- 相続税の10か月は、売買契約ではなく申告・納付までの期限であること
- 不動産売却から納税へ回せる手取り額の考え方
- 期限前売却の注意点と、間に合わない場合の納付方法
相続税を納める現金が足りなくても、相続した不動産を売って納税資金を作れます。「先に相続税を納めなければ不動産を売れない」という決まりはありません。
ただし、相続税の10か月は「売買契約まで」ではなく、申告と納付までを終える期限です。売却代金を使うなら、売主を決め、相続登記を済ませ、期限より前に決済と入金まで終える必要があります。
また、申告期限前に売ると、小規模宅地等の特例が使えなくなり、相続税が増える場合があります。まず税理士に売却前後の税額を確認し、不動産会社には納期限と希望する決済日を伝えましょう。売却手取りと入金日が確定しない場合は、借入れや延納などの方法も並行して検討してください。
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相続税の申告・納付期限は10か月、売却代金を使うなら決済まで終える
相続税は通常、亡くなった人(被相続人)の死亡を知った日の翌日から10か月以内に申告し、同じ期限までに納めます。期限が土曜日、日曜日、祝日などに当たるときは、その翌日が期限です。
たとえば1月6日に死亡を知った一般的なケースなら、同じ年の11月6日が期限になります。相続人によって死亡を知った日が違うなど、数え始める日(起算日)が通常と異なりそうな事情があれば、戸籍や連絡の記録を税理士に見せて確認してください。
売買契約と手付金だけでは、相続税の納税資金を確保したとはいえない
不動産の売買では、契約時に手付金を受け取り、決済時に残りの代金を受け取るのが一般的です。売却代金の大半を納税へ回すなら、見るべき日は契約日ではなく、残代金が入る決済日になります。
手付金だけで、売却代金全体を納税資金として確保したとはいえません。契約が解除されれば、受け取った手付金の返還や倍返し、違約金が問題になる場合があります。買主の融資、境界確認、抵当権抹消、相続登記などが終わっていなければ、契約後に決済が延びることもあります。
そのため、不動産会社に伝える期限は「10か月以内に契約したい」では足りません。次のように、決済日まで指定します。
相続税の納期限は○月○日です。納付手続の余裕を残し、○月○日までに残代金の入金を終える条件で、仲介と買取の両案を出してください。
納期限の当日に決済すると、送金限度額、着金の確認、納付手続でつまずいたときに立て直す余裕がありません。法律上の期限とは別に、自分たちの「決済完了日」を前倒しで決めておきます。
遺産分割が終わらなくても申告期限は延びず、未分割のまま納税する
相続人どうしで不動産の分け方が決まっていなくても、10か月の申告・納付期限は延びません。分け方が未定のときは、いったん民法に定める相続分や包括遺贈の割合で取得したものとして税額を計算し、期限内に申告して納めます。
この場合、分け方が決まっていない財産には、期限内の最初の申告で配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例を原則として使えません。
最初の申告書に「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付し、原則として申告期限から3年以内に分割できれば、分割後に特例を適用できる場合があります。分割後の税額が少なくなるときは、分割があったことを知った日の翌日から4か月以内に「更正の請求」を行います。税額が増える場合は、修正申告が必要です。ただし、最初の申告・納付時に必要な現金が減るわけではありません。
話し合いが終わるまで申告を待つことはできません。遺産分割と税務申告は同時に進めます。
\ 決済日から逆算するなら、まず査定から /
不動産を売る前に、相続税の納税資金がいくら不足するかを手取りで計算する
「相続税が1,800万円だから、1,800万円で売れれば足りる」という計算は危険です。売却代金からローン返済、売却費用、決済までにかかる支出を引くと、納税へ回せる金額は小さくなります。売却益が出れば、翌年に納める譲渡所得税等の資金も残しておかなければなりません。
計算は、相続人ごとに行います。
不動産売却から納税へ回せる額
= 売却代金
− 抵当権を抹消するためのローン返済額
− 仲介、登記、測量、解体、残置物処分などの売却費用
− 譲渡所得税等と決済後の支出のために残す額
納税資金の不足額
= その相続人が納める相続税額
− 相続で取得する預金等のうち納付に使える額
− 本人が用意すると決めた資金
− 実行が確定した借入額
− 不動産売却から納税へ回せる額
査定額、売出価格、成約価格は、それぞれ別の数字です。資金表に書き込むのは、期限と条件を置いたうえでの控えめな成約予想価格です。高い査定額をそのまま入れてはいけません。
納税資金判定シートの記入例(相続税1,800万円の仮ケース)
以下は計算方法を示すための仮の例です。金額は相場でも標準的な費用でもなく、特定の案件の税額を示すものでもありません。
| 項目 | 仮の金額 | 根拠・状態 |
|---|---|---|
| A. 本人の相続税見込額 | 1,800万円 | 税理士の一次試算 特例の適用前後を確認中 |
| B. 相続する預金等のうち本人が使える額 | 350万円 | 遺産分割案と金融機関の手続を確認済み |
| C. 本人が用意すると決めた資金 | 100万円 | 生活資金を除いた確定額 |
| D. 売却期限を前提にした成約予想価格 | 2,400万円 | 仲介査定。売出価格ではない |
