離婚が成立しても、家の共有名義と住宅ローンはそのまま残ります。夫婦の関係を終わらせる手続きと、家の権利やローンの契約は、まったく別のものだからです。
結論
家全体を売るには、原則として共有者全員の同意が必要です。ただし、売る前に一人の名義へまとめる必要はありません。元夫婦がそろって売主になれば、共有名義のままでも家全体を売却できます。
ここでいう持分とは、その不動産を誰がどの割合で持っているかを示す権利です。登記には「2分の1」のように記録されます。
最初にそろえるのは、5つの立場です。家の所有者、ローンの債務者、連帯保証人、実際に返済している人、いま住んでいる人。この5つは、同じ人とは限りません。
次に、数字を4つ出します。査定価格、引渡し日に返すローンの金額、売却にかかる費用、そして売却代金からその2つを引いて残るお金です。この5つの立場と4つの数字(この記事では「5者・4数字」と呼びます)がそろうと、「家全体を売る」「一方が相手の持分を買い取って住み続ける」「期限を決めて共有を続ける」「自分の持分だけを売る」のうち、どれが現実的かを比べられます。
元配偶者と連絡が取れないときは、進め方が分かれます。住所は分かっているのに返事がないのか、調べても居場所そのものが分からないのかで、使える裁判所の手続きが違うからです。ただし、どちらであっても、相手の署名を省いたり、代わりに署名したりして家全体を売ることはできません。
元配偶者への連絡に危険がある場合
暴力、威圧、つきまとい、住所を知られる危険があるときは、自分や親族から直接連絡しないでください。弁護士を窓口にし、不動産会社や金融機関には、自分の連絡先を相手に伝えずに進められるかを先に確認します。裁判所へ書面を出す場合も、住所などを相手に知られにくくする秘匿制度や、非開示を希望する申出を使えることがあります。提出前に裁判所または弁護士へ確認してください。売却より、安全の確保が先です。
共有名義の家をどうするか、最初の分岐
同じ「共有名義の家」でも、最初に動かすものは状況で変わります。自分がどの行に当てはまるかを探してください。
| 現在の状況 | 第一候補 | まず行うこと | この状態なら先へ進めない |
|---|---|---|---|
| 双方が売却に同意し、売却代金でローンと費用を払える | 家全体を共同で売る | 同じ時点(基準日)の査定とローン残高をそろえる | 値下げの下限や代金の分け方が決まっていない |
| 一方が住み続けたい | 住む側が相手の持分を取得する | 住む側だけのローンに借り換えられるか、今のローンを引き継げるかを金融機関へ相談する | 金融機関の回答が出る前に、名義だけ変えようとしている |
| すぐには売れず、共有を一時的に続ける | 期限付きで共有を続ける | ローン返済、税金、修繕費、居住者、共有を終える時期と方法を合意書にする | 終了日や、滞納したときの処理を決められない |
| 住所は分かるが、相手が無視・拒否する | 弁護士を通した交渉、財産分与(夫婦の財産を分ける手続き)または共有物分割(共有を解消する手続き) | 離婚日と、財産分与を申し立てられる期限を確かめる | 「返事がないから所在不明の制度が使える」と考えている |
| 調べても住所・居所が分からない | 所在調査をしたうえで、裁判所の制度を検討する | 登記や返送された郵便を弁護士へ見せ、住民票や住所の履歴が記録された戸籍の附票などを適法に調べる方法を確認する | 相手の持分を、自分だけで処分しようとしている |
| 返済が遅れている、売っても完済できない | 金融機関との協議を先にする | 完済に必要な額と、査定後の概算手取りを出す | 金融機関に知らせないまま、売却や名義変更を進めようとしている |
どの行にも共通するのは、価格の話より先に「相手と話せるか」と「金融機関がどう答えるか」で道が分かれる点です。査定額だけを先に集めても、この2つが未確認なら計画は組み直しになります。
どこから手を付けるか迷ったら、次の順で進めます。
- 登記、ローン、住んでいる人を分けて整理する
- 査定価格からローンと売却費用を引く
- 家全体を売る案と、一方が取得する案を並べて比べる
- 元配偶者との連絡状態と、安全に連絡できるかを確かめる
- 合意した内容を、売却・融資・登記の実行手順へ落とす
離婚しても共有名義の家と住宅ローンは自動では変わらない
離婚の話し合いでいちばん混同しやすいのは、「家の名義人」「ローンを返す契約をしている人」「実際に返している人」「住んでいる人」が同じとは限らない点です。名義を変えれば残りもまとめて動く、と考えると順序を間違えます。まず、次の5つを紙一枚に書き出してください。
