- 実家を売るか待つかを、4つの条件で判断できる
- 入居金の支払期限に間に合うかを、決済日から逆算して確かめられる
- 査定額ではなく手取り見込みで、仲介と買取を比べられる
- 誰が売る権限を持つのかを、名義と本人の意思から確認できる
- 間に合わないときに、値下げより先に当たる先を選べる
親の老人ホーム入居が決まっても、実家をすぐ売るのが正解とは限りません。ただし、準備は早く始めたほうがよいでしょう。本人の意思で通常の売却を進めやすいのは、親が契約内容を理解し、自分で判断できるうちだからです。判断能力が低下すると、成年後見制度の利用や家庭裁判所の許可が必要になることがあります。
確かめる順番は決まっています。施設の契約条件、親が家へ戻る可能性、家の名義、そして親本人の意思。この4つを確認してから、売るかどうかを決めます。
入居金に売却代金を充てるなら、見るべき日付は査定日でも売買契約日でもありません。決済日です。決済日とは、買主から残りの代金を受け取り、家を引き渡す日を指します。
ここを取り違えると、「2,000万円で売れそう」と分かった時点で安心してしまい、入居金の支払いに間に合わないことがあります。仲介では、買主が決まって売買契約を結んだ後も、決済までには時間がかかります。買主の融資や必要書類に問題があれば、予定が延びる可能性もあります。
なお「老人ホーム」は、有料老人ホーム、特別養護老人ホーム、介護老人保健施設、認知症グループホームなどをまとめた呼び方です。売却を考える基本的な手順は、施設の種類が違っても変わりません。
ただし、前払金の支払方法や返還ルールは、主に有料老人ホームの公表資料をもとに説明します。ほかの施設やサービス付き高齢者向け住宅では、実際の契約書と重要事項説明書を確認してください。
最初の一歩は、置かれている状況で変わります。今の状況に近い行を探してください。
| 今の状況 | 最初にすること |
|---|---|
| 親が売却に同意し、契約内容も理解できる | 名義、ローン、購入時の契約書を確認し、売り方を比べる |
| 施設を比較中、体験入居中、家へ戻る可能性がある | 査定と書類確認までは進め、売買契約は結ばない |
| 入居金の支払期限が迫っている | 施設の支払方法と、仲介・買取それぞれの入金日を同時に確認する |
| 親が売却の意味を理解できるか判断しにくい | 委任状を作る前に、本人の意思をどう確認するかを不動産会社や司法書士へ相談する |
| 成年後見人など、法律上の代理人がすでにいる | 自宅の売却に家庭裁判所の許可が要るかを、契約前に確認する |
| ローンの残額と売却費用が、売却代金を上回りそう | 不足額を計算し、自己資金で補えるか、金融機関が抵当権(ローンの担保)を外す手続きに応じるかを確認する |
| 子ども名義に変えてから売ろうとしている | 名義変更をいったん止め、贈与税などの影響を税理士・司法書士へ確認する |
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※2025年9月19日〜23日、全国の20〜60代男女3,000人を対象とした調査(株式会社マーケティングアンドアソシェイツ調べ)
老人ホーム入居で実家を売るタイミングは「4条件」で判断する
「入居前か、入居後か」だけで売る時期を決めると、判断を誤ります。時期そのものより、次の4つがそろっているかどうかが決め手です。
- 親の意思と、誰が売る権限を持つのかがはっきりしている
- 施設の契約内容と支払期限を、書面で確認できている
- 家へ戻る可能性と、退所したときの住まいを家族で話せている
- 売却代金がいつ入り、費用を引いていくら残るのかが分かっている
一つでも曖昧なら、査定や書類集めは進めても、売買契約は待ちます。
とくに「施設が合わなければ家に戻りたい」と親が思っているのに入居前に売ってしまうと、戻る場所そのものがなくなります。原則として、次のどれかに当てはまるうちは売買契約へ進まないでください。
- 所有者が誰か、代理人にどこまで任せられるか、本人が売却の意味を理解できるかを確認できない
- 共有者の全員が、共有不動産全体を売ることに同意していない
- 家庭裁判所の許可が必要な売却なのに、まだ得ていない
- 支払期限より前に決済できるか分からず、代わりの資金もない
