止めてください。擁壁の上下に近づかず、自治体の防災・宅地造成の担当と、擁壁に詳しい専門家へ相談します。

緊急性を確かめ、必要な専門調査を終えたら、造ったときの記録と、いまの状態を分けて擁壁カルテにまとめます。あとは同じ資料を各社へ渡し、現況仲介・工事後の仲介・直接買取を、手取りと契約条件で比べるだけです。ここまで来れば、擁壁は「よくわからない不安」ではなく、値段のつく条件になります。

参考資料・出典

情報確認日:2026年7月24日

目次