| 確認する立場 | 何で確かめるか | 離婚後も残るもの |
|---|---|---|
| 不動産の所有者・持分 | 土地と建物の登記事項証明書 | 家全体の売却や名義変更に関する権利 |
| 住宅ローンの債務者・連帯債務者 | 住宅ローンの契約書(金銭消費貸借契約書)、返済予定表 | 金融機関に対する返済義務 |
| 連帯保証人 | ローン契約書、保証契約書 | 本人が払わないときに、代わりに払う責任 |
| 実際に返済している人 | 通帳、返済口座の明細 | 財産分与の話し合いで使う、支払いの記録 |
| 現在住んでいる人 | 住民票だけでなく、実際の居住状況 | 引渡し、退去、費用負担を決める前提 |
家の問題は「名義・ローン・暮らし」の3層に分ける
1.家の名義
誰が、どの割合で持っているか。土地と建物の登記事項証明書で確かめます。
2.ローン契約
誰が返済義務や保証責任を負うか。ローン契約書と、借入先への確認で分かります。
3.暮らしの実態
誰が住み、誰が返済や維持費を払っているか。通帳と実際の住まい方で整理します。
離婚協議書に「今後は妻がローンを払う」と書いても、それだけで夫が債務者や連帯保証人から外れることはありません。外れるには、借入先へ申し込み、審査を受け、契約を正式に変える必要があります。たとえば住宅金融支援機構の融資では、返済中の住宅を譲り渡すと原則として全額返済が必要ですが、離婚などの事情があれば、承諾を得てローンを引き継げる場合もあると案内されています。民間のローンも含め、実際の条件は借入先へ確認してください。
逆の勘違いもあります。ローンを一人で払い続けても、それだけで相手の持分が自分のものになるわけではありません。登記上の持分と、離婚に伴う財産分与の割合も別です。財産分与では、婚姻中に築いた財産の全体や、夫婦それぞれが財産づくりにどう関わったかを見ますが、登記の2分の1が自動で別の割合に変わるわけではありません。
共有名義の家を整理する5つの方法
どの方法を選ぶかは、価格だけでは決まりません。元配偶者が協力してくれるか、ローンが残っているか、誰が住み続けるか、いつまでに終わらせたいかも並べて比べます。
| 方法 | 元配偶者の協力 | 金融機関との協議 | 向いている状況 | 主な注意点 |
|---|---|---|---|---|
| 家全体を共同で売却する | 必要 | ローンがあれば必要 | 双方が売却に同意し、家の関係を整理したい | 売却価格、費用、残った代金の分け方まで合意する |
| 一方が相手の持分を取得する | 原則必要 | ローンがあれば先に必要 | 住む側に返済能力と、相手へ払うお金(代償金)の準備がある | 名義を変えても、相手の債務や保証は自動では消えない |
| 期限を決めて共有を続ける | 必要 | 契約内容によって必要 | 子どもの進学など、短期間だけ待つ理由がある | 返済、修繕、売却時期をあいまいにしない |
| 自分の持分だけを第三者へ売る | 通常の持分なら原則不要 | 担保とローン契約の確認が必要 | 合意が難しく、ほかの方法が取れない | 買主が、元配偶者の新しい共有者になる |
| 財産分与・共有物分割など裁判所の手続きを使う | 合意できない場合の手段 | ローンの問題は別に調整が必要 | 無視、拒否、対立で協議できない | 希望どおりの条件で売れるとは限らない |
双方が安全に話せるなら、まず「家全体を売る案」と「一方が住み続ける案」を並べます。家全体なら一般の買主も対象になるため、持分だけを売るより買い手が見つかりやすくなります。住み続ける案は生活を変えずに済む一方、その人だけでローンを維持できるかが分かれ目になります。
共有を続ける方法は、すぐに売れないときの一時的な選択肢です。終了日を決めないままだと、問題を先送りしただけになります。少なくとも、誰が住むか、返済・固定資産税・管理費・修繕費を誰が払うか、滞納したらどうするか、いつ査定を取り直して売るかまで決めておきます。
自分の持分だけなら、原則として元配偶者の同意なしで売れます。ただし、買主が手に入れるのは「家のこの部分」ではなく、家全体に対する割合の権利です。買主は、元配偶者と新しい共有関係に入ります。抵当権が残っていれば、返済が滞ったときに競売になる危険も引き継ぐため、ローン契約と抵当権の内容を先に確かめる必要があります。
家を売るのは離婚前と離婚後、どちらがよい?