- ローンの残額と売却費用が売却代金を上回り、不足分の手当てができていない
- 施設を退所したときの住まいを、まだ決めていない
親が売却を望み、入居も決まり、空き家の維持も難しい。この状態なら、入居前から動き出します。
登記事項証明書で名義を調べる、ローン残高を確認する、購入時の契約書を探す、家財の整理方針を決める、査定を受ける。ここまでは「売る」と決める前でも進められます。調べた結果を見て「やはり今は売らない」と判断しても構いません。
老人ホーム入居前に実家の売却まで進めやすいケース
これらは、一つだけ当てはまればよいという条件ではありません。親本人が売却を理解して同意しており、施設の契約や退所後の住まい、決済までの資金計画も固まっているほど、入居前に売却手続きを進めやすくなります。
ただし、入居金の支払期限が迫っていても、親の意思や共有者の同意、家庭裁判所の許可などに確認事項が残っている場合は、売買契約を急がないでください。査定や必要書類の準備を先に進め、不動産会社や司法書士と決済可能日を確認してから契約へ進みます。
- 親自身が売却を望み、売る家、価格の目安、売却後の生活を理解している
- 施設の本契約が済み、退所したときの住まいも考えてある
- 空き家の管理が難しく、維持費が親の生活費を圧迫している
- 入居金に売却代金が必要で、期限前の決済を確定できる
- 共有者の同意と、抵当権を外すための金融機関との調整が済んでいる
入居後まで実家の売却を待つ余地があるケース
- 体験入居や短期利用の段階で、施設が合うかどうか分からない
- 親が実家へ戻りたいと考えており、医療・介護の面でも戻れる見通しがある
- 施設の契約、入居日、初期費用がまだ確定していない
- 入居金は預貯金などで賄え、急いで安く売る必要がない
- 本人が売却を理解できるか、代理人にどこまで任せられるか、共有者が同意しているかに、確認事項が残っている
待つ場合も、そのまま放っておかないことです。「入居から3か月後に、本人の希望、施設での暮らし、家の維持費、税金の期限をもう一度見直す」というように、家族で再検討の日を決めておきます。
\ 売ると決める前でも、査定だけは受けられます /
老人ホームの入居金に間に合うかは、実家売却の「決済日」から逆算する
査定で高い金額が出ても、そのお金をすぐ使えるわけではありません。売却は、次の順に進みます。
- 査定
不動産会社が、売れそうな価格の目安を出します。 - 売り出し
不動産会社へ仲介を依頼し、買主を探します。 - 購入申し込み
買主候補から、価格や条件の希望が出ます。 - 売買契約
売主と買主が条件に合意し、通常は手付金を受け取ります。 - 決済・引き渡し
残りの代金を受け取り、家を引き渡します。ここで、ローン返済や売却費用を差し引いた代金を使える状態になります。
査定額は、不動産会社が「これくらいで売れそう」と見込んだ金額です。売り出し価格は広告に出す希望価格であって、成約価格ではありません。売買契約を結んだ時点で受け取れるのも、通常は手付金だけです。
契約から残代金の決済・引き渡しまでは、数週間から数か月かかることがあります。決済の日には、名義を買主へ移すための情報や、住宅ローンの抵当権を外すための書類も確認します。必要な書類や情報が整わなければ、決済が延期されることがあります。
入居金の資金計画に入れてよいのは「高く売れそうな金額」ではなく、期限前の決済で実際に残る見込み額だけです。
| 売却の段階 | 入居金の資金計画での扱い |
|---|---|
| 査定額が出た | まだ使えない 比較材料にとどめる |
| 売り出し価格を決めた | まだ使えない 買主も実際の売却価格も未定 |
| 購入申込書を受け取った | 買主候補の希望にすぎず、条件変更や撤回もある |
| 売買契約を結び、手付金を受け取った | 契約解除時の返還に備え、原則として入居金へ回さない |
| 決済条件・必要書類が整い、残代金を受け取った | ローン返済や売却費用を差し引いた範囲で使える |
老人ホームの支払期限と実家売却の日程を照合する「6つの日付」
施設と家、それぞれで日付が動きます。次の欄を埋めると、まだ決まっていないものが浮かび上がります。
| 確認する日付 | 日付・期限 | 確認先 |
|---|---|---|
| 施設の申込期限 | __年__月__日 | 施設 |
| 施設の本契約日 | __年__月__日 | 施設 |