| E. 決済時のローン返済額 | ▲300万円 | 金融機関の残高証明を確認 |
| F. 売却費用の見込額 | ▲100万円 | 仲介、登記、測量等の仮見積り |
| G. 譲渡所得税等と追加費用の取り置き | ▲250万円 | 税理士の暫定額。取得費資料の確認後に更新 |
| H. 売却から納税へ回せる額(D−E−F−G) | 1,750万円 | 決済完了を条件とする |
| I. 納税へ使える総額(B+C+H) | 2,200万円 | 借入れは使わない前提 |
| J. 納税後の余裕額(I−A) | 400万円 | 売価の下落や追加費用に対する余裕 |
この例では、試算上400万円の余裕があります。ただ、成約価格が400万円下がれば、それだけで余裕は消えます。境界確定や残置物処分の追加費用、特例を使えなかった場合の相続税の増加も同じです。
不足額が0円になったかどうかだけでなく、次の3条件をすべて満たすかを確認してください。
- 金額は確定しているか 税額、預金の取得額、ローン残高、売却費用に未確定のものがないかを確認します。
- 入金日は納期限より前か 買付けや契約の日ではなく、決済して入金される日を書きます。
- その資金を本人が使えるか 他の相続人が取得する預金や、入金前の査定額を、自分の納税資金に含めません。
家族の一人が別の相続人の税金を立て替えるときは、遺産分割、貸付け、贈与、立て替えた人が後から返還を求める権利(求償)の扱いが問題になることがあります。家族間の送金だからと曖昧にせず、金額、返済条件、遺産分割との関係を税理士に確認しておきます。
\ 手取りを出すには、価格の把握から /
申告期限前に売ると、小規模宅地等の特例を失って相続税が増えることがある
納税資金が足りないと分かれば、早く売りたくなるのは自然です。ところが売却を急いだ結果、相続税の特例が使えなくなり、納める税額が増えてしまうことがあります。
典型例が、小規模宅地等の特例です。要件を満たす居住用の土地なら、330平方メートル(約100坪)まで相続税評価額を80%減額できることがあります。事業用や貸付用の土地では、対象になる面積も減額割合も異なり、複数の区分を選ぶときは面積の調整も必要です。
ここで問題になるのが、「申告期限まで持ち続ける必要があるか」です。答えは、誰がどの土地を取得するかで変わります。
| 取得する人・土地の使われ方 | 申告期限までに求められる主な要件 |
|---|---|
| 配偶者が被相続人の自宅の土地などを取得する | 住み続ける・持ち続けるという要件はない |
| 同居していた親族が取得する | 原則として、申告期限まで住み続け、土地も持ち続ける |
| いわゆる「家なき子」の要件で適用を受ける親族 | 申告期限まで土地を持ち続ける |
| 事業用・貸付事業用の土地 | 原則として事業や貸付けを続け、土地も持ち続ける |
この表は、売却時期に関係する主要な保有・居住・事業継続要件をまとめたものです。実際の適用判定には、取得者、被相続人との関係、相続開始前の居住・所有状況、土地の利用状況など、ほかの要件も確認しなければなりません。
判定はこれだけでは終わりません。被相続人が老人ホームへ入居していたか、土地を誰がどの区分で取得するかによっても結論は変わります。「実家だから80%減額できる」「納税のためなら期限前に売っても影響しない」とは決められません。また、申告を早く済ませても、「法定申告期限まで」という保有期間が短くなることはありません。
査定と税額の確認は並行して進められます。ただし売買契約や決済の日を決める前に、税理士へ次の2案を同じ条件で計算してもらってください。
| 比較案 | 確認する税額 | 確認する資金 |
|---|---|---|
| 保有継続要件がある取得者が申告期限まで保有し、特例を使う案 | 小規模宅地等の特例を含む相続税 | 期限までの別の納税資金、保有費 |
| 申告期限前に売却する案 | 売却によって使えなくなる特例を反映した相続税 | 売却手取り、譲渡所得税等、売却費 |
売却で納税資金が増えても、特例を失って相続税が増えれば、差額は縮みます。逆に、もともと特例の対象外で、持ち続けても税額が変わらない物件なら、早く売ってもこの特例を失う心配はありません。
相続税評価額、不動産会社の査定額、成約価格は別の数字
相続税は、原則として課税時期における財産の時価を基礎に、財産評価基本通達などに定められた方法で評価した価額を使って計算します。相続の場合の課税時期は、通常、被相続人が亡くなった日です。実際の売却価格に相続税率を掛けて計算する仕組みではありません。
相続税評価額が3,000万円でも、3,000万円で売れるとは限りません。逆に売却価格が評価額を上回っても、その差額がそのまま相続税に上乗せされるわけでもありません。土地・建物の相続税評価、不動産会社の査定、実際の成約価格は、それぞれ目的の違う数字です。
納税資金表では、相続税の計算に使う評価額と、売却手取りを見積もるための成約予想価格を、別の欄に分けて書いてください。
\ 評価額と査定額は別。両方そろえる /
相続した不動産を売るには、売却権限を決めて決済までに相続登記を終える
相続税を払う前でも不動産は売れます。ただし、誰が売主となり、売却代金を誰が受け取るのかは先に決めなければなりません。被相続人名義のまま、相続人の一人が自分の判断だけで不動産全体を売却し、買主へ所有権を移すことはできないからです。
事情によっては相続登記の完了前に売買契約を結ぶこともありますが、被相続人から買主へ直接、所有権移転登記はできません。少なくとも決済までに、売主となる相続人への相続登記を完了できる見通しが必要です。