どちらが常に有利とは言えません。安全に話し合えて、売却が終わるまで待っても生活に困らないなら、離婚前に売るほうが、その後の連絡や署名を減らせます。売却代金、ローン、費用が確定するので、財産分与の話し合いも進めやすくなります。
一方、離婚を急ぐ事情や安全上の問題があるなら、売却のためだけに離婚を遅らせる必要はありません。離婚後に売る場合は、共有者全員が売主として動けるよう、売出価格、値下げの下限、費用と残代金の分け方、退去日、書類を出す期限まで合意書に残します。離婚の前か後かだけで、登記名義やローン契約が自動的に変わることはありません。
離婚後も共有名義のまま家全体を売却できる
双方が同意し、手続きに協力できるなら、離婚後も共有名義のまま家全体を売れます。売る前に一方へ名義をまとめる必要はありません。共有者全員が売主になり、売買契約と登記に必要な書類・手続きをそろえます。
1.土地と建物の登記を確認する
戸建てなら土地と建物、マンションなら部屋と、土地を使う権利である「敷地権」の登記を見ます。所有者と持分のほか、住宅ローンの担保である抵当権や差押えが付いていないか、登記上の住所・氏名が今のものかも確かめます。
2.ローン残高と完済条件を金融機関へ聞く
売買代金を受け取り、家を引き渡す日を「決済日」といいます。残高証明書や返済予定表だけでは足りません。決済日に全額返済する場合の金額、繰上返済の申込期限、抵当権を抹消する書類の受け取り方まで聞いておきます。完済しても、抵当権の登記記録は自動では消えません。金融機関から書類を受け取り、決済のときに抹消登記を申請します。
3.同じ条件で家全体の査定を取る
複数の不動産会社へ同じ資料を渡し、同じ基準日で査定してもらいます。聞くのは査定額だけではありません。実際に売れると見込む価格(想定成約価格)、売れるまでの期間、売主が負担する費用を、分けて出してもらいます。近隣の取引価格は国土交通省の不動産情報ライブラリでも調べられますが、個別の家の価格は面積、築年、状態、接道などで変わります。
4.税引前の概算手取りを出す
物件全体の税引前概算手取り = 想定成約価格 − 売却費用 − 決済日のローン完済額
各人の受取見込額 = 税引前概算手取りの配分額 ± 財産分与・立替金などの精算額
順番は、まず物件全体の手取りを出し、そのあとに共有持分や財産分与の合意にもとづいて各人の受取額を整理します。譲渡所得税は、この税引前概算手取りには含めません。
次は、計算の形を示すための架空の例です。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 想定成約価格 | 4,200万円 |
| 仲介手数料・登記・印紙等の売却費用(仮定) | 160万円 |
| 夫婦のローン完済額合計 | 2,800万円 |
| 税引前概算手取り | 1,240万円 |
判断材料になるのは、4,200万円という査定額ではなく、ローンと費用を引いた1,240万円です。ただし、この1,240万円を620万円ずつ受け取ると決まったわけでもありません。まず、売却代金と費用が誰のものになるかを共有者ごとに整理し、そのうえで預貯金、頭金の出所、婚姻中の返済、ほかの財産や借金まで含めて財産分与を調整します。税金も、共有者ごとに計算します。
家を売り、ローンと売却費用を払ってもお金が残る状態を「アンダーローン」といいます。反対に、売却代金だけではローンと費用を払い切れない状態が「オーバーローン」です。オーバーローンなら、足りない分を自己資金で補うのか、ほかの方法を金融機関と相談するのかを、売買契約の前に決めます。契約後に不足が分かると、抵当権を抹消できず、決済できません。
5.募集前に共同売却の条件を書面にする
買主が見つかってから元夫婦の意見が割れると、値下げや引渡しの判断が止まります。少なくとも、次を先に決めておきます。
- 依頼する不動産会社と、売却を任せる契約(媒介契約)の種類
- 売出価格、値下げできる下限、価格を見直す日