| 入居金・前払金の支払期限 | __年__月__日 | 施設 |
| 入居予定日 | __年__月__日 | 施設 |
| 家の売買契約予定日 | __年__月__日 | 不動産会社・買主 |
| 家の決済・残代金入金予定日 | __年__月__日 | 不動産会社・買主・金融機関 |
売却代金を入居金に充てるなら、いちばん下の「決済・残代金入金予定日」が、施設の支払期限より前に来る必要があります。同じ日に重ねるのは危険です。送金の締切、書類の不足、買主の融資実行。どれか一つが遅れれば、そのまま施設への支払遅延につながります。
何日空ければよいかは、施設側の扱い、金融機関の送金方法、取引条件によって変わります。不動産会社と施設の双方に確認し、余裕を持って決めてください。
以下は記入例です。日付は架空で、標準的な日数を示すものではありません。
| 確認する日付 | 仮想例 | この時点で確認すること |
|---|---|---|
| 施設の申込期限 | 2026年8月5日 | 申込金の返還条件 |
| 施設の本契約日 | 2026年8月12日 | 支払方式、解約・返還条件 |
| 入居金・前払金の支払期限 | 2026年10月15日 | 遅れた場合の扱い |
| 入居予定日 | 2026年10月20日 | 入居前に解約した場合の扱い |
| 家の売買契約予定日 | 2026年9月1日 | 手付金、解除条件、買主の融資条件 |
| 家の決済・残代金入金予定日 | 2026年10月5日 | ローン完済、必要書類、着金額 |
この例では、決済日から支払期限まで10日あります。ただし、10日あれば安心とは限りません。買主の融資、登記書類、施設への送金方法を確認し、それでも決済が遅れたときの資金を用意できるかどうかで判断します。
\ 決済までの日数は、依頼先によって変わります /
実家の査定額ではなく「手取り見込み」で老人ホーム費用の不足額を測る
入居金が1,000万円、家の査定が1,500万円でも、それだけで足りるとは判断できません。住宅ローン、売却費用、家財の処分費、税金への備えを差し引くため、手元に残る額は査定額を下回ります。
不足額は、家の値段からは出せません。施設側でいくら必要になるかが決まって、はじめて計算できます。
施設入居に必要な資金 = 入居時の前払金・初期費用 + 引っ越し・家財・医療などの初期支出 + 家族で決めた月額不足への備え
施設資金の不足額 = 施設入居に必要な資金 − 親が使える預貯金など
ここでいう「親が使える預貯金」は、口座残高の全額ではありません。急な入院費、日用品、施設の月額費用、退所や転居に備えるお金を残したうえでの金額です。
家の側も、見るのは売却価格そのものではありません。費用を引いた後に残る金額です。以下では、これを「税引前の手取り見込み」と呼びます。
税引前の手取り見込み = 売却価格 − 住宅ローン返済額 − 仲介手数料などの売却費用 − 登記・家財整理・測量などの必要費用 − 決済までの保有費
保有費とは、家を引き渡すまでにかかる固定資産税、保険料、光熱費、管理費などです。
売却益に税金がかかりそうなら、その分も別に取り分けます。税額が分からないまま「残ったお金は全部使える」と考えないことです。
架空例|仲介と買取で、老人ホーム費用へ回せる額はどう変わるか
次は計算方法を示すための架空例です。実際の相場や標準的な費用を示すものではありません。単位は万円です。まず、施設側の不足額から出します。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 入居時の前払金・初期費用 | 800 |
| 引っ越し・家具・当初の医療費など | 60 |
| 家族で決めた月額不足への備え | 120 |
| 必要資金の合計 | 980 |
| 親の預貯金500万円のうち、緊急予備費150万円を残した使用可能額 | -350 |
| 不足額 | 630 |
家には600万円の住宅ローンが残っています。仲介と買取について、費用をすべて並べると次のようになりました。
| 項目 | 仲介案 | 買取案 |
|---|---|---|
| 売却価格(仲介は成約予想価格) | 1,700 | 1,500 |
| 住宅ローン完済額 | -600 | -600 |
| 仲介手数料 | -63 | 0 |