相続放棄・限定承認の検討中は、売却が単純承認とみなされる可能性がある
売却より先に確認すべき、10か月より短い期限があります。相続放棄は原則として、自分のために相続が始まったことを知った時から3か月以内に、家庭裁判所へ「相続を放棄する」と申し出る(申述する)手続です。
財産や借金を調べても判断がつかないときは、この3か月の熟慮期間を延ばす手続を、期間内に申し立てられる場合があります。
相続した不動産を売るなど、相続財産の全部または一部を処分すると、相続を無条件で受け入れる単純承認をしたものとみなされる可能性があります。
資料収集や机上査定が直ちに相続財産の処分に当たるとは限りませんが、個別事情によって判断が変わります。相続放棄や限定承認を少しでも検討している間は、媒介契約、売買契約、所有権移転、引渡し、代金の受け取りへ進む前に、どこまで行ってよいかを弁護士へ確認してください。
相続する方針と売却権限を確認できたら、売り方は一般的に次の3つのいずれかになります。
- 遺言または遺産分割で不動産を取得する人を決め、その人が相続登記をして売る
- 共同相続人が法定相続分などで相続登記をし、共有者全員が売主となって売る
- 不動産を売って代金を分ける内容を遺産分割協議書へ定め、登記・売却・代金分配の担当を決める
どの方法でも、売却代金を誰がいくら受け取るか、費用と譲渡所得税を誰が負担するかまで決めておきます。代表者の口座へ全額を入れ、あとから感覚で分けると、遺産分割と食い違う送金に見えたり、精算をめぐって揉めたりします。
相続登記の義務化は3年以内、ただし相続人申告登記だけでは売却できない
相続登記は2024年4月1日から義務化されました。期限は、相続により不動産の所有権を取得したと知った日から3年以内が基本です。
ただし納税資金を作る売却では、この3年より10か月のほうが先に来ます。2024年4月1日より前の相続も義務化の対象です。同日時点で相続による取得を知っており、まだ相続登記をしていない場合は、原則として2027年3月31日までに申請が必要です。遺産分割で取得者が決まった場合は、分割成立から3年以内に、その内容に沿った追加の登記義務もあります。
期限内の相続登記がすぐには難しいとき、相続人申告登記によって基本的な申請義務を果たせる制度があります。ただし相続人申告登記は、誰がどの権利を持つかを公に示す登記ではありません。これだけでは不動産を売ることも、抵当権を設定することもできず、売却には別途、相続登記が必要です。
「3年以内だから登記は後でよい」と考えると、売却代金を受け取る前に10か月が過ぎてしまいます。相続登記の申請期限と、納税資金を作るための売却期限は別ものです。
相続不動産の売却を止める問題は、契約前・決済前・買主条件の3つに分ける
売主や売却権限が決まっていなければ、そもそも売買契約へ進めません。一方、相続登記や抵当権抹消の準備は、査定や販売と並行して進められる場合があります。とはいえ、決済までに終わる見通しが立たなければ、その売却代金を納税資金として数えることはできません。
境界や残置物も、必ずしも売却を止める要因ではありません。買主が現状のまま承諾すれば売れることもありますが、価格、融資、決済日には影響します。問題を次の3種類に分けて確認します。
売買契約前に解消する問題:相続人、取得者、代理権
| 状況 | 必要になる対応 | 主な確認先 |
|---|---|---|
| 相続人や不動産の取得者が確定していない | 戸籍・遺言・遺産分割を確認する | 司法書士 争いがあれば弁護士 |
| 遺言の有効性に争いがある、共有者の一人が全体売却に反対している | 取得者と処分権限を確認する | 弁護士 |
| 未成年者と親の利益が対立する | 特別代理人の選任が必要になる場合がある | 弁護士 家庭裁判所 |
| 成年後見制度を利用している人(成年被後見人)の居住用不動産を売る | 家庭裁判所の許可が必要 | 成年後見人 弁護士 家庭裁判所 |
| 判断能力に問題のある人、行方不明者が相続人にいる | 成年後見人や不在者財産管理人の選任、裁判所の許可が必要になる場合がある | 弁護士 家庭裁判所 |
決済までに完了させる手続:相続登記と抵当権抹消
| 状況 | 必要になる対応 | 主な確認先 |
|---|---|---|
| 相続登記が終わっていない | 査定・販売と並行して申請できる場合があるが、決済・所有権移転までに完了させる | 司法書士 |
| 抵当権・差押えがある | 一括返済額、債権者の同意、抹消・解除の条件と書類を確定する | 金融機関、司法書士、必要に応じ弁護士 |
ローンの一括返済額が売却手取りを上回ると、売却代金だけでは抵当権を抹消できません。
その差額を自己資金で補うか、金融機関から抵当権抹消の同意を得る必要があります。まずは決済予定日時点の一括返済額と抹消条件を、金融機関から取り寄せてください。
買主の承諾しだいで扱いが変わる問題:境界、残置物、入居者
| 状況 | 決済への影響 | 主な確認先 |
|---|---|---|
| 境界、越境、未登記建物がある | 測量や是正を条件にすると決済が遅れる | 土地家屋調査士、不動産会社 |
| 入居者・占有者がいる | 退去・明け渡しを条件にするか、賃貸中のまま売るかを決める | 不動産会社、必要に応じ弁護士 |
| 残置物、雨漏り、建物不具合がある | 撤去・修繕・現況引渡しのどれにするかで価格と責任が変わる | 不動産会社 |