- 内覧、片付け、修繕、測量、退去の担当
- 仲介手数料、登記費、家に残した荷物(残置物)の処分などの負担
- 売却代金を受け取る口座と、ローン返済の順序
- 残った代金、不足金、固定資産税等の精算方法
- 売買契約・決済に必要な書類を出す期限
- 相手へ伝えたくない住所・電話番号などの情報と、連絡窓口(本人確認や契約・登記に必要な情報は除く)
- 譲渡所得の資料を誰が保管し、各自がどう申告するか
離婚協議書や公正証書に「家を売る」とだけ書いてあっても、価格と実行条件がなければ動けません。売却条件は別紙にし、いつ、誰が、何をするかまで落とし込みます。
一方が住み続けるなら、名義変更より先に金融機関へ相談する
一方が家を取得して住み続けるなら、持分の名義変更と住宅ローンの変更はセットで考えます。名義だけ先に変えると、家を手放した人に、ローンや連帯保証の責任だけが残るおそれがあります。順序は次のように固定してください。
- 家全体の時価とローン残高を、同じ基準日で確かめる
- 住み続ける側だけのローンに借り換えられるか、今のローンを引き継げるかを金融機関へ相談する
- 預貯金なども含めて、持分を渡す側へ払う代償金を試算する
- 離婚成立日、財産分与、代償金、ローン手続き、登記の順序を合意書にする
- 融資条件を満たしたあと、返済、抵当権の抹消、持分の名義変更を同じ日に進める
- 渡す側と受け取る側が、それぞれ税務を確認する
相手の持分を取得する代わりに払うお金を「代償金」といいます。たとえば、家の時価が4,200万円、ローン残高が2,800万円なら、差し引いた家の価値は1,400万円です。ほかの事情をいったん置いて、この1,400万円を半分ずつ分ける前提なら、住み続ける側が相手へ700万円を渡し、自分だけのローンへ借り換えて残高2,800万円を完済する形が考えられます。
ただし、代償金が必ず700万円になるわけではありません。頭金の出所、ほかの夫婦共有財産、売った場合にかかる費用、一方だけが住んでいた期間の扱い(居住利益)、立替金などによって、調整額は変わります。時価の根拠に争いがあるなら、不動産会社の査定だけで決着させず、不動産鑑定が必要かを弁護士に相談します。
税金の扱いも先に確かめます。財産分与で相手の共有持分を追加取得し、一定の住宅ローンを組む場合、要件を満たせば追加取得分を含めて住宅ローン控除を受けられることがあります。この扱いで控除を受けるときは、控除額が当初の申告と変わるため、再度の確定申告が必要です。
離婚後も共有名義のまま残すなら、共有を終える時期・方法まで書面にする
離婚後も共有名義のままにしておくこと自体は、違法ではありません。ただし、生活は別になっても、家については二人で決め続けることになります。短期間だけ続けるなら、次の項目を合意書にまとめます。
| 決める項目 | 書面に残す内容 | 決めないまま残るリスク |
|---|---|---|
| 終了条件 | 売却を始める日、査定を取り直す日、売却以外に共有を終える方法 | 数年後も相手の同意待ちになる |
| ローン | 返済者、引落口座、滞納したときの連絡と処理 | 住んでいない債務者・保証人にも請求が及ぶ |
| 居住 | 誰がいつまで住むか、退去の条件 | 売却時に引渡しが止まる |
| 維持費 | 固定資産税、管理費、修繕積立金、修繕費の負担 | 立替えた額と、精算の根拠が分からなくなる |
| 処分・相続 | 持分を動かす前の連絡、相続が起きたときの連絡先 | 第三者や相続人が、新しい共有者になる |
共有者は、通常、自分の持分だけなら売却できます。一方、家全体を売るには共有者全員の同意が必要です。また、「共有物を分割しない」と合意できる期間は1回につき5年以内で、更新しても更新時から5年以内です。期限を決められないこと自体が、共同で売るか、一人の名義にまとめるほうを選ぶサインになります。
元配偶者と連絡が取れないときは「無視」と「所在不明」を分ける