| 印紙・登記・司法書士など | -7 | -7 |
| 家財整理・引っ越しなど | -20 | -43 |
| 決済までの保有費・その他 | -10 | -10 |
| 税引前の手取り見込み | 1,000 | 840 |
| 売却益にかかる税金への備え | -100 | -100 |
| 施設費へ回す計画額 | 900 | 740 |
| 入金時期 | 買主未定 | 支払期限前の決済条件を書面で確認 |
費用と税金への備えは、計算方法を示すための仮の金額です。買取案の仲介手数料を0円としたのも、不動産会社が直接買い、別の仲介会社が入らないと想定したからです。実際の金額は、査定書や契約条件、税理士などの試算に置き換えてください。
この例では、仲介のほうが160万円多く残ります。ただし、支払期限までに買主が見つかるか、決済日がいつになるかは決まっていません。
入居金を別の安全な資金で一時的に立て替えられるなら、仲介で買主を探す時間を取れます。立て替えられないなら、買取案、施設の支払方法の変更、入居日の調整を並べて比べます。
選ぶ基準は「いちばん高い数字」ではありません。
期限までに、親のために実際に使えるお金がいくら残るかです。
\ 手取り見込みの出発点は、査定額です /
実家の売却が老人ホームの入居金支払いに間に合わないときの確認順
支払期限が近づくと、まず家の値下げを考えがちです。しかしその前に、施設側で条件を変えられないか確かめてください。次の順に当たれば、安く手放す判断を最後に回せます。
老人ホームへ前払金の金額・支払期限・返還条件を書面で確認する
有料老人ホームの支払方法には、全額前払い、一部前払いと月払いの併用、月払いなどがあります。どれを選べるかは施設ごとに違うので、まず確認するのはそこです。
契約前に、入居契約書、管理規程、重要事項説明書、サービス一覧を受け取ります。そのうえで、前払金の計算方法、前払金を利用期間に応じて費用へ充てていく「償却」、退去時の返還額、運営会社が返金できなくなった場合に備える「保全措置」、月額費用と追加負担を確認します。
有料老人ホームでは、前払金を支払って入居後3か月以内に契約が終了した場合、契約書に定める実際の利用期間分の利用料などを差し引き、残額を返還する契約とする仕組みがあります。ただし、一般的なクーリングオフとは別の制度です。3か月は契約日ではなく入居日から数えます。返還額が決まっても即日入金とは限らないため、計算式と返金日の両方を契約書で確認してください。
金額と期限を聞くだけでは足りません。期限を過ぎたときの扱いと、返金される時期まで含めて尋ねます。
- 申込金、入居金、前払金など、名称ごとの金額と支払期限
- 期限を過ぎた場合、部屋の確保や契約はどうなるか
- 前払方式・一部前払方式・月払方式などを選べるか
- 入居日や支払日を変更できるか
- 入居前に解約した場合、申込金などは返ってくるか
- 入居後まもなく退所した場合の返還額と、返金の時期
- 月額利用料に含まれない医療、介護、消耗品などの費用
返還ルールは、口頭の説明だけで判断しないことです。「家が売れなかった場合はどうなるか」を担当者へ率直に伝え、契約書の該当箇所を指してもらいます。
扱いは施設の種類や契約によって違うため、別の施設で聞いた条件を当てはめてはいけません。
実家の仲介と不動産買取を、同じ条件の書面で比べる
仲介は、不動産会社に買主を探してもらう方法です。広く買主を募れる代わりに、成約価格も決済日も、買主が決まるまで確定しません。
買取は、不動産会社などが直接買う方法です。価格と決済日を早い段階で詰めやすく、内覧や家財整理の負担を減らせる場合もあります。その代わり、再販売にかかる費用や利益を価格に織り込むため、仲介の成約予想価格より低くなることがあります。
| 比較する項目 | 仲介 | 買取 |
|---|---|---|
| 価格 | 成約予想価格を幅で確認 | 現地確認後の買取価格を確認 |
| 決済日 | 買主が決まってから調整 | 提示の時点で対応可能日を聞きやすい |
| 売主の負担 | 仲介手数料、片付け、修繕などを確認 | 仲介手数料の有無、価格から差し引く費用を確認 |
| 家財 | 原則は撤去。残せる物があるかを確認 | 家具や荷物を残したまま引き渡せる範囲を確認 |