| 海外に住む相続人がいる | 署名・本人確認・証明書・送金方法の準備に時間がかかる | 司法書士、税理士 |
| 買主の融資・社内承認・調査条件が残っている | 条件を満たすまで決済日と入金額は確定しない | 不動産会社 |
共有している不動産全体を処分するには、原則として共有者全員の同意が必要です。
自分の共有持分だけを売る方法もありますが、買主も価格も限られやすく、家族関係にも影響します。納税期限が近いという理由だけで、全体売却と比べもせずに持分売却へ進むのは避けてください。
相続登記と不動産売却の必要書類は、戸籍から登記識別情報まで一度に集める
| 資料 | 主な用途 | 取得・確認先 |
|---|---|---|
| 被相続人の出生から死亡までの戸籍・除籍謄本。必要に応じて、 先に相続人になる人や代襲相続人(本来の相続人に代わる人)の戸籍類 | 相続人の確定 | 市区町村 収集後、法務局で法定相続情報一覧図の写しを取得できる |
| 相続人の戸籍・住民票・印鑑証明 | 遺産分割、登記、売買契約 | 市区町村 |
| 遺言書または遺産分割協議書 | 不動産の取得者・売却代金の分け方 | 公証役場、家庭裁判所、相続人 |
| 登記事項証明書・公図・地積測量図 | 名義、抵当権、土地の表示 | 法務局 |
| 固定資産税の課税明細・評価証明 | 不動産の把握、登記、税務 | 市区町村 |
| 相続登記完了後に相続人へ通知される登記識別情報 | 相続人から買主への所有権移転登記 | 相続登記の完了書類、担当司法書士 |
| 購入時の契約書・領収書・建築資料 | 譲渡所得の取得費 | 自宅、貸金庫、購入会社 |
| 境界確認書・賃貸借契約・修繕資料 | 買主への説明、価格、引渡条件 | 自宅、管理会社 |
| ローン残高証明・抵当権抹消条件 | 売却手取り、決済 | 金融機関 |
被相続人の古い権利証は、通常、相続登記後の売却に使う登記識別情報ではありません。それでも物件を特定する手がかりになるので、捨てずに司法書士へ見せてください。
そもそも不動産の所在地が分からない場合は、2026年2月2日に始まった所有不動産記録証明制度を使うと、被相続人が登記名義人になっている不動産を一覧で確認できることがあります。氏名や住所の変更、登記されていない不動産などの事情で把握できない物件もあるため、固定資産税の課税明細や、市区町村が所有不動産を一覧にした名寄帳とあわせて使います。
\ 登記の準備と並行して査定を進める /
相続税の納期限10か月から逆算する、相続不動産の売却スケジュール
不動産売却を、相続税の申告が終わってから始めると間に合いません。税額の計算、遺産分割・登記、売却の3本を同時に走らせます。
どれくらいの時間が必要かは、実際の成約データが手がかりになります。東日本不動産流通機構の2025年の首都圏データでは、物件登録から成約までの日数は、中古マンション82.5日、中古戸建住宅100.9日、土地89.8日でした。
これは首都圏で成約した物件を集計した過去の平均で、相続登記や契約後の決済期間は含まれず、個別物件の売却期間を保証するものでもありません。それでも、9か月目から売り始めて10か月の納付に間に合わせる計画に余裕がないことは分かります。
次の工程は、相続開始の時点から動ける場合の計画例です。法律で決まった標準期間ではありません。途中で問題が出ても別の納付方法へ切り替えられるよう、余白を持たせています。すでに月日が経っているなら、最初から順にたどるのではなく、いまいる位置から作業を前倒ししてください。
まず、相続税の申告が必要か、概算税額はいくらか、納期限はいつかを確認します。同時に、遺言、相続人、財産と債務を調べ、相続放棄・限定承認を検討します。
小規模宅地等の特例を使って申告期限まで保有する案と、期限前に売る案の相続税額を比べます。あわせて、不動産の取得者、売却代金の分け方、売却費用の負担者について相続人間で話し合います。
売却を選ぶ可能性があるなら、同じ資料と希望する決済日を使って、仲介と直接買取の査定を取りましょう。納税資金が不足する見込みなら、この時点から金融機関の借入れや延納についても相談を始めます。
相続人ごとの相続税額と納税資金の不足額を更新し、不動産の取得者と売却代金の分け方を確定します。遺産分割協議書を作成したら、売主となる相続人への相続登記を申請します。
仲介で売る場合は媒介契約を結んで販売を始めますが、直接買取の手取り額と決済可能日も書面でもらっておきます。登記、境界、抵当権などの解決時期を見通せない間は、売却代金を確定した納税資金として数えないでください。
相続登記を終え、決済に必要な書類と抵当権の抹消条件をそろえます。販売中は2〜4週間ごとに問い合わせや内覧の状況、価格、購入希望者の資金計画を確認し、予定どおり決済できるかを見直します。
同時に、売却が間に合わない場合に延納などを利用できるか確認し、必要書類の準備を進めます。決めておいた日までに有力な買付けがない、手取りが不足する、買主の融資が確定しない場合は、価格の見直しや直接買取への切替えを判断します。
相続税申告書と納付方法を固めるとともに、決済に必要な署名、本人確認書類、抵当権抹消書類を確定します。売買契約では、売却価格だけでなく、残代金の額と実際の決済日を必ず確認してください。
判断基準は契約日ではなく決済日です。予定されている決済日が、自分たちで決めた決済完了日を越える場合は、その契約案を納税資金の確保策として当てにせず、買取や別の納付方法へ切り替えます。
売却する場合は、決済、残代金の着金、買主への所有権移転登記を終えます。そのうえで、相続税の期限内申告と金銭納付を完了し、売買契約書や決済書類などの関係資料を保存します。