「連絡が取れない」の一言では、次の行動は決まりません。住所が分かっているか、安全に連絡できるか、調べても所在が分からないかで分けます。
| 連絡の状態 | 家全体の通常売却 | 主な次の手続き |
|---|---|---|
| 住所が分かり、連絡できるが返事がない | 相手の同意なしには進められない | 弁護士から期限付きの書面を送り、財産分与・共有物分割を検討する |
| 住所が分かるが、売却を拒否している | 合意しない限り進められない | 離婚日と協議の経過を確かめ、財産分与と共有物分割のどちらを使うか弁護士へ相談する |
| 調べても住所・居所が分からない | ほかの共有者だけでは進められない | 所在調査のあと、持分取得、持分譲渡権限、裁判所による財産管理の制度などを検討する |
| DV・脅迫などで直接連絡が危険 | 本人同士では進めない | 弁護士を連絡窓口にし、安全な送達・交渉方法を決める |
住所が分かるのに返事がない場合
住所が分かっている、または郵便が届いているのに返事がないというだけでは、通常、所在不明者向けの制度は使えません。どこまで調査が必要かは、登記、住民票、住所の履歴が分かる戸籍の附票、郵便の返送状況などをもとに弁護士へ確認します。なお、住民票や戸籍の附票を第三者が請求するには、権利を行使するためなどの正当な理由が必要です。必要に応じて弁護士等を通じ、適法な方法で調べてください。
相手の住所へ連絡できるなら、売却価格の決め方、相手が持分を買う案、こちらが相手の持分を取得する案、そして回答期限を書面で示します。期限を過ぎても、沈黙が売却への同意に変わることはありません。危険がある場合や、感情的な対立が強い場合は、本人から送らず弁護士へ任せます。
財産分与の話し合いがまとまらないときは、家庭裁判所へ調停または審判を申し立てられます。調停は裁判所を交えた話し合い、審判は裁判所が結論を決める手続きです。2026年4月1日以後に離婚した場合は、離婚した日の翌日から5年以内です。2026年3月31日以前に離婚した場合は、改正前と同じく2年以内で、5年へは延びません。
調査しても元配偶者の所在が分からない場合
まず、登記や返送された郵便を確かめます。自分に請求する権限と正当な理由があることを確認し、住民票や戸籍の附票などを適法に調べても所在が分からない場合に、裁判所の制度を検討します。次の制度は名前が似ていますが、目的が違います。自分が相手の持分を取得したいのか、家全体を第三者へ売りたいのか、裁判所に共有状態の解消を求めたいのかを、弁護士へ先に伝えてください。
- 所在等不明共有者の持分取得:裁判所が定めた金額を法務局の供託所へ預け、不明者の持分を自分が取得する制度
- 所在等不明共有者の持分譲渡権限:所在が分かっている共有者全員も同じ買主へ持分全部を売ることを条件に、不明者の持分もその買主へ譲渡する権限を得る制度
- 不在者財産管理人:もとの住所・居所を去り、簡単には戻る見込みがない人について、家庭裁判所が管理人を選ぶ制度。家を売る場合は、管理人が家庭裁判所の許可を得る必要があります
- 公示送達による共有物分割訴訟:所在調査を尽くしても書類の送り先が分からない場合に、裁判所の掲示などで書類が届いたものと扱う「公示送達」を使い、訴訟を進められることがあります
持分取得と持分譲渡権限の制度には、所在調査、裁判所が広く知らせる公告、時価の資料、供託などが必要です。しかも、持分譲渡権限を得ても、所在の分かっている別の共有者が売却を拒めば、家全体は売れません。単にメッセージを無視されているだけでは使えない制度でもあります。公示送達による訴訟も含め、どの方法が向いているかは、費用、必要な期間、家を残すか売るかを弁護士へ伝えて確かめます。
自分が共有者ではなく、家が元配偶者だけの名義である場合は、共有者向けの持分取得・譲渡の制度をそのまま使うことはできません。財産分与の権利、ローン上の立場、住んでいる根拠を弁護士へ示し、使える手続きから確認します。