| 契約条件 | 買主の融資、引き渡した家が契約内容と違った場合の売主の責任、解除条件 | 再査定・減額の条件、引き渡し後の売主の責任、解除条件 |
「高く売れます」「すぐ買い取れます」という口頭の説明で決めず、次の条件を書面で並べて比べます。
- 仲介の成約予想価格は、低め・標準・高めでいくらか
- 買取価格は、現地確認の後も変わらないか
- 親が最終的に受け取る税引前の手取り見込みはいくらか
- 売主が用意する書類は何か。決済日が延びるのはどのような場合か
- 仲介会社と買主は同じか。別なら仲介手数料はかかるか
- 家財、境界、測量、修繕などの費用は誰が負担するか
「仲介で一定期間売れなければ買い取る」という保証を付ける会社もあります。使うなら、買取価格、切替日、適用条件、途中の値下げ、対象外になる事情まで契約書で確かめます。
\ 複数社へ依頼し、仲介・買取への対応を確認 /
それでも足りないときだけ、入居金のつなぎ資金を検討する
家族が一時的に立て替えるときも、親子だからと口約束で済ませないほうが安全です。金額、振込日、返済期限、売却代金から返すことを書面にし、そのとおりに返します。
親族間でも、返済能力があり、実際に返している貸し借りなら、借入金そのものは贈与になりません。逆に「ある時払い」のような曖昧な約束は、贈与として扱われる場合があります。無利息にした場合も、利息相当額が贈与と扱われる可能性があるため、金額が大きいときは税理士へ確認してください。
融資を使うなら、金利だけを見ないでください。事務手数料、担保を設定する費用、返済期限、売却が遅れた場合の負担、予定より早く返すときの費用まで含めて比べます。「家は高く売れるはず」という見込みを返済の当てにしてはいけません。借りられるかどうかだけでなく、家を急いで売る場合と比べて総負担が小さいかどうかも確かめてください。
低所得世帯や高齢者世帯などを対象とする生活福祉資金貸付制度もあります。ただし、利用目的、収入、資産、地域の審査といった条件があり、入居金のつなぎとして誰でも使える制度ではありません。利用できる資金の種類と使途は、地域の社会福祉協議会へ確認してください。
実家を売る・貸す・空き家のまま持つを、親の暮らしを軸に比べる
実家の選択肢は、売るだけではありません。貸す、しばらく持つという方法もあります。親の希望、家へ戻る可能性、資金、管理の手間を、同じ基準で並べて比べます。
| 選択肢 | 向いている状況 | 注意点 |
|---|---|---|
| 売る | 戻る予定がなく、施設費用や今後の生活費に充てたい | 売った後は戻れない 期限を優先して価格を下げすぎない |
| 貸す | 戻る可能性が低く、賃貸需要があり、修繕・管理を続けられる | 空室、修繕、滞納、退去交渉がある 売りたい時にすぐ売れるとは限らない |
| いったん持つ | 施設に慣れるか、本人の希望が変わらないかを見てから決めたい | 管理者、保険、郵便、庭、換気、光熱水費、再検討日を決めておく |
貸せば家賃は入りますが、まとまった入居金をすぐ用意する方法にはなりません。入居者がいる状態で売る場合は、空き家として売る場合と、想定する買主も価格条件も変わります。
一方で、貸したからといって、売却益から最高3,000万円を差し引ける税の特例が直ちに使えなくなるわけではありません。住まなくなった家は、一定の期限までに売るなどの要件を満たせば、その間の使い道は問われないからです。ただし、賃貸中も売却期限は延びず、取り壊した場合には追加の条件があります。
貸すか迷うときは、想定家賃だけで判断しないことです。空室期間、管理委託料、修繕費、固定資産税、保険料を差し引いた収支を出します。そのうえで「いつまで貸すか」「何が起きたら売るか」、そして将来売るときの条件を決めておきます。
実家を空き家のまま残すなら、管理の担当者と見直し日を決める
家を空けたままにすると、これまで親がしていた作業を、誰かが引き継ぐ必要があります。次を家族で分担してください。
- 郵便物の転送と、重要書類の保管
- 火災保険会社への、使用状況の連絡
- 換気、通水、漏水、雨漏り、庭木、害虫の確認
- 電気・水道・警備など、残す契約と止める契約
- 鍵を持つ人、訪問記録、近隣の緊急連絡先
- 固定資産税、管理費、修繕費の支払口座
- 売る・貸す・持つを再検討する日
管理が行き届かない空き家は、市区町村から「管理不全空家等」や「特定空家等」に指定され、勧告を受けることがあります。