納期限が近づいても売却代金が入金されていない場合は、査定額や契約予定額を納税資金に含めてはいけません。別資金による納付へ切り替えるか、延納・物納を利用する場合は申請書を期限内に提出します。
仲介から買取へ切り替える判定日を、納期限から逆算して3つ決める
販売開始日を決めただけでは、期限管理になりません。売り方を切り替えるかどうかを判断する日を、あらかじめ3つ決めておきます。この3日を、家族、不動産会社、税理士で共有します。
- 一般の買主を探し続ける最終日 この日までに有力な購入申込(買付け)がなければ、価格調整や直接買取へ切り替えます。
- 売買契約を締結する最終日 買主の融資、測量、解体、残置物処分など、契約から決済までにかかる時間を逆算して決めます。
- 残代金を受け取る最終日 相続税の納付手続の余裕を残し、法定納期限より前に設定します。
判定日を過ぎても「もう少し待てば高く売れる」と販売を続けるなら、期待できる価格の上昇分と、借入利息・延納の利子税・保有費を同じ条件で試算します。値上がりへの期待だけで期限を動かしてはいけません。
\ 切替日を決める前に、買取価格も把握 /
相続税の納税資金を作る売却は、仲介と買取を納期限で使い分ける
仲介と直接買取は、どちらかが常に得という関係ではありません。仲介は市場で買主を探せる代わりに、成約日と決済日の見通しが立ちにくくなります。直接買取は不動産会社などが買主になるため条件を早く固めやすい一方、再販売の費用やリスクが価格に反映されます。
| 比較項目 | 仲介で売る | 不動産会社などへ直接売る |
|---|---|---|
| 買主 | 個人、法人、投資家などを広く募集 | 査定した不動産会社など |
| 価格 | 市場へ出して条件の良い買主を探せる | 再販費用・利益・リスクを見込んだ価格になる |
| 日程 | 買主探しと融資審査で読みにくい | 買主の資金と調査が整えば決済日を決めやすい |
| 室内・土地の条件 | 内覧、測量、修繕などを求められる場合がある | 現況のまま相談できる場合があるが、価格へ反映される |
| 費用 | 通常、媒介契約に基づく仲介手数料を確認 | 直接の買主なら通常は仲介手数料がないが、紹介・媒介が入る取引は別 |
| 向きやすい状況 | 時間に余裕があり、市場で価格を探りたい | 納期限が近い、修繕・残置物・境界など条件が多い |
「買取なら市場価格の何割」といった全国共通の割合はありません。物件、地域、再販方法、売却後に不具合が見つかったときの売主の責任(契約不適合責任)、残置物、測量、引渡時期によって、価格差は変わります。
宅地建物取引業法上のクーリング・オフは、宅地建物取引業者が自ら売主となる一定の売買で、買主を保護するための制度です。個人が売主となって不動産会社へ直接売る契約では利用できません。契約を急かされてもその場で署名せず、複数社の手取り額、決済日、減額条件、どんなときに契約を解除できるかを比べてください。契約後に解除できるかどうかは、契約内容や事情によって判断が変わります。
仲介案と買取案を、同じ資料と同じ基準日で出してもらう
同じ資料と基準日を使い、対応できる不動産会社から次の2案を集めます。
- 仲介案
- 成約予想価格、売出価格、想定買主、販売期限、決済予定、売主負担を書いてもらいます。
- 直接買取案
- 買主の正式名称、提示価格、価格の有効期限、決済可能日、減額条件、売主負担を書いてもらいます。
比べるのは提示価格だけではありません。
納税に回せる見込額
= 提示価格
− ローン返済
− 売却に伴うすべての費用(仲介、登記、測量、解体、残置物処分など)
− 決済までの保有費
− 譲渡所得税等のために残す額
− 日程が延びた場合の資金調達費用
価格が高くても、決済日が納期限を越える案は、そのままでは納税資金を作る役に立ちません。逆に、買取価格が低すぎて相続税の不足額を埋められないなら、早く決済できても解決にはなりません。
\ 同じ基準日で、仲介と買取を並べる /
相続税の納期限を伝えて、不動産会社へ確認する7つの質問
- この価格は査定額、売出価格、成約予想価格、買取価格のどれですか。
- 納期限より前の指定日までに、残代金の入金を終えられますか。
- その日程の前提になっているのは、相続登記、測量、解体、残置物、買主融資のどれですか。
- 決済時に差し引かれる費用とローン返済額を含めた手取り表を出せますか。
- 契約後に価格が変わる条件、買主が解除できる条件は何ですか。
- 仲介で指定日までに買付けがない場合、価格変更または買取へ切り替える日はいつですか。
- 税務・遺産分割・登記の判断について、御社と税理士・弁護士・司法書士の役割分担はどうなりますか。
「高く売れます」「急げば間に合います」だけでは、納税計画になりません。金額、日付、まだ終わっていない手続や条件を、文書にして比べてください。
相続不動産を売った利益には、相続税とは別に譲渡所得税がかかる
相続税と、相続した不動産を売ったときの譲渡所得税等は、別の税金です。相続税を払うための売却であっても、利益が出れば譲渡所得の申告が必要になることがあります。
土地・建物の課税譲渡所得は、基本的に次の式で計算します。
課税譲渡所得
= 売却による収入金額
− 取得費
− 譲渡費用
− 適用できる特別控除
売却代金の全額が利益になるわけではありません。かといって、相続税評価額を取得費として使えるわけでもありません。
取得費と所有期間は被相続人から引き継ぐ、資料がなければ概算取得費5%