財産分与の期限、税金、登記費用は売却前に確認する
期限と税金は、売ったあとに気づいても戻せません。売却前に次の3点を確かめます。
財産分与を裁判所へ申し立てられる期限は離婚日で変わる
2026年4月1日以後に離婚した場合は、離婚した日の翌日から5年を過ぎると、未解決の財産分与を家庭裁判所へ申し立てられません。2026年3月31日以前に離婚した場合は2年です。期限が近いときは、査定や交渉が終わるのを待たず、申立てが必要かどうかを弁護士へ確認します。
家を売ったときの譲渡所得は共有者ごとに計算する
家を売って利益が出たときの税金は、共有者ごとに計算します。税金の対象になる売却益を「譲渡所得」といい、それぞれが自分の持分に対応する売却代金、取得費(購入代金など)、譲渡費用(仲介手数料など)を使って計算します。自宅の3,000万円特別控除も一人ずつ要件を確かめ、対象になる人はそれぞれ最高3,000万円まで控除できます。共有者全員で3,000万円を分ける制度ではありません。適用を受けるには、各自の確定申告が必要です。
先に家を出た人にも、以前住んでいた自宅として控除を使える期限があります。原則として、住まなくなった日から3年を過ぎる日が属する年の12月31日までです。過去に特例を使ったかどうか、買主との関係など、ほかの要件もあるため、退去日と売却日が分かる資料を残しておきます。
持分を財産分与で渡す側にも税金が生じ得る
税金は、現金を受け取ったかどうかだけでは決まりません。財産分与で家や持分を渡した側にも、値上がり益に対する税金がかかる場合があります。税務上は、分与したときの時価で譲渡したものとして譲渡所得を計算するからです。代償金を受け取っていなくても、取得費より時価が上がっていれば課税される可能性があります。受け取った人は、原則として分与日の時価で取得したものと扱われ、取得日も分与日になります。
受け取る側に、贈与税は通常かかりません。ただし、夫婦の財産形成を考えても多すぎる部分や、税を免れるための離婚と認められる場合は例外です。
3,000万円特別控除には、相手が誰かという条件もあります。婚姻中に配偶者へ家や持分を移す場合は、特別な関係にある人への譲渡として対象外です。離婚成立後の財産分与でも、登記した日だけでは決まりません。財産分与が法的に成立した日、実際の居住、退去後の期限、過去の特例利用、家や持分を受け取る人との関係などをもとに判定します。持分を移す前に、税理士または税務署へ確認してください。
財産分与の所有権移転登記には登録免許税がかかる
財産分与による所有権移転登記の登録免許税は、原則として、移す持分に対応する固定資産税評価額の2%です。たとえば、家全体の固定資産税評価額が2,000万円で、2分の1の持分を移す単純な例なら、課税価格1,000万円×2%=20万円が目安です。司法書士報酬などは、これとは別にかかります。
不動産取得税は、婚姻中に築いた財産を分けるための財産分与(清算的財産分与)なのか、慰謝料や扶養など別の性質を含むのかといった個別事情によって、認定が変わります。財産分与協議書、取得した時期、購入資金の資料をそろえ、所在地を管轄する都道府県税事務所へ確認します。自治体の案内でも、清算目的なら課税対象外とする例と、原則は課税しつつ夫婦が一緒に築いた財産について軽減の可能性を示す例があります。
共有名義の家を整理するための「5者・4数字シート」
不動産会社、金融機関、弁護士、司法書士、税理士へ同じ説明をやり直さずに済むよう、5つの立場と4つの数字を一枚にまとめます。次の空欄表をコピーまたは印刷し、分からない欄には「未確認」と書いてください。登記識別情報(従来の権利証にあたる情報)の番号、口座番号、勤務先など、最初の相談に不要な個人情報は書きません。
| 項目 | 私の状況 | 確認資料 | 未確認の場合の次の行動 |
|---|---|---|---|
| 所有者・持分 | 土地・建物の登記事項証明書 | 法務局で最新の登記を取得 | |