その場合、住宅用地に対する固定資産税などの軽減措置から外れる可能性があります。ただし、空き家になっただけで税額が自動的に「6倍」になるわけではありません。
\ 売る・貸す・持つは、価格を知ってから決める /
親名義の実家を売れるのは、親本人か権限のある代理人だけ
家の名義を買主へ移す手続きができるのは、原則として所有者本人、本人から法律上有効に任された代理人、または成年後見人など法定の権限を持つ人です。
親名義の実家を、子どもが「家族だから」という理由だけで売ることはできません。
出発点は、法務局で取る登記事項証明書です。ここで4つを確認します。
- 土地と建物の所有者は誰か
- 親子や夫婦などの共有になっていないか
- 住宅ローンなどの抵当権が残っていないか
- 登記上の氏名・住所が、現在のものと一致しているか
登記事項証明書はオンラインでも請求できます。共有不動産全体を売るなら、原則として共有者全員の同意が必要です。ローンが残っていれば、金融機関に返済が必要な残額と、抵当権を外す手順を確認します。
2026年4月1日から、不動産所有者の氏名・住所変更登記が義務になりました。申請期限は、変更があった日から2年以内です。2026年4月1日より前に住所が変わり、まだ登記していないものは、2028年3月31日までに申請します。正当な理由なく怠ると、5万円以下の過料の対象になります。
施設入居に伴って、登記上の所有者の住所が変わる場合も対象です。売却の登記とあわせた進め方を司法書士へ相談してください(法務省「住所等変更登記の義務化に関するQ&A」)。
親に判断能力があるうちなら、委任状で子が代理売却できる場合がある
親が売却の内容を理解し、自分の意思で委任できる状態なら、子どもが代理人として手続きを進められる場合があります。ただし、通常の委任状だけで、判断能力が低下した後も必ず売却できるわけではありません。
売る物件、価格や条件の決め方、代金の受取口座、代理人にどこまで任せるかを具体的に書き、本人確認の方法を不動産会社と司法書士に相談します。本人の意思を確かめないまま、家族だけで定型の委任状を作るのは避けてください。
認知症の診断だけで、親の実家を売却できないと決まるわけではない
契約の内容と結果を理解して判断する力を、法律では「意思能力」と呼びます。民法では、契約をした時点で意思能力がなければ、その行為は無効です。つまり、診断名だけで一律に決まるのではありません。問われるのは、どの家をいくらで売り、売った後どうなるかを、その時点で本人が理解して判断できるかどうかです。
家族だけで「大丈夫そう」と判断せず、不動産会社や司法書士に本人確認の方法を相談し、必要に応じて医師や弁護士の助言も受けます。次の内容を本人が自分の言葉で説明できるかも確認してください。
- どの家を売るのか
- おおよそいくらで、どのような条件で売るのか
- 売れば、その家へ自由に戻れなくなること
- 費用を引いた代金を、何に使うのか
- 売らない、貸す、待つという選択肢もあること
理解がはっきりしない場合は、そこで契約を止めます。任意後見契約や家族信託があるなら、その内容と売却権限を確認します。どちらもなければ、成年後見制度の利用を含めて、弁護士や司法書士へ相談してください。
任意後見制度は、本人が十分に判断できるうちに、将来の支援者と支援内容を公正証書で決めておく制度です。判断能力が低下した後、家庭裁判所が任意後見監督人を選任すると、契約の効力が生じます。
成年後見人が親の居住用不動産を売るには家庭裁判所の許可が必要
成年後見人が本人の居住用不動産を売る場合は、家庭裁判所の許可が必要です。保佐人や補助人が、家を売る権限を与えられている場合も同じです。施設へ入る前に住んでいた家や、将来戻る可能性がある家も対象になり得ます。必要な許可を得ずに売却すれば、その売却は無効です。
申立ての際は、売買契約書案、不動産の評価資料、登記事項証明書などの提出を求められます。価格や売却の理由、本人の住まい、代金の管理方法を説明できるようにし、契約を確定させる前に、担当する家庭裁判所へ手順を確認してください。
実家の売却代金は、親名義の口座で親の財産として管理する
親名義の家を売った代金は、手続きを担った家族のものにはなりません。親の財産です。原則として親名義の口座で受け取り、入居金、介護費、医療費、生活費など、親のために使います。家族が立て替えた費用を精算するなら、領収書、振込記録、立替日、目的を残しておきます。