相続した土地・建物の取得費は、原則として被相続人が買ったときの購入代金や購入手数料などをもとに計算します。建物は、所有期間中の減価償却費相当額を差し引いて取得費を計算します。所有期間も、被相続人が取得した時期を引き継ぎます。
購入時の資料が見つからないときなどは、売却額の5%を概算取得費にできます。ただしこの金額は実額より小さくなりやすく、その分、譲渡所得が大きくなります。売却を急いでいても、次の資料は探してください。
- 被相続人の売買契約書、建築請負契約書
- 購入時の仲介手数料、登記費用などの領収書
- 通帳の支払記録、住宅ローンの資料
- 分譲会社、仲介会社、施工会社に残る記録
- 建物の取得価額と減価償却を確認できる申告書
取得費加算の「約3年10か月」は、相続税の納付期限ではない
相続や遺贈で取得し、その人に相続税が課税された財産を一定期間内に売ると、相続税額のうち一定額を譲渡所得の取得費へ加算できる場合があります。
その期間は、相続開始のあった日の翌日から、相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までです。通常の相続では「おおむね3年10か月」と説明されますが、正確な日付は個別に計算します。
紛らわしいのですが、これは譲渡所得の取得費加算を使うための期限であって、相続税を申告・納付する10か月とは役割が違います。「3年10か月以内に売ればよい」と考えて相続税の納付を先送りすることはできません。
空き家3,000万円特別控除と取得費加算は、同じ物件では併用できない
被相続人が一人で住んでいた一定の家屋と敷地を売る場合、要件を満たせば譲渡所得から最高3,000万円を控除できます。2024年1月1日以後の譲渡で、その家屋と敷地を取得した相続人が3人以上いるときは、1人当たり最高2,000万円です。
制度そのものの適用期間は2027年12月31日までですが、各相続では、相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売る必要があります。「2027年までなら、どの相続でも間に合う」という意味ではありません。
ほかにも要件がいくつもあります。1981年5月31日以前に建てられたこと、マンションの一室などの区分所有建物でないこと、相続開始の直前に被相続人以外が住んでいなかったこと、売却代金の合計が1億円以下であることなどです。分割売却や他の相続人による売却分を、1億円以下かどうかの判定で合算する場合もあります。
家屋を残して売る場合は耐震基準を満たすこと、敷地だけを売る場合は家屋を取り壊すことなども必要です。2024年1月1日以後の譲渡では、一定の場合、売却後から売却年の翌年2月15日までに耐震改修または取壊しを完了する方法もあります。
同じ家屋・敷地の譲渡について、空き家の特別控除と相続税の取得費加算は併用できません。取得費、相続税額、売却範囲、相続人の人数を入れて両方の税額を計算し、有利なほうを選びます。
譲渡所得の申告は、原則として資産を譲渡した年の翌年2月16日から3月15日までです。相続税へ売却代金を使い切って翌年の所得税・住民税を払えなくならないよう、決済時に税額の見込分を別口座へ残しておきます。
\ 譲渡所得の取り置きも、価格しだい /
不動産売却が間に合わないときは、相続税の延納・物納を申告期限までに申請する
売却は有力な方法ですが、買主が現れなければ使えません。相続税は金銭で期限内に一括納付するのが原則で、現金が足りないというだけで自動的に分割払いになるわけでもありません。
納税資金を作る方法は、資金の形と、どこに不確実性が残るかで比べます。
| 方法 | 資金・納付の形 | 向きやすい状況 | 主な負担・不確実性 |
|---|---|---|---|
| 相続した預金・有価証券等を使う | 取得した流動資産を金銭納付へ回す | 資産配分と解約・払戻しが期限内に確定する | 遺産分割 名義変更 価格変動 |
| 本人資金・金融機関の借入れ | 先に金銭納付し、不動産は急いで売らない | 売却を待つ価値があり、返済の見込みがある | 利息 担保、審査 返済原資 |
| 仲介または直接買取 | 不動産を現金化する | 売却権限と決済日を確定できる | 価格 売却費用 期限 譲渡所得税 |
| 延納 | 許可を受けて年ごとの分割払い(年賦)で納める | 一括納付は難しいが、毎年の分納は続けられる | 利子税、原則担保 審査、申請書類 |
| 物納 | 一定の相続財産を国へ納める | 延納でも金銭納付が難しく、物納の要件を満たす財産がある | 厳しい要件 国が納税額として受け入れる価額(収納価額) 整備・審査 |
なお、加算税、延滞税、ほかの相続人分として負担する連帯納付責任額は、延納の対象になりません。物納では、これらに加えて利子税も対象外です。
延納は申告期限までに申請書を出し、担保と利子税を準備する
期限内申告に伴って相続税の延納を申請するには、主に次の要件をすべて満たす必要があります。
- 相続税額が10万円を超える
- 現金での納付が難しい事情があり、延納する額がその範囲内である
- 延納税額と利子税に相当する担保を提供する
- 延納申請書を申請期限までに提出する
延納税額が100万円以下で、かつ延納期間が3年以下なら、担保は不要です。延納している間は、利息に当たる「利子税」がかかります。
担保提供関係書類は原則として申請書に添付しますが、期限までにそろわない場合は、所定の届出により1回につき3か月、合計で最長6か月まで提出期限を延ばせます。延ばせるのは担保関係書類の提出期限であって、延納申請書そのものの期限ではありません。