| 債務者・連帯債務者 | ローン契約書、返済予定表 | 借入先へ契約上の立場を確認 | |
| 連帯保証人 | ローン・保証契約書 | 借入先へ保証契約の有無を確認 | |
| 実際の返済者 | 返済口座の明細 | 入出金記録を保存 | |
| 現在の居住者 | 実際の居住状況 | 退去を希望する時期も確認 | |
| 想定成約価格 | 同じ基準日の査定書 | 複数社へ同条件で査定を依頼 | |
| ローン完済必要額 | 金融機関の回答書類 | 決済の想定日を伝えて照会 | |
| 売却費用 | 査定書、費用見積り | 仲介・登記・測量等を項目別に確認 | |
| 税引前概算手取り | 上記3つの数字 | 成約価格−費用−完済額で計算 |
「5者・4数字シート」の記入例
次は書き方を示すための架空の例で、実在の相談事例ではありません。
| 項目 | 架空の記入例 | この情報で決まること |
|---|---|---|
| 所有者 | A・B、土地建物とも各2分の1 | 家全体の売却には、A・B双方の同意が必要 |
| ローン | A残高1,700万円、B残高1,100万円のペアローン | 売却時は合計2,800万円の完済条件を確認 |
| 保証 | A・Bが互いのローンの連帯保証人 | 一方が住む案では、両方の契約を整理する必要がある |
| 実際の返済 | AはA分、BはB分を各口座から返済 | 返済記録を財産分与の資料として保存 |
| 居住 | Bと子が居住、Aは2026年6月に転居 | 退去時期と、自宅特例の期限を確認 |
| 想定成約価格 | 4,200万円 | 全体売却の基準 |
| 売却費用 | 160万円 | 査定額ではなく手取りを計算 |
| 税引前概算手取り | 4,200万円−160万円−2,800万円=1,240万円 | 財産分与を話し合う出発点 |
| 離婚日 | 2026年5月20日 | 財産分与の申立期限は翌日から5年。正確な日付を確認 |
| 連絡状態 | メールは届くが返事がない | 所在不明の制度ではなく、期限付きの書面や法的手続を検討 |
| 希望 | まず全体売却。まとまらなければBの単独取得を審査 | 不動産会社、金融機関、弁護士へ同じ前提を渡す |
このシートに、登記事項証明書、ローン契約書と残高の資料、購入時の売買契約書、固定資産税の納税通知書、査定書、離婚協議書、返済や修繕費の記録を添えます。登記識別情報や従来の権利証は、査定には要りません。決済を担当する司法書士から求められるまで、番号や写しを不必要に渡さないでください。
相談先は、確認したいことに合わせて選ぶ
同じ質問をどこへ持ち込んでも答えは返ってきません。確かめたいことごとに、担当が分かれます。
| 確認したいこと | 主な相談先 | 持参する資料 |
|---|---|---|
| 家全体の想定成約価格、売却費用、販売方法 | 不動産会社 | 登記、図面、購入資料、物件の状況 |
| 完済額、借り換え、債務者・保証人の変更、抵当権の抹消 | 借入先の金融機関 | ローン契約、残高、収入資料、査定 |
| 財産分与、相手の無視・拒否・所在不明、共有物分割 | 弁護士 | 離婚日、登記、連絡記録、財産一覧 |
| 持分の名義変更、住所・氏名の変更、抵当権抹消の登記 | 司法書士 | 登記、合意書、本人・住所関係の書類 |
| 譲渡所得、3,000万円控除、代償金、取得費 | 税理士・税務署 | 購入・売却・財産分与・居住の資料 |
| 不動産取得税 | 都道府県税事務所 | 財産分与協議書、購入資金、評価の資料 |
不動産会社の査定だけでは、ローン契約や財産分与は変わりません。弁護士がつくった合意書があっても、金融機関の審査に通らなければ債務者から外れられません。「5者・4数字」をそろえ、同じ前提をそれぞれの相談先へ渡すと、手続きの順序がぶれにくくなります。
離婚と共有名義の家に関するよくある質問
まとめ|登記・ローン・査定・連絡状態の順に整理する