売りやすくするためだけに、親から子へ先に名義を変えるのは避けてください。無償の名義変更は税務上の贈与と扱われることがあり、贈与税などが生じる可能性があります。動かす前に、税理士と司法書士へ確認します。
\ 親が判断できるうちに、準備だけでも /
老人ホーム入居後に実家を売ったときの譲渡所得と税金
売却価格がそのまま課税されるわけではありません。売却価格から購入費用や売却費用などを引いた税務上の利益を「譲渡所得」といいます。土地・建物の譲渡所得は、基本的に次の式で計算します。
課税譲渡所得 = 売却による収入金額 −(取得費 + 譲渡費用)− 特別控除
取得費とは、その家や土地を買ったときにかかった費用です。購入代金や購入時の手数料などが含まれます。建物部分は、年数の経過による価値の減少分を差し引いて計算します。
購入時の契約書や領収書が見つからないときは、売却収入の5%を取得費とする方法もあります。ただし、実際の取得費より低くなれば、その分だけ譲渡所得が大きくなります。古い契約書、領収書、通帳は、家財を処分する前に探してください。
税率の区分は、売った年の1月1日時点で所有期間が5年を超えるかどうかで変わります。相続した家では、原則として亡くなった人の取得時期を引き継ぐなど、数え方に注意が必要です。
親の生前に売る場合|居住用財産の3,000万円特別控除は「売値から引く制度」ではない
親が住んでいたマイホームを売る場合、要件を満たせば、譲渡所得から最高3,000万円を控除できます。
差し引く相手は、あくまで利益です。売却価格や税額から3,000万円を引く制度ではありません。
期限の要件は、住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ることです。親が2026年中に施設へ移って住まなくなったなら、2029年12月31日までの売却になります。ほかにも、親族など特別な関係にある相手への売却でないこと、確定申告をすることなどの要件があります。
家を取り壊して土地を売る場合は、取り壊しから1年以内に売買契約を結ぶ、取り壊し後に駐車場などへ使っていない、といった追加条件が付きます。入居後すぐに解体せず、特例と売り方を税務署や税理士へ確認してから決めてください。
親の死亡後に相続人が売る場合|相続空き家の特別控除は別制度
親が売却前に亡くなった場合は、手続きも税制も変わります。遺言、相続人、遺産分割の状況を確認し、必要な相続登記を経て、権利を取得した相続人が売主になります。
亡くなった親が住んでいた家のうち、一定の要件を満たすものには、相続人向けの別の特別控除があります。税法で「被相続人居住用家屋」と呼ばれる家です。
控除額は原則として最高3,000万円です。ただし、2024年1月1日以後の譲渡で、対象となる家屋や敷地を相続または遺贈で取得した相続人が3人以上いる場合、1人当たりの控除上限は2,000万円です。
親が要介護認定などを受けて対象となる老人ホームなどへ入所していた場合も対象になり得ますが、次のような固有の条件があります。
- 原則として1981年5月31日以前に建築された家屋で、区分所有建物ではない
- 親が施設へ移る直前に、親以外の人が住んでいない
- 施設へ移った後から売却まで、旧宅を賃貸、事業、他人の住まいに使っていない
- 売却代金の合計が1億円以下である
- 耐震基準への適合、または家屋の取り壊しなど、制度上の条件を満たす
- 相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日まで、かつ現行制度では2027年12月31日までに譲渡する
老人ホームへ入っていたという事実だけで使える制度ではありません。親の生前売却の特例と、相続後の空き家特例は別のものとして、税理士や税務署へ確認してください。
老人ホーム入居に伴う実家売却の流れ|9つの手順
期限があるときほど、順番が大切です。次の流れで進めれば、家を売れるかどうか分からないまま、施設の契約だけが先に進む事態を防げます。
家へ戻る可能性、入居日、前払金、月額費用、支払期限、解約・返還条件を記録します。
土地・建物の所有者、共有者ごとの持分、抵当権、登記上の住所を見ます。