また、2025年4月1日以後に始まった相続に係る申請では、延納・物納できる上限額(許可限度額)の計算方法が変わっています。
- 現金で納付できる額と延納許可限度額
- 納期限時点の現金・預貯金など現金化しやすい財産から、申請者と生計を一にする家族の3か月分の生活費、申請者の事業継続に必要な3か月分の運転資金などを差し引き、現金で納付できる額を計算する
- 物納許可限度額
- 延納で支払える額を計算する際に、将来の確実な収入減少、延納可能最長年数と平均余命年数、一定の臨時収支、延納終了後の当面の生活費・事業経費などを反映する
そのため、不動産を売りに出していることや、預金残高が税額に届かないことだけを理由に、延納・物納が認められるとは限りません。資産、収入、生活費、事業経費、借入れの可能性などを示す資料が必要です。売却が間に合わないかもしれないと感じた時点で、必要書類と、何を担保として認めてもらえるかを確認してください。
物納は不動産をそのまま渡せる制度ではなく、管理処分不適格財産は使えない
物納は、延納によっても現金での納付が難しい場合に、その金額を上限として一定の相続財産を納める制度です。物納に使えるのは、相続税の計算対象になった国内財産のうち、法律で決められた優先順位と要件を満たすものに限られます。
不動産であっても、次のようなものは国が管理・処分しにくいため、物納できない財産(管理処分不適格財産)になることがあります。
- 抵当権などの担保権が設定されている
- 権利の帰属に争いがある
- 土地の境界が明らかでない
- 共有不動産である(共有者全員が申請する場合などを除く)
- 国が借金や義務を引き受けることになる、または管理・処分に多額の費用がかかる
- 物納に必要な撤去・修繕・書類整備などが済んでいない
物納した財産について、国が納税額として受け入れる金額(収納価額)は、原則として相続税を計算するときに使った価額です。小規模宅地等の特例を適用した財産なら、原則として特例適用後の価額が基礎になります。市場で売った場合の価格で納めたことになる制度ではないため、市場売却の手取りとは必ず比べてください。
物納申請書も、期限内申告に伴う申請では原則として相続税の申告期限までに提出します。物納手続関係書類が期限までにそろわない場合は、所定の届出により1回につき3か月、合計で最長1年まで提出期限を延ばせます。ここでも、物納申請書そのものを期限後に出せるわけではありません。
つまり、期限内申告に対する通常の延納・物納は、何も申請しないまま納期限を過ぎたあとで、さかのぼって選べる制度ではありません。必要になりそうだと分かった時点で、売却と並行して期限内申請の準備を始めます。
なお、延納の許可を受けたあとに納付の継続が難しくなった場合は、一定の要件のもと、申告期限から10年以内で、まだ分納期限が来ていない分を延納から物納へ切り替える「特定物納」に変更できることがあります。
\ 延納の前に、売れるかどうかを確かめる /
相続税を払えないまま放置すると、延滞税がかかり差押えの可能性がある
期限までに納付できないと、原則として法律上の納期限(法定納期限)の翌日から完納の日まで延滞税がかかります。督促を受けても納めなければ、財産の差押えなど、強制的な徴収手続(滞納処分)を受ける場合があります。
2026年中の延滞税率は、原則として納期限の翌日から2か月を経過する日までが年2.8%、その翌日以後が年9.1%です。割合は年によって変わるため、実際に納付する時点の率を確認してください。
ここで、申告と納付は分けて考えてください。
- 税額を払えなくても、申告期限はそのまま来る
- 遺産分割が終わっていなくても、申告期限は延びない
- 期限後申告や過少申告には、状況により加算税がかかる
- 期限内に申告しても、納付が遅れれば延滞税がかかる
「お金がないので申告もできない」という順序にはなりません。申告書を作り、払える額、売却の見込み、借入れの可否、担保にできる財産、毎月の収支を整理したうえで、税理士と所轄税務署へ相談します。
連帯納付義務があるため、他の相続人へ通知が届くことがある
相続税では一定の場合を除き、各相続人などが、相続や遺言による贈与(遺贈)で受け取った財産などの価額を上限として、ほかの相続人の相続税も連帯して納める義務を負います。
一人が納めないまま放置すれば、すでに自分の税額を納めた他の相続人へ納付通知書が届く可能性があります。誰がいくら納めるか、資金を立て替えるならどう精算するかは、遺産分割の話し合いと切り離さないでください。
すでに納期限を過ぎているときは、換価の猶予・納税の猶予を相談する
売却を続けながら、次の順で動きます。
- 相続税の申告が必要か、すでに申告しているかを確認する
- 未申告なら、期限後申告を含む必要な手続を税理士へ依頼する
- いま払える金額と、売却・借入れによる入金予定を整理する
- 納税地を担当する税務署(所轄税務署)の徴収担当へ連絡し、納付方法と使える猶予制度を相談する
- 不動産会社へ、差押え・抵当権・決済条件の確認に必要な情報を開示する
国税を一度に納めると生活や事業の継続が難しくなるなど、一定の要件を満たす場合には、財産の売却を待ってもらう「換価の猶予」が認められることがあります。申請による換価の猶予は、原則として納期限から6か月以内に申請書を提出することが要件の一つです。
災害、病気、事業上の著しい損失など法令で定められた事情がある場合は、「納税の猶予」が認められることもあります。どちらも相続税だけに用意された延納とは別の制度で、要件も効果も異なります。使えるかどうかを自分で決めつけず、税務署の徴収担当へ事情を伝えてください。
相続税と不動産売却は、税理士・司法書士・不動産会社・弁護士を同時に動かす