離婚で夫婦関係が終わっても、家の共有関係と住宅ローンはそのまま残ります。だからこそ、名義だけを先に動かすのではなく、「5者・4数字」から整理することが大切です。
双方が協力できるなら、共有名義のまま家全体を売れます。一方が住み続けるなら、名義変更より先に借入先へ相談します。共有を続けるなら、返済や費用の負担だけでなく、いつ終わらせるかまで書面に残します。
元配偶者が返事をしない場合と、所在そのものが分からない場合では、次の手続きが変わります。連絡に危険があるときは、本人同士で進めてはいけません。離婚日と連絡記録を持って弁護士へ相談し、2年または5年となる財産分与の申立期限も、その場で確かめてください。
参考資料
本記事は2026年7月24日時点の法令・公的情報を基に作成しています。個別案件では、登記、ローン契約、離婚日、居住状況、合意内容によって結論が変わります。
- 裁判所「家事事件Q&A」。相手に知られることで社会生活に著しい支障を生じるおそれがある住所等についての秘匿制度と、非開示希望の申出を確認。
- 住宅金融支援機構「返済途中で住宅を他人に譲り渡すとき」。返済中の住宅の譲渡と、離婚時の債務承継に関する承諾・審査を確認。
- 住宅金融支援機構「保証人が亡くなられたとき」。保証人を変更する場合の申出、審査、変更契約を確認。
- 裁判所「財産分与請求調停」。2026年4月1日以後の離婚は離婚日の翌日から5年、同日前の離婚は2年であること、話し合いができない場合の調停・審判を確認。
- 法務省「住所等変更登記の義務化に関するQ&A」。2026年4月1日開始、変更日から2年以内、施行前の未登記変更は原則2028年3月31日までであることを確認。
- 法務局「住宅ローン等を完済した方へ」。完済後も抵当権抹消登記の申請が必要であることを確認。
- 国税庁「離婚による財産分与で居住用家屋の共有持分を追加取得した場合の住宅借入金等特別控除」。一定の要件と再申告の取扱いを確認。
- e-Gov法令検索「民法」206条・251条。持分の処分と、共有物全体の変更に共有者全員の同意が必要となる原則を確認。
- e-Gov法令検索「民法」256条・258条。共有物分割請求、分割禁止契約の期間、裁判による分割を確認。
- e-Gov法令検索「住民基本台帳法」12条の3ほか。第三者による住民票の写し等の請求に、自己の権利行使などの理由が必要であることを確認。
- 大阪地方裁判所「所在等不明共有者の持分の取得の裁判の申立てについてのQ&A」。申立人、所在不明、時価資料、供託等の条件を確認。
- 東京地方裁判所「所在等不明共有者持分譲渡の権限付与の申立てについて」。判明共有者全員が同じ第三者へ全持分を譲渡する条件と、供託を確認。
- 裁判所「不在者財産管理人選任」。不在者の定義と、不動産売却には家庭裁判所の権限外行為許可が必要であることを確認。
- 法務省「所有者不明土地等の発生予防と利用の円滑化のための民法等の一部改正」。所在等不明共有者制度と、公示送達を用いた共有物分割訴訟の選択肢を確認。
- 国税庁「共有のマイホームを売ったとき」。共有者ごとの譲渡所得と、要件を満たす各共有者の最高3,000万円控除を確認。
- 国税庁「マイホームを売ったときの特例」。以前住んでいた家の譲渡期限、特別関係者への譲渡などの適用条件を確認。
- 国税庁「離婚して土地建物などを渡したとき」。分与者の時価譲渡と、受け取った側の取得価額・取得日を確認。
- 国税庁「離婚して財産をもらったとき」。通常の財産分与と、過大分与・租税回避の場合の贈与税を確認。
- 法務局「登録免許税の計算」。財産分与などによる所有権移転登記の税率1,000分の20を確認。
- 滋賀県「不動産取得税Q&A」と福井県「不動産取得税のよくある質問」。財産分与の性質によって、課税対象外または軽減の可能性があるとする各案内を確認。
- 国土交通省「不動産情報ライブラリ」。不動産取引価格などを確認できる公的データベース。