親本人が売るのか、代理人を立てるのか、後見制度や裁判所の許可が必要かを整理します。
入居時の費用だけでなく、月額の不足、医療費、緊急予備費を含め、家の売却で確保すべき金額を出します。
購入時の売買契約書、領収書、固定資産税の書類、ローン残高証明、建築・測量資料、修繕記録を探します。
価格だけでなく、税引前の手取り見込み、決済日、家財の扱い、追加費用、解除条件を書面でもらいます。
決済日が支払期限より前か、遅れたときの代替資金があるかを確認してから、売り方を決めます。
手付金、買主の融資、契約解除、土地の境界の条件を確認します。あわせて、引き渡し後の売主の責任、家に残す家具や荷物、抵当権を外す手続き、本人確認の方法を整えます。
親名義の口座で代金を受け取り、施設費などの支払い、立替えの精算、翌年の確定申告に備えて記録を残します。
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実家を売る前に、家族会議で決めておく7項目
家族会議でいきなり「売る・売らない」を決めようとすると、意見がぶつかります。先に、次の事実を1枚にまとめてください。
| 項目 | 家族で書く内容 |
|---|---|
| 親の希望 | 売却への賛否、戻りたい条件、残したい物 |
| 施設 | 契約日、入居日、支払額、期限、解約・返還条件 |
| 家の権利 | 所有者、共有者、ローン、登記上の住所 |
| お金 | 親が使える資金、施設資金の不足額、家の手取り見込み |
| 売却方法 | 仲介・買取の価格幅、決済日、売主の負担 |
| 売却までの管理 | 鍵、郵便、換気、保険、庭、費用負担 |
| 中止・見直しの条件 | 親の意思が変わった、施設が変わった、期限に間に合わないなど |
親が話せる状態なら、家族だけで結論を出さず、本人の言葉を最初に書きます。
「家を高く売ること」と「親が安心して暮らせること」がぶつかったとき、どちらを優先するかを決めておくためです。
老人ホーム入居と実家売却でよくある質問
売却の相談でとくに多い質問を、6つにまとめました。
老人ホームの入居日ではなく、親の意思・支払期限・決済日をそろえる
老人ホーム入居に伴う家の売却は、入居前・入居後のどちらかに一律で決められません。
親の意思、家へ戻る可能性、施設の契約内容、必要な資金、家の権利関係を確認したうえで判断します。準備は早く始めてよいものの、施設での暮らしや退所後の住まいが見えないうちは、売買契約を急がないでください。
入居金に売却代金を充てるなら、見るべき日は査定日ではなく決済日です。
間に合わないときは、施設の支払方法や入居日の調整、買取、記録を残した家族からの借入れ、融資の順に検討します。
そして最後に確かめるのは、施設費を払った後も、親の医療・介護・生活費が残る計画になっているかどうかです。
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※本稿は2026年8月17日時点の公表資料をもとにした一般的な解説です。施設の契約、本人が契約を理解して判断できるか、代理人に任せられる範囲、成年後見、税金、登記、売買契約の扱いは、個別の事情で変わります。契約や名義変更の前に、施設、不動産会社、司法書士、弁護士、税理士など、該当する専門家へ確認してください。
出典
厚生労働省「知って納得!有料老人ホーム 選び方マニュアル」
厚生労働省「有料老人ホームの設置運営標準指導指針について」
不動産適正取引推進機構「不動産売買の手引 令和8年度版」
国税庁「No.3302 マイホームを売ったときの特例」
国税庁「No.3258 取得費が分からないとき」
国税庁「No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」
国税庁「No.3307 被相続人が老人ホーム等に入所していた場合」
e-Gov法令検索「民法」
裁判所「居住用不動産処分の許可申立て」
法務局「不動産登記の証明書等を請求する方へ」
法務省「住所等変更登記の義務化に関するQ&A」
国土交通省「改正空家法と固定資産税の措置」
国税庁「No.4420 親から金銭を借りた場合」
全国社会福祉協議会「生活福祉資金」
リビン・テクノロジーズ株式会社「リビンマッチ、不動産査定サイトの全国認知度・利用意向で6年連続No.1」(公開日:2025年10月9日)