この売却は、不動産会社だけでも、税理士だけでも完結しません。役割を分けておくと、いま誰の返事を待って全体が止まっているのかが見えます。
| 相談先 | 主な担当 | 最初に渡すもの | 得るべき答え |
|---|---|---|---|
| 税理士 | 相続税、特例、納税不足額、延納・物納、譲渡所得 | 財産・債務一覧、税務資料、売却査定 | 税額、納期限、売却前後の税額、申請期限 |
| 司法書士 | 相続人・登記資料の確認、相続登記、決済登記 | 戸籍、遺言・協議案、登記事項証明書 | 売主名義にできる日、追加書類、登記費用 |
| 不動産会社 | 現況調査、仲介・買取査定、販売、契約、決済 | 物件・権利・修繕・境界・期限の資料 | 成約予想価格、手取り、決済日、未解決の条件 |
| 弁護士 | 遺産分割の争い、行方不明、判断能力、契約・差押え | 相続関係図、争点、連絡記録、契約案 | 誰が何を決められるか、必要な裁判所手続 |
土地の境界や未登記建物は土地家屋調査士へ、借入れや抵当権の抹消条件は金融機関へも確認します。
税理士・司法書士・弁護士への初回相談で確認する項目
専門家への初回相談では、制度の一般的な説明を聞くだけでなく、金額・期限・完了予定日を具体的に確認します。相談先ごとの主な確認事項は、次のとおりです。
| 相談先 | 初回相談で確認すること | 持ち帰る答え |
|---|---|---|
| 税理士 | 各相続人の税額と納期限、期限前に売った場合の特例への影響、譲渡所得税等の取り置き額、延納・物納の準備 | 売却前後の税額、納税資金の不足額、申請書類と提出期限 |
| 司法書士 | 戸籍・遺言・遺産分割協議書の不足、売主となる人への相続登記、抵当権や住所変更など決済に必要な登記 | 相続登記の完了見込日、追加書類、登記費用 |
| 弁護士 | 相続放棄・限定承認に影響する行為、売却を決められる人、遺産分割の争いや行方不明者などに必要な裁判所手続 | 売却へ進める条件、避けるべき行為、必要な手続と見込期間 |
不動産会社には、相続税の納期限を伝えたうえで、提示された価格が査定額・成約予想価格・買取価格のどれかを確認します。さらに、ローン返済や売却費用を差し引いた手取り額、決済可能日、契約後の減額・解除条件、仲介から買取へ切り替える日を書面でもらってください。
相談後は、相続税額、納期限、売却手取り、相続登記の完了見込日、決済日、延納・物納の申請期限を一枚の表へまとめます。専門家ごとに異なる前提で動いていると、それぞれの手続が正しくても、納税期限に間に合わないおそれがあります。
相続税の納税資金は、決済日から逆算して確保する
相続税を払う現金が足りなくても、相続した不動産を売って納税資金を作ることはできます。ただし売却代金を使うなら、10か月以内に売買契約を結ぶだけでは足りません。売主と売却権限を確定し、相続登記、契約、決済、着金、そして相続税の納付までを、期限から逆算します。
最初に確認するのは、相続放棄・限定承認を検討する余地があるかどうかです。売却へ進むなら、相続人ごとの税額と納期限を税理士に確認し、売却価格ではなく、ローン返済・売却費用・譲渡所得税等の取り置きを引いた「納税へ回せる額」で判断します。あわせて、期限前に売って小規模宅地等の特例を失わないかも確かめてください。
相続人、売却権限、相続登記、決済日、手取り額のどれか一つでも決まらないなら、売却だけを当てにせず、別の納付方法も準備します。
仲介と直接買取を比べながら、期限が来る前に延納・物納を使えるか確認してください。すでに期限を過ぎているなら、所轄税務署の徴収担当へ早急に連絡します。
\ 1社だけで決めず、価格と条件を比較 /
※本記事は一般的な情報であり、個別案件の税務・法務判断を示すものではありません。相続税額、特例、延納・物納は税理士・税務署、相続登記は司法書士、相続放棄・限定承認、遺産分割や売却権限の争いは弁護士へ、資料と期限を示して確認してください。
出典
国税庁「相続税の申告と納税」
国税庁「相続財産が分割されていないときの申告」
国税庁「相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)」
国税庁「財産評価基本通達 第1章 総則」
国税庁「相続税の延納」
国税庁「相続税の物納」
国税庁「物納許可限度額等の計算方法が変わりました」
国税庁「延滞税の割合」
国税庁「国税を期限内に納付できないとき」
国税庁「相続や贈与によって取得した土地・建物の取得費と取得の時期」
国税庁「取得費が分からないとき」
国税庁「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」
国税庁「被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」
法務省「相続登記の申請義務化について」
法務省「相続人申告登記について」
法務省「所有不動産記録証明制度について」
裁判所「相続の放棄の申述」
e-Gov法令検索「民法」
東日本不動産流通機構「首都圏不動産流通市場の動向(2025年)」
国民生活センター「自宅を訪ねて来た不動産業者から自宅を売却してほしいと勧誘されましたが、売却する時にはどんなことに気をつけたらよいでしょうか。」(公開日:2021年10月28日)
リビン・テクノロジーズ株式会社「『リビンマッチ』が全国認知度・今後利用したい不動産査定サイト 6年連続No.1に輝きました!」(公開日:2025年10月9日)
リビンマッチ「不動産一括査定・売却はリビンマッチ」